必見!IFRS 18実践ポイント 第5回 為替差額の取扱い
IFRS適用企業はIFRS第18号の適用に向け検討を進めています。本解説シリーズではIFRS第18号の主な留意点を紹介します。 第5回目の本稿では為替差額の取扱いについて解説します。
IFRS適用企業はIFRS第18号の適用に向け検討を進めています。本解説シリーズではIFRS第18号の主な留意点を紹介します。 第5回目の本稿では為替差額の取扱いについて解説します
IFRS適用企業では、2024年4月に国際会計基準審議会(IASB)が公表したIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の適用に向けて、検討が進んでいます。IFRS第18号は、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用も認められます。本解説シリーズでは、「IFRS®会計基準の初見分析-IFRS第18号『財務諸表における表示及び開示』」を参照し、IFRS第18号の主な留意点を紹介していきます。
第5回目の本稿では、IFRS第18号における為替差額の取扱いについて解説します。
Q-1:純損益計算書において為替差額はどのように分類しますか?
A:為替差額は、原則としてその為替差額を生じさせた項目から生じる収益及び費用と同じ区分に分類します(IFRS18.B65)。
例えば、外貨建売掛金から生じる為替差額は営業区分に分類します。また、外貨建借入金から生じる為替差額は財務区分に分類します。ただし、企業が主要な事業活動として顧客にファイナンスを提供しており(「第2回 特定の主要な事業活動の評価方法」参照)、その外貨建借入金から生じた収益及び費用を営業区分に分類する場合は(「第4回 特定の主要な事業活動を有する企業の収益及び費用の分類」参照)、為替差額も営業区分に分類します(IFRS18.B66)。
Q-2:為替差額を、その為替差額を生じさせた項目から生じる収益及び費用と同じ区分に分類することに過大なコストや労力を伴う場合、どの区分に分類しますか。
A:為替差額を分類するのに過大なコストや労力を伴う場合には、企業は対象となる為替差額を営業区分に分類します(IFRS18.B68)。
これは、IFRS第18号の開発過程において、為替差額を適切な区分に分類すること(Q-1のA参照)による多額の導入コストへの懸念が一部の利害関係者から挙げられたことに応えて設けられた免除規定です(IFRS18.BC210,BC211)。営業区分に分類する理由は、次のとおりです(IFRS18.BC213-BC216)。
- 営業に関連する為替差額を営業区分の外に分類すると営業利益が不完全となり、企業の業績指標としての営業利益の有用性が低下する可能性がある
- 他の区分への分類が要求されない収益及び費用は営業区分に分類するというアプローチ(「第1回 純損益計算書の構成」Q-2参照)と整合する
企業は、為替差額の分類に過大なコスト又は労力を伴うかどうかを、為替差額を生じさせる項目ごとに評価する(ある為替差額について過大なコスト又は労力を掛けずに適切な区分に配分できないと判断される場合、営業区分に分類する免除規定は、その為替差額に対してのみ適用される)必要があります(IFRS18.BC212)。その評価は、各項目に関連する事実と状況によりますが、同じ事実及び状況がいくつかの項目に関連している場合には、企業はそれらの項目に同じ評価を適用することができます(IFRS18.B68)。
Q-3:負債から生じる収益及び費用を複数の区分に分類する場合、為替差額はどのように分類しますか?
A:IFRS第18号は、単一の負債から生じる為替差額について、複数の区分(例えば、財務区分と営業区分など)に配分することを容認していません。そのような負債から生じる為替差額を分類する区分(財務区分または営業区分のいずれかなど)を判断する必要があります(IFRS18.B67)。
具体的には、「その他の負債」(資金の調達のみを伴うものではない取引から生じる負債(例:与信期間の延長を伴う買掛金))から生じる収益及び費用に関して、(1)利息収益及び利息費用(ならびに金利変動の影響)が財務区分に、(2)その他の収益及び費用が営業区分に分類される場合などが該当します(「第3回 純損益計算書における新たな3つの区分」参照)。
IASBは、上記(1)と(2)のように収益及び費用の両者が発生する負債に関する為替差額は、さまざまな状況で発生する可能性があり、そのような為替差額の分類をどのように行うのかを決定する際には、各取引の具体的な状況が影響することが多い点に留意しました。そのため、IFRS第18号では、このような為替差額の分類方法に関する具体的な要求事項ではなく、企業が判断を用いて決定する必要がある旨が定められたものとなります(IFRS18.BC217-BC219)。
なお、その他の負債に係る為替差額を分類するにあたり、すべてを同じ区分に分類する必要はありませんが、類似した負債に係る為替差額は、同じ区分に分類することが求められます(IFRS18.B67)。また、Q-2の場合と同様、過大なコストや労力を伴う場合には、その他の負債から生じる為替差額を営業区分に分類するという免除規定が設けられています(IFRS18.B68)。
図表1は、為替差額の分類に関する要求事項を要約したものです。
図表1:為替差額の分類
出典:KPMG
第5回の解説は以上となります。
IFRS第18号の考え方について、詳しく知りたい方はIFRS®会計基準の初見分析-IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」をご覧ください。
第6回では、IFRS第18号における本表と注記の内容の決定方法について解説します。
執筆者
あずさ監査法人
会計・開示プラクティス部
マネジャー 梶原 万基乃