2026年の規制転換点-規制対応が経営全体に影響を与える重要課題に
「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を掲げた骨太方針2024のもと、昨年は企業を取り巻くルールが動いた1年でした。中小企業との公正な取引と価格転嫁を求める動き、ハラスメント・カスハラ・賃金差異公表など働き方を巡る規律強化、グリーントランスフォーメーション(GX)・カーボンプライシングを通じたサステナビリティ・GXの制度化が具体化しています。
同時に、内部通報といったスピークアップのための制度領域、災害法制などレジリエンスの領域でも、新たな義務や制度が多く生じています。デジタル市場における公正性・透明性についても、要求が高まっています。
本稿では、2025年の法令動向に基づき、6つのキーワードに沿って2026年にインパクトが大きい注目法令を紹介します。
※「2026年注目法令TOP10 前編:2025年法令動向の振り返り」はこちらからご覧になれます。
【6つのキーワード】
1.公正な取引と価格転嫁
対象法令:中小受託取引適正化法(旧・下請法)、物流効率化法
2.「人への投資」としての働き方改革
対象法令:労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法、労働基準法(改正議論)、労働安全衛生法
3.スピークアップ・透明性確保
対象法令:公益通報者保護法
4.サステナビリティ・グリーントランスフォーメーション(GX)
対象法令:GX推進法(GX-ETS)
5.レジリエンス
対象法令:災害対策基本法
6.デジタル市場・広告・プラットフォーム規律
対象法令:電子商取引及び情報財取引等に関する準則/デジタルプラットフォーム取引透明化法(デジタル広告分野を含む)/スマホソフトウェア競争促進法
1.2026年 注目法令TOP10 一覧
| 法令名 | 改正・改訂ポイント | 影響を受ける主要部門 |
|---|---|---|
| 中小受託取引適正化法(旧・下請法) | 2026/1/1施行。協議に応じない一方的な代金決定を禁止し、従業員基準の追加等で適用範囲を拡大。対象取引に特定運送委託も追加され、物流・運送にも適用が及び得る | 調達、営業、経理、法務 |
| 物流効率化法 | 2026/4/1施行。一定規模以上の特定荷主等に、指定の届出、中長期計画の作成・提出、物流統括管理者(CLO)の選任・届出、定期報告を義務付け | 調達、営業、経営企画、総務、IT、法務 |
| 労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法 | 2026/10/1施行。労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法ではカスハラ/就活セクハラの防止措置の義務化 2026/4/1施行。女性活躍推進法では101人以上の企業に男女賃金差異、女性管理職比率等の公表を義務付け | 人事・労務、現場管理、法務、IR |
| 労働安全衛生法・労働基準法等 | 労働安全衛生法では、個人事業者等(フリーランス等)も含む安全衛生対策を拡充し、化学物質管理等を強化。一部は公布日施行、残りは2026/1/1以降順次施行 労働基準法は、労働時間法制(テレワーク制度設計、連続勤務の上限等)の検討が継続 | 人事・労務、安全衛生、現場管理 |
| 公益通報者保護法 | 2026/12/1施行。公益通報を理由とする解雇・懲戒の直罰化、フリーランス追加、通報者特定目的行為(探索等)の禁止等 | コンプライアンス、内部監査、人事、法務 |
| GX推進法/GX-ETS | 2026年度から本格稼働。直排出量が3年度平均10万t-CO2超の事業者を対象に、政府の排出枠割当と実排出量相当の排出枠保有義務(不足分は取引で調達可)を前提に、算定・確認・報告や割当方式等の運用詳細が明確化 | 経営企画、サステナビリティ、財務、事業部門 |
| 地球温暖化対策推進法(JCM関連省令等) | 改正省令が2026/1/1施行。国際協力排出削減量(JCMクレジット)の発行申請・記録(記録簿)、口座簿の運営(移転・情報開示等)、指定実施機関制度など、制度運用の手続が具体化 | サステナビリティ/GX、法務、経営企画 |
| 災害対策基本法 | 2025/7/1施行。改正法で国の支援体制・広域避難等の運用が強化。国土強靱化計画等によりBCP/事業継続力強化計画の普及・実効性向上が進み、2026年度もガイドライン改定等を含め運用高度化が継続 | 総務、危機管理、SCM、IT |
