再生可能エネルギーの拡大や家庭用蓄電池の普及とともに、電力需給バランスを安定化させる“調整役”としてVPP(仮想発電所)への期待が高まっている。これを制御・統合するアグリゲーターとして、この分野にいち早く取り組み成果を上げているのが、ENEOS Powerだ。同社のVPP事業の全容と目指す姿について、サービス設計やシステム構築などを支援したKPMGコンサルティングと語り合った。
左から ENEOS Power 斉藤氏、横関氏、KPMG 伊藤、矢嶋
【インタビュイー】
ENEOS Power株式会社
VPP事業部長 横関 裕正氏
販売統括部 CISグループ 斉藤 思温氏
(2026年3月までVPP事業部 VPP事業企画グループに所属)
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 伊藤 健太郎
シニアマネジャー 矢嶋 翼
パーパスに合致する取組みとして、いち早くVPP事業をスタート
――ENEOSグループにおけるENEOS Powerの役割、VPP事業に参入された経緯を教えてください。
横関氏:
2024年に誕生したENEOS Powerは、ENEOSホールディングスの100%出資会社です。「今と未来のでんきをデザインし、人と地球の快適に挑戦し続ける」のパーパスに基づき、ENEOSが行っていた発電事業、電力小売事業などを受け継ぎ、ENEOSグループの主要事業会社の1つとして歩み始めました。
ENEOSと聞くと、ガソリンや軽油などの燃料油で身近な存在かと思いますが、長年にわたり電力関連事業にも取り組んできました。
1998年の卸供給事業を皮切りに、2003年には大口需要家向けの電力小売事業を開始。2016年には、同年4月に電力小売事業が全面自由化されたのを機に、一般家庭向けにも「ENEOSでんき」として小売サービスを始めています。
一方、発電事業としては、2008年に東京ガスとの共同出資で開発した「川崎天然ガス発電所」の運転を開始、2024年には、千葉県の五井(市原市)でENEOS Power、JERA、九州電力との共同出資で開発した大型のLNG火力「五井火力発電所」の運転を開始しています。
また、2022年には、ジャパン・リニューアブル・エナジー(現・ENEOS リニューアブル・エナジー)がENEOSグループの一員となり、太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電事業がグループに加わりました。
国全体の動きとして、今後「カーボンニュートラル社会の実現」に向け、再生可能エネルギーの導入拡大や、EV(電気自動車)、ヒートポンプなど電化の進展が見込まれていますが、これにより電力の需要と供給のミスマッチが拡大していきます。こうした「電力の需給バランスの不安定化」という社会課題に対する方策を商機として捉え、立ち上がったのが、ENEOS PowerのVPP事業です。
ENEOS Power 横関氏
再エネの未来を担うVPP、未開の市場進出にあたり支援を依頼
――再生可能エネルギーの導入拡大やエネルギー分散化の進展に伴い、効率的な活用を目指すVPPが注目されています。
伊藤:
VPPとは、再生可能エネルギーをはじめとする電力の需給バランスを最適化する、新たなニーズに応えるための仕組みです。蓄電池などを用いることで、過剰な電力の吸収や、不足する電力の供給といった調整を行います。
従来は、電力の消費需要に合わせて、大規模発電所(集中電源)で供給をコントロールするのが当たり前でした。しかし、カーボンニュートラルの加速で太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が進んだ結果、発電量の制御が困難なこれらの電源をいかにコントロールするかが大きな課題となります。そこで持続可能な電力供給に貢献する機能として、蓄電池などを活用し、電力の需給状況に応じて充放電するのがVPPの役割です。
KPMG 伊藤
――ENEOS Powerは、不確実な市場でVPPの商用化・ビジネス化を推進するにあたり、KPMGコンサルティングに支援を依頼しました。
斉藤氏:
当社は、2019年よりVPP事業への参入を検討してきました。当時は、まだVPPを事業化している企業が少なく、ビジネスモデルやシステムづくりの成功事例もほとんどありませんでした。経済産業省のVPP実証においては、需給調整市場をメインターゲットとしており、蓄電池などを用いることで、時間帯による価格変動も見据えた「kWh管理」をVPPにつなげようという発想はそれほど一般的ではありませんでした。
当社としても開発経験のないなかで、一からVPPシステムを創り上げなければいけない状況でした。しかし、継続的に見直しが入る制度の理解や、ベンダーとのコミュニケーションをはじめ、社内の知見だけでは対応し切れない部分も多く、外部リソースに支援を依頼することにしました。
なかでもKPMGコンサルティングは、当社が目指す姿に対する理解度が高く、さらにはVPP普及の政策づくりにも関わっており、今後の政策と整合性が取れたビジネスモデルや事業計画づくりなどの支援が期待できました。何より、システムの構築・運用など、上流から下流に至るまでの包括的な支援を受けられることが選定の決め手になりました。
ENEOS Power 斉藤氏
伊藤:
電気事業法に基づく認可法人のOCCTO(電力広域的運営推進機関)とのプロジェクトなどを通じて業界に精通したメンバーを結集して、構想段階からプロジェクトに臨ませていただきましたが、業界としても画期的な取組みでしたね。
50MW系統用蓄電池の運用など、3つの柱を強みに事業を展開
