「経済安全保障・地政学リスクサーベイ 2025」(以下、本調査)は、国内上場企業、および売上400億円以上の未上場企業176社の経営企画・リスク管理部門を対象に、KPMGコンサルティング株式会社とトムソン・ロイター株式会社の共同で2025年1月7日から2月21日にかけて実施しました。企業が注目する経済安全保障・地政学リスクや経営戦略上の対応方針、課題などについて考察しています。
2025年はトランプ米大統領再任に伴う関税引上げや、化石燃料への回帰、サステナビリティ施策の方針転換等の米国による政策変更を中心に、ロシア・ウクライナ情勢やイスラエル・ハマスの衝突など、企業の経済安全保障・地政学リスク対応にとって激動の年となっています。
目まぐるしく動く国際情勢について日本企業は的確に把握し、対応する必要があります。
レポート全文を掲載したPDFは、こちらからダウンロードできますので、ご覧ください。
※ウェブページは本調査結果の抜粋となっております。
結果の要点
調査の結果、米国新政権の発足や経済安全保障を取り巻く環境の変化に対して、企業が特に注目しているポイントが明らかとなりました。
【米国新政権への企業の反応】
【経済安全保障を取り巻く環境の変化】
※ESGに懐疑的な意見・動向で、気候変動対策やDEIなどを批判する立場を取る
1.リスク対応に向けた施策
経済安全保障を経営企画部署で所掌する企業が前回調査より10.1ポイント増えました。リスクだけでなく、経営戦略の側面からも経済安全保障をとらえようとしている企業が増えていることがうかがえます。
【経済安全保障に関する専門部署の設置状況(設置していない場合、担当部署)】
また、経済安全保障に関する専門部署の機能・役割としては危機管理施策の策定・実行が48.5%で最多です。コーポレート部署間での連携強化、各国の法規制対応、経営・事業計画策定のサポート、インテリジェンス活動も一定数あり、ビジネスの“攻め”と“守り”の両面を担っていることがうかがえます。
【経済安全保障に関する専門部署の機能・役割】
・懸念されるリスクと対応上の課題
過半数の企業が米国新政権の政策変更に加え、米国による対中規制強化や、中国による貿易管理規則強化、台湾情勢の緊迫化を懸念すると回答しました。
【特に影響が懸念される経済安全保障・地政学リスク】
約半数が今後1年以内にリスク管理体制の見直しや外部環境分析などに取り組むと回答しており、中期経営計画見直しに取り組む企業も30%を超えました。
【今後1年以内に取組みを想定している重点施策】
・リスクを踏まえた経営判断
外部環境が複雑化するなか、優先順位を付けた分析がポイントとなるとの回答が53.8%で最多でした。調査にあたっては外部機関や他社事例といった社外の力も使って対応する企業が50.3%、さらに機会も明確化するとの回答が45.6%となっています。
【経営戦略の策定に向けた外部環境分析のポイント】
また、地域統轄会社の設置といったグループガバナンスの整備、地域で自立した内部統制システムの導入に取り組む企業が10%超ありました。保護主義の高まりなど、海外リスク把握や対応の速度を高めようとする動きがみられます。
【国際情勢の変化を受けたグループガバナンスの再編施策の実施状況】
・サプライチェーンリスク管理施策と課題
サプライヤーのリスク評価で、人権・労働リスクを観点に取り入れる企業が前回調査の約1.7倍である43.5%になりました。EUのCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)の成立などにより、一層対応の意識が高まっていることがうかがえます。
【サプライヤーのリスクを評価する観点】
サプライチェーン対応の課題として、リスクシナリオや対応策の策定、サプライチェーンの可視化を挙げる企業がいずれも40%を超え、前回調査の結果を上回りました。米国新政権が打ち出す関税引上げ施策などを受け、リスクシナリオ策定や対応が複雑になると企業は考えているようです。
【経済安全保障・地政学リスクを踏まえたサプライチェーン対応の課題】
・インテリジェンス
インテリジェンス活動として最も重視するのが中長期の成長戦略についての機会やリスク調査で29.8%を占めました。直近の機会やリスクだけでなく、長期的な視点を持とうとする企業の姿勢が垣間見えます。
【インテリジェンス活動で重視する取組み】
2.主要リスクテーマに関する企業動向
【気候・エネルギー安全保障分野における施策の実施状況】
・先端技術
ルール策定や社員教育といった心理的な防御策が64.6%で首位ですが、漏洩防止に向けた管理措置・仕組み作りはそれより少なくなっています。盗難防止等の物理的安全管理措置は25.9%、機微な技術情報の無許可移転防止は12.0%となりました。
