企業価値向上の鍵を握る知財・無形資産。AIの発達でビジネス環境が激変するなか、いかにして特許権や著作権、商標権のポートフォリオを最適化し、「稼ぐ力」の強化へとつなげることができるでしょうか。株式会社MIXIで知財領域を担当するエキスパートの方々と、AI導入を通じた業務プロセス改革、トップダウンとボトムアップが融合する組織文化の在り方、グローバル展開を見据えたビジネスの最前線について意見を交わしました。
【インタビュイー】
株式会社MIXI
上級執行役員 コンプライアンス本部長 小林 完爾氏
コンプライアンス本部 知財室長 栗山 幸介氏
コンプライアンス本部 知財室 商標・著作権グループ マネージャー 村津 文武氏
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 木村 みさ
アソシエイトパートナー 松田 洋介
シニアコンサルタント/弁理士 松本 尚人
AI活用による「攻め」の知財戦略への転換
木村:
知財・無形資産の戦略的な活用が目下、企業の間で大きな関心事となっています。経済産業省の「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」が2025年4月に取りまとめたガイドラインも、未来を見据えた事業転換における知財活用の重要性を強調しています。SNSを起点としてゲーム、スポーツへと事業を多角化されるなかで、MIXIでは知財・無形資産を戦略上、どのように位置付けていますか。
小林氏:
知財戦略については特許の積み上げによる「守り」に重きを置いてきた段階から、AIを活用した「攻め」の展開へと、フェーズチェンジの時期を迎えています。2010年代中頃には、ゲーム業界で特許訴訟が頻発していました。モンスターストライクを中心に当社のゲーム事業が大きく伸びていたタイミングと重なったことから、万が一他社から権利行使をされた場合のリスクを念頭に、知財のプロフェッショナルの採用を強化してきた経緯があります。
特許の積み上げを地道に継続した結果、相当規模のポートフォリオを構築するに至り、今後はその権利をいかに付加価値へと繋げていくかが一層重要になると考えています。
MIXI 小林氏
KPMG 木村
松田:
一般的に知財を取り扱う企業では、現場がビジネスアイデアを生み出す際、出願やその後の持続性という観点をそれほど考慮せず企画が走り出すケースも少なくありません。社内での目線合わせのため、どのような取組みが有効と考えますか。
栗山氏:
現場は「ユーザーに面白いものを届けたい」という想いを起点に動いています。特許につながるかをその時点で十分に意識していないのは、ある意味で当然です。将来的な活用の可能性を拾い上げることこそ、私たちが担う役割だと考えています。
現場の生の言葉を特許の世界のロジックへと転換することは、きわめて難易度の高い作業であり、AIを活用するメリットが大きい領域でもあります。そこで、現場の人材が事前にAIと対話することで、出願に必要な情報が一定程度整理された状態で私たちの部署に届く仕組みを構築しました。
MIXI 栗山氏
AIを現場の感性と権利のロジックを繋ぐ共通言語に
村津氏:
著作権関連の相談についても、AIによる事前インタビューを経由することで、必要な情報を構造化して抽出できる環境を整えています。あらかじめ抽出したい論点をAIに組み込んでおくことで、相談のスピードと質が飛躍的に向上したと考えています。
現場のデザイナーの感性と権利のロジックをAIが媒介することで、互いの領域に特有の言葉遣いへの転換がスムーズに行われています。もはや、AIが独自の共通言語になっているような感覚です。
MIXI 村津氏
松本:
特色ある事業やサービスを幅広く手掛ける企業においては、自社の事業ポートフォリオの意義・戦略を資本市場に丁寧に伝えることが期待されています。事業が有する無形資産を可視化し、複数の事業の間で無形資産を組み合わせてシナジーを創出するための横断的な取組みをどのように進めていますか。
栗山氏:
知財を最大限に活用するうえでは、先入観にとらわれず、チャネルの枠を越えて可能性を探る姿勢が重要です。たとえば、ゲーム内の課金・抽選システムに代表されるような仕組みはゲーム分野で用いられるイメージがありますが、実は他分野のサービスにも転用できます。データ分析を通じ、「ここにも使えそうだ」という発見を積み重ねていくことが、戦略的なポートフォリオの実現につながると考えています。
村津氏:
