企業経営を取り巻く環境は変化し続けており、検討すべき要素はいっそう増え、その影響も大きくなっています。KPMGは、大局的な観点から企業が目指すべき長期ビジョンを経営の基軸に据え、リアルタイムで環境変化の予兆を掴むことで先制的なアクションを講じる体制を構築する新たな経営の枠組みづくりを支援します。
中期経営計画を基軸とする枠組みの限界
多くの日本企業では、3~5年のスパンによる中期経営計画を基軸とする経営管理体制を構築しています。
しかし、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化するなか、策定初年度に早くも計画の前提が崩れ去る事態に見舞われています。このような事情を背景として、計画を作成・更新すること自体が目的になり、社内(事業部門や従業員)および社外(地域・国際社会や投資家を含むステークホルダー)への発信に手応えがなくなる、いわゆる「中計病」に悩まされる企業が増えています。
KPMGのアプローチ
KPMGは、経営環境変化を迅速に察知し、的確な指針を示すための「インテリジェンス機能の実装」、足元の市況に振り回されない長期ビジョンを基軸としながら、察知される変化をリアルタイムで計画へ落とし込む「両極マネジメント経営体系の構築」を支援します。加えて、これらの機能・体系が緊密な相乗効果をもって機能するよう、双方の取組みへの「連動要件の埋込み」までを行い、従来の中期経営計画に代わるまたは補強する経営の枠組みをデザインします。
1.インテリジェンス機能の実装
今日、企業経営を取り巻く環境は目まぐるしく、強い影響力をもって変化し続けており、動向の把握が従前の経営計画の策定タイミングと合致しなくなっています。このため、インテリジェンスを絶えず収集し、経営へと落とし込む組織的な手当てが必要です。
本サービスで収集するインテリジェンスは主として、経営戦略に影響を与え得る外部環境変化、特にメガトレンドと言われるものを対象とします。具体的には、地政学や安全保障、サステナビリティやエネルギートランジション、デジタル/AIに代表される先端技術動向などが挙げられます。
これらは入手経路に応じて、OSINT(Open Source Intelligence:ネットやメディアなど外部公開されているソースからの情報)と、HUMINT(Human Intelligence:人的ネットワークからもたらされた情報)といった形で区分されることがあります。
(1)デジタルインテリジェンスの整備
後述する経営管理体系にインテリジェンスを落とし込むには、主たる外部環境要素に係るシナリオ分析が重要になります。同時に、シナリオ分析に基づいて策定された経営戦略への影響を左右する変曲点を見極め、そのモニタリングを行うことが求められます。
この過程を効果的に実行するため、従来型の机上調査や人的ネットワークからの情報収集に加えて、デジタルツールを活用したデジタルインテリジェンスも必要です。特に昨今は、サードパーティ製のOSINTツールが充実しており、これらと自社固有のアナリティクスツールを適切に組み合わせることで、戦略実務に寄与するインテリジェンスのデジタル基盤を構築できます。
(2)推進組織・機能の構築
インテリジェンス機能を構築するうえで、専任の組織を構築するケースや、既存組織を活用するケースがあります。また、経済安全保障担当のように特定の領域のインテリジェンスを取り扱う組織を先行して整備することもあります。いずれの形であっても、コーポレート部門の機能の再整理が求められます。
また、昨今では自社のリスクマネジメント体制の見直しの一環で、より戦略的なリスクへの対応体制を指向する企業が増えています。この場合、インテリジェンス機能と戦略的マネジメント体制を連動または統合して、構築・運用することも考えられます。
インテリジェンス機能の構築では、機能と体制・プロセスの整備を並行して進めることが重要です。全社の中期経営計画や事業計画等の策定時に、外部環境分析やシナリオ作成を行い、これらをインテリジェンス機能のテンプレートとして活用します。また、サステナビリティ経営や戦略的リスクの洗い出しと併せて実施することも考えられます。実効性を担保するためには、外部有識者の活用範囲を見極めることも必要です。
ステップ1:課題把握 | 既存の体制・活動状況を確認のうえ、インテリジェンスサイクルや、人的・物的リソース、プロセス等の課題を把握 |
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ステップ2:体制設計 | インテリジェンス機能の目的を定義し、主管する機関・部門、担当者、役割分担、関係部門との連携方法等を整理 |
ステップ3:活動設計 | 目的に資するアウトプットを定義し、情報収集方法、事業判断への活用、リソース活用方法等を整理 |
ステップ4:導入・試行 | 整理した体制・活動の本格運用に向けて、導入・試行を行い、新たに検出された課題を確認・改善 |
2.両極マネジメント経営体系の構築
インテリジェンス機能によるインプット(戦略リスク管理・経営インテリジェンス)を糧にしながら、制度疲労に直面している中期経営計画を基軸とする枠組みに代えて、KPMGは長期・短期の経営サイクルに着目した「両極マネジメント経営体系」の構築を支援します。
