KPMGコンサルティングのピープル&チェンジチームが2025年12月に発表した記事、「経営戦略と人材戦略の連動と可視化に向けた実践的アプローチとは?」では、経営戦略と人事戦略を連動させる必要性を整理するとともに、人的資本情報を効果的に開示するための具体的なアプローチを紹介しました。本記事の考察を通して、現在の日本では、人的資本のチェックリスト的な開示が進む一方で、経営戦略と人事戦略の連動が多くの企業にとって重要な課題であることが明らかになりました。
本稿は、「『経営戦略と人事戦略の連動』に係る成熟度調査」と題して、日本の人的資本経営先進企業と言える73社※に対して開示情報(有価証券報告書、統合報告書、人的資本レポート等)を基に調査を行い、その結果を分析したものです。また、本調査は、「人的資本ストーリー」と「人材ポートフォリオ」の2軸を設定し、図表1に示すKPMG独自の評価尺度に基づき評価を行っています。
本調査の調査・分析結果に加え、今後の日本企業が向かうべき方向性を考察します。
※日本国内の人的資本経営先進企業73社:
- 東証プライム上場企業のうち人的資本レポートを発行している企業32社(当社調べ)
- 人的資本コンソーシアム好事例集掲載企業のうち東証プライム上場企業41社(当社調べ)
【図表1:「経営戦略と人事戦略の連動」に係る成熟度調査全体像】
1.調査結果について
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<調査1.人的資本ストーリーの成熟度>
調査対象企業の96%が「人的資本を経営戦略における重要な要素」と位置付けているが(レベル1:図表2-(1))、「経営戦略と人事戦略の接続を具体的に示している(レベル4:図表2-(2))」企業は19%
図表2で示すとおり、経営戦略と連動した人事戦略や方針を掲げ、インプット→アクション→アウトプット→アウトカム等の流れを図示できている企業(レベル3)は約4割でした。さらに、経営・事業の方針別に人事戦略を連動させて掲げている(レベル4)まで到達している企業は約2割で、「独自価値の創出発揮」と言えるレベル5に到達している企業はわずか1割程度(4~11%)という結果でした。
本調査は、日本における人的資本経営の先進企業を対象として実施しましたが、レベル4に到達している企業の割合(約2割)を踏まえると、日本企業全体における経営戦略と人事戦略の連動は、依然として発展途上の段階にあると考えられます。
【図表2:調査1.人的資本ストーリーの成熟度調査結果】
注:各設問の割合は開示情報(有価証券報告書、統合報告書、人的資本レポート等)を確認し、各設問を満たすと判別できた企業の割合
<調査2.人的ポートフォリオの成熟度>
人材ポートフォリオは約7割の企業が何らかの重点人材タイプを定めているが、経営・事業戦略に沿って人材タイプを設定している企業は約1割
調査対象企業の71%が、経営、グローバル、デジタル等の重点人材タイプの設定を行っていました(レベル1)。また、41%は各人材タイプに対する人事アクション(育成体系・施策、採用計画等)を設定していました(レベル2)。さらに、経営・事業戦略に沿って人材区分を設定している企業(レベル3)は10%という結果でした。
本調査は開示情報に基づくものであるため、当結果のみから各社が「経営戦略と連動した人材ポートフォリオを構築できていない」と結論付けることはできません。一方で、KPMGが支援する現場においては、人材ポートフォリオが短期の要員計画や採用計画としてのみ検討され、長期・戦略連動のポートフォリオとして整理できていないという声が多数寄せられています。そのため、レベル2からレベル3への移行には実務的にも相応のハードルが存在すると推察されます。
【図表3:調査2.人材ポートフォリオの成熟度調査結果】
注:各設問の割合は開示情報(有価証券報告書、統合報告書、人的資本レポート等)を確認し、各設問を満たすと判別できた企業の割合
2.経営戦略と人事戦略の連動に向けて
上記調査結果を踏まえた今後の示唆として「経営戦略と人事戦略の連動」を実現している場合の詳細イメージと連動のポイントを紹介します。
まず、人的資本ストーリーでは、図表4のように多様な人的資本指標を個別ではなく体系的に捉えたうえで、企業の価値観・戦略に基づいた独自哲学・コンセプトを創り出しています。
【図表4:「人的資本ストーリー」成熟度レベル5のイメージ(1)】
【図表5:「人的資本ストーリー」成熟度レベル5のイメージ(2)】
次に、人材ポートフォリオでは、単に人材タイプを設定するのではなく、経営戦略・事業戦略から重点領域を落とし込み、それに基づく人材タイプを設定しています。そのうえで、ギャップ解消策として人事施策を体系的に整理してKPIを定めています(図表6)。事業構造の変化程度が大きい場合では、人材のリソースシフトのイメージを図示しています(図表7)。
【図表6:「人材ポートフォリオ」成熟度レベル3のイメージ(1)】
【図表7:成長戦略に基づく人材ギャップの特定】
以上を実現できていることが、経営戦略と人事戦略が連動している状態と言えます。ただし、ここまで述べた内容はあくまで最終的な開示の姿をイメージしたものであるため、KPMGでは改めて両者の連動を「『事業の勝ち筋』と『人・組織の在り方・育て方・動かし方』が一貫していること」と定義しました。
具体的には図表8に示すとおり、人材ポートフォリオから人事基盤に至るまでの各要素が整合し、相互に連動している状態が理想です。そして、その実現には、人事部が単独で人事戦略を策定するのではなく、経営層や財務部門をはじめとする多様なステークホルダーとの密な連携と議論が不可欠です。加えて、CHROやHRBPが経営視点を持って人的資本を語り、議論をリードできる状態が求められます。
【図表8:経営戦略と人事戦略の全体像】
経営戦略と人事戦略を連動させ、企業が価値創造を生み出す状態となるには、上記に挙げたようなポイントを着実に実践することが肝要です。
なお、本調査の詳細に関するご説明のほか、貴社の取組み状況に応じたご相談も可能です。お気軽にお問い合わせください。
3.調査概要
対象 | 日本国内の人的資本先進企業73社
※1 当社調べ |
調査時期 | 2025年9~12月 |
調査方法 | 経営戦略と人事戦略の連動に係る全14問(図表1参照)に対して、各社開示情報※2を基にYes/Noで精査
※2 有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティレポート、人的資本レポート等のIR・ESG関連開示資料を参照 |
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 飯干 悟
マネジャー 杉崎 知広
コンサルタント 二村 薫
コンサルタント 大浅 裕葵
コンサルタント 柏崎 リサ