ゲームを含む各事業のさらなる成長を目指してトライアンドエラーを繰返すなかでは当然、それ自体ではヒットに至らなかったプロダクトも存在します。そのまま廃棄してしまうのではなく、別の機会に有効活用する可能性を見出しやすいよう、過去のプロダクトを一覧できる仕組みを作り上げ、必要な時に参照できるライブラリとして社内に展開しています。
AIを業務に取り入れる積極的なカルチャー
木村:
AIの導入を目指す企業のなかには、新たな技術がもたらす懸念を過度に意識した結果、機能や権限の制約により従業員の利用が定着しないといったケースも散見されます。知財関連などでAIを業務に組み込む土台となった積極的なカルチャーは、どのように醸成されていったのでしょうか。
小林氏:
ビジネスの在りようがAIによって変容するという社内の共通認識がすでに出来あがっていたうえで、経営層が「AI活用を前提に業務プロセスを作り替えよう」とトップダウンで呼びかけたことが、大きな転換点となりました。
知財の領域においては、有限のリソースを使っていかに最大限の成功を引き出すかという視点が重要です。守るべきルールはしっかり守りつつも、基本的には制約を意識することなくAIを利用できる環境を構築してきました。こうしたトップダウン起点の取組みが、現場からのアイデアによるボトムアップ的な行動と有機的に融合し、会社全体としてさらなる付加価値の創出に結びついていると考えています。
村津氏:
仮にトップダウンのみに依存している組織であれば、部門ごとのルールを決定する際、各現場の実務にマッチするかの検証に相当の時間を費やす必要が生じると思います。私たちの会社には、ローカル起点で率先して環境整備を進めていくという文化が根付いています。ローカルのルールがアメーバ的に発生・結合を繰り返し、結果的にAIが現場に浸透するスピードの向上につながりました。
松田:現場からのボトムアップと経営層のトップダウン、業務経験で蓄積した知見とテクノロジーの歯車が合致することは、ビジネス全体の推進力に直結するということですね。
KPMG 松田
テクノロジー活用を推進し、「稼ぐ力」強化に結びつける
松本:
テクノロジーの活用による業務の効率化・付加価値向上を通じた知財活動のROI(Return on Investment)向上を志向する一方で、無形資産投資のリソース配分やポートフォリオ構築の判断にはどのような姿勢で臨まれていますか。
KPMG 松本
栗山氏:
テクノロジーによってリソース上の制約や障壁が取り除かれ、「何でも作れる」という状況が到来すると、「どこに力を入れるか」というビジネスの指針の重要度が一層高まります。長く経験を積み重ねてきた事業分野であれば、リスクや脅威の所在や種類を知悉しているため方針の決定は比較的容易ですが、海外企業の買収等を経てビジネスが多角化するなかでは、人手だけで各市場の状況をキャッチアップすることには限界があります。
AIを活用して先回りでリスクを検知することで、ビジネス全体の展開・拡大を円滑化できると考えています。グローバル展開については、今まで以上に外国におけるポートフォリオを強化し、グローバルテック企業と渡り合える状態に移行することを目指しています。
村津氏:
商標は特許に比べ、国・地域ごとのデータの壁が高い分野でもあります。各国のデータベースにアクセスするコストやアカウントの制限があり、ROIの最大化という観点で成長への伸びしろがあるとも言えるでしょう。
小林氏:
特許の分野ではグローバル展開が始まったばかりであり、攻めと守りを両立する体制構築を強力に推進しているところです。一方で商標については、従前からグローバルでサービスを展開しており、直近ではAIの発達によるブレイクスルーを踏まえ、出願などの定常的な業務についてはある程度の手離れを進めてきています。より戦略的にブランド価値を維持・向上する出願戦略に集中する態勢へと、まさに舵を切り始めているところです。
木村:
AIを効率化のツールにとどまらず、現場の感性と知財権に関するロジックを繋ぐツールとして活用される点に、MIXIならではの先進性を感じました。テクノロジー活用を推進しつつ、知財・無形資産を「稼ぐ力」の強化に結びつける企業の取組みを、私たちも引き続き全力で支援してまいります。本日はどうもありがとうございました。
※MIXIおよびモンスターストライクに関連する商標およびロゴは、株式会社MIXIの商標および登録商標です。
【知財・無形資産戦略支援】
KPMGコンサルティングでは、企業が有する知的財産やその他無形資産の的確な把握と経営戦略への組み込みが「稼ぐ力」の強化および企業価値向上のキーになるとの見地から、ビジネスモデルを支える企業固有の強みに基づく知財・無形資産戦略の策定支援を提供します。