これまで、日本の公共サービスは安全面・衛生面・正確性等で高い品質を誇ってきました。しかし、少子高齢化によって中長期的に労働人口が減少するにつれ、特に過疎化する地方を中心に、公共サービスの維持が困難になってきました。

本連載は、「業種別2030年市場展望と求められる人材要件」と題して、メディア・エンターテインメント(メタバース) 、行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))、医療福祉(ヘルスケア)自動車(自動運転車・コネクテッドカー)運輸(物流DX)教育(EdTech)の各6分野を取り上げて考察しています。

第2回である本稿では、自治体の省人化・効率化が期待される行政DX、およびスマートシティ化について、それぞれ行政業務(行政サービス)効率化と都市OSに焦点を当てて2030年の市場展望を描き、提供価値の変化に伴い求められる人材要件について考察します。

1.行政DX・スマートシティ(都市OS):国内市場・労働市場規模の見通し

国内は少子高齢化が進み、地域によっては限界集落化のリスクを抱えています。また、デジタル技術の普及に伴って地域住民のライフスタイルの多様化が急速に進んでいます。こうした社会変化に伴う行政へのニーズの高まりや変化に対し、現在のアナログな運営体制でのサービス提供は質的にもコスト的にも限界を迎えており、内閣府はデジタル・ガバメント実現に向けたグランドデザインを制定しました。

2030年には、行政サービスのうち、役所手続き等の狭義の行政サービスは、住民と接するフロント(窓口)は維持されつつも、ミドル・バックオフィスについては複数自治体でのサービス基盤統合・共有化が徐々に進むことが期待されます。また、サービス提供を一元的に担う行政サービスセンターへの集約が推進される可能性も考えられます。他方、地域コミュニティ支援/図書館など、デジタル技術と親和性の高い行政サービスは徹底的なデジタルによる効率化が進み、医療/保育/介護/コミュニティバス等の行政単独でのデジタル化が困難な行政サービスは民間と連携し、スマートシティの文脈のなかで実装されていくことになります。

スマートシティ化はICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行う取組みでもあります。都市や地域には、災害/警備/医療/交通などの多くの情報が飛び交っており、スマートシティ実現には、行政、住民、企業のさまざまなデータが連携するIT基盤システム「都市OS」の整備が必要となります。今後は都市OSの普及拡大とともに、都市OSとのサービス・データ連携を前提とした各分野でのプラットフォーム構築、および分野横断ビジネスの創出が期待されます。

上述のとおり、これからの自治体は、省人化・効率化によって、限られたヒト・モノ・カネのなかで、公共サービスを維持・改善していくことが至上命題です。行政DX・スマートシティプラットフォームはその実現への貢献が期待され、野村総合研究所のデータ、および各社公表資料を基にKPMGが試算したところ、2030年には国内市場規模は約6.5兆円、労働力に支払われる対価も9,400億円以上に達する見込です。

【図表1:行政DX・スマートシティ(都市OS)国内市場規模】

行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))_図表1

出所:野村総合研究所のデータおよび各社公表資料を基にKPMG作成

【図表2:行政DX・スマートシティ(都市OS)国内労働市場規模】

行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))_図表2

出所:各社公表資料を基にKPMG作成

2.行政DX・スマートシティ(都市OS):新たな提供価値と未来予想図

2030年における提供価値の変化として、行政サービスはマルチチャネル・ノンストップサービス化による利便性向上などが予想されます。また、都市OSは多岐にわたる分野のデータを集約・共有することで、さまざまなサービスの創出、品質向上、効率化への貢献が期待されます。ここでは、その一例として、行政サービス、防災・減災、医療、モビリティについて述べます。

  • 行政サービス
    単純なデジタル化による省人化に留まらず、ライフイベントなどを起点とする自動手続きや対話形式での入力など、窓口での紙面申請・届出からの転換によりユーザー利便性が向上します。
  • 防災・減災
    静的な都市空間データと過去の災害データ、および動的な気象データや河川水位、交通状況などの組み合わせにより、より正確な災害リスク可視化と防災対策の実施、および災害情報連携による効率的な対応、支援がなされます。
  • 医療
    スマートフォンやIoT機器データにより個人のバイタルデータや活動記録が日々取得、かつ集約されることで、ビッグデータとしての分析・活用が可能となり、より高度で最適化された予防医療・個人医療が提供されます。
  • モビリティ
    自動運転技術や交通ODデータを活用したオンデマンドモビリティが実現され、移動・物流ともに省人化・効率化がなされ、ユーザー体験も向上します。

【図表3:2030年の行政DX・スマートシティ未来予想図】

行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))_図表3

出所:KPMG作成

3.行政DX・スマートシティ(都市OS):求められる人材要件

新たな提供価値実現には、価値を作り出し、提供の枠組みを整備し、仕組みとして運用していく必要があります。行政DX・スマートシティ(都市OS)において、それぞれを担う人材に期待される役割は以下のとおりです。

(1)新たな提供価値の創造
 
<構想・企画>
  • 従来の行政サービスに因われないデジタルチャネルのメリットを活用したサービス立案
  • 都市OSとの連携を基軸とする各分野でのプラットフォーム企画
  • 業種・企業規模を超えたサービス・技術が連携されるエコシステム形成
  • エコシステム上で自社の強みを見定めた新たな収益源の開拓

(2)価値提供の仕組み構築

<サービス>

  • 行政サービスにおけるデジタル活用を含めた業務プロセス・フロー全体の設計・見直し
  • スマートシティ上での提供サービスに付随したIoT機器の開発
  • 企業・サービス横断でのデータ利活用の実現のための、データセキュリティ管理スキームの確立
  • エンドユーザーが使いやすいUI・UXの開発

<プラットフォーム>

  • ネットワークインフラの整備
  • 都市OSを始めとする各種プラットフォームやシステムの構築・連携
  • 多種多様なデータを目的に照らした分析に活用するAI・システムの開発

(3)仕組みの運用・継続改善

<普及>

  • 運用コストの妥当性評価、資金配分の最適化
  • デジタルサービスの利用拡大に向けた住民サポート
  • 都市設計・開発にかかわるステークホルダー間のコミュニケーション促進
  • 情報の取扱いにおける住民の不安感の払拭、情報利用に関する住民合意形成

<維持>

  • IoT機器を含む都市インフラの更新・維持
  • 機械化・自動化で導入される車両やロボットの運行管理・運用保守
  • サイバーセキュリティへの対策

<改善>

  • 収集データやユーザーの声を基にした製品・サービスの改善点探索・抽出、および企画・開発へのフィードバック

今後はこれらの業務を行えるスキルを持つ人材をリスキリング・採用・外部活用といったさまざまな方法で確保することが、行政DX・スマートシティ(都市OS)での事業成功の大きなドライバーとなります。

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 井城 裕治
ディレクター 山田 伸一
シニアマネジャー 松本 友之
コンサルタント 谷口 弘樹

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