Skip to main content

読み込み中です

      近年、こども家庭庁の設置や「こども基本法 」の制定を契機に、国や自治体において「こどもの声を政策に反映する」取組みが急速に広がっています。「こども大綱 」ではこども施策の対象となるこども等の意見を幅広く聴取して反映させるために必要な措置を講ずることが義務付けられ、自治体においてもアンケートやワークショップ、こども会議など、さまざまな手法が導入されています。

      一方で、現場の担当者からは 「どのようにこどもの声を聴き、政策に反映すればよいかわからない」 「こどもの声を聴くといっておきながら、実際には大人(親や教師など)の声を聴いているにすぎない」といった課題認識も聞かれます。

      本稿では、こうした課題を踏まえ、こどもの声をどのように聴き、政策に反映していくべきか、こども家庭庁が作成した「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」や全国の取組み事例を紹介しつつ整理していきます。



      1.こどもの声を聴くことの歴史的背景

      1989年に国連で採択された「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、締結国は児童の最善の利益のために行動しなければならないとされています。この条約を日本も1994年に批准し、国内では2000年に川崎市が初めて「子どもの権利条約」に基づく条例「川崎市子どもの権利に関する条例」を制定しましたが、国内法は長らく制定されませんでした。そこから20年余の時を経て、こどもの自殺率の増加や若者の自己肯定感・自己効力感の低さが社会問題化したことなどを背景として、2022年に「こども基本法」が制定され、その政策立案や実施を担う行政機関として「こども家庭庁」が設置されました。

      さらに、2024年には、こども施策に関する基本的な方針や重要事項等を一元的に定める「こども大綱」が閣議決定され、「全てのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸福な生活を送ることができる社会(こどもまんなか社会)」を目指すことが掲げられています。

      「こども大綱」ではこども政策に関してさまざまな基本指針を定めていますが、そのうちの1つに、「こどもや若者、子育て当事者の視点を尊重し、その意見を聴き、対話しながら、ともに進めていく」ことが挙げられます。これは「子どもの権利条約」第12条に定められた「児童の意見表明権」を背景としており、「こども大綱」では「こども施策を推進するために必要な事項」の「こども・若者の社会参画・意見反映」において、「こども施策を策定、実施、評価するに当たって、施策の対象となるこども等の意見を幅広く聴取して反映させるために必要な措置を講ずること」を国や地方公共団体に義務付けています。

      このことは、これまでのこども政策が、ともすると「保護者」の意見に左右されてしまい、真にこどもの最善の利益の実現につながっていなかったのではないかという反省によるものだと言えます。

      2.こどもの声を聴くことの考え方

      ところで、そもそも「こどもたちの声を聴く」とはどういうことでしょうか。

      こども参画についての考え方は古くはロジャー・ハートが1992年に提唱した「はしごモデル」に遡ります。その後、「はしごモデル」を基に、2018年にOECDでこどもたちの手による「太陽モデル」が開発されました。

      Japanese alt text: こどもの声の拾い上げと政策反映の設計_図表1

      レベル状態概要
      0沈黙若者が貢献できると若者も大人も信じておらず、若者は沈黙したままで、大人がすべてを主導し、また、すべての意思決定も大人が行う。
      1操り大人が若者を自らの主張の正当化のために利用し、若者が主体的にそうしているかのように装う。
      2お飾り大人が若者を自らの主張の助けや支持のために利用する。
      3形だけの平等大人は若者に選択肢を与えているように見せるが、実質的に選択の余地や参加の方法は乏しいか、あるいは全く無い。
      4役割が割り当てられているものの、情報提供される若者には特定の役割が与えられ、参加の理由や方法について情報提供されているが、プロジェクトそのものやそのなかでの自分たちのかかわり方に関して、方向性を導いたり意思決定をしたりすることはない。
      5若者の意見を基に大人が導く若者はプロジェクトのデザインについて助言し、結果について報告を受けるが、プロジェクトを主導し、意思決定するのは大人である。
      6若者と大人でともに意思決定を行い、大人が導く大人が始め、主導するプロジェクトにおいて、若者も意思決定の役割をともに担う。
      7若者が始め、方向性を決める大人の助けを受けながら、若者がプロジェクトを始め、方向性を決める。大人は助言や、意思決定についての手助けやアドバイスをすることもあるが、すべての意思決定は最終的には若者が行う。
      8若者が始め、意思決定を大人とともに行う若者がプロジェクトを始め、意思決定は若者と大人によってともに行われる。プロジェクトの主導や遂行において、若者と大人は対等なパートナーシップ関係にある。