| スマホソフトウェア競争促進法 | 2025/12/18全面施行。2026年、指定事業者は、選択画面表示や標準設定変更の容易化など、ユーザーの画面表示・導線に直結する措置の実装・運用が必要となる。あわせて、申告窓口や指針等の運用基盤整備により、禁止行為・報告を含む実効的な執行が進む | デジタル事業、プロダクト、法務、渉外 |
| デジタルプラットフォーム透明化法 | 2025/2/12に改訂。電子商取引・デジタル取引における民法の適用・解釈の考え方を示す指針として、サイト利用規約、デジタルプラットフォーム、NFTをめぐる法律関係などを更新・新設 | プラットフォーム運営、マーケティング、法務、プロダクト |
2.注目法令と求められる企業対応
(1)公正な取引と価格転嫁
対象法令:中小受託取引適正化法(旧・下請法)、物流効率化法
2026年は、中小受託取引適正化法(旧・下請法)の施行を契機に、価格交渉・支払条件・運送委託・物流オペレーションを一体の「取引設計」として整備する必要性が顕在化する年になります。取引実務や慣行のままにせず、制度要求と噛み合う形で再設計できるかが、コンプライアンスだけでなく供給安定や取引先との協働の実現にも直結します。
改正背景
- 物価上昇局面で「物価上昇を上回る賃上げ」を継続するには、サプライチェーン全体で構造的な価格転嫁を定着させることが不可欠であり、労務費を含む適切な転嫁を後押しする取組みの必要性が政策の柱の1つとして掲げられている
- ドライバーの時間外労働上限規制等を背景に輸送力不足リスク(物流の2024年問題)が顕在化し、荷主を含めた産業横断の課題として是正する必要性がある
改正・改訂ポイント
(i)中小受託取引適正化法(旧・下請法)〔2026年1月1日施行〕
- 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
- 対象取引の拡大(「特定運送委託」を追加)
- 従業員数基準の導入
価格交渉の実施・記録の重要性が増し、価格協議の実施状況および代金決定過程を説明可能とする記録の整備が必要となります。特に「特定運送委託」が対象取引に追加される影響は大きく、荷主企業(製造業・小売・EC等)は、コスト管理の観点にとどまらず、取適法遵守の観点から、契約・発注プロセスと証跡管理を整合させた運用を整備する必要があります。
(ii)物流の持続可能性に関する規律
- 物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)による、一定規模以上の荷主(特定荷主)等に対し、中期計画の策定、物流統括管理者の選任、定期報告を義務付ける規定等が2026年4月1日施行
- 改正貨物自動車運送事業法による、運送契約締結時等の書面交付義務を含む取引環境適正化に関する規定は2025年4月1日に施行済
荷主企業は、物流を現場対応から経営管理の重要テーマと位置付け、中期計画の策定、統括管理者の選任、定期報告を可能とする社内体制(所管部署、手順、データ収集・管理)整備、運送契約の書面化と条件・責任の明確化、証跡管理等法令の要求事項に適合した契約・発注プロセスの整備に取り組むことが必要になります。
企業に求められる対応(リスク/機会)
2026年は、価格交渉・支払条件・運送委託・物流オペレーションを分断せず、一体の取引設計として見直せるかが、課題となります。
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)見積依頼〜交渉〜合意までの標準プロセスと記録設計の見直し(価格交渉の実施・記録を含む) | 価格交渉プロセスの不備がリスクになり得る/価格合意プロセスの透明性を求められるなかで、証跡が弱い状態が残る | 交渉ルールと記録体系を整備できれば、価格決定の説明可能性を確保/交渉の属人化を排除し、契約オペレーションの安定につながる |
| (2)取引先管理、契約書・注文書・発注システムの改修(運送分野・書面交付義務等の動向も視野) | 適用範囲拡大(例:特定運送委託)や書面交付義務に対応していない業務フロー等、構造的課題により法令違反が継続的に生じる | 法令要件に適合した業務フロー・システムが整備されることで、取引実務を安定的に遂行でき、現場の負担も軽減される |
| (3)手形・支払サイトを含む支払条件の全社点検 | 支払条件が部門・拠点でばらつき、不適正条件が残存 | 成果物受領条件等、支払の前提条件・支払プロセスを統一することで、品質確認・支払のオペレーションが安定 |
