気候変動や地政学リスクの高まり、技術革新の加速などを受けて、経営を取り巻く環境はますます不透明感を増しています。
KPMGは、モビリティ・エネルギー・インフラ・ハイテクなど不確実性、成長性の高い分野における長期的な潮流を踏まえた産業・市場の体系的な分析を通じて、エビデンスに基づく企業の参入機会の探索を支援します。
未来洞察における一般的なアプローチの課題
多くの企業は、未来洞察による技術戦略策定や新規事業・サービス開発に取り組んでおり、その手法として将来の変化の「兆し」を基にした強制発想型のアイディエーション方式が導入されています。この方式は、望ましいと考える未来を自ら作り出そうとするチームの主体性の醸成に寄与し、迅速な製品化が求められる業態に特に適合します。他方で、経営層に議論の熱量や将来像の客観的な根拠を示しにくい側面があり、製品ポートフォリオの見直しなど大規模な設備投資の判断を要す局面では、十分に機能しないことがあります。
KPMGのアプローチと実施ステップ
KPMGは、体系的なアプローチを通して、エビデンスに基づいた長期的に成長が期待される産業・市場分析を行うことで企業における将来像の見立てを明確にし、そこから得られる事業機会の仮説に説得力と蓋然性を備えます。
1.活動憲章の策定
マクロ潮流を起点とする分析はいずれも抽象度の高い工程からなり、あらかじめ着地点について社内、チーム内で目線合わせをしておくことが肝要です。
具体的には、(1)分析の成果を誰が何に用いるのか(事業ポートフォリオ変革、事業開発、技術開発の指針策定など)、(2)その手段としてどのようなアプローチを念頭に置くか(M&Aによる非連続の成長施策を視野に入れる、または保有技術の用途探索が主眼であるなど)、(3)分析の対象年をどこに置くか(15~20年後を目安に設定するなど)を「活動憲章」として明文化し、実施メンバーや関連部門と合意します。
2.マクロ潮流の抽出
最大の単位である分野ごとに、対象年までの成長・変化のシナリオ、内包する産業や市場の構造を描きます。
たとえばカーボンニュートラルの対応を念頭に2050年を分析の対象年とする場合、現在の産業・市場構造から様変わりしている可能性もあります。重要な変曲点とそこから導かれる事業機会を見落とすことのないよう、意図して大まか、かつ抽象的な分野設定を行います(例:モビリティ・エネルギー・インフラ・ハイテク)。将来の外延を掴むため、「公知」情報の積上げのみに依拠せず、近接する分野から推論できる「兆候」、変化ドライバーの行間を埋める「仮定」による補強も行います。検討チーム内で頻度の高い議論と補強調査を重ねることで、1つの将来像を描きます。
明らかにするべき論点 |
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検討成果のイメージ |
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3.産業変化分析(定性・定量)
マクロ潮流を踏まえ、参入または深耕を検討すべき産業や市場を選定するため、より詳細な調査を行います。PESTEL分析、5フォース分析、3C(顧客・競合・自社)分析などを用いて、さまざまな角度から将来の産業で「なぜ・何が」起こるのか、この環境変化が自社にもたらす影響は何かを分析します。併せて、内包する市場ごとに市場規模や成長率を推計し、事業との親和性を見極めて次の工程へ進める領域を選びます。この局面で企業のミッション、ビジョンとの適合性を判断するなど、目的に応じて評価軸も調整します。綿密な調査を通して信憑性を高めつつ、部門間・職位間の目線合わせの材料として活用できるように、表現の平明さ、簡潔さも重視して取りまとめます。
明らかにするべき論点 |
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検討成果のイメージ |
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4.市場変化分析(定性・定量)
前工程で選定された市場を対象に、さらに解像度を高めた調査・分析を行い、具体的な参入機会の候補を探索します。仮に風力発電を題材とする場合、発電装置本体に限らず、その構成部品、港湾での組立てに用いる建設機械、送電ケーブル、予兆検知システムなども参入候補に入れるべきです。市場の特性や商慣習に依拠しますが、将来の市場構造を明らかにして事業機会の取りこぼしを回避し、目線合わせをしながら参入機会の探索に臨むことができます。また、参入プレイヤーや具体的なプロダクト、採用技術なども併せて調査します。
これらの調査に基づき、市場の有望性と蓋然性を補強・評価する観点から、産業動向と同様に市場内の主要製品・方式ごとの市場規模などを推計します。併せて有識者へのヒアリングを通して、市場勃興の蓋然性を明らかにすることも有益です。
明らかにするべき論点 | 対象市場の掘下げ |
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参入機会の探索 |
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検討成果のイメージ |
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<産業・市場の区分定義>
前述のとおり、将来の産業・市場構造は現在から大きく変化している可能性があります。加えて、分野内での産業・市場の区分に際して製品カテゴリーによる分解が一般的に用いられますが、たとえば複数市場に同様の製品を卸している素材メーカーでは、この区分が自社の参入機会の探索に適さないこともあります。また、市場変化の分析の進め方としてバリューチェーンによる市場構造の整理を採用するのが一般的ですが、この区分法もプラットフォーム型のビジネスが主軸となる市場ではKSFをうまく汲み取れない場合が想定されます。
このように、分野が内包する産業や市場の区分、ならびに産業・市場構造の理解に際しては、下図に示すような複数の切り口との親和性を試しながら、最適な定義を探ることになります。
【産業・市場の区分やその内部構造を整理するための切り口(例)】
(1)最終製品カテゴリー:需要の変化を掴む観点で広く有効 (2)エンジニアリングチェーン:水平分業が鍵となる産業構造などで有効 (3)バリューチェーン:消費性向の変化により業際の曖昧化が進む産業や市場で有効 (4)最終製品のユーザ用途:多様な産業に供する汎用製品市場などで有効 (5)ビジネスレイヤー:プラットフォーマーの台頭が鍵となる産業構造などで有効 |
5.事業機会の示唆導出
これまでの工程から個別の市場における有望なポジションを特定しますが、異なる産業や市場でも近接する課題があれば同様の臨み方(製品・技術展開)で参入する余地があり、事業を拡大させる端緒になります。産業・市場ごとに取りまとめた成果を集約し、重複する製品・技術や課題をグループ化することで、長きにわたって参照できる参入機会リスト(マップ)を整備します。併せて、各市場への参入KSF(または市場の勃興・確立に要求されるキードライバー)を言語化・一覧化し、自社製品・技術との適合性を見極めることで、勝ち筋を備える参入方法の仮説をそれぞれ導出します。
明らかにするべき論点 |
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検討成果のイメージ |
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スケジュール設計の考え方
基本的な進め方は冒頭で示した実施ステップに従いますが、実際には企業の事業性質に応じて途中段階での軌道修正や調査・議論設計の調整も要求されます。
複数分野(たとえば4分野)を取り上げる場合、2サイクルに分割しておくことで、前半2分野での気付き・反省を踏まえ、効果的に後半2分野の調査・分析を進めることができます。
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