      出典:「STUDENT AGENCY FOR 2030」(OECD)を基にKPMG作成

      これらのモデルに共通するのは、大人の主張を正当化するためだけにこどもの意見が使われるようなあり方は、真のこども参画とは言えないという考え方です。「操り参画」や「お飾り参画」にならないように留意し、その時々で最も適した参画の段階を選んでいくことが重要です。

      なお、段階の数字については、必ずしも大きい方が常に良いということではありません。「3.形だけの平等」以下となってはいけませんが、目的次第では「5.若者の意見を基に大人が導く」や「6.若者と大人でともに意思決定を行い、大人が導く」といったあり方が最も現実的で効果的な場合もあります。その時々の参加者の特徴や議題等に合わせて適切な参画のあり方を検討することが重要だと言えます。

      3.こどもの声を聴くにあたってのポイント

      「こども基本法」において、「国や地方自治体がこども施策にこども・若者などの意見を反映する措置を講ずること」が義務付けられたことを受けて、こども家庭庁は2024年に「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」を作成しました。

      このガイドラインは府省庁や自治体職員が活用することを想定して作られたもので、意見反映のプロセスを「企画」「事前準備」「意見聴取」「意見反映」「フィードバック」の5つのステップに分けています。本項もそれに倣い、5つのステップのそれぞれにおけるポイントについて整理します。

      (1)企画段階

      企画段階において第一に考えるべきは、「誰がその政策の当事者なのか」という点です。特定の年齢や属性のこども・若者を支援対象とする施策であれば、支援対象に対して確実に意見を聴けるような工夫が求められるのはもちろん、広くこども・若者がかかわる施策であっても、特定の性別・年代・居住地等に属性が偏らないよう、対象者の選定や周知の方法を工夫する必要があります。

      また、安全・安心できるよう配慮することも重要です。準備を始める前の段階から「こどもの権利」についての考え方を周知し、こどものセーフガーディングの観点からリスクについての予防策や軽減策を講じるよう意識することが重要です。

      (2)事前準備の段階

      事前準備の段階において重要なことは、いかに参加するこどもたちにとって意見を表明しやすい環境を整えるかですが、効果的に意見を表明してもらうためには適切な情報の提供が不可欠です。十分な情報が与えられない場合、参加者がうまく意見を形成できない恐れがあるため、こどもにとってわかりやすい資料を用意するなど、意見を表明するためのサポートをする必要があります。言うまでもなく、この時に大人が望ましいと考える意見を支持するような資料に偏るようなことはあってはなりません。

      また、聴取した意見を使う段階で権利侵害が発生しないようにするために、個人情報の利用についてあらかじめ同意を得る必要があることにも留意すべきです。

      (3)意見聴取の段階

      意見聴取にあたっては、意見を聴きたい対象に合わせて、さまざまな聴取手段を用意することが望ましいです。一般的な意見調査の方法として、アンケートや対面での聞き取り、意見箱のような手段が取られることが多いですが、それぞれの手段ごとにメリット・デメリットが存在し、また、そこにアクセスしやすい属性にも偏りがあることを意識して、手段を選定する必要があります。

      (4)意見反映の段階

      聴取した意見を反映することは、意見を聴いただけで終わらせてしまう「形だけの参加」にしないために最も大切なことです。この時、「聴取した意見はすべて政策に反映しなければならないのか」と誤解されることが多いですが、必ずしも政策に反映することだけが「意見反映」ではありません。実際の政策ではさまざまな制約でこどもから聴取した意見を100%そのまま実現できないことも大いにあり得ます。

