CASEやMaaS等のトレンドを背景に、自動運転車やコネクテッドカーが普及し始めています。普及が進むことで、バスやトラックのドライバー不足への対応等による持続可能な交通・物流インフラの構築、交通事故減少や渋滞緩和、ドライバーの負荷低減や移動中の可処分時間増加などが期待されます。
本連載は、「業種別2030年市場展望と求められる人材要件」と題して、メディア・エンターテインメント(メタバース)、行政(行政DX・スマートシティ(都市OS)) 、医療福祉(ヘルスケア) 、自動車(自動運転車・コネクテッドカー)、運輸(物流DX)、教育(EdTech)の各6分野を取り上げて考察しています。
第4回である本稿では、自動運転車やコネクテッドカーにかかわる2030年の市場展望を描き、提供価値の変化に対して求められる人材要件について考察します。
目次
1.自動車(自動運転車・コネクテッドカー):国内市場・労働市場規模の見通し
自動車や交通・物流は元来産業規模が大きいため自動運転関連市場(技術、運用オペレーション、保険等)のポテンシャルも高く、自動車産業を専門とする企業だけでなく、IT企業や電子機器・部品メーカーなど多方面からの参入が相次いでいます。また、車両がネットワークに繋がることで、自動車自体がネットワークを介して機能付加されていき(自動車のソフトウェア化)、企業や自治体は自動車との相互通信を基に、運行管理や車両管理に加え、保険、エンターテインメント、広告、物販、交通・物流の自動化、災害時誘導等、さまざまなサービスを提供するようになると予想されます。
自動運転・コネクテッドカーの普及拡大における主な課題には、台数規模拡大による低価格化や、オペレーション構築、事業者間における責任分界点の定義が挙げられます。今後は、複数OEM間の共同生産等を通じた生産台数増加によるコスト低減、複数事業者間のデータ連携仕様(データ通信規格、データフォーマット等)の標準化を通じたマルチブランド車両の運行管理の仕組み構築や自動運転車両を活用したオペレーションの具体化などが変局点になると考えられます。
2023年4月には改正道路交通法の施行に伴い、ルートや速度など特定の条件付きでドライバーが不要となる自動運転「レベル4」が解禁されました。政府は2025年度をめどに全国の40ヵ所程度で自動運転の移動サービスの導入を目指しているほか、企業でも実用化に向けた開発が加速されており、自動運転車・コネクテッドカー市場の立ち上がりと拡大が期待されます。各社公表資料を基にKPMGが試算したところ、自動運転車両の運行台数増加、コネクテッドカー普及率の上昇、および同プラットフォームサービス利用率の高まりなどを受け、2030年には自動運転モビリティサービスとコネクテッドサービス(OEM提供サービス分)を合わせた国内市場規模は約4,400億円、労働力に支払われる対価は660億円以上に達する見込です。
【図表1:国内自動運転・コネクテッドサービス国内市場規模】
【図表2:国内自動運転・コネクテッドサービス国内労働市場規模】
2.自動車(自動運転車・コネクテッドカー):新たな提供価値と未来予想図
- 交通・物流インフラの持続性は、地域公共交通では人口減少・地方過疎化による需要縮小やドライバー不足、物流では“24年問題”を始めとするトラックドライバー不足により維持が困難になることが懸念されており、その対応が課題となっています。自動運転はドライバーの省人化を実現することで持続可能性を向上させ、地方の移動手段と全国の物流の支えとなることが期待されます。
- 自動車の運転操作やサポートから解放されたドライバー・同乗者は多くの可処分時間を得られます。移動時間が潜在的に有していた価値を利用できるようになることで、車内空間の再定義がなされ、自動車の動くXXX化(美容室、レストラン、病院等)が進むと考えられます。
- 高い安全性は、自動運転技術の実用化により、交通死亡事故の大部分を占める運転者の違反(ヒューマンエラー)に起因する事故が大幅に削減されることが期待されます。
- シームレスなユーザー体験は複数の価値が考えられます。たとえば、旅程全体で最適化されたモビリティの利用です。交通サービスの決済を含めた電子データが接続されることで、ユーザーはニーズに合わせてリアルタイムな情報に基づいた交通手段のオプションを自動比較し、一括で手配を完了できるだけでなく、必要なときに自動運転車両が自動的に配車されるようになる可能性があります。今後は車内外のさまざまなデータソースが組み合わさることで、生活(日常の買い物、会社への通退勤、子どもの送迎、医療機関の受診等)と自動車が繋がった新たなサービスの展開が期待されます。
- 車両や走行データの随時取得・モニタリングが可能になることで、車両が長持ちする制御や充電・充填を解析して制御機構をアップデートしたり、メンテナンスタイミングを管理者やドライバーへ通知したり、完成車メーカーやサプライヤーは製品開発にフィードバックをかけて、より耐久性の高い車両を作成したりすることなどが可能になると考えられます。また、走行データや整備データなどが改ざん困難なブロックチェーンによって常に記録されることで、客観的な車両の使用状況やコンディションの信頼性を高め、中古車市場での残価評価の不正を排除できるようになることも考えられます。これらにより、車両は長寿命化され、資産価値は維持・保証されることが期待されます。
【図表3:2030年の自動運転車・コネクテッドカー未来予想図】
3.自動車(自動運転車・コネクテッドカー):求められる人材要件
(1)新たな提供価値の創造
<構想・企画>
- 自動運転・コネクテッドカーを活用したサービスの設計
- 自動運転・コネクテッドカープラットフォームの企画
- 業種・企業規模を超えたサービス・技術が連携されるエコシステム形成
- エコシステム上で自社の強みを見定めた新たな収益源の開拓
(2)価値提供の仕組み構築
<サービス>
- AIとデータ活用により最適化された自動運転技術、コネクテッド技術の開発
- 自動車、道路等に搭載されるセンサーやIoT機器の開発
- エンドユーザーが使いやすいUI・UXの開発
<プラットフォーム>
- 高度なセキュリティ対策が維持されるネットワークインフラの整備
- プラットフォーム構築、およびプラットフォームを活用した業種を跨ぐアプリケーションの開発
- 継続的な消費者とのタッチポイント構築(スマートフォンアプリ等)
(3)仕組みの運用・継続改善
<普及>
- プラットフォーム上のサービス提供事業者への導入メリット訴求や活用方法のサポート
- プラットフォームにおけるステークホルダー間のコミュニケーション促進
<維持>
- 時々刻々と変化する製品・サービスに合わせたインフラの更新、維持
- 自動化で導入される車両の運行管理、運用保守
- 機械故障や誤動作発生時の迅速なユーザーサポート、修理
- サイバーセキュリティへの対策
<改善>
- 収集データやユーザーの声を基にした製品・サービスの改善点探索・抽出、および企画・開発へのフィードバック
提供価値の変化に伴い、求められるスキルは「サービス設計力」や「エコシステム構築力」など、従来と異なるものになっていきます。今後は必要なスキルを持つ人材をリスキリング・採用・外部活用といったさまざまな方法を通じて確保し、人材要件の変化に対応していくことが事業成功の大きなドライバーであり、日本の自動車産業が継続的に発展していくための重要な要素の1つとなります。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 井城 裕治
ディレクター 山田 伸一
シニアマネジャー 松本 友之
コンサルタント 谷口 弘樹