具体的には、長期ビジョンを通して遠い将来への成長・進化の方向性を示す一方、ごく短期の時間軸における前提変化の予兆を察知し、先制的なアクションを立案する枠組みを導入することで、激化する事業環境の変化に耐え得る経営体系の実現を目指すものです。
(1)長期ビジョンの策定
長期ビジョンの定義や包含する内容は企業によって異なるため、まず自社が長期ビジョンを策定する目的と要件を整理することから着手します。
具体的には、規定すべき項目と定量指標の設定有無、時間軸の有無、より上位の企業理念との関係などを明らかにし共通認識とすることで、検討の土台を設けます。
そのうえで、自社のありたい姿や実現に向けた指針について、財務価値や非財務価値、事業ポートフォリオ管理などの観点から議論・定義することになります。
(2)内部マネジメント/外部開示の方針策定
長期ビジョンを基軸とする経営体系の導入に際し、計画を通した「内部マネジメント」と「外部開示(ディスクロージャー)」を区別した議論が必要です。
従来の中期経営計画は、内部における目標設定と実績管理、外部に向けた定量指標のコミットメントを同様の時間軸(3~5年)で規定することが一般的でした。
しかし、ごく短期間で計画の前提が崩れ去ることのある今日、3~5ヵ年の計画に対するコミットメントを硬直的に維持するのみでは、かえって経営判断を誤らせてしまうリスクがあります。
KPMGが提唱する「両極マネジメント経営体系」では、内部マネジメントと外部開示のあり方を一律に規定するのではなく、従前の枠組みの浸透度合いや企業風土にも目を向けながら、社内外における円滑なコミュニケーションと成果に対するコミットメントを適切に管理し、コントロールできる体系を模索します。この体系では、企業の長期的な成長指針や価値創造シナリオを材料に、外部とコミュニケーションすることを念頭に置きます。
すでに事業部門において会計年度を超える取組みを可視化しており、進捗管理を含めた達成へのコミットメントが推進力になっている企業では、内部向けに中期経営計画に相当する枠組みを残すことも選択肢になります。
従来の中期経営計画による経営体系 | 両極マネジメントによる経営体系(例) | |
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定義 | 3~5年サイクルの中期経営計画を基軸として、毎年度の予算を編成。外部開示される定量指標の制約を受け、毎年、ローリングによる予実管理を実施する。 | 5~15年サイクルの長期ビジョンを基軸として、足元の事業に落とし込んだ単年度計画を策定。計画の進捗およびインテリジェンス機能から得られる動向を基に機動的に更新する。 |
開示サイクル | 3~5年 |
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特徴 | 内部の目標設定と外部に向けた定量指標を同様の時間軸で規定するため、開示事項へのコミットメントにこだわる(引きずられる)あまり、経営管理ならびに重要な意思決定の妨げになるおそれがある。 | 長期で具現化する価値創造シナリオの過程を具体的に社内外へ示すことができる。さらにインテリジェンス機能が伴走することで迅速にリスクを察知し、機動的に計画を修正可能。 内部向けに中期経営計画の枠組みを残し、会計年度を超えるコミットメントを促すことも選択肢になる。 |
3.連動要件の埋込み
自社のリスクマネジメント体制の見直しの一環で、戦略的なリスクに対応する体制への転換を進める要請が高まっています。両極マネジメント経営体系の枠組みでは、環境変化による事業への影響を確実かつ迅速に測定し、次のアクションへつなげることが必要です。
そのため、事業計画における主要成果指標を起点に要素分解ならびにモデリングを行い、計画達成の前提となるキードライバー(先行指標)を洗い出し、整理します。さらに、これらの因子に影響を与える上位のドライバーを特定し、最終的にインテリジェンス機能が収集・分析するPESTLE(P:政治、E:経済、S:社会、T:技術、L:法、E:環境)動向まで抽象化させることで2つの機能、体系が関連付けられるようになります。
たとえば、新興国向けの機械製品を生産するメーカーでは、消費国における購買力の増減要因として周辺地域の政治情勢や農作物の収穫見込み、影響力がある先進国の金利政策に目を向けることが必要になる場合があります。これらは需要側のドライバーであり、他方の供給側では、半導体の流通・規制動向、消費国までの海路・運河の情勢などもキードライバーに該当する可能性があります。
これらの要素を具体的に抽出するため、過去の業績に予期せぬ変動(急伸/下落)をもたらした要因もレビューし、自社のビジネスに影響がある項目を洗い出します。
検討ステップ
経営計画の策定タイミングなど、自社の置かれた状況や切迫度により「インテリジェンス機能の実装」、「両極マネジメント経営体系の構築」のいずれから着手するべきか、両者を並行して検討するべきかを判断します。
異なる時期に整備を進めることも選択肢になりますが、いずれにせよ実態の制約を受ける事業部門とのコミュニケーションを検討過程で綿密に行うこと、2つの機能・体系を連動させる局面では、具体的なアクションプランにつながる解像度でキードライバーを擦り合わせることが成功の要諦です。