      その際に重要なのは、こどもの年齢や発達の程度に応じて、出された意見を正当に考慮することです。意見をどう受け止めたのか、それに対してなぜ100%実現できないのか、そして、今後どのようにしていく予定なのか等を丁寧に説明することで、たとえ聴取した意見がすべてそのとおりに政策に反映されなかったとしても、十分意見を反映したと言える状態が達成できるのです。

      (5)フィードバック段階

      前項でも説明したように、聴取した意見をどのように扱ったのかをフィードバックすることは、こどもの意見反映が一過性のもので終わってしまうのか、社会参加の意欲を高める持続的な営みになるのかを左右しかねない、非常に重要なプロセスです。

      また、意見表明に協力してくれた参加者だけでなく、それ以外のこどもたちや大人にも届くようなフィードバックの方法を取ることで、こどもの意見を聴くことの社会的な意義が広く知られる機会になることも期待できます。加えて、聴取した意見へのフィードバックだけでなく、事業そのものに対するフィードバックも重要であり、実践と改善のサイクルを重ねて、よりよい意見反映の形を模索していくことが何よりも大切なことだと言えます。

      4.こどもの声を聴くために一般的に取り組まれている手法

      ここからは、こどもの声を聴くために一般的に取り組まれている手法として、「アンケート」「ヒアリング」「こども会議」「ワークショップ」について、メリット・デメリットとともに実例を挙げて紹介します。

      (1)アンケート

      アンケートの最大のメリットは多数のこどもに効率よくリーチできる点にあります。特に近年はGIGAスクール構想によって学校へのデジタル端末の整備が進んでおり、生活環境の制約を受けず、従来以上に幅広い層がアクセス可能な手段となっています。

      一方で、双方向のコミュニケーションができないため、アンケートの背景や趣旨を説明する必要があることや回答の意図を十分に汲み取れない可能性がある点について、留意が必要です。

      また、アンケートの結果を用いて定量的な分析が行われることもありますが、回答者に属性の偏りがある可能性を考慮し、少数意見であったとしても軽視してはいけない点にも注意が必要です。

      【世田谷区:若者アンケート調査】

      世田谷区が実施している「若者アンケート調査」では、アンケートの案内通知に若者の意見を取り入れています。このように、意見を聴取する手法そのものについても当事者の意見を取り入れることで、より意見を聴取しやすいあり方にブラッシュアップしていくことが可能です。

      出典:「若者調査」(世田谷区)

      (2)ヒアリング

      ヒアリングの主なメリットは、非言語の反応も踏まえてコミュニケーションを取ることにより、きめ細かな意見を把握できる点にあります。近年ではオンライン会議ツールの普及により、ヒアリングそのものを実施するハードルは下がりました。

      一方、対面でのヒアリングでは、慣れ親しんだ空間でのヒアリングとなるため、こどもたちが意見を言いやすい環境を構築できるというメリットがあります。対象者に応じた適切な手段の検討が必要です。

      【東京都:こどもへのヒアリング】

      東京都では、児童館、ユースセンター、こども食堂、児童養護施設、フリースクール、支援団体など、「こどもの居場所」に赴いてのアウトリーチ型ヒアリングを実施しています。これは大規模アンケートでは拾い上げにくい、いわゆる「声が聴かれにくい」こどもたちの意見を取り入れるために効果的な取組みであり、より多様な属性のこどもたちの意見を聴くことが可能になると期待されます。

      ヒアリングにおいては、こどもの意見を誘導しないよう留意しつつ、適切に引き出していくことが求められるため、ファシリテーターの役割が極めて重要です。そこで、東京都では、ファシリテーターおよび補助者に対して事前研修を実施したうえで、ヒアリングを行っています。

      2024年に発行された「子供へのヒアリングを通じた意見聴取に関する実践事例集」では、「事業概要」「意見聴取」「意見反映」「フィードバック」「広報」のステップごとに、どのように実施したのかが詳細に紹介されており、実務上の参考資料として有用です。

      出典:「子供へのヒアリングを通じた意見聴取に関する実践事例集」(東京都)

