これまで、日本の物流はQCDで高いレベルを誇ってきました。しかし、EC市場の拡大による物流量の増加が進み、かつコスト抑制圧力が高い産業構造のため、労働環境の改善が難しく、労働力不足が深刻化しています。さらに、少子高齢化による労働人口減少も伴い、従来の品質を保つことも困難になってきています。

本連載は、「業種別2030年市場展望と求められる人材要件」と題して、メディア・エンターテインメント(メタバース)行政(行政DX・スマートシティ(都市OS))医療福祉(ヘルスケア)自動車(自動運転車・コネクテッドカー)、運輸(物流DX)、教育(EdTech)の各6分野を取り上げて考察しています。

第5回である本稿では、物流の省人化や効率化などが期待される物流DXにかかわる2030年の市場展望を描き、提供価値の変化に対して求められる人材要件について考察します。

1.運輸(物流DX):国内市場・労働市場規模の見通し

物流業界、特に輸送・配送分野では、これまでも労働力の不足、トラック積載効率の低迷等の問題が各所で論じられてきました。近年ではEC市場拡大や製造業のジャストインタイム生産方式、クロスドッキング手法の定着によって輸送の少量多頻度化が急速に進んでおり、物流への負荷は高まっています。一方、トラック運転手の高齢化と若年層の限定的な流入による担い手減少、働き方改革関連法の遵守による労働力減少など、人手不足の問題は継続しており、さらなる需給逼迫、ひいてはサービス維持が困難になることが危惧されます。

政府は社会インフラの役割を果たす物流の機能を十分に発揮させ、これから直面する課題を乗り越えるべく、2021年度に新たな総合物流施策大綱を策定しました。旧態依然としていた物流のデジタル化や構造改革などの取組みを促進させ、生産性向上を企図し、柱となる施策の1つとして掲げられたのが物流DXです。従来はDX実現に必要不可欠なデータ基盤は個社やグループの「個別最適」なものとなっており、企業や業種を跨いだデータ利活用、サプライチェーン全体でのDX推進は困難でした。しかし、2018年度からスタートしていた戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマート物流サービス」にてデータ活用による新たな産業基盤構築等が進められ、2022年度末には物流・商流データ基盤構築とデータ標準化ガイドライン作成、および自動データ収集技術開発が完了したことで、2023年度以降は幅広い業種にてデータを利活用した取組みが推進される見込みです。

今後の物流DXにかかわる市場変化として、物流関連情報のデジタル化とフォーマット化が進むことで事業者間連携が容易になり、たとえば、従来からの取組みである物流のモーダルシフトや輸送手段のシェアリングなどによる輸送の最適化が拡大することが考えられます。また、倉庫の完全自動化の実装に向けては、ECプラットフォーマーや3PL企業(物流業務を荷主・運輸会社以外の第三者として包括的に受託する企業)による積極的な研究開発投資が行われており、2030年頃には中小倉庫が大型自動物流倉庫に集約される動きが想定されます。
なお、物流で最後の障害となるのがラストワンマイル配送ですが、ロボティクス化・無人化を目指した実証実験が積極的に実施されており、2030年頃には大規模マンション群や特定の街区などの整備が行き届いたエリアからデリバリーロボットの導入が進み始める可能性も考えられます。

これらの動向に伴い、各社公表資料を基にKPMGが試算したところ、2030年には物流DX(物流におけるワイヤレスネットワーク・IoT、ロボティクスオートメーション、ロボティクスファシリティ、ラストワンマイル配送ロボットオペレーションを対象)の国内市場規模は約1.2兆円、労働力に支払われる対価も2,100億円以上に達する見込みです。

【図表1:物流DX国内市場規模】

運輸(物流DX)_図表1

出所:各社公表資料を基にKPMG作成(※物流におけるワイヤレスネットワーク・IoT、ロボティクスオートメーション、ロボティクスファシリティ、ラストワンマイル配送ロボットオペレーション市場)