| (4)運送委託を含むサプライチェーンの価格転嫁方針の明文化(特定運送委託の対象化を踏まえる) | 物価上昇局面で価格据置が「買いたたき」認定がされやすい環境のなか、価格転嫁の判断基準・交渉プロセスを明文化できていないと、違反(協議に応じない一方的な代金決定・買いたたき等)または証跡不備のリスクが残存する | 価格転嫁方針を明確化することで、交渉の前提・根拠が統一され、サプライヤー・運送事業者との持続的なパートナーシップ構築につながる |
| (5)物流効率化法の枠組みも見据えた荷主機能・データ基盤の強化(中長期計画/物流統括管理者/定期報告) | 計画・報告に必要なデータ(委託・受渡し等)が揃わず、義務履行のための対応コストが高くなる | 計画・報告に耐えるデータ基盤を整備し、取引条件を連動させることで供給安定性とコスト管理を同時に高度化 |
(2)「人への投資」としての働き方改革
対象法令:労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法、労働基準法(改正議論)、労働安全衛生法
2026年は、「人への投資」「人的資本経営」がスローガンから具体的な義務としても定められ、企業経営の中核テーマとして実務に反映すること求められる年となります。カスタマーハラスメント対策の義務化、賃金差異・女性管理職比率の公表義務拡大、安全衛生の対象拡張、労働時間規律の見直し議論が同時並行で重なり、人事・労務だけで完結しない部門横断的対応が求められます。
改正背景
- 少子高齢化を背景に人手不足が深刻化しており、女性・高年齢者を含む多様な人材が活躍できる就業環境の整備が求められる
- 「いわゆるカスタマーハラスメント」が社会問題化するとともに、採用活動等の場面における「求職者等へのセクシュアルハラスメント」も課題として顕在化している
- スポットワークや在宅勤務等の就業形態の多様化を踏まえると、従来の労働安全衛生・労働時間等の規律が実態に十分対応できていない場面が生じている
改正・改訂ポイント
(i)労働施策総合推進法等(2025年6月11日公布の一連の改正)
- カスハラ防止のための事業主の措置義務、求職者等へのセクハラ防止措置の義務化(国の指針整備を前提に、主要部分は2026年10月1日に施行)
- 男女間賃金差異の公表義務が「常時雇用101人以上」へ拡大。女性管理職比率の公表も義務化(2026年4月1日施行)
2026年は「男女賃金格差の見える化」と「管理職層の男女多様性」が問われることとなります。
(ii)安全衛生(労働安全衛生法等の改正)
- フリーランス等を含む多様な働き手の災害防止のため、個人事業者等を既存の労働災害防止対策に取り込み(多くの規定が2026年4月1日施行)
- ストレスチェック義務の対象となる事業場の拡大など一部は公布後3年以内に施行(施行日は今後政令で定められる)
2026年は、非雇用型人材も含めた安全衛生ガバナンスを再設計しつつ、制度確定を見越して準備を広げる助走の年にもなります。
(iii)労働時間規律(労働基準法の改正議論)
- 勤務間インターバル、連続勤務の上限等について、労働時間制度の見直しに関する検討が進展し、具体的な論点整理・選択肢の検討が進んでいる
- 2026年に向け、検討の進展に伴い、制度改正案(規制内容・適用範囲・施行時期等)の方向性が段階的に明確化する可能性がある
特にシフト制、24時間稼働、オンコール・緊急呼出し、時期による繁閑差を前提とする事業では、制度改正の内容(例:連続勤務回数・勤務間休息時間の要件)によって、必要要員数、シフト設計、残業見込み、人件費が変動する可能性があるため、動向を注視し、要員計画・コストの再試算のうえ、対応方針を早期に整理することが重要になります。
企業に求められる対応(リスク/機会)
2026年は、カスハラ対策の法定化、101人以上企業への賃金差異・女性管理職比率の公表義務、就業者の多様性を前提とした安全衛生の強化が同時並行で進みます。対応主体は人事・労務に限定されず、現場運用(顧客対応手順・教育・記録)/経営企画(採算・多様な働き方を前提とした組織・体制整備)/開示・IRまでを含み、社内横断的に対応する必要があります。なお労働基準法については、2026年通常国会提出は見送られる見込みであるものの、大規模な改正であるため、早期から準備をすすめていくことが必要です。
