物理的制約を超えた体験や他者との交流機会をもたらすメタバースは、ネットワーク外部性によってその利用者を飛躍的に拡大させ、近い将来、多くの個人は1日のうちの一定時間をバーチャル空間で過ごすようになるだろうと言われています。
本連載は、「業種別2030年市場展望と求められる人材要件」と題して、メディア・エンターテインメント(メタバース)、行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))、医療福祉(ヘルスケア) 、自動車(自動運転車・コネクテッドカー)、運輸(物流DX)、教育(EdTech)の各6分野を取り上げて考察しています。
第1回である本稿では、メタバースにおける2030年の市場展望を描き、提供価値の変化に伴い求められる人材要件について考察します。
1.メタバース:国内市場・労働市場規模の見通し
メタバース市場は、個人とのチャネルと新たなサービス提供機会を獲得すべく、既存ユーザーを強みにXR領域に進出するGAFAMのほか、国内でも多くの事業者が参入を目論んでいます。利用者の増加にはデバイスの普及とコンテンツの充実が足元の課題として認識されており、短中期的にはメタバースに習慣的に通う動機付けをし得る突出したユーザー数を長期維持できるメガコンテンツの出現とメタバース空間における社会システムの確立、長期的には圧倒的な没入感を実現する五感伝送技術の進化が市場の変局点になると考えられます。
黎明期にある現時点では、利便性や効率性が重視される日常生活において、どこまでメタバースが普及するかは不透明です。しかし、リアル感/没入感といったメタバースの特性と親和性の高いエンターテインメント・コミュニティ分野では実用化と普及が確実に進むものと見られており、有力なプラットフォーマーは多くのエンドユーザーとサービス提供企業を抱えることになると予想されます。各社公表資料を基にKPMGが試算したところ、2030年にはメタバースの国内市場規模は約11.5兆円、労働力に支払われる対価も1.6兆円以上に達する見込です。
【図表1:メタバース国内市場規模】
【図表2:メタバース国内労働市場規模】
2.メタバース:新たな提供価値と未来予想図
【図表3:2030年のメタバースの未来予想図】
3.メタバース:求められる人材要件
(1)新たな提供価値の創造
<探索>
- 五感伝送を可能とするXR機器の研究開発
<構想・企画>
- メタバースを活用したサービスの設計
- メタバースプラットフォームの企画
- 多くのユーザーが習慣的に訪れるワールド・コンテンツ・アプリケーションの企画
- プラットフォーム間連携と独自貨幣流通によるメタバース経済圏の創出
- 業種・企業規模を超えたサービス・技術が連携されるエコシステム形成
- エコシステム上で自社の強みを見定めた新たな収益源の開拓
(2)価値提供の仕組み構築
<サービス>
- ユーザビリティが高く安価なXR機器の開発・普及促進
- エンドユーザーが使いやすいUI・UXの開発
<プラットフォーム>
- 各種プラットフォームやワールド・コンテンツ・アプリケーションの構築・連携
- ネットワークインフラの整備
- 多様な消費者とのタッチポイント構築(マルチデバイス対応など)
(3)仕組みの運用・継続改善
<普及>
- プラットフォーム上のサービス提供事業者への導入メリット訴求や活用方法のサポート
- メタバース経済圏を構成するステークホルダー間のコミュニケーション促進
<維持>
- ユーザーとのコンタクトによるコミュニティ活性化や、UGCモニタリングを始めとするメタバース内の治安/風紀の維持(コミュニティマネジメント)
- 製品・サービス・インフラの更新・維持
- サイバーセキュリティへの対策
- 機器不具合やシステム障害発生時の迅速なユーザーサポート・修理・復旧、デジタル空間上のデジタル資産/知的財産の管理
<改善>
- コンテンツの定期的なアップデート
- 収集データやユーザーの声を基にした製品・サービスの改善点探索・抽出、および企画・開発へのフィードバック
今後はこれらの業務を行えるスキルを持つ人材をリスキリング・採用・外部活用といったさまざまな方法で確保することが、メタバースでの事業成功の大きなドライバーとなります。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 井城 裕治
ディレクター 山田 伸一
シニアマネジャー 松本 友之
コンサルタント 谷口 弘樹