本連載は、2026年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
電動化とSDVがもたらす競争環境の変化
自動車アフターサービスは今、電動化とSoftware Defined Vehicle(以下、SDV)の進展により、大きな転換点を迎えています。
電気自動車(以下、EV)の普及速度は地域により異なりますが、保有台数は多くの市場でなお内燃機関車が主流です。両者への対応が必要な過渡期は今後10年以上続く可能性が高く、アフターサービスには重い投資負担がのしかかります。
一方、エンジンオイル等を必要としないEVや、リモート診断・ソフト更新、予防保全の比重が高まるSDVの普及は、定期交換や不具合発生後の修理に依存してきた収益構造を変化させます。今後は、出張整備などの拡張サービス、エネルギー販売などの隣接サービス、電池リユースなどの新サービスを、自社の事業基盤や顧客特性に応じて選び取り込む力が問われます。
日系メーカーの強みを収益力へ転換する取組み
こうした変化に対し、日系メーカーには限られた経営資源を、自らの強みを収益化できる領域へ重点的に投じることが求められます。
最初に、データ活用による顧客ニーズの把握です。日系メーカーは圧倒的な保有台数と長期の顧客接点を持っています。保有台数に由来するデータ資産と、ディーラーが個別に持つ顧客情報をプライバシーに配慮しながら統合できれば、大きな強みになります。顧客一人ひとりのニーズを導き出せれば、必要なサービスを適時に提案し、それに合わせた稼働体制を整えられ、入庫率や長期的な収益基盤となる顧客リテンションの向上につながります。
次に、拠点・人材の再設計です。既存の広範なサービス網を生かし、遠隔診断や出張サービスの拠点と、高度修理を担う集中拠点を組み合わせ、顧客の利便性とサービス提供側の運用効率を両立させます。
あわせて、ソフトやデータを扱う人材の確保、人工知能(AI)活用による業務標準化、最適な人材配置を進め、自社で担うべき機能と不足する機能を整理することが重要です。
最後に、外部連携基盤の再構築です。EV・SDVでは、従来の金融・物流などに加え、エネルギーマネジメント、リサイクル、データ基盤などを担う外部業者との連携が欠かせません。その際、データや顧客接点を生かし、自社が主導すべき領域と外部に委託する領域を見極め、軽重を付けた投資で収益機会を広げていく必要があります。
日系メーカーが優位性を持つには、強みを生かし、いかに顧客ニーズを捉え、拠点と人材を再配置し、不足する機能を外部連携で補えるかにあります。その実現には、メーカー、販売会社、ディーラー、外部事業者の間で、投資負担、データ管理、収益配分の再設計が不可欠です。内燃機関車とEVが併存する期間のコストを抑えつつ、新たなサービス収益を最大化できるかが、今後の競争力を左右するでしょう。
日刊自動車新聞 2026年9月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 大熊 恒平