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)カスハラ対応の標準化(ルール・教育・エスカレーション・記録) | 現場判断での個別対応とすると、従業員の安全配慮義務違反や、離職・欠勤の増加、レピュテーション低下につながる | 対応基準と記録が統一され、顧客対応品質の平準化と人材定着(離職抑制)を同時に実現できる |
| (2)現場運用の高度化(相談窓口・法務・警察連携、悪質事案のデータ化) | 判断基準を設けず案件ごとの個別判断とすると、現場負荷(精神面を含む)が大きく、対応品質がばらつく | 悪質事案の類型化・データ化により対応が標準化し、現場負荷の抑制と再発防止策の精度向上につながる |
| (3)開示に向けたデータ整備(賃金差異/女性管理職比率) | データ定義・算定根拠・集計手順の整備が遅れ、整合的な対外説明に支障が生じる | 算定ルールと統制が整い、人的資本に関する説明の具体性・一貫性を高められる |
| (4)就業者の多様性を前提にした安全衛生ガバナンス再設計 | 対象の拡張(個人事業者等)にあたって、役割分担・教育・災害報告等の運用整備が追いつかず、実務上の不備が残存する | 段階的に運用を整えやすい |
| (5)労働時間規律の議論を織り込んだ労務データ可視化・再試算 | 規制内容の確定後に対応を開始することとなり、要員計画・シフト設計の見直しが遅延する | 当番人員確保、繁忙期の処理能力低下等に対応するための追加要員・コスト影響・外注活用の手当てを先行でき、リスク低減と働き方の競争力向上に資する |
(3)スピークアップ・透明性確保
対象法令:公益通報者保護法
2026年は、12月1日の改正法施行を見据え、内部通報対応を「窓口設置」から実効性確保(運用・監督・証跡)中心に再設計する移行期間となります。内部通報の領域では、通報者保護の強化を背景に、形式的な窓口設置では足りず、不正・不祥事を早期に捉えて自浄作用を働かせる経営センサーとしての機能が重視されます。
改正背景
- 企業における内部通報対応について、体制整備が形式にとどまり実効性が不十分であることや、通報妨害・通報者特定、不利益取扱いの懸念が指摘されている
- 業務委託を含む就業形態の多様化や海外での通報者保護強化の動向を踏まえ、実効性確保の必要性が高まっている
- (1)公益通報対応体制の徹底と実効性向上、(2)公益通報者の範囲拡大、(3)公益通報を阻害する要因への対処、(4)不利益取扱いの抑止・救済強化が特に求められている
改正・改訂ポイント
- 体制整備の実効性向上:従事者指定義務違反への命令・罰則、立入検査権限を新設
- 保護対象の拡大:フリーランス(委託中・終了後1年以内)を保護対象に追加
- 報復の抑止・救済強化:通報後1年以内の解雇・懲戒の推定、解雇・懲戒への直罰を新設
- 通報妨害等への対処:通報妨害の禁止(合意無効)、通報者特定目的行為の禁止を新設
内部通報制度は、窓口を置くだけではなく、受付から調査、是正、再発防止までを通貫させ、監督する経営センサーとしての機能としての機能が一段と重視されることになります。
企業に求められる対応(リスク/機会)
内部通報制度を実効的に運用し、不正・不祥事の早期検知と自浄作用を働かせられるかが、鍵となります。
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)内部通報制度を「経営センサー」として位置付け、実効性を前提に設計する | 窓口設置にとどまり、通報が活用されず、不正・不祥事の把握・是正が遅延する | 不正・不祥事を早期に検知し、自浄作用を働かせる仕組みとして、内部通報制度の価値を高めやすい |
| (2)受付・調査・是正・再発防止までのプロセスを明確化し、部門連携を組み込む(法務・コンプライアンス・人事・内部監査) | 対応フロー・対応基準(標準処理期間・調査における必須事項)の定めや部門間連携が不十分な場合、調査の品質・是正措置・再発防止の一貫性が確保できない(特にテーマごとに所管部署が異なる複数種類の窓口がある場合) | 窓口が複数存在する場合であっても、受付から再発防止までを一体的に運用でき、実効性と説明可能性(記録・根拠)が向上する |
| (3)経営への報告ラインを明確化し、第三者窓口の活用も含めた体制設計を行う | 重要事案のエスカレーションが遅れやすく、経営判断・監督が後手となり、対外説明に応えにくい | 重要事案の把握と意思決定が迅速化し、通報者の安心感と制度の信頼性が高まる |
(4)サステナビリティ・グリーントランスフォーメーション(GX)
対象法令:GX推進法(GX-ETS)
