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      2026年10月5~7日、ディープテック(先端技術)のスタートアップイベントである「Global Startup EXPO 20261」(以下、「GSE2026」という)において、国家戦略領域であるバイオ・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI/先端ロボット、半導体・通信を中心に、技術・資本・産業を結び付け、研究成果を実装・事業化・産業化へつなげるための議論が行われました。日本において課題とされる「研究から産業化までの壁」をいかに乗り越えるかというテーマのもと、技術単体ではなく、既存産業・インフラ・産業形成との接続を扱うセッションが数多く開催されました。本稿では、GSE2026で交わされた議論を手掛かりに、日本における次の産業は「どのように生まれるか」について考察します。

      なお、本文中の意見に関する部分については、私見であることをあらかじめお断りいたします。


      1. 研究段階から産業への注目の高まり

      新しい産業価値とは、革新的な技術の活用や新たな財・サービスの提供を通じて、従来にはない産業や経済的価値を持続的に創出することを指します。これらは新しい技術そのものではなく、複数の技術・プレイヤー・制度が交差する場所から生まれます。

      ユースケースとなる社会課題や生活者のニーズの変化、既存産業の非効率、規制や制度の変化、そして異なる技術や業界の掛け合わせから、新たな産業が生まれます。特に、AI・デジタル技術の進展や、脱炭素化・高齢化といった大きな構造変化は、従来の業界の境界を曖昧にし、新たな価値創出の機会を広げています。

      重要なのは、変化そのものを追うのではなく、その変化によって、誰にどのような課題が生じるのか、または既存の課題が深刻化するのかを捉えることです。身近な例としては、人手不足に伴う物流制約の解消や、生成AIの普及に伴う情報漏えいリスク・スキル格差への対応が挙げられます。変化がもたらす課題を具体的に捉えることが重要です。

      GSE2026では、いくつかの技術に注目が集まりました。たとえば、『宇宙経済を築く――イノベーション・産業・世界市場をつなぐ』のセッションでは、宇宙の技術について意見が交わされました。宇宙は残された数少ないフロンティアであり、非宇宙産業からの参入拡大やスペースデブリ対策、宇宙滞在時のQOL向上など、多様な産業形成が進みつつあります。こうした動きの一例として、スタートアップ企業である株式会社WHEREが開発・提供する、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月面クレーター解析技術を地球上の不動産探索に活用したAIプラットフォームが挙げられます。

      フィジカルAIは、生成AIをパソコン上で使うだけではなく、ロボットや製造など物理環境で動かすことに関心が高まっています。ライフサイエンスについても、再生医療を含む次世代医療の実用化・産業化が主要テーマとなり、研究だけではなく臨床・製造・事業化までが重要視されている傾向がさらに強まっています。


      2. GSE2026から見える6つの重点領域とは

      では、具体的には、どの領域に注目が集まっているのでしょうか。GSE2026では、政府の成長戦略における17の戦略分野のうち、以下6つの産業にフォーカスしていました。背景には、ディープテック・スタートアップ2との親和性の高い領域であり、日本政府が科学技術のなかで、国家として重点的に投資や研究開発、そして社会実装を進めることを位置付けている6つの分野が対象となっています。

      GSE2026では、研究だけで終わらせずに、スタートアップを通じて事業を産業化することが重要であり、将来の産業創出を通じて社会課題の解決と国際競争力の強化、経済安全保障への貢献を目指す議論が行われました。これらの領域は、巨額の初期投資や長期の研究開発期間を要し、大企業・政府との連携が不可欠である一方、社会実装後には極めて大きな産業形成が期待されるというディープテック特有の特徴があります。そのためVCや投資家だけでなく政府、大企業、大学、研究機関を巻き込む必要があります。図表1のとおり、6つの産業では官民投資額も各領域で官民投資が想定されています。


      図表1 ディープテック注目分野の官民投資額(想定)

      GSE重点領域主な製品・技術等と官民投資額(想定)
      AI・先端ロボット1.フィジカルAI(特にAIロボット)2040年度までで10.5兆円
      2.フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担う半導体2040年度までで68.0兆円
      3.バーティカルAI(業務特化型AI)2040年度までで23.1兆円
      半導体・通信1.オール光ネットワーク (オール光ネットワーク(APN:All-Photonics Network))2040年度までで5.9兆円
      2.海底ケーブル2040年度までで2.4兆円
      3.次世代ワイヤレス (非地上系ネットワーク、5G/Beyond 5G(6G)等)2040年度までで20.5兆円
      バイオ・ヘルスケア1.バイオものづくり2040年度までで12.8兆円
      2.バイオ医薬品・再生医療等製品等2040年度までで20.8兆円
      3.ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品(医薬品、再生医療等製品)2040年度までで23.4兆円
      4.感染症対応製品2040年度までで7.2兆円
      5.革新的デバイス(AI、ロボティクス等)を活用した先端医療2040年度までで11.6兆円
      6.ライフログデータ等を活用したヘルスケア関連サービス2040年度までで1.1兆円
      量子1.量子コンピューティング 2040年度までで10.3兆円
      2.量子通信・ネットワーク 2040年度までで1.5兆円
      3.量子センシング 2040年度までで1.4兆円
      宇宙1.ロケット・射場 2040年度までで2.3兆円
      2.人工衛星・サービス 2040年度までで6.4兆円
      3.月面探査・低軌道技術 2040年度までで5.6兆円
      フュージョンエネルギー2040年度までで3.1兆円
      ※フュージョン発電実証プラントが1つであると仮定した試算。2030年代の発電実証以降は、研究フェーズの進展に伴う産業界の予見性の高まりに応じて、投資額の増加が見込まれる。

