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      有限責任 あずさ監査法人 アドバイザリー統轄事業部ディレクター(ヘルスケア&ウェルビーイング)の小柴巌和が、2026年2月にドバイで開催されたWorld Health Expo Dubai 2026(WHX、旧Arab Health)に参加しました。WHXは、中東・アフリカ地域にとどまらず、世界中から医療・ヘルスケア・ライフサイエンス分野の関係者が集う、世界最大級かつ影響力の高い国際展示会兼国際会議です。本Rapid Briefでは、WHXで得られた主要な示唆や筆者の所感を整理するとともに、“Women’s Health(女性の健康)”をライフコースで捉える視点や、Middle East–Africa(MEA)を見据えた市場・規制・製造戦略といった重要なアジェンダに焦点を当てて考察します。


      なぜWHXが重要か?

      WHX Dubai 2026(World Health Expo Dubai、旧Arab Health)は、最新製品のショーケースを超え、展示・教育・政策対話・投資・調達が一体となった大規模なマルチステイクホルダー型のヘルスケア推進プラットフォームへと進化しています。Dubai Exhibition CentreやDubai World Trade Centreを舞台に、数十万規模の来場者、数千社の出展企業を迎え、数百のセッションが連動し、医療者・行政・企業・投資家が同じ空間で意思決定を加速させる設計が強化されています。 

      公式セッションは300名超の登壇者で構成され、近年の進展が著しいAI・デジタルヘルス、医療機器・診断、バイオ/医薬品製造など多様なモダリティを扱うことは当然ながら、“Women’s Health”、WHOや各国保健省の政策動向、規制、世界各国の市場アクセスなどを横断したプレゼンテーションがみられます。製品展示にとどまらず、学術・規制・投資・臨床における協力を同時並行で進める「実装型」のデザインが、他の国際見本市と一線を画しています。


      多様なアジェンダがもたらすものは?~“Women’s Health”とMEA(Middle East-Africa)

      WHX全体を見渡すと、ヘルスケアの未来を特定の技術や単一の解のみを強調する形で完結させない仕掛け、強い意志が伝わってきます。臨床・技術・規制・市場・投資が同じ場で有機的に交わり、議論が相互に影響し合う設計は、単なる展示会ではなく「合意形成のためのダイアローグ・プラットフォーム」としての性格を鮮明にしていました。 

      WHX Dubai 2026では、いくつかのアジェンダが注目されていましたが、その1つが“Women’s Health”です。このテーマが取り上げられていた背景には、女性の健康が依然としてデータと研究の空白を抱え、そこを埋めることが医療アウトカムだけでなく経済的価値にも直結する、という認識が国際的に急速に強まっていることがあります。実際、女性の健康に関するデータギャップを解消することが、現状では想像できないような極めて大きな経済価値・社会価値を生み得るという推計も紹介され、議論の前提として共有されていました。 

      特に印象的だったのは、女性の健康を、妊娠・出産や特定疾患といった断片的なイベントとしてではなく、いわゆるライフコース全体(幼少期、成熟期、更年期、高齢期)で捉え直す視点で、明確な潮流として示されていました。 

      その象徴的な事例として紹介されたのが、英国発のフェムテック企業Hertility Healthの取組みです。Hertility Healthは、在宅での検体採取によるホルモン・妊孕性検査、AIを活用した症状評価・診断支援、そしてデジタルを介した専門家への接続、これらを統合したケア・エコシステムを構築しています。同社は、卵巣予備能やホルモンバランスの可視化にとどまらず、PCOSや子宮内膜症、更年期関連症状など、診断までに長い時間を要してきた女性特有の健康課題について、早期発見と適切な医療接続を実現することを目指しています。

      創業者であるDr. Helen O’Neillは、“Women’s Health”を「ニッチな専門領域」ではなく、ヘルスシステム全体の設計思想を問い直す中核的テーマとして位置づけ、データに基づく自己理解と意思決定を女性自身が取り戻すことの重要性を強調していました。このメッセージは、“Women’s Health”が単なる社会課題ではなく、医療・保険・雇用・テクノロジーを横断する構造的な変革領域であることを、参加者に強く印象づけるものでした。 

      また、別のセッションでは、中東という開催地の文脈を踏まえ、アフリカ市場をどう見立て、どう関与していくかという戦略的なアジェンダについても活発な議論が行われていました。エジプトをエントリーポイントに据えた展開、現地製造能力の強化に関する近年の政策的なモーメンタム、そして大陸レベルで進展する医薬品規制の枠組みを前提とした市場アクセスは、グローバル企業にとって重要かつ現実的なビジネストピックになってきました。中東とアフリカを一体的に扱い、政策・製造・規制の連続体として捉える視点は、日本企業にとっても示唆に富みます。 