2026年は、GX推進法に基づく排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働します。一定規模以上の事業者に対して、排出実績の算定・登録確認機関による確認、排出枠の保有、移行計画の毎年度提出・公表が求められます。
これにより、排出枠の割当・購入等を含むカーボンコストが、エネルギー多消費型の製造業やインフラ事業者の原価・投資判断に直接影響することとなります。排出量データ(算定方法・証跡・確認)をサステナビリティ情報の開示要請と整合させながら、エネルギー管理・設備更新・調達などの現場運用へ落とし込めるかが課題となります。
改正背景
- 2025年5月に成立した改正GX推進法により、2026年度から一定規模以上の排出事業者に排出量取引制度への参加が義務化された
- 経済産業省は、2026年度の制度開始に向け、登録確認機関制度や移行計画、各種ガイドライン(割当て・算定等)の整備を進める方向性を示している
改正・改訂ポイント
- GX-ETSは2026年度から参加義務化:CO₂直接排出量(直近3年平均)10万トン以上の事業者を対象に、毎年度の排出量算定・登録確認機関による確認・国への報告、および翌年度1月31日時点で排出実績と同量の排出枠を保有する義務等が課される方向性
- 制度開始に向け、運用ルール(指針・詳細)が具体化:割当ての実施指針(ベンチマーク/グランドファザリング)、排出量算定方法の詳細、上下限価格、水準、市場運営等について、2026年度の制度開始までに定められる
- SSBJ気候基準(排出量開示):SSBJの気候関連開示では、温室効果ガス排出の絶対総量をScope1(直接排出量)/Scope2(エネルギー購入等間接排出量)/Scope3(バリューチェーン等間接排出量)に区分して開示することが求められる方向性
- SSBJ基準に準拠した有価証券報告書の作成義務化:金融庁WGはSSBJ基準に準拠した有価証券報告書の作成・限定的保証(limited assurance)の段階的義務化(当初2年はScope1・2)の方向性を提示
SSBJ気候基準(排出量開示)の開示が義務化される方向性のなか、GX-ETSに基づく排出量算定にあたっても開示・保証に耐えるデータ統制が必要になります。GX-ETSの確認対応と開示保証対応を別建てにせず、算定ルール、データ統制、第三者対応(確認・保証)を一体で整備することが、2026年度以降の実務への反映負荷を左右すると考えられます。
企業に求められる対応(リスク/機会)
2026年はGX-ETSが本格稼働し、一定規模以上の排出事業者には排出量の算定・確認・報告と排出枠の保有が求められます。これにより、排出枠の割当・購入に伴うカーボンコストが原価や投資判断に影響します。あわせて、SSBJ気候基準に基づく開示・保証工程を踏まえ、排出量データと移行戦略を開示・保証に耐える水準で整備する必要があります。環境・サステナ部門に閉じず、経営企画・財務・工場・調達・サプライチェーンが一体で、制度要件を意思決定プロセスと対外説明に落とし込んで対応できるかが鍵になります。
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)排出量算定・モニタリングのデータ基盤整備(排出プロファイルの精緻化) | 排出量の把握精度が不足し、排出枠の必要量を適切に見積もれない。結果として、排出枠不足への追加調達や価格変動の影響が原価・利益計画に影響する | 排出枠必要量の見積り精度が向上し、追加調達リスクを抑制できる。排出削減の優先順位付けが可能となり、削減投資の効果を定量管理できる |
| (2)GX-ETSを織り込んだ投資・操業・調達の意思決定プロセス構築(設備更新/操業最適化/再生可能エネルギー調達/燃料転換の組合せ) | 設備更新、操業最適化、燃料転換、再生可能エネルギー調達の判断が個別対応となると、排出枠制約とコスト影響を反映できない | 排出枠制約とコスト影響を前提に、投資計画・操業計画・調達計画を統合して策定することで、排出削減量、投資回収、カーボンコスト影響を同一の管理指標で評価できる |
| (3)SSBJ対応を見据えた移行計画と財務インパクトの説明ストーリー整備 | 開示に必要な前提・算定根拠・財務影響(コスト、投資、収益影響)を説明できず、投資家・金融機関等からの照会に対し整合的な回答ができない | 移行計画と財務影響を根拠に基づき説明でき、投資家・金融機関との対話を安定化できる。GX-ETS対応を契機として、低炭素製品・サービスへの投資判断と市場展開を加速できる |
(5)レジリエンス
対象法令:災害対策基本法