      出典: 内閣府.戦略17分野の「主要な製品・技術等」における官民投資額 p.2および、その他公開情報をもとにKPMGジャパン作成


      3. 産業価値はシーズ同士の掛け算から生まれる

      今後スタートアップを通した異なる領域の技術が融合することで、単独の技術では実現できなかった新しい産業が生まれてくる可能性があります。自前主義から脱却し、スタートアップが大学、官公庁、企業、VC等と連携しながら、技術を組み合わせていくことが重要です。事例の一部を紹介します。

      ・バイオ・ヘルスケア業界 AI×創薬
      米国の創薬企業の例もあります。創薬企業Recursion Pharmaceuticalsは、AIエージェントを生物学、化学、臨床開発に導入し、創薬プログラムの創出に活用しています。化合物設計では、従来約4時間かかっていた工程を約30分に大幅短縮。また、臨床試験の患者組み入れ効率も改善したと報告があります。

      ・宇宙業界 小型衛星×AI・データ解析
      衛星による洪水被害の把握を、損害保険会社の保険金支払対応の迅速化・効率化につなげようとしている事例があります。

      従来の現地調査を補完する形で、衛星データから浸水範囲や被害の深刻度を把握することで、災害発生後の初動対応や保険金請求対応の改善が期待されています。

      日本においてもAI×半導体や量子×通信など技術を組み合わせた研究開発や事業化のための支援をおこなっており、ディープテックの発展に力を入れています。このように、現在はAIが共通基盤となりつつあり、技術融合が進んでいますが、量子、宇宙、バイオ、ロボティクスなどあらゆるディープテック領域の組み合わせが出てくる可能性があります。


      4. GSE2026から探索すべき次の産業価値

      一つひとつの技術のほとんどは、まだシーズにすぎません。しかし、異なる技術と結び付き、既存産業のアセットを取り込み、資本や制度、顧客と接続したとき、それは一企業の事業機会を超え、新たな産業のシーズへと変わります。GSE2026から見えたのは、異なる領域の技術・資本・制度を結び付けるエコシステムこそが次の産業価値を生むということです。

      また、技術シーズから産業分析やニーズなどを踏まえて、社会課題を解決するための要件を明確にしたうえで、適切な技術やソリューションを選定・設計することが、産業価値の向上には必要です。偶発的な要素の掛け合わせで生まれることもありますが、現在は技術発展のスピードにより、次の産業は、技術シーズ単体ではなく、社会課題を起点に、異分野の技術・資本・制度・顧客を接続する過程から生まれます。

      今後企業に求められるのは、自社技術を磨くだけではなく、スタートアップ、大学、研究機関、行政と連携し、新たな価値創出の組み合わせを探索すること、そして技術起点から課題起点に発想を変えることが重要です。


      注

      1. Global Startup EXPO 2026  2026年10月5~7日開催。ディープテック(先端技術)領域を中心としたスタートアップの技術やサービスを世界へ発信する国際的なナショナルイベント。

      2. 人工知能(AI)、バイオテクノロジー、量子コンピュータ、ロボティクス、宇宙開発など、大学や研究機関による科学的発見や自然科学・工学の技術をベースに、世界規模の根本的な社会課題の解決を目指すスタートアップ企業。(経済産業省資料を参考)


      参考資料


      監修

      有限責任 あずさ監査法人 インキュベーション部
      阿部 博/パートナー
      佐藤 太基/パートナー
      浜口 基周/テクニカル・ディレクター
      須藤 章/シニアマネジャー

      執筆

      KPMGアドバイザリーホールディングス株式会社
      アドバイザリーライトハウス 
      松岡 佑季/シニアアソシエイト


      AIは「画面の外」に出て現実世界と相互作用するフィジカルAIへ進化しつつあります。そして、AI投資の重心は、モデル性能やGPUから、行動の信頼性を支えるデータ取得、運用設計、システム統合へと移行していきます。本稿では労働のソフトウェア化を軸に、企業経営が直面する制約と、競争優位を築くための意思決定ポイントを整理します。

      連載「トレンドレーダー」――いまだ完全には実現していない量子コンピュータも、その発想を従来型コンピュータで動かす技術はすでに実用レベルにあり、先進企業はすでに意思決定の高度化やコスト削減に取り組んでいます。

      AI for Scienceは、科学研究の変革にとどまらず、イノベーションや産業のあり方にも影響を及ぼす可能性が注目されています。研究開発の競争軸が変わり始めるなか、経営層が捉えるべき変化と、企業が今から備えるべきポイントを考察します。

      アドバイザリーライトハウスは、データと分析、洞察から企業や社会の進むべき方向を照らします。