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      この記事は、「週刊 経営財務 No.3717」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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      第4回

       

      IFRS会計基準の世界ではIFRS第16号「リース」の「適用後レビュー」が現在行われています。要するに「適用してみてどうだったか?」というアンケートのようなものです。「あれもリース!」「これもリース!」と混乱していたIFRS会計基準の適用企業も、今ではすっかり落ち着いています。
      日本基準でも、新リース基準の導入を控えて今は各社の経理担当者は頭を抱えているかもしれませんが、3年もすれば落ち着くことでしょう。新基準で最も難しく影響が大きいのは「リースか否か」であり、そこを乗り越えればあとはそれほど複雑ではありません。
      さて、最終回は今まで取り上げなかった論点について、いくつか取り上げたいと思います。
      以下、意見に係る部分は筆者の個人的な見解であることをお断りしておきます。


      Q1

      事後的にリース負債を見直す場合の会計処理が新たに定められたのはなぜですか?

      A1

      今までリース資産・リース債務がオンバランスされていたのは「解約不能」「フルペイアウト」のファイナンス・リース取引だったため、契約の変更や見積りの見直しが生じることはほとんど想定されていませんでした。そのため、解約や延長に係るオプションその他事後的な見直しは検討を要する論点と捉えられていませんでした。原則としてすべてのリースがオンバランス化されたことで、リース負債の見直しの論点が新たに生じたとも言えます。なお、従前からあるいわゆる再リースについては延長オプションの一種ととらえることができますが、その行使について新基準では一般的な延長オプションとは別途の定め※を設けることにより、負担の軽減が図られています。
      ※再リース期間を借手のリース期間に含めていなかったにもかかわらず、再リースを行った時、これをリース負債の見直しとして扱わないことができる。


      Q2

      手間がかかって難しそうですが、「見直し」に関する規定なので、実際に適用が開始された後に落ち着いて考えればよいでしょうか? 今は基準の強制適用にどう備えるかで、頭がいっぱいです。

      A2

      確かに、まだ適用も開始していないのに適用後の話を、と思われるかもしれませんが、全く関係ないわけではありません。
      一つは、経過措置への影響です。新基準への移行時の使用権資産帳簿価額は、移行時のリース負債と同額とするほか、遡及的に計算し再構築することもできます。一般に後者の選択肢をとるほうが使用権資産の移行時帳簿価額が小さくなり、新基準移行後の使用権資産の減価償却費を抑えることができます。期間の長い大型契約においてはその影響は相当額に上る場合も少なくありません。ただし再構築する場合、条件変更後の契約が当初から存在していたかのような処理はできず、過去の契約変更の影響を再構築後の帳簿価額に織り込む必要があります。
      さらにもう一つ、こちらはデータ収集についてです。条件変更やオプション行使の蓋然性などに関する見積もりの見直しを適切な時点で会計処理するためには、会計処理が必要な時点でその事実を把握できる必要があります。
      例えば、契約に自動更新条項が付いていて、更新しない場合には契約終了時点の6か月前にその旨を申し出る必要があるとします。更新期間を借手のリース期間に算入していなかった借手は、契約終了6か月前までに「更新しない旨の通知をしない」ことをもって契約の更新が確定するので、借手のリース期間を延長する会計処理を行わなければなりません。会計処理を行うのは、更新期間が開始されるタイミングではありません。しかし「何もアクションしない」ことをトリガーとして、経理処理を行うのは難しいことです。
      リース期間を見直すタイミングを「うっかり」逃して後から慌てないために、リース負債の見直しに必要な情報を経理部門が漏れなくすくい上げられるような業務プロセス・内部統制を構築し、リース台帳などにもその情報が記載されるようにしておく必要があります。そのためには、どういう情報を集める必要があるか、どのような業務プロセスの見直しが必要かの検討が必要です。これをリース会計の適用が開始してから考えていては、間に合いません。新基準の導入を見据えてシステム対応を検討される会社も多いと思いますが、その際には情報収集体制にも注意する必要があります。

      Q3

      経過措置の話が出ました。新リース基準の経過措置はあまりに多様で整理しきれません。

      A3

      経過措置は基本的に移行の負担を軽減するものですので、よって多くは「できる」規定ですから、あまり神経質になる必要はないと思います。ただし、以下の点については移行準備の早い段階で検討しておくことをお勧めします。

      • 使用権資産を再構築するか、リース負債と同額とするか

      先に述べた通り、再構築するほうが新基準移行後の減価償却費を圧縮できますが、条件変更などを繰り返している場合、過去にさかのぼった情報の収集に手間取る場合があります。コストベネフィットを勘案し、検討する必要があると思われます。

      • 土地付き建物のリースで建物についてリース資産が計上されている場合

      建物にかかるリース資産はそのまま使用権資産として引継ぎ、土地の借地部分のみを新たに使用権資産として計上する方法のほか、リース資産を取り崩して「土地付き建物」として全体を新たに使用権資産として計上しなおすこともできます。今後のリース負債の見直しなどを考えると、後者の一体で処理するほうが管理しやすい可能性があります。

      • 借地権の権利金等

      無形固定資産の「借地権」を使用権資産に科目振替えするだけと思われているようですが、無形固定資産に「借地権」として現在計上されているもののすべてが新リース基準における「借地権の権利金等」としての会計処理の対象となるわけではありません。その性質が「借手のリース料」であれば過年度分は費用(適用開始時剰余金)としての処理が必要となることも考えられます。また借地借家法の対象でないものはリース基準の対象外となり、今後も無形固定資産として表示される可能性もあります。多額の借地権を計上している会社は、内容の確認が必要と思われます。

