本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

ドライバー不足や働き方改革、レガシーITの限界など複合的な課題が背景にあるなか、自動運転トラックが有力な解決策として注目されています。本稿では、自動車業界が直面する物流課題の構造的要因と、自動運転技術の導入によるコスト削減効果、制度整備、技術的課題について解説します。

2030年の物流危機と自動運転トラックの可能性

日本の物流網は、需要に対して供給が三割以上不足する事態が目前に迫っています。
経済産業省によると、2027年に24万人のドライバー不足となり、2030年には物流の供給不足は34%になると予想されています。結果として物流コストインフレを招き、2030年時点で7.5~10.2兆円の経済損失が発生する可能性があります。

背景には3つの構造要因があります。第一に労働人口です。トラックドライバーの45.2%が40~54歳に集中し、29歳以下は10%以下、女性比率については2.5%に留まります。第二に2024年4月施行の働き方改革関連法が時間外労働を960時間/年に制限し、長時間労働で成り立っていた賃金体系に影響を与えました。第三に“2025年の崖”と呼ばれるレガシーITのブラックボックス化が、配車最適化や需要平準化を阻み続けています。

【図表1:2030年に向けての物流課題】

三割不足が示す現実_図表1

出所:KPMG作成

この不足分は単なる配送遅延だけでは終わらない可能性があります。部品の遅着は製造ラインの停止を誘発し、小売りでは棚空きが慢性化します。さらに、都市部より物流に依存度の高い地方では医薬品や食料品の供給が不安定化する可能性があります。輸送能力と物価は連動するため、供給逼迫は前述のように物流コストインフレを招き、結果として物価上昇要因にもなります。

この物流課題に対して期待されているソリューションが、高速道路区間の自動運転です。

まず経済性を数字の面で確認します。KPMGの簡易シミュレーションによると輸送トラック運行コストの56.2%がドライバーの人件費であり、完全自動運転を導入することで輸送トラック運行コスト全体の32%を削減できる可能性があります。さらにNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、車間4mの隊列走行によって燃費を15%改善できると報告されています。これらの効果を合わせると、自動運転によるトラック運行コストは最大34%程度削減できる可能性があることがわかります。

【図表2:トラック物流運送コスト(KPMGによる簡易シミュレーション)】

三割不足が示す現実_図表2

出所:KPMG作成

また、日本では2023年改正道路交通法が自動運転レベル4を「特定自動走行」と定義し、公安委員会による許可制で運行を認めました。2025年3月から新東名高速道路の一部区間では平日夜間に自動運転優先レーンが設定され、路側機器から合流や障害情報を配信する実証実験が始まっています。路側から供給される映像や交通流データは車載センサーで捉えきれない視野外情報を補完し、AIが扱う「エッジケース」を大幅に減らします。

課題はすでに明確です。豪雪・濃霧などの悪天候におけるセンサー性能低下、トンネルなどでのGPS不感地帯、そしてサイバー攻撃です。サイバー攻撃は車外からテレマティクス経由でE/Eアーキテクチャ深部に侵入する遠隔攻撃を用いて、自動車をハッキングします。これらの対応策として、自動運転レベル4運行時には遠隔監視者の設置が行われ、運行管理センターと車載端末を含む多層防御設計が重要となります。

結論として、自動運転技術を物流分野に活用することは、現在直面している「物流危機」を緩和するための有力な選択肢の1つであると言えます。しかし、それが唯一の解決策になるわけではありません。
現在、高速道路における自動運転の実証実験は始まったばかりであり、まだ初期段階にあります。さらに、一般道での運用には、乗用車にはない課題が存在します。たとえば、積み荷の重さや状態によって車両の挙動が変わるため、より繊細で高度な運転制御が求められます。また、自動運転を本格的に導入するには、高速道路などのインフラ整備も段階的に進めていく必要があります。

物流業界では自動運転への期待が非常に高まっていますが、その期待が過度になることには注意が必要です。たとえば、BEVやMaaSのように、技術の進化や社会実装が期待どおりに進まなかった場合、投資フェーズが長引き、収益化が遅れる可能性があります。そうなると、資本市場において期待の修正が起こり、結果として自動運転市場全体の成長が鈍化する要因となることも考えられます。
したがって、自動運転は物流課題の解決に向けた重要な手段ではありますが、過度な期待を避け、現実的かつ段階的な導入と評価が求められます。

※本稿は以下のサイトを参考にしています。

・「経済産業省の物流政策について 」(経済産業省)
・「トラック運送業の現況について 」(国土交通省)
・「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト 」(厚生労働省)
・「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~ 」(経済産業省)
・「「エネルギーITS推進事業」事後評価報告書 」(NEDO)
・「新東名高速道路における自動運転トラックの実証実験を開始~自動運転車優先レーンを活用し自動運転トラックの走行をインフラから支援~ 」(国土交通省)
・「3割低減が視野に:完全自動運転が描く輸送コストの未来図 」(KPMGコンサルティング)

執筆者

KPMGコンサルティング
プリンシパル 轟木 光

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