地域金融機関の地域企業への従来の支援は、過去に実績のある企業や担保を限度とした融資規模、あるいは支援は資金供給に留まるなど、地域企業の将来の見通しを踏まえた資金ニーズや経営支援ニーズ、各企業の業務状況やステージに対して的確に対応できているとは言い難い状況です。
また、最近ではM&Aやビジネスマッチング、事業再生など、非金融ビジネスを融合した包括的な支援サービスが増加していますが、事業を評価して行う融資が十分に整備されているとは言えません。
本稿では地域での推進が長らく期待されている不動産担保や経営者保証等によらない事業性融資(以下、事業性融資)において、地域金融機関が推進するうえでの業界特有の課題の難しさと、それを克服し推進するためのカギについて解説します。
1.地域金融機関には、なぜ事業性融資が必要か?
地方は、人口20万人超の中核都市においても、今後衰退が着実に進展することが予想される厳しい状況に置かれています。地域を維持・振興するためには地域企業が市場拡大や新しい産業創出にチャレンジすることが求められますが、地域の衰退が進む今も、個々の地域企業の視点に目を落とすと新規事業に取り組めていない実情があります。
地域金融機関は、そこに資金供給や経営支援をするミッションがありますが、現在資金供給のほとんどを占める担保融資では、過去実績のある企業や担保を限度とした融資規模、あるいは支援は資金供給に留まるなど、地域企業の将来の見通しを踏まえた資金や経営支援へのニーズ、各企業の業務状況やステージに対して的確に対応ができているとは言えません。
これらに対して金融庁は2014年頃から金融モニタリング基本方針などの行政方針のなかで、地域金融機関へ地域企業の事業特性に着目する事業性融資の推進を長年継続的に呼びかけていますが、2025年度の金融行政方針においてもなお、活用に関する周知や融資慣行改革の推進施策が盛り込まれ、推進が進んでいるとは言い難い状況です。
ではなぜ、地域金融機関は事業性融資による地域企業の支援を推進できないのでしょうか。
本稿では地域金融機関が事業性融資を進められない真因と、その解消に向けた要点について解説していきます。
【国内における域内総生産・人口・高齢者の変化(2000年から2030年)】
【中小企業の新商品や新サービスへの取組み状況(2024年)】
2.事業性融資を進める際に直面する、業界特有の課題の難しさ
事業性融資が進まない要因の1つに、現行の法規制が事業性融資に適していない面もありますが、果たしてそれが解消されたとしても、事業性融資は進むのでしょうか。より難しく、解かねばならない課題として、銀行の仕組みや行員のスキル、地域企業のスキルなどが存在しています。しかもそれらは相互に干渉し合い、解決の糸口がはっきりしません。ここでは一つひとつの課題を整理し、その難しさを理解していきます。
【事業性融資が進まない根本原因】
【1】審査手続き上の運用課題の整理と理解
事業性融資を考えるうえでの現在の審査手続き上の運用課題は、過去実績の財務諸表に基づいて機械的に、(1-1)返済能力の評価結果の地域企業の信用度(債務者区分)、(1-2)損失を軽減するための担保、(1-3)予測損失額・引当、が決められてしまい、それぞれのなかに地域企業の定性情報、事業の将来の見通し/成長性、をノッチ調整以上に織り込む余地が少なく、さらにこうしたプラクティスが運用上過去から浸透してしまっていることが挙げられます。
2026年5月から施行される企業価値担保権によって、地域企業の信用度(債務者区分)には財務諸表における過去の実績以外の定性情報などを織り込む調整がこれまで以上に行いやすくなります。また、予想損失・引当についても前述した地域企業の信用度(債務者区分)の調整によって軽減することが可能となります。しかし、担保については、事業性の評価で見積られた企業価値そのものが担保として扱われるものの、会計上は倒産時の価値に不確実性があるとして、引き続き有形資産が優先されます。そのため、担保については会計上の論点が残るため、ビジネスの立場からは、もう一段踏み込んだ整理が必要になります。
