日本企業は「稼ぐ力」の強化が求められています。企業はどうすれば、コンプライアンスを事業の基盤に据えると同時に、単なる「制約」ではなく成長のエンジンとすることができるでしょうか。SNSからゲーム、スポーツへと領域を広げ、多角的な事業をグローバルに展開している株式会社MIXIの皆様と、クリエイティブな挑戦を支える法務部門の取組みやAI導入によるオペレーションの高度化について意見を交わしました。
左から MIXI 伏田氏、荒井氏、小林氏、渡辺氏
KPMG 木村、松田、谷萩
【インタビュイー】
株式会社MIXI
上級執行役員 コンプライアンス本部長 小林 完爾氏
コンプライアンス本部 法務部長 渡辺 和宏氏
コンプライアンス本部 法務部 コンプライアンスグループ マネージャー 荒井 真人氏
コンプライアンス本部 法務部 コンプライアンスグループ スタッフ 伏田 怜司氏
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 木村 みさ
アソシエイトパートナー 松田 洋介
シニアコンサルタント/公認不正検査士 谷萩 光
クリエイティブの加速に不可欠な、事業部門との信頼関係構築
木村:
企業の「稼ぐ力」を強化するためには、コンプライアンスを「制約」として捉えるのではなく、成長を支える基盤や、推進力として位置付ける姿勢がますます求められてくると考えています。MIXIはSNSを出発点としてゲームの世界へ、そして日本からグローバルへと事業を展開されてきました。コンプライアンスの課題や取組みを経営戦略上、どのように位置付けていますか。
KPMG 木村
小林氏:
常に期待を超えるものを提供し、ユーザーの方々に楽しんでもらうことがエンターテインメント企業の本来的な役割です。一方で、企業の価値にネガティブな影響を及ぼすあらゆる不正は当然、防ぐ必要があります。クリエイターの自由度を重視しつつ、コンプライアンスとの適切なバランスをいかに実現するかは、常に重要なイシューとして向き合っています。
法の遵守は大前提として、一般的・社会的に何をもって「NG」と見做されるかの線引きに不変的、絶対的な正解はありません。私たちは単に厳格なルールを敷き、画一的にルールを守ってもらうよりも、まずは土台となる考え方を社内・グループ内で共有することに重きを置いています。企画の立ち上げ段階から積極的にディスカッションを重ね、「このような方法であればコンプライアンスを確保しながら、我々が最も大切にすべきである『面白さ』を損なうことなく前進させることができそうだ」といった目線合わせを、日々徹底するようにしています。
MIXI 小林氏
渡辺氏:
一般的に、企業において法務部は敷居が高いというイメージがあるかもしれません。ただ、私たちは常に、事業部門と一緒にサービスを作っているという姿勢を心がけています。法務を事業の推進力にするためには、「相談すれば新しいアイデアがもらえる」と積極的に相談をしてもらえる信頼関係が不可欠ではないでしょうか。日頃からの信頼関係があるからこそ、いざという時にNGを伝達すれば、その重みをただちに正しく受容してもらうことができると考えています。
DXとAI活用によるオペレーションの高度化・効率化
松田:
エンターテインメントビジネスは変化のスピードが著しく、また特にインターネットがビジネスの主戦場である場合、コンプライアンス業務の一つひとつのオペレーション対応は相応の負荷が生じます。リーガルやコンプライアンス業務全体を効率化・高度化するため、システム整備・DXの施策を推進することはもはや不可欠な時代になっているように感じます。
KPMG 松田
渡辺氏:
法律とテクノロジーを組み合わせるリーガルテックについては、法務部門として積極的に推進してきました。契約書レビューのツールやクラウドでの契約書管理、法律専門書のサブスクリプションサービスなどを活用しており、直近ではAIの導入も積極的に推進しています。
MIXI 渡辺氏
荒井氏:
事業部門がどのような論点を、法務部門にどう相談したいのかを考える段階からきめ細かなサポートを提供するため、AIを使って事前に情報を整理したり気軽に壁打ちができたりといったツールを用意しています。加えて、業務プロセスそのものをAIで簡略化・自動化する取組みも進めています。最近では社内向けにカスタマイズしたAIツールのなかでも、法務部門が提供しているものの利用率が上位を占めています。
社員の相互理解を促すビジネス・コンダクト・ガイドライン
谷萩:
グループ会社を含む社員の方々の行動規範を定めた「ビジネス・コンダクト・ガイドライン」の作成にあたり、皆様と意見交換を重ねた際も、事業部門に寄り添い、「どうしたら面白いものを作れるか」という姿勢を持たれていたことが強く印象に残っています。 グローバル展開が進み人員規模が拡大するなかで、それぞれの現場と信頼関係を構築・維持するうえで心がけていることはありますか。
KPMG 谷萩
小林氏:
私たちはM&Aを繰返してきた経験から、親会社の立場での一方的な押し付けではPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション=統合作業)が十分に機能しないことを肌感覚で理解しています。事業が拡大、多角化するなかで、ビジネス・コンダクト・ガイドラインは「MIXI GROUPの一員としてこれを遵守して業務に取り組もう」という規範として、円滑なコミュニケーションを実現するための有意義な土台になっていると考えています。
荒井氏:
国・地域ごとに、前提となる規範意識は異なります。ビジネス・コンダクト・ガイドラインを作成するにあたっては、企業行動憲章などをベースにしつつも、あらゆる要素を網羅的に盛り込むことは避けました。グループとして重視すべき事項を整理し、そのうえで、高い技術水準やお客様への真摯な向き合い方といった、私たちならではの強みに焦点を当てた内容としました。
MIXI 荒井氏
木村:
行動規範を作成する際には、既存のテンプレートをそのまま適用するのではなく自社ビジネスに即して落とし込むことが社内全体での理解度を高めるうえで不可欠、という考えに強く共感します。
谷萩:
グループに加わった海外の方々とコンタクトを取る際、心がけていることはありますか。
伏田氏:
現地のリーガルメンバーと顔合わせをするときには、普段どのような仕事をしているかといったアイスブレークに始まり、会社全体の歴史、ストーリーを共有したうえで、ビジネス・コンダクト・ガイドラインについて理解を深めてもらうようにしています。強制するのではなく、仲間として一緒に作り上げるというスタンスを共有することで、距離という物理的な制約を越え、必要なタイミングで迅速に情報連携を取れる信頼関係が構築できると実感しています。
MIXI 伏田氏
松田:
日頃から「相棒」として現場に寄り添い、グループを成長させる基盤となる組織どうしの連帯を強化する一貫した姿勢が、行動規範にも明確に反映されていますね。
攻めと守りのコンプライアンスで「稼ぐ力」を強くする
小林氏:
私がMIXIに入社したのは20年ほど前になります。MIXIはSNSサービスの全盛を迎えた後に、モンスターストライクという巨大なゲームタイトルを生み出しました。現在はスポーツなどさらに幅広い領域へと事業を拡大させています。
社内にはきわめて多様な人材がいる一方で、事業が違えば部門ごとの性格も大きく異なります。そうしたなかで、部門横断的に議論を重ね、一定の合意形成をしていくノウハウを蓄積してきました。国・地域ごとの価値観の違いはありますが、バックグラウンドの異なる人々と議論を重ね、共通見解を丁寧に作り上げていくという基本姿勢は、今後どれだけ事業領域が拡大しようと決して変わることがないと考えています。
渡辺氏:
他の企業がまだ手掛けていない領域に踏み出し、ビジネスモデルを組み立てていく場合は、法的な観点での社会的な議論が追いついていないことも珍しくありません。単に既存のルールに従うのではなく、前例のない挑戦的な取組みを支える制度面の論点整理から関与できることには強いやりがいがあり、法務部門全体のモチベーション向上にも繋がっています。
伏田氏:
私はMIXIのチャレンジングな社風が特に気に入っています。新会社の買収やAI推進への挑戦は、コンプライアンスや法務の立場からも新しい考え方や観点に触れることができ、成長機会につながっていると感じています。
木村:テクノロジーの力でオペレーションを効率化しながら、ありたい姿に向けたストーリーとそれを遂行するための規範意識について、現場と法務部門が一体となって考え抜き、クリエイティブな挑戦を推進し続ける先進的な経営戦略の一端をうかがうことができました。企業の「稼ぐ力」を強化するうえで、コンプライアンスを軸とした「攻め」と「守り」のバランスを図りつつ競争力を高めることの重要性を再認識する、貴重な機会となりました。
※MIXIおよびモンスターストライクに関連する商標およびロゴは、株式会社MIXIの商標および登録商標です。
【知財・無形資産戦略支援】
KPMGコンサルティングでは、企業が有する知的財産やその他無形資産の的確な把握と経営戦略への組み込みが「稼ぐ力」の強化および企業価値向上のキーになるとの見地から、ビジネスモデルを支える企業固有の強みに基づく知財・無形資産戦略の策定支援を提供します。