長期ビジョン・パーパス策定における日本企業の課題

課題 1. 戦略的スタンスの欠如

日本企業では一般的に全社戦略の決定プロセスがボトムアップの合議制であるため、誰からも嫌われない(リスクの最小化を優先した)特徴に欠ける経営方針や戦略がアウトプットされることが多く、尖った戦略や価値観をベースとした経営スタンスが生まれにくい状況が見受けられます。

その結果、日本企業は自社の評判や見え方に非常に関心が高いものの、競争優位性獲得に向けた独自性のある「成長のためのエクイティ・ストーリーやESGストーリー」また「それを裏付けるパーパス・ビジョン」を描き、活用できているケースが少ないといえます。

日本企業は自社の評判・見え方に関心が非常に高い 日本企業は自社の価値を伝えるストーリーの表現に苦労している

課題 2. 酷似したインプットと表層的解釈

多くの企業は、全社戦略立案時に数年後の未来を想定していますが、実態はメガトレンドの情報整理にとどまっており、それらを独自の視点で文脈や根底潮流にまで遡って洞察できているケースは少ないと言えます。

グローバル企業の多くが彼ら独自のレンズで世界を洞察して戦略立案に役立てているのに対し、日本企業は往々にして、似たような表層的ファクトのインプットに留まっているため、アウトプットされる戦略も同質化しがちの傾向にあります。

「未来洞察」とは?

我々は上記の二つの課題において、企業が自分たちにとって関連性が強く独自性のある未来を描くことができていないことに一つの大きな原因があると考えており、その解決に未来洞察の手法が有効だと考えています。未来洞察とは、まだ現在では顕在化はしていないものの将来の潮流となりうるような「未来の兆し」を複数集め、それらを組み合わせることによって現状の延長線上では発想しきれない未来変化シナリオを考える手法です。未来洞察を行う上では、業界における将来の課題や企業特定の課題や技術等と掛け合わせることで、企業が置かれている状況の将来に関連性が強くなるように設計します。この結果、企業は不確実性の先に見据えるべき関連性の高い未来変化シナリオを複数特定することができます。その中で企業としてこのような未来シナリオを実現していきたいという意思を醸成することにより、選択した未来変化シナリオにおける企業としての社会的役割やあるべき姿を主体的に思考できるようになり、長期的なビジョンやパーパス策定の土台を創ることが可能となります。また、自分たちが描く未来シナリオが具体的になることで目指すべきゴール像のスタンスが取りやすくなるだけでなく、選択した未来シナリオとは違った大きな社会変化が起こった際にも迅速な戦略意思決定ができるようになります。
このように我々は中長期ビジョン・戦略やパーパスなどの策定に際して、「未来洞察」を組み合わせた検討を提言しています。

なぜいま「未来への洞察」か?「予測」から「洞察」へ。

世界各地における紛争や未知の感染症など想像もできなかったことが起こり、解決すべき社会課題は山積みのこの不確実な時代には、企業は従来のフォーキャスト型の未来予測では対応できなくなっています。
現在の延長線上にはない非連続な未来を発想し、自分たちの意志を込めながらありたい未来像を描き切ることがこれまでになく重要といえます。

未来洞察では蓋然性の高い未来の兆しのみならず、探索的に捉えた一見無関係のように見えるさまざまな未来の兆しを掛け合わせることで非連続な未来のシナリオを捉えます。

未来シナリオ仮説

「未来洞察」のアプローチ

既存情報のアナリティクス及び定性調査をつかって未来の兆しを各関連領域から収集し、未来変化シナリオの仮説を複数案作成します。これらのシナリオ仮説を、業界特有の課題や自社の課題や技術等と掛け合わせることで、自社らしい未来シナリオに落とし込み、ワークショップを実施。
ステークホルダーの意志を引き出しながら、目指したい未来の姿の共通認識化を図ります。

未来の兆しの特定
未来変化シナリオ仮説の検討
強制発想による該当業界・企業への落とし込み
未来シナリオの選定とありたい姿の合意

「未来洞察」の差別性

アナリティクスとクリエイティビティの融合

FAS「未来洞察」では、大規模言語モデルを用いて膨大な記事から未来の兆しを抽出するプロセスを自動化。人間だけでは物理的に不可能な量の記事のインプットを可能とする「未来スキャニング」ツールを開発し、シナリオ創造のパフォーマンスを格段に上げることに成功しました。

未来スキャニング・ツール

アナリティクスによる高度化のポイント

未来の兆し倉庫

大量の記事・文章を読み込ませることによる「社会的な潮流のデータベース化」

未来の兆し探知機

大規模言語モデル(LLM)を他の機械学習アプローチと組み合わせて要所で適用することにより、注目すべき内容を特定 

  • LLMに対して自然言語で指示を出すことで要約やキーワード抽出を実現
  • LLMで文章をベクトル化したうえで、クラスタリングを行うことによる精度の高い内容のカテゴリ分類
  • 従来手法による共起キーワードの抽出や、LLMによる類似度計算を行い、記事間の関係性を把握

未来の兆し探索スコープ

インタラクティブな可視化により、利用者が1人でブレインストーミングを行うように思考のヒントを得られるような仕掛けづくり

クリエイティビティによる差別化のポイント

既成概念や現在の常識に囚われることなく、社会の仕組みや規範から再考することで、未知の問題や新たな価値を発見します。
LLMで抽出された記事を探索的にスキャニングしながら、コンサルタントのインサイト発掘力を駆使することで未来変化の兆しを発見。これらに、エスノグラフィや日記調査など生の情報を掛け合わせることによって、複数の未来シナリオを作成します。

クライアントの意志を引き出しながらともにありたい未来のシナリオをデザインし、デザイナーによるシナリオの見える化や創発的ディスカッションを通して、最終的な未来像の解像度を上げながら共通認識として流通しやすい形に落とし込むことで、その企業らしい中長期戦略、新規事業開発戦略の策定が実現可能です。また、このプロセスを通じて、チーム・組織としての結束力向上にも貢献します。

スキャニング・ノート(例)
未来シナリオ(例)

主要メンバー

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