【2】銀行の仕組みの課題の整理と理解
銀行の仕組みの課題には、大きく分けてミスを起こさない制度設計の面と審査の仕組みの面があります。
【2】-a ミスを起こさない制度設計の仕組み
ミスを起こさない制度設計上の課題については、(2-a1)チャレンジよりも大量のトランザクションを安定的に処理しミス防止を優先する安全・安定を評価する文化、(2-a2)定期的な異動に合わせた短期目標のKPI設計のため、地域企業の事業に深く入り込むことが必要、かつその成果結実に時間を要する事業性融資よりも、短期で手間のかからない担保融資を優先してしまうことが挙げられます。
また、(2-a3)融資にかかわる職掌構造が、営業部門・審査部門・リスク管理部門の分権になっており、仮に営業部門が事業性の融資案件に取り組もうとした場合でも、審査・リスク管理部門は、前例踏襲的かつリスク感度が極めて高く、過去に実績のない融資内容の場合は相応に審査に時間を要することも挙げられます。
安定性を取る文化と新しいことへのトライに踏み込んでいく側面をバランスよく、両輪を回していく必要があります。
【2】-b 審査の仕組み
審査の仕組みの課題としては、法規制の3つの課題同様、(2-b1)地域企業の信用度(債務者区分)は一時的には財務諸表の実績に応じて機械的に決められるが、将来キャッシュフローなどの要素を加味して見直しをする場合に相応の手間と時間を要する、(2-b2)担保となる有形資産の有無を最初に見た後に事業性を見ていくことになり、かなり経験とノウハウに左右される面が大きい、(2-b3)予測損失額・引当は同じ業態の実績などをベースに見ていくが、それ自体が新しい概念であり実績が少ない、といったことが挙げられます。
こうしたプラクティス上の課題を踏まえて、今までの運用を改めて見直す時期を迎えていると、筆者は考えます。
これらは、2019年の金融庁検査マニュアル廃止までは、審査について統一ルールが定められていたものの、廃止以降は、地域企業の定性情報、事業の将来の見通し/成長性によって調整することが可能となりました。しかし、当時は、自行の顧客の実態に合わせた柔軟な見直しとその整理を各行が個別に行う必要があり、ゼロベースでの見直しが進みづらく、結果、従前同様の格付け調整をベースとした審査に留まっていました。
しかし、近年金融当局は、第1章でも述べたように、法規制の整理に踏み込んでおり、2026年5月に施行される企業価値担保権に関する法律では、担保や引当は、地域企業の信用度(債務者区分)を調整する基本的な考え方が提示されたため、今後は進むことが期待されます。ただし、担保については、有形資産が優先される会計上の論点が残るため、法規制改革後もビジネスの立場からはもう一段踏み込んだ整理が期待されます。
【3】行員スキルの課題の整理と理解
行員のスキル不足の課題には、大きく分けて営業面と審査面があります。
【3】-a 営業面のスキル不足
営業面のスキル不足の観点では、2つの要因が考えられます。
まず1つ目に、(3-a1)融資実行時に財務諸表の過去の実績に基づかない地域企業の定性情報、事業の将来の見通し/成長性、を織り込んだ債務者区分の調整はできるものの、営業人材のスキルや経験がまだそこに追いついていない(=目利きができない)ことが挙げられます。
2つ目としては、(3-a2)期中に地域企業の予兆や変調に応じた適切な資金供給や経営支援を行うためには、地域企業自体が適時適切に地域金融機関に財務諸表などを開示する必要がありますが、地域企業にとっては財務諸表などを適時適切に用意することは負担となるため、その負担とのバランスのなかで自社の営業や商品生産などを優先せざるを得ないことが挙げられます。