【図表2:物流DX国内労働市場規模】

運輸(物流DX)_図表2

出所:各社公表資料を基にKPMG作成(※物流におけるワイヤレスネットワーク・IoT、ロボティクスオートメーション、ロボティクスファシリティ、ラストワンマイル配送ロボットオペレーション市場)

2.運輸(物流DX):新たな提供価値と未来予想図

2030年にはサプライチェーン全体の最適化がさらに進むと考えられ、物流業界では、これまでの個別最適では成し得なかった生産性の向上、ひいては人手不足の問題解決への貢献が期待されます。最適化されたサプライチェーンの変化としては、たとえば、業種横断でのデータ収集・利活用がプラットフォームを通じて可能になることで、機械導入によるデータ取得推進や省人化、マッチングサービス利用による倉庫・輸送稼働率向上、トラッキングによる輸送状況把握・遅延予測による遅延時の対応効率化、ラストワンマイル配送自動化による再配達率削減などが予想されます。
 
機械導入
AI・ロボットによる倉庫への自動保管・搬送や、自動運転技術を活用した幹線物流における隊列走行・自動配送が挙げられます。機械化により、データ取得・利用が推進されるとともに、倉庫作業者やドライバーが省人化されます。
 
マッチングサービス
輸送にかかわる多頻度小ロットな需要を集約することで、倉庫・輸送それぞれの稼働率が向上します。
 
トラッキング
個々の荷物をリアルタイムに追跡することで、輸送時間や遅延リスクの予測が可能となり、輸送手段・ルートの最適化がなされるとともに、遅延発生時の対応は迅速化され、配達までのリードタイムが短縮されます。
 
ラストワンマイル配送
ドローンやドロイドを用いた自動化により、受取先の予定に合わせたオンデマンドな配達が可能となり、再配達率が削減されます。

【図表3:2030年の物流の未来予想図】

運輸(物流DX)_図表3

出所:KPMG作成

3.運輸(物流DX):求められる人材要件

物流DXを推進していくには、従来のようなアナログで個別最適が中心のプロセスから脱却する必要があり、実行する人材にもこれまでとは異なる要件が求められます。また、新たな価値の提供に至るまでには、価値を作り出し、提供の枠組みを整備し、仕組みとして運用していく必要があり、それぞれを担う人材に期待される役割は以下のとおりです。

(1)新たな提供価値の創造
 
<構想・企画>
  • 物流変革を踏まえた生産・サービス提供方針の策定
  • 物流・商流データ基盤との連携を基軸とする各分野でのプラットフォーム企画
  • 業種・企業規模を超えたサービス・技術が連携されるエコシステム形成
  • エコシステム上で自社の強みを見定めた新たな収益源の開拓
(2)価値提供の仕組み構築
 
<サービス>
  • AIとデータ活用により最適化された自動保管/搬送、自動運転技術、幹線物流の隊列走行、ラストワンマイル配送の開発
  • 倉庫、自動運転車、ドローン、受取ロボット等に搭載されるIoT機器の開発
  • エンドユーザーが使いやすいUI・UXの開発

<プラットフォーム>

  • 物流・情報ネットワークインフラの整備
  • 物流・商流データ基盤を始めとする各種プラットフォームやシステムの接続・連携、および実業務への導入

(3)仕組みの運用・継続改善

<普及>

  • プラットフォーム上のサービス提供事業者への導入メリット訴求や活用方法のサポート
  • プラットフォームにおけるステークホルダー間のコミュニケーション促進

<維持>

  • 時々刻々と変化する製品・サービスに合わせたインフラの更新・維持
  • 機械化・自動化で導入される車両やロボットの運行管理・運用保守
  • 配送機械故障や誤動作発生時の迅速なユーザーサポート・修理・配送対応
  • サイバーセキュリティへの対策

<改善>

  • 収集データやユーザーの声を基にした製品・サービスの改善点探索・抽出、および企画・開発へのフィードバック

今後はこれらの業務を行えるスキルを持つ人材をリスキリング・採用・外部活用といったさまざまな方法で確保することが、事業成功の大きなドライバーとなります。

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 井城 裕治
ディレクター 山田 伸一
シニアマネジャー 松本 友之
コンサルタント 谷口 弘樹

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