      • 減損会計

      リースに関しては「使用権資産」と「リース負債」がセットで計上されます。リース契約を譲渡するときには使用権資産とリース負債がともに消滅の認識となります。このような場合にどのように減損会計を適用し、使用価値などを算定するのかは、会計基準に明示的な説明がなく、なかなかわかりづらいところです。もちろん同じ論点はファイナンス・リース取引でも存在しましたが、多額の使用権資産が計上されることで、論点はより顕在化したと言えます。

      • 貸手:リース関連収益の整理

      リース基準が見直され概念が整理されたことで、契約の対価のうち「リースの対価」ではないとされた部分については、それが顧客から得られる収益であれば、収益認識基準の適用が必要になります。収益認識の基準が変わるわけではないですが、結果的に対象となる取引が増える可能性があります。履行義務の充足がどのように行われいつ収益認識すべきかの検討、また、開示対応など、対応が必要になることも考えられます。


      Q4

      連結上IFRS会計基準をすでに適用しています。よって日本基準への移行も大したことはないと見ていますが、何か気を付ける点はありますか?

      A4

      新基準は、IFRS会計基準を適用していればそれを日本基準単体でも使えるようにという意図をもって開発されています。しかし、新基準対応で何も考慮・検討しなくてもよいかというと、実は少し違います。
      一般的な日本企業は日本基準で国内グループ各社の単体財務諸表を作成し、そのうえで基準差異について修正仕訳を入れる形でIFRS会計基準の連結財務諸表を作ります。そのため、以下の点に留意が必要です。

      • 重要性の違い

      IFRS会計基準でのみ必要な事項はIFRS連結ベースで重要性がある項目に限ってGAAP差異の対応を行うことが一般的です。しかし連結上重要性がなければ各社単体財務諸表上でも重要性がないかというと、そうとは限りません。なお、重要性の違いの観点から各社単体財務諸表で使用権資産・リース負債を追加計上すると、それが連結のIFRS会計基準上も取り込まれることになります。連結上の修正を避けるためには、単体財務諸表での追加計上の会計処理では、日本基準にのみ許容されている「簡便的な取扱い」や各種の選択肢は実質的に使えない可能性も高いと言えます。日本基準上の扱いが「国際的な比較可能性を損じない範囲で」設けられたものにすぎないとしても、IFRS会計基準と異なる扱いをすることの影響が個別の企業レベルで無視できる水準におさまるかは、また別の話だからです。

      • グループ会社間取引

      連結グループ内取引については連結財務諸表では消去される前提で、もともと会計処理をしていないことが多いです。しかし当然ですが、単体財務諸表では相手がグループ会社であろうと、処理は必要です。
      さらに、日本基準単体財務諸表で使用権資産・リース負債が計上されてくることで、親会社での連結手続きも複雑になります。新基準では借手と貸手の会計処理は整合していませんので、現行におけるオペレーティング・リース取引の連結消去のようにはうまく消せません。この点は日本基準適用会社でも同じですが、これから新基準に移行する会社ではこのようなことも当初から考えてシステム構築・業務プロセスを考えるのに対して、IFRS会計基準適用会社ではすでに業務プロセスが回っているだけに、結果的に後手に回ることも考えられます。

      Q5

      当社はこれからIFRS会計基準の任意適用を開始する所です。日本基準単体で新基準に移行する2028年3月期から連結をIFRS会計基準に移行すれば、使用権モデルの適用も日本基準と同時開始で済みますか?

      A5

      IFRS会計基準の初度適用企業に与えられる免除規定は新基準への経過措置とほぼ同じです。しかし日本基準では適用初年度の期首において経過措置が適用されるのに対してIFRS会計基準はIFRS移行日、つまり、比較年度の期首が免除規定の対象になるので新リース基準適用初年度に同時にIFRS会計基準に移行しようとすると経過措置(免除規定)の適用時点が1年ずれてしまいます。2027年4月1日から単体財務諸表で新リース基準を適用開始する時点ではまだIFRS会計基準を適用した「実績」がないわけですが、それでも適用指針第134項の「国際財務報告基準を適用している企業」向けの経過措置を使えるのか、基準文言からは必ずしも明確ではありません。もしそのような状況になりそうな場合は、事前に関係者と十分な確認をとっておくほうが良いかもしれません。


      【図表】日本基準の経過措置とIFRS会計基準初度適用の免除既定の関係
      日本基準の経過措置とIFRS会計基準初度適用の免除既定の関係

      KPMG作成


      以上4回にわたり、新リース基準についてご説明してきました。リースと一口に言ってもいろいろな契約がありますので、今回取り上げたもの以外にも様々な論点があると思います。実務が積みあがっていく過程で解消されていくものもあるでしょう。「基準を読んだだけでは今ひとつわからないもの」について、また機会があればご紹介していきたいと思います。

      執筆者

      あずさ監査法人
      会計・開示プラクティス部
      公認会計士 パートナー 植木 恵

      リースに関する基準の論点や動向に関する解説を掲載します。

      多くの企業に影響する最新の会計・開示情報を、専門家がわかりやすく解説します。