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      本連載は、2025年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

      自動車産業は、調達・生産・品質・販売といったバリューチェーンのグローバル化が進んでいます。そのため、海外で起きた問題は、全社の意思決定やブランドイメージに直結しがちです。だからこそ海外子会社を含むガバナンスとリスクマネジメント強化は不可欠ですが、実装に苦戦する企業は多いでしょう。本稿では海外子会社での不正対応を例に、その難しさと打ち手を考えます。

      海外子会社における実効性のある不正対応とは

      海外子会社管理の担当者になったことを想定して、次の場面を思い浮かべてみてください。

      金曜日の夕方、海外子会社から「至急です。退職者が架空経費を支払っていたようです。今からウェブ会議を実施しましょう」と連絡が入りました。証憑の確認、関係者へのヒアリング、本社上層部への報告、内部監査・法務部門との調整、場合によっては広報対応まで一気に押し寄せます。

      実務ではこのような事案に対して、「担当者のチェックが甘かっただけ」と安易に判断し、チェックリストの追加や稟議承認者を増やすなど、どうしても表面的な手続きを増やすだけで終えがちです。しかし海外子会社での不正対応は、これだけでは効果は低いでしょう。

      主な要因として、(1)情報非対称性:距離・時差・言語の壁で兆候把握や検証、フォローが遅れやすい(2)組織的沈黙:不都合な情報ほど、「報告するほど損」と感じ、翻訳・資料化対応の手間も相まって、情報が断片化し、本社には整った説明だけが上がりやすい(3)実装力ギャップ:海外子会社は管理人材が手薄な場合が多く、本社で決めた仕組みを運用に移す余力が不足、形骸化しやすい等の要素が挙げられます。この前提を無視すると、実効性が欠けてしまいます。

      再発の根を断つために〜有効な「氷山モデル」の考え方

      そこで有効なのが「氷山モデル」の考え方です。表に出た事象(氷山の上)の下に、事象を繰り返し生む要因(氷山の下)が沈むという見立てです。氷山の上だけ見ると、見える範囲での対処に終始しがちです。これでは、関与する担当者やタイミングなど、関連パラメータが些細に変化すれば、講じた対策が容易に陳腐化し、再現性が弱くなります。

      一方、氷山の下まで見ると、事象が成立した条件・背景まで掘り下げ、発生原因まで把握できます。こちらは応用性と再現性の高い再発防止を可能にします。本モデルの利点は、焦点を水面下へ移し、“再発の根”を断てる点にあります。

      【「海外子会社における架空経費事案」を例にした氷山モデルの考え方】
      Japanese alt text: 海外事業のリスク対応を“火消し”で終わらせないために_図表1 出所:KPMG作成

      先ほどの架空経費の事例であれば、「担当者のチェックの甘さ」といった、心理的には納得しやすいものの、厳密なロジックに乏しいストーリーが、氷山の上にあたります。ここに引きずられ、承認者やチェック項目を増やしても、(1)現地語証憑や実態が検証困難(2)不都合な情報が上がりにくい組織的沈黙(3)管理機能・人材の不足など、根本要因の看過が生じやすくなります。

      ここで氷山モデルを意識し、水面下に踏み込めば、権限設計、例外処理、ID管理、職務分離、資源配分などの仕組みまでが論点になります。重要性基準と例外処理を明確化し、決裁承認を「押印だけの儀式」から「不明点を現場と対話して解消する機会」へと意識転換するだけで、不正・重大ミスが大幅に減少することもあります。

      海外での不正対応は、地理的・言語的・文化的な距離ゆえ、火消しや表面的な再発防止(氷山の上)だけでは限界があります。さらに近年は地政学リスクや規制変化も顕在化し、「何がリスクになるか」を精緻に予測すること自体がもはや難しくなっています。しかし、氷山の下(再現性の高い要因や構造)を整備しておけば、未知の事象に対するレジリエンスも高まります。特に、変化の激しい自動車業界ではなおさら重要と言えるでしょう。

      日刊自動車新聞 2026年3月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      マネジャー 小寺 智也

      「自動車産業が拓く次の一手~変化を駆動力に~」第11回

      「走る」と「つながる」安全性の両立が求められる現代の自動車。直面するリスクとサイバーセキュリティ対策を考察します。

      不確実性が高い環境下において、自動車産業が取り組むべき対応について、テーマ別にさまざまな視点から解説しています。

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