      (3)こども会議

      こども会議の最大の特徴は、継続的な意見表明の場という点にあります。継続的なかかわりの場があることで、議題となる政策に対して十分な情報や学習機会を提供したうえで意見を聴くことができるほか、単に意見を表明するだけにとどまらず、政策の策定や実施・検討まで含めた、より建設的な意見反映の場として設計することも可能です。議論するテーマそれ自体をこどもたちが決めるといった余地もある手法です。

      一方で、継続的に関与できる能力・意欲のあるこどもたちに参加者が限定されてしまう恐れがあるため、参加者自身が自らの属性の偏りに気付いたうえで、その場にいないこどもたちの声を拾い上げることを意識できるような仕掛けを取り入れるといった工夫も考えられます。

      【甲賀市:かふか21子ども未来会議】

      甲賀市では、2011年から継続的に、市内のこども約20名を「子ども議員」に任命して、市内のさまざまな地域・施設を視察、調査し、議会に対して質問書・提案書を作成する活動を行っています。「子ども議員」の活動には予算も割り当てられるなど、市・教育委員会・議会が後援・支援を行っているほか、話し合うテーマも参加したこどもたち自身が決めており、図書館で購入する本など「子ども議員」からの提案に基づいて予算化が実現したものもあります。

      出典:「かふか21子ども未来会議」(甲賀市)

      (4)ワークショップ

      ワークショップの手法を取るメリットは、言語に依存しない表現を取り入れる余地が大きく、言語を介したコミュニケーションが難しい・不得手な属性も意見表明に参加できる点にあります。

      一方で、ファシリテーションの難易度が比較的高く、また、非言語的な表現は解釈が難しいため、恣意的に取り扱ってしまわないよう注意する必要があります。

      【神戸市:こどもの未来 -こどもが主役!10年後の神戸の未来のまちづくり ワークショップ-】

      KPMGコンサルティングでは、神戸市において、神戸ストークスと連携し、「こどもが主役!10年後の神戸の未来のまちづくり」をテーマとしたワークショップを実施しました。

      本ワークショップの特徴の1つは、こどもたちがストークスにまつわる廃材を素材として、「10年後の神戸市のまちに欲しいモノやコト」を、実際に手を動かしながら形にしていく点にあります。モノづくりを通じて発想を具体化することで、言語では表現しきれないこどもたちの本音を引き出す工夫をしています。

      また、保護者も単なる同伴者としてではなく、「こども観察シート」を用いてワークショップに参加し、普段とは異なる視点でこどもの様子を観察する仕掛けを取り入れました。このように、大人側のまなざしを変えることで、こどもの行動や発言の背景にある意図や興味関心をより深く捉えることが可能になると考えます。

      こうした取組みからは、こどもの声を引き出すためには、単に「意見を聴く場」を設けるだけでなく、表現手段の多様化や、大人側のかかわり方そのものの設計が重要であることが示唆されています。

      5.まとめ

      本稿では、こどもたちの声を聴くためのさまざまな手法を紹介してきましたが、最も大切なことは「これはこどもたちの声を聴くための最善の方法なのか」を常に自問し続けることであると、筆者は改めて強調します。

      最初は探り探りだったとしても、とにかく取組みを実践してみて、そこで意見を聴いたこどもたちからのフィードバックを受け、絶えず改善を模索し続けること。それが遠回りなようで、結果的にはこどもたちの声を聴き、政策に反映するための最短の道筋なのだと言えます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアコンサルタント 李 鐘浩(リ ゾンホ)
      シニアコンサルタント 近藤 あやか

      公共分野における各種施策やデジタル技術、分野別のユースケース等さまざまなテーマについて国内外の事例やトレンドを交えて解説します。

      こども家庭庁の採択を受けて行っていた「令和5年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業(児童養護施設等のICT化による効果的な事務処理のための調査研究)」における調査・分析の研究報告書とヒアリング、アンケートの各結果です。

      デジタルソリューションを活用し、公的機関全般に対し、各種コンサルティングサービスを提供します。

      お問合せ

      お問合せフォームより送信いただいた内容は、確認でき次第回答いたします。

      blue

      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

      Japanese alt text: KPMGコンサルティング