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      本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

      自動車は「走るコンピュータ」へと進化し、今やSDVという新たなステージに突入しています。そこで、「SDVの本質を考える」と題し、さまざまな切り口からSDVについての考察をしていきます。

      第1回では、技術の進化とともにコスト構造はどう変わってきたのか、その変化を見ていきます。

      自動車電子ネットワークの進化とSDVの台頭

      自動車の電子ネットワークは、これまでに「制御の電子化」から始まり、「分散協調」、そして「集中統合」へと、三段階の進化を遂げてきました。これは単なる技術の進歩ではなく、業界が直面する根本的な課題への対応でもあります。

      自動車産業では、安全性と安定供給が常に最優先されます。その一方で、車両の高度化に伴い、配線の複雑化、ECUの増加、そしてソフトウェアの肥大化が進み、コスト構造は年々重くなってきました。こうした積み上げ型の設計は、技術的な柔軟性をもたらす一方で、製造・保守の効率性を損なう要因にもなっています。

      このような状況のなかで、電子ネットワークの進化は、まさに「技術によってコスト圧力に応える」取組みの結果と言えるでしょう。分散された制御を統合し、システム全体の最適化を図ることで、複雑性を抑えつつ、品質と信頼性を維持する。自動車の電子化は、技術革新と経済合理性のバランスを模索し続ける、終わりなき挑戦なのです。

      【図表1】
      Japanese alt text:Automotive Intelligence 第50回:SDVは最強のコスト低減装置 その1_図表1 出所:「分散リアルタイムシステムとしての車載制御システム」(科学技術情報発信・流通総合システム)を基にKPMGにて作成

      自動車の電子化の第一幕は、1970年代後半から1990年代前半にかけて始まりました。
      この時代は、エンジン制御、ABS、エアバッグなど、環境性能や安全性を高めるための電子技術が導入され始めた時期です。

      技術の中心には、小型マイコンにリアルタイムOS(RTOS)を載せたECUがありました。これらのECUは、機能ごとに「箱」として車両内に追加されていき、まるで細胞分裂のように増殖していきました。1990年代に登場したCAN(Controller Area Network)によって、車内通信の骨格は整いましたが、基本的には「新しい機能=新しいECUの追加」という構造が続きました。

      その結果、ワイヤハーネスは長く重くなり、ソフトウェアは各ECU内で閉じたまま、似たような処理が重複して実装されるようになっていきます。機能の追加がそのままコスト増につながるという、量産における古典的なジレンマが、静かに、しかし確実に積み上がっていったのです。この時代の電子化は、技術革新の始まりであると同時に、後の世代が直面する課題の種をまいた時期でもありました。

      1990年代後半から2000年代にかけて、自動車の電子化は新たな局面を迎えました。
      この時期は、IVI(In-Vehicle Infotainment)と車内ネットワークの進化が加速した時代です。カーナビやテレマティクスが標準装備となり、車内で扱う情報量が飛躍的に増加。ソフトウェアの比重が高まり、車は「走るコンピュータ」へと近づいていきました。
      しかし、構造的には依然として“フラット型”の延長線上にありました。つまり、車内の至るところにECUが散在し、それぞれが独立して機能を担う状態が続いていたのです。ECUの数は100個を超え、ワイヤハーネスは全長4kmにも達するようになり、重量や組立工数がコストの主要因として顕在化していきました。

      この頃から、業界内では次第に危機感が高まります。
      「このままでは限界だ。統合によってECUの数を減らさなければならない」—そんな声が、初めて前面に出てきたのがこの第二幕です。
      技術の進化が利便性をもたらす一方で、構造の複雑化がコストと効率の壁となって立ちはだかります。電子化の恩恵と課題が、より鮮明に浮かび上がった時代と言えるでしょう。

      【図表2】
      Japanese alt text:Automotive Intelligence 第50回:SDVは最強のコスト低減装置 その1_その2 出所:「分散リアルタイムシステムとしての車載制御システム」(科学技術情報発信・流通総合システム)を基にKPMGにて作成

      2010年代に入り、自動車の電子ネットワークは大きな転換点を迎えます。
      CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)という新たな潮流が、従来の分散型構造に限界を突きつけ、統合型への移行を強く促す時代となりました。

      この時期には、ADAS(先進運転支援システム)の高度化、OTA(Over-the-Air)によるソフトウェア更新、サイバーセキュリティや機能安全への対応など、複数の技術課題が同時並行で進行します。個別のECUに分散されたままでは、検証・更新・保証の負担が急激に増大し、もはや立ち行かなくなってきたのです。

      そこで登場したのが、“ドメイン型”アーキテクチャです。車体、パワートレイン、ADASなどの機能領域ごとにドメインコントローラーを配置し、ECUの数を30〜70個規模にまで削減。ソフトウェアは共通OSの上にレイヤ化され、機能の整理と再利用が進みました。OTAの対象を絞り込めるようになったことで、運用コストの制御も可能になっていきます。

      とはいえ、課題がすべて解決されたわけではありません。ドメイン間の境界は依然として厚く、配線の複雑さやゲートウェイの増設に伴うコスト増加は、次なる技術革新を促す火種として残りました。
      第三幕は、電子化の「量」から「質」への転換期。統合による効率化と、次世代モビリティへの対応が本格的に始まった時代と言えるでしょう。

      2020年代に入り、自動車の電子ネットワークは”ゾーン型” アーキテクチャへとシフトしつつあります。これは、従来の機能単位や領域単位の制御からさらに一歩進み、車体全体をフロント・リア・左右などのゾーンに分割し、それぞれのゾーンでセンサーやアクチュエーターを集約管理する方式です。

      各ゾーンにはゲートウェイが設けられ、それらが中央のHPC(High Performance Computer)とネットワークで接続される構造となっています。この結果、配線は最短経路に張り替えられ、ワイヤハーネスの長さはおおむね半減。重量も軽減され、製造効率の向上に大きく貢献しています。

      ECUの数もさらに削減され、10〜30個規模にまで集約。ソフトウェア更新は中央HPCで一括管理されるようになり、フェイルセーフ設計も機能横断的に行えるようになりました。これにより、在庫管理・工数削減・不良解析・サプライヤー調達など、あらゆる面でスケールメリットが発揮されるようになっています。

      現在は“ドメイン型”と“ゾーン型”が併存する過渡期にありますが、こうした電子ネットワークの進化は、単なる技術革新ではありません。それは、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)への道筋であり、自動車のコスト構造そのものを改革する取組みでもあるのです。

      【図表3】
      Japanese alt text:Automotive Intelligence 第50回:SDVは最強のコスト低減装置 その1_図表3 出所:KPMG作成

      ※本稿の図表の参考資料は以下のとおりです。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      プリンシパル 轟木 光

      轟木 光

      プリンシパル

      KPMGコンサルティング

      EV充電インフラの進化と中国・欧州・米国・日本各国の戦略が、自動車産業とエネルギーシステムの未来をどう左右するかについて解説します。

      不確実性が高い環境下において、自動車産業が取り組むべき対応について、テーマ別にさまざまな視点から解説しています。

      自動車産業の現状の課題や将来予測に関する連載記事集です。

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