企業年金運用の「見える化」の検討状況とスケジュール

「企業年金の運用の見える化」の具体的内容の検討が2025年10月から始まりました。厚生労働省によると、2025年度中に開示項目が決まり、およそ2年後の2027年度中に見える化が実施されます。「見える化」にはメリットとデメリットが想定されるため、各企業はこれらを踏まえて対応準備を行う必要があります。

「企業年金の運用の見える化」は、2025年度中に開示項目が決まり、約2年後の2027年度中に実施されます。「見える化」のメリットとデメリットを理解した準備が各企業に求められます。

前倒しされた見える化のスケジュール

2025年6月20日に公布された年金改正法では、企業年金の運用の「見える化」については公布から5年以内の政令で定める日にすることが決まっていました(2025年8月のKPMG解説記事参照)が、その後、10月7日に「第1回 企業年金の加入者のための運用等の見える化等に関する懇談会」(以下「見える化懇談会」)が開催され、「見える化」される項目の案や実施に向けたスケジュールが事務局から示されました。

会議資料及び議事録によると、以下の通り2027年度中に「見える化」がスタートする計画となっており、あと3年足らずで、法律で示されたスケジュールよりかなり前倒しで実施されることとなります。開示が見込まれる情報は後述しますが、開示に向けた各種の準備を前倒しで行う必要があると考えられます。

なお、「見える化」対応に際しては、これまで書面で提出されていた企業年金の決算報告書等を電子データで提出することになり、そのためのシステム改定もなされるようです。懇談会資料ではこれらを総称して「新システム(企業年金総合情報管理システム)」と称しています。

表1 見える化のスケジュール

2025年度内 新システム設計・開発のための要件整理、調達手続き等
2026年度~ 新システム設計・開発、テスト等の実施
2026年~ 企業側や受託機関、運営管理機関等でのシステム対応等の準備期間
2027年度中 新システムの稼働

出所:第1回 企業年金の加入者のための運用等の見える化等に関する懇談会資料に基づきKPMGが作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64227.html

見える化される項目(案)

「見える化懇談会」で事務局から提示された開示項目案は以下の通りとなっています。
各種の統計資料を開示することによって、自社以外の企業年金制度との比較が可能になることを意図しています。

表2 確定給付企業年金に関する主な開示内容(案)

大項目 小項目 備考
基本情報 基金名・事業所名/設立・実施形態制度開始月/事業所数/加入者数 原則、全DBが開示
制度設計 年金支給期間/給付設計/予定利率/他制度掛金相当額 加入者数100名以上または資産額10億円以上のDBが開示)
給付実績 給付件数/給付総額
財政状況 積立状況(責任準備金や最低積立基準額に対する比率を含む)/掛金拠出状況
資産運用状況 運用方針(運用基本方針・期待収益率・リスク)/資産構成割合/実績利回り(単年および5年平均)/実施体制(専門性確保・向上の取組を含む)

出所:「第1回 企業年金の加入者のための運用等の見える化等に関する懇談会」の資料に基づきKPMGが作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64227.html) 下線は新規報告事項

 

表3 確定拠出年金に関する主な開示内容(案)

大項目 小項目 備考
制度情報 規約名/実施形態/制度開始月/運営管理機関名/加入者数・平均年齢・運用指図者数/掛金総額(事業主分と加入者分の別に) 原則、全DCが開示
運用方法・指図に係る情報 商品名/元本確保型か否か/種類/加入者数選定年度運用実績(制度ごとの平均値)
指定運用方法 提示有無/商品名/種類/適用人数/資産額
資格喪失者情報 自動移換者の割合
その他 事業所の所在地(都道府県)

出所:「第1回 企業年金の加入者のための運用等の見える化等に関する懇談会」の資料に基づきKPMGが作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64227.html) 下線は新規報告事項

また、これらは企業年金の名称と紐づく形で開示され、名称だけでなく各種の属性など、様々な条件で検索することができる仕組みになるようです。

企業に望まれる対応

懇談会の議事録によると、懇談会に参加した構成員からは事務局案に対し比較的ネガティブな意見が多く出たようです。

例としては、個別企業名で当該情報が開示されることについて「個々の企業年金の状況が異なる中で単純比較することで、一部を切り取った不適切な報道がなされたり、不適切な営業活動に対する負担や不利益が生じたりする」や、「(拠出額の水準から)労働条件である退職給付制度の給付水準が想定されてしまう」といった懸念が示されています。

ただし、事務局が示したスケジュールによれば、年明けに第2回の見える化懇談会を行ったうえで2025年度内にシステムの設計要件整理と調達手続きを行うとしており、事務局案に近い内容で開発が進む可能性もあると考えられます。

この懸念点は、2025年8月のKPMG解説記事でも一部触れましたが、DB年金に関する自社と同業他社の資産運用方針や、DC年金の商品ラインナップ等の相違について、従業員や自社マネジメント、および外部に対してその理由等を説明する負担が生じる可能性があると考えられます。こうした説明を行わなかった場合、例えばマネジメントが不適切な報道を読んでこれまでの自社の運用方針を無視したリアクションをしたり、従業員が自社の利回り水準が相対的に低いことに不満を感じたりする可能性があると思われます。したがって、実際に開示が始まる前に、従業員や自社マネジメントへの適切な説明や情報開示を行い、サプライズを避ける取り組みを行っておくことが重要と考えられます。

なお、KPMGでは、DBおよびDCの運営高度化に関するアドバイスを提供しており、上述のようなお悩みに関するアドバイスも実施しておりますので、お気軽にお問合せいただければ幸いに存じます。

年金資産のリスクマネジメントに関するアドバイス

確定拠出年金制度の運営高度化に関するアドバイザリー

 

執筆者

有限責任あずさ監査法人
金融アドバイザリー事業部
パートナー 枇杷 高志

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