      Helenの登壇後、アフリカからのスピーチもあり、女性の健康を軸に地域連携をどう構築するかが語られました。“Women’s Health”とアフリカ市場の話題は別々に展開しても十分に意味がありますが、両者を結びつけることで「需要(女性の健康ニーズ)と供給(地域の製造・規制能力)」を重ね合わせることがイメージできました。アフリカの人口動態やジェンダーをめぐる社会構造の変化を展望した時に、次世代型の、しかし足元においても非常に重要なトピックになり得ると直観させられました。 

      “Women’s Health”とアフリカ市場という一見異なる論点を同時に考える視座が得られるのは、多様なアジェンダを立体的に提示するWHXの懐の深さによるものだと感じます。 


      日本関係者はこれを機会にできるのか?

      “Women’s Health”:

      WHXでは、“Women’s Health”を“データと研究のギャップを埋めることで価値が顕在化する領域”として捉える議論が繰り返されました。とりわけ、女性の健康ギャップを是正すれば2040年までに年間最大1兆米ドルの価値を生み得るという前提が共有され、現状の市場規模は限定的という認識が一般的かもしれないものの、実装が進めば本来の価値が引き出される点に焦点が当たりました。 

      特にMEAを念頭に置いた日本企業への示唆は、次の3点です。 

      1. サービス統合:自宅採取によるホルモン等の検査、アルゴリズムによるデジタル・トリアージ、専門医紹介までをワンストップに設計した「ライフコース・パッケージ」を構築します。B2Cに加えて保険者・雇用者(福利厚生)起点のB2B2Cモデルで早期スケールを図ります(これは必ずしも特別なことではないかもしれませんが)。 
      2. エビデンス共創:UAE・エジプトの医療機関や大学と共同研究プロトコルを策定し、RWD/RWEを創出します。その際、バイアス評価・説明可能性・データ主権/越境移転への適合を設計段階で内包します。 
      3. 規制・品質の事前対応:中東・アフリカ市場を見据えた場合、WHO Prequalification(PQ)やCollaborative Registration Procedure(CRP)を押さえ、データインテグリティ・品質文書(CMC/QMS)を事前に整備し、登録までのリードタイム短縮と信頼性の可視化を実現します。 

      MEA戦略:

      中東で意思決定し、エジプトを起点にアフリカで製造し、アフリカ医薬品庁(AMA:African Medical Agency)を梃子にアフリカ複数地域に多面的に展開する。このようにMEAを跨ぎ、大陸横断型の規制対応を進めるルートは今後、最も費用対効果の高い挑戦になる可能性があります。エジプトはSCZONE(スエズ運河経済特区)などの制度優遇や製造基盤の強化により、現地化(組立・製造)の合理性が見出しやすい拠点です。ここを供給の起点としつつ、Gulf(UAE等)での規制・資金・合意形成を需要の起点として設計します。さらに、大陸レベルで進展するAMAを活用することで、リライアンス/共同審査を梃子に国別登録の見通しと速度を高めていく発想です。 

      これら2つの事業戦略が組み合わさっていくことで、需要(女性の健康ニーズ)と供給(MEAでの製造・規制能力)の接点が交わり、広域での公共調達・保険償還まで踏み込んだ持続的な事業ストーリーを描いていくことは、一考の価値があると言えるでしょう。もちろんこのような視点は他の健康課題や疾患領域にも通じると期待できます。 


      WHXから新興市場を展望する価値

      WHX Dubai 2026は、「見せる」から「実装する」へ――その重心を確かに移した会議でした。“Women’s Health”をライフコースで編み直し、Middle EastからAfricaへと視界をひらき、規制と品質を先回りで整え、展示を超え価値の広がりが感じられます。 

      今回のRapid Briefでは、多様なアジェンダの中から“Women’s Health”とMEA戦略にフォーカスしましたが、他にもさまざまなトピックが提供されていました。日本からの参加がより能動的なものになることを期待します。次に私たちが問うべきは、WHXの価値そのものだけではなく、その価値を引き出すための戦略的な参画のあり方だと言えるでしょう。


      Download

      WHX Dubai 2026 Rapid Brief

      “Women’s Health”、MEA連携、規制基盤——ダイナミックなアジェンダ設定 ヘルスケア市場における世界最大級のダイアローグ・プラットフォームへ

      執筆者

      あずさ監査法人
      アドバイザリー統轄事業部
      ディレクター 小柴 巌和

      気候変動による人々の健康への影響について、国際社会の取組みを紹介するとともに、ヘルスエクイティを実現する都市の在り方について考察します。

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