企業活動の国際化が進展するなかで、多国籍企業の国外関連者間取引は世界の貿易取引の約7割を占めるといわれています。こうした関連者間の取引価格(移転価格)により、関連者間の所得配分が左右されることから、グローバル企業の移転価格は各国の税収に直接的に影響を及ぼします。経済環境の悪化に伴う各国の租税収入の確保の問題を背景として、日本、米国、英国等の先進国はもとより、近年ではアジア諸国のほか、中進国、後進国においても、移転価格課税を強化する動きが見られます。
そもそも移転価格税制とは、企業の国外関連法人との取引価格を独立の第三者との間で行われた取引価格(=独立企業間価格)で計算しなおすことにより、国外関連法人との取引を通して行われた所得の他国への移転を防止し、適正な国際課税の実現を図ることを目的とする税制です。通常、当該税制の運用上、納税者に租税回避の意図があったかどうかは問われません。近年の移転価格税制の動向としては、有形資産取引のみならず、無形資産取引、役務提供取引、金融取引などあらゆる関連者間取引が対象となっており、今日においてはさまざまな業種の企業に移転価格リスクが存在します。
実際に税務当局が、移転価格税制上問題となりそうな取引を確認した場合、当該企業に対して長期にわたる調査が実施されることとなります。そのような場合、企業においては対応策・解決策の構築のため、多大なコストと時間がかかるのが現状です。更にまた、最終的に更正処分を受けることとなった場合は、追徴税額にペナルティ、延滞税といった多大なコストに加え、二重課税リスクを被ることになり、企業収益に対して多大なインパクトを与えることが予想されます。こうした状況を踏まえれば、企業として、事前に潜在的な移転価格リスクを分析しておくことが不可欠になります。
現実的にこうした更正リスクの把握には、問題となる取引を全社的に抽出し、具体的にリスクを数量化して検証することが必要になります。また、それらを実行するには移転価格税制に関する十分な知識と経験、更にそれらを踏まえた戦略的な視点が必要になります。
KPMGが提供する「リスク分析」では、移転価格税制に関する豊富な経験とグローバルなネットワークを駆使して、更正リスクの把握を行い、適正な移転価格方針を導くことを目的としています。「リスク分析」は、移転価格に関するプロジェクトの中で最も基礎的かつ重要なプロジェクトであり、KPMGは、これまでにあらゆる業種に属する企業の移転価格更正リスクに関する対応策の提案を行ってきています。
リスク分析の目的と方法
リスク分析の目的は、移転価格に関する更正リスクを正しく把握し、適正な移転価格設定方針へと導くことです。移転価格税制は、対象となる取引価格が妥当な価格(=独立企業間価格)で行われていたかどうかを争点としています。したがって、更正リスクの把握とは、現状の取引価格と独立企業間価格との間にどれくらいの差が発生しているかを把握することになります。そこで、こうした目的を達成するため、まず第一に、個々の企業が行っている取引のうち、移転価格税制上問題となりそうな取引の抽出を行います(取引の抽出)。次に、それら取引における独立企業間価格の算定を行い、現状価格との差額の数量化を行います(リスクの数量化)。
取引の抽出
企業グループ全体における包括的な分析に基づき、分析対象企業が行う数多くの取引の中から国外関連者との取引を抽出し、その取引パターンや取引数量、取引対象国移転価格税制等の分析を行います。また、その取引における関連者との機能・リスク分担の状況等を把握します。 過去の事例から、一般的に移転価格税制の適用を受け易いと考えられる取引の特徴は次のとおりです。
- 売上総損失を計上している、もしくは非常に低水準の売上総利益率である。
- 売上総利益率の変動が著しい。
- 関連者間取引と内部比較対象取引における売上総利益率の格差が顕著である。
- 対象法人と国外関連者との間における所得の配分状況が著しく異なる。
- 製造ノウハウやブランド等に代表される無形資産の所有権の帰属関係が曖昧である。
- 無形資産の提供に対する対価(ロイヤルティ料率)の根拠が明確でない。
- ロイヤルティの徴収方法およびその料率が一貫性に欠けている。
- 低税率国(タックスヘイブン税制該当国を含む)に所在する関連者との取引を行っている。
- 移転価格方針を構築していない。
したがって、上記の兆候があてはまるような取引については、更正リスクが高いことから、状況を詳細に分析することが必要となります。
リスクの数量化
上記で抽出した取引に対して、更に詳しい事実関係の分析を行い、各国の移転価格税制に基づき、当該取引の移転価格リスクの数量化を行います。通常、移転価格リスクは、わが国における更正リスクと、取引相手国における更正リスクが存在しますが、どの国におけるリスクを分析するかは、当該取引の状況に応じて決定します。そして、分析対象となる更正リスクに係る国の移転価格税制に則って、リスクの数量化を行うことになります。
プロジェクトのプロセス
具体的なリスク分析プロジェクトのプロセスは、下記に示されるような定性分析および定量分析によって実行されます。まず、問題となる取引に関するセグメントデータ等さまざまな財務データならびに各関係部署でのヒアリング等に基づき、当該企業とその関連者の事業および取引の内容、属する産業ならびに果たしている機能および付随するリスク等に関して定性分析を実施します。さらに、係る定性分析を踏まえて、問題となる取引について、更正リスクの数量化のために、比較対象会社等を用いた定量分析を行います。
Risk Assessment Phase (リスク評価フェーズ)
<定性分析-取引の抽出>
(1)「事実分析」
企業担当者への質問等により事業目的、事業内容、取扱製品、役務取引、研究開発活動、各取引フローおよびその詳細についての確認を行います。また、それぞれの取引に関する各拠点の把握、海外展開の度合いに関する事実の分析も実施します。
(2)「産業分析」
企業の属する産業における市場の状況、政府による産業規制の有無、または研究開発費負担の多寡傾向等の産業情報を収集し、それらが価格に及ぼす影響度を分析します。
(3)「機能分析」
分析対象企業およびその関連者の果たす機能、負担するリスク、およびその他の取引条件に関する詳細内容を確認し、利益が関連者間でどのように配分されるべきか、どの移転価格算定方法が適用可能かを検討します。
<定量分析-リスクの数量化>
(4)「経済分析」
各国の移転価格税制に応じた適正な移転価格算定方法の検討を行い、それに基づく適正な移転価格の算定を行います。その際、必要に応じて、データベースを利用しての比較対象会社の選出を行う等さまざまな定量的な調整を行い、適切な移転価格のレンジの算定および更正リスクの数量化を行います。
Implementation Phase (実行フェーズ)
「実行フェーズ」においては、「リスク評価フェーズ」で査定したリスクに基づき、対応策を講じることになります。過去の取引に関しては、移転価格税制上の文書化義務に基づき、保存しておくべき書類の準備に関する支援をします。また、現行の移転価格設定方針を維持すると一定の移転価格リスクが予想される場合には、その方針の変更、適切な移転価格指針に関する助言も併せて行います。
さらに、社内マニュアルの作成や、各部署・関連者への説明・討論会等、具体的な移転価格方針の適用に向け、実行プランの推進をサポートします。また、事前確認の申出や相互協議申立てを行うような場合には、その合意に至るまで継続的なサポートを提供します。
なお、当該プロジェクト全体のタイムフレームおよび作業内容の範囲については、各企業の状況に応じて、フレキシブルに対応します。