【先端技術の研究における情報管理施策の取組み状況】
・セキュリティ・クリアランス
セキュリティ・クリアランス制度の対象となる企業では8.3%がサイバー脅威・対策等に関する情報の共有での活用が検討されています。制度活用における課題では、約半数の企業が社内のリソース不足や情報保全体制整備、プライバシー情報への配慮など社内体制の整備を挙げています。
【「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」制度の活用を検討している領域】
【「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」制度の活用における課題】
・人権
紛争リスクが高い地域についての人権デュー・ディリジェンスでは、23.9%の企業が情勢を継続的にモニタリングすると回答しました。一方で、対応方針等の策定やステークホルダーとの対話など、具体的な施策を取る企業は10%を下回ります。
【紛争リスクの高い地域における人権デュー・ディリジェンスの対応状況】
・サーキュラーエコノミー
資源確保の観点からも関心が高まるサーキュラーエコノミー(循環経済)ですが、多かった取組みは廃棄物の削減や製品の長寿命化で38.4%、再生可能な原材料の調達が35.4%でした。廃棄物回収にかかわる回答は少なく、回収のエコシステム確立は道半ばです。
【サーキュラーエコノミーにおける実施施策】
【米国新政権により懸念するリスク】
サプライチェーン依存度低下を検討する国・地域の首位は中国で27.0%(製造業では31.0%)でした。米国新政権は中国に高い関税引上げを表明しており、懸念が集中しました。
【サプライチェーン依存度を下げることを検討している国・地域】
米国新政権発足で中国事業を見直す動きが出ています。調達割合の低下(9.7%)や成長戦略の下方修正(7.1%)、販売計画の下方修正(5.8%)など逆風を受けていると考える企業がみられます。
【米国新政権の発足を踏まえた中国における事業戦略の見直し状況】
・ロシア・ウクライナ情勢
ウクライナで膨大な復興需要が発生する見通しですが、参画を検討する企業はいずれの分野でも5%に満たないことがわかりました。検討するうえでの課題として、市場の見通し(71.4%)や社員の安全確保(57.1%)に課題を抱える企業が多く、情勢が安定しない限り参画が難しいととらえる企業が多い状況です。
【ウクライナでの復興事業を検討している分野】
【復興事業を検討するうえでの課題】
・台湾情勢
台湾情勢では社員保護やサプライチェーンリスク特定に関心が集まっています。取組み項目として、BCPの策定が19.4%、駐在員等の退避計画策定が17.4%、サプライチェーンリスクの洗い出しが15.5%となりました。
【台湾情勢の緊迫化を念頭に置いた取組みの実施状況】
・中東情勢
22.7%の企業はエネルギー価格高騰に備えていると回答しました。中東情勢は不安定な状態が続いており、日本が強く依存する中東産原油の供給に影響を及ぼすおそれがあることが背景とみられます。
【中東情勢を踏まえた取組みの実施状況】
・反ESG※
反ESGが自社の環境施策に悪影響を及ぼす(13.0%)、中長期経営計画への影響を懸念する(11.0%)との回答がありました。サステナビリティ施策の負担やそれに伴う反動が中長期的に続くと感じていることが背景と考えられます。
※ESGに懐疑的な意見・動向で、気候変動対策やDEIなどを批判する立場を取る
【反ESGに関して懸念する影響】
反ESGに対応するために、商品やサービスの宣伝でESGを訴えすぎないようにするとの回答が10.5%で最多でした。 目立ちすぎることで標的となりやすくなるとの受け止めが広がっています。
【反ESGに関して必要になる対応】
・ルールメイキング
ルールメイキング活動として、業界団体を通じた意見表明を行っている企業が36.6%と最多でした。業界で一丸となり政府・官庁などに意見を提示することを重視していると考えられます。官庁や自治体関係者との接触・意見交換を行っている企業も17.6%を占めました。
【ルールメイキング活動の実施状況】
ルールメイキング活動における課題について、30%以上の企業が体制の未整備や人材不足を指摘しました。ルールメイキング活動にかかわることで、インテリジェンス機能の強化にもつながります。一方で、社内での必要性の認識が薄いとの回答も21.9%でした。
【ルールメイキング活動における課題】
本レポートのPDFでは、経済安全保障・地政学における主要リスクに関してテーマごとに調査し、それに対する日本企業の取組みに関して動向を考察しています。
全文は下記からダウンロードできますので、ご覧ください。