こうしたスキル不足は、銀行内部の問題であれば研修やOJTなどで解消できるものです。しかし、(2-a)ミスを起こさない制度設計上の課題で述べたように、KPI設計・達成や新しいことに積極的に融資を行うなどのインセンティブのバランスを見直すこと、さらに、度重なる職員の定期異動により、スキルが組織に蓄積されなかったり、新しい事業への理解や伝達しづらい制度をどのように引き継いでいくかを検討しなければ、手探り状態からの脱却が難しくなっています。
また、企業側のスキル不足については、銀行員が従来以上に企業側に踏み込み、財務整備や経営面の指導などを積極的に行っていく必要があると考えられます。
【3】-b 審査面のスキル不足
審査面のスキル不足の観点では、(3-a)で述べた営業面のスキル不足の課題から、結果として、営業部門から政府等の保証を伴わない事業性融資の申請件数が乏しいことや、(2-a)ミスを起こさない制度設計で述べたように定期的な異動に合わせた短期目標のKPI設計から、手間のかからない担保融資が優先されることにより、(3-b1)の審査時に地域企業の定性情報、事業の将来の見通し/成長性を織り込んだ審査の経験が積めないこと、経験を積むまでの期間を保証する制度がないため既存の融資を優先せざるを得ないことが挙げられます。
【4】地域企業のスキル不足の課題の整理と理解
地域金融機関が、組織の仕組みを整え行員のスキル不足を解消したとしても、事業性融資の拡大には地域企業のスキル向上も必要です。なぜならば地域企業がビジョンを描き、ビジョンに基づく計画を具体化することができなければ、地域金融機関へ事業の将来性や収益見通しを明確に伝えることができず、地域金融機関も事業性に基づく融資に二の足を踏みかねません。
また、地域企業は大手の下請けも多く、その需要で安定的に稼げるという事業構造や人材の量・質ともに不足している状況もあり、新規事業の創出に乗り出す企業は限定的と言えます。その結果、事業性融資の対象となり得る事業の創出も少ない状況です。地域金融機関はスキルの不足している地域企業に委ねるだけではなく、自らが育成・コンサルティングしていくことがカギとなります。
この章で課題を整理、具体化し、理解してきたように一つひとつの課題自体は決して難しいものではありません。しかし仮に審査の仕組みだけを1つ改革したとしても、営業には課題が残り、事業性融資を推進することはできません。つまり一つひとつの課題を個別に対応・解消しても事業性融資は進まず、よって、すべての課題に対して、同時に統一した方針で解決を図ることが必要です。しかし、これは1つの部門の担当役員や部門長では対応することができません。全社を動かすには、経営トップの覚悟と決断が必要となります。
3.地域金融機関が事業性融資を推進するためのカギ
事業性融資を推進するためには、経営トップの覚悟と決断を起点として人事制度や審査の仕組みを変革し、それによって営業・審査面の組織・ミッションを変え、行員のマインド変革を引き起こし、事業性融資を推進した結果、地域企業へ新しい価値を提供していくことが必要です。この取組みは、短期収益を追うのではなく、5年、10年先の成長を創造する取組みとすべきです。
また、事業性融資は通常の融資よりは検討・審査に時間がかかるため、検討を効率的に行うための施策や、AIなどの活用による効率化も平行して図る必要があります。
そのうえで、通常は営業と審査は段階的に行われますが、営業と審査部門の一体的な動きがカギになると考えられています。事業自体に融資し、かつ事業の新規性が高ければ高いほど、審査部門もその事業をしっかり認識して進める必要があるため、そういった観点を補完する取組みも欠かせません。
4.実現するためのアクション(KPMGの支援)
地域金融機関は、事業性融資の実現のために組織内の複雑な課題を深く理解・分析し、優先順位をつけながら進めていくこととなります。早期実現のためには不足するノウハウ・知見などを補うべく、外部の力を借りることも重要となります。
KPMGは、地域金融機関のより踏み込んだ事業性融資への取組みを経営のコミットの具体化など全体構想から、地域や株主・出資者への発信、仕組みの具体化、そして実行までを伴走し、事業性融資の推進を支援します。