2026年は、2025年7月1日に全面施行された「災害対策基本法等の一部改正」により更新された災害対応の前提(国の支援体制、情報連携、備蓄等)を、企業のBCP・受援手順・訓練計画に反映し、運用(訓練・見直し・更新)を定着化させる段階となります。
改正背景
- 大規模災害(例:令和6年能登半島地震)等を踏まえ、災害対応の制度面(国の支援、司令塔機能、被災者支援、情報連携、備蓄等)の強化が進められた
- 中小企業の事業継続が困難になることは、サプライチェーンや地域経済・雇用にも影響するため、事業継続力の強化が必要である旨が「事業継続力強化計画 作成指針」で示された
改正・改訂ポイント
- 災害対策基本法等:国の支援体制強化(要請を待たない支援を含む)、防災監の設置、備蓄状況の年1回公表等を整理(2025年7月1日全面施行)
- 国土強靱化年次計画2025:KPI等による進捗把握とPDCA充実を明記し、災害時の事業継続性確保を含む官民連携強化を掲げる
- 防災庁:防災庁設置の基本方針(2025年12月26日閣議決定)において、司令塔機能を担う新組織として防災庁を設置する方針を提示
- 事業継続力強化計画:中小企業者等の事前対策計画を経済産業大臣が認定する制度。「策定の手引き」は、実効性確保のため平時からの訓練・教育・見直しを求め、少なくとも「年1回以上の訓練・教育」「年1回以上の見直し」を明記
企業に求められる対応(リスク/機会)
2026年は、BCPを策定するだけでなく、前提条件の変更を取り込みながら、手順を定期的に更新し、訓練で検証し、是正措置まで完了させる運用体制を維持できるかが重要になります。平時からPDCAを回していることが、発災時の意思決定・連絡・受援手順の遅延を低減し、操業停止の長期化や追加コストの発生を抑えることにつながります。
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)年1回以上の訓練・教育/年1回以上の見直しを年間計画に組み込み(担当・時期・記録を明確化) | 計画が形骸化し、有事に「誰が何を判断するか」「代替手順は何か」が現場で合意できず、初動・復旧が遅れる | 有事対応の実効性が高まり、早期復旧・損失抑制につながる |
| (2)国・自治体の支援運用、広域避難の情報連携等を前提に、受援手順(連絡系統、受援窓口、優先物資・優先業務、代替調達・代替輸送)をBCPに反映(行政運用・B-PLoを踏まえ、自社の在庫・供給可能品目・配送能力等の情報管理ルール整備を含む) | 被災時に自治体・物流事業者との連絡が接続できず、必要物資の受領/提供や従業員支援に遅れが生じる | 行政の物資・避難運用と自社の受援・事業継続手順が整合し、調達・輸送・人員配置の判断が早期に安定する |
| (3)連絡網・拠点・サプライヤー・物流経路・代替調達先等のマスタ情報を、少なくとも年次で更新し、訓練結果に基づく改善を記録 | 連絡先や契約条件、代替手段が最新でないまま固定化し、発災時に調達・輸送・復旧の実行計画が成立しない | 更新・訓練・改善が「定例業務」として回り、実務の変更(拠点再編、委託先変更等)がBCPに反映され続ける |
(6)デジタル市場・広告・プラットフォーム規律
対象法令:電子商取引及び情報財取引等に関する準則/デジタルプラットフォーム取引透明化法(デジタル広告分野を含む)/スマホソフトウェア競争促進法
2026年は、(1)利用規約等の契約実務に関する法解釈指針(準則)の改訂内容の反映、(2)透明化法に基づくモニタリング・評価の継続(改善状況の確認、必要に応じ勧告等の検討)、(3)スマホ法の全面施行を受けた規制運用(下位法令・指針を含む)の進行が並行し、デジタル取引の「契約・表示・運営」を一体として点検し、証跡を伴う運用改善を継続することが求められる年となります。
企業実務では、利用規約・表示・同意取得の変更管理(改定プロセス、周知、記録)、広告運用に関する社内統制(出稿主体・代理店管理、苦情・なりすまし等への対応手順)、アプリ配布・決済・表示導線等の論点に関する法務レビューと証跡管理を、関係部門(法務・マーケ・プロダクト等)の役割分担と手順に落とし込む必要があります。
改正背景
- 2024年に芽吹いた「デジタル市場における公正性・透明性の要求」は、2025年に入り、契約・広告・UI/UXの各レイヤーで実装論の段階に進んだ
- 経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」改訂により、サービス設計の初期段階から 契約・