――どのようなロードマップに沿ってVPP事業を進めていったのでしょうか。
横関氏:
当社のVPP事業には、系統用蓄電池を運用する発電側リソースの事業形態と、一般家庭で利用されている家庭用蓄電池やEVなどの分散電源を束ねて制御する小売側リソースの事業形態があります。
先ほど申し上げたとおり、ENEOS Powerの電力事業には、約30年にわたり「発電」と「小売」を一体で運営してきた強固な事業基盤が整っています。この事業基盤を活かすべく、当社のVPP事業は3つの柱として「蓄電所の自社開発・運用」「他社が開発した蓄電所の運用受託」「家庭用蓄電池VPPサービス」を推進しています。
「蓄電所の自社開発・運用」としては、2024年に北海道室蘭市で、国内最大規模である50MWの系統用蓄電池を稼働しました。他にも全国4ヵ所に蓄電池を設置していますが、建設中の千葉の系統用蓄電池(出力100MW)を含め、今後さらに増やしていくことを検討しています。
「他社が開発した蓄電所の運用受託」については、2025年7月にサービスを開始しました(参考:ENEOS PowerのVPP事業)。自社グループで開発したAIによる市場価格予測や入札最適化のシステムと、これまで室蘭蓄電所の運用を通じて蓄積してきたトレーディング・ノウハウに基づく高度な入札戦略策定能力、この2点が当社独自の強みです。すでにいくつかの企業との商談も進んでいます。
また、「家庭用蓄電池VPPサービス」では、電力の小売と買取の両面でお客様との接点があるという当社の強みを生かし、太陽光で発電した電力をご家庭で使用(自家消費)されるお客様を対象に、2月から蓄電池メーカーと提携したサービスを展開しております。並行して、EVやヒートポンプなど他の分散型リソースに関しても同様のサービスを構築できるように実証を進めています。
AIを使った独自のシステムで市場価格を精度高く予測
――ENEOS-VPPシステムは「AI×人による最適制御」をうたっています。システム構築はどのように進めていったのでしょうか。
矢嶋:
ENEOSグループが独自に開発された市場価格予測や入札最適化のシステムであるhammock®と、蓄電池を制御するためのVPPシステムを緊密に連携させることが大きなテーマでした。
蓄電池から充放電される電力は、需給調整市場、卸電力市場、容量市場の3つの市場で取引されますが、その市場価格は、時間帯や天候などに影響される電力の需給バランスによって大きく変動します。
また、他の市場参加者が価格にどう反応するかで入札結果は大きく変わるので、市場価格を精度高く予測し、最適な入札のタイミングをレコメンドするシステムが欠かせません。ENEOSグループは、AIを使ってこの2つに対応するシステムhammock®を自社で独自開発されており、その技術力の高さにはとても驚かされました。
豊富な実績や知見とAI技術に基づき、各市場で最適な取引を行うための判断ができることが、ENEOS-VPPシステムの強みだと言えます。
KPMG 矢嶋
斉藤氏:
ENEOSグループには、AIイノベーション部という、研究と実装を兼ね備えたチームがあり、hammock®を内製しています。このシステムとVPPシステムを連携するのにあたって、KPMGコンサルティングには多大なご支援をいただきました。この過程でわれわれが感銘したのは、KPMGコンサルティングのシステム構築に関する卓越した技術力と、プロジェクトマネジメント能力の高さです。
ITシステムの開発を得意とするSIerやコンサルティングファームは他にもありますが、蓄電池の充放電を制御するためにはOT(オペレーショナル・テクノロジー)の知見やノウハウが不可欠です。出来上がったシステムの完成度の高さを見て、KPMGコンサルティングは、ITだけでなくOTにも強いことがよくわかりました。
また、システム開発を計画通りに進めるため、開発に携わるベンダーなどの各パートナー会社をスムーズにコーディネートしてくださったことも非常に感謝しています。
――VPP事業はまだ始まったばかりです。今後どのような事業戦略を描いていきますか。
斉藤氏:
現在、システムを使って需給調整市場における取引や充放電を行っていますが、2026年度から全商品(調整力)が前日取引化されるのを見据え、機能改修を進めています(注:2025年12月時点)。今後もこうした制度変更や蓄電池の参入増などにより市場環境が大きく変化していくことが想定されますが、その都度、システムとトレーディング戦略の双方を迅速に最適化しながら事業を発展させていきます。
横関氏:
今後は自社だけでなく、他社の蓄電池の運用受託サービスをさらに強化していきますので、蓄電池開発を進めている事業者や投資家の皆様には、ぜひご期待いただきたいです。また、当社には「ENEOSでんき」「ENEOS太陽光買取サービス」をご契約いただいている個人のお客様が全国にいらっしゃいます。そうしたご家庭に蓄電池を販売するメーカーなどと連携して、制御サービスを拡大していきます。
矢嶋:
新たに誕生した市場で、事業戦略からシステムの構築、さらには運用まで検討することは、企業にとって容易なことではありません。ワンストップでの支援というKPMGの強みを基に、引き続きENEOS Powerの先進的な取組みを支援していきます。
伊藤:
当社の仕事は「システムをつくって終わり」ではありません。お客様に寄り添い、一緒に汗をかいて伴走することで、価値創造していくことが重要だと考えています。今回の経験を活かしながら、さまざまな企業の革新に貢献していきます。
※本記事は、『日経ビジネス電子版』2026年2月20日に掲載された記事広告を、株式会社日経BPの許可を得て転載したものです(一部加筆・修正)。無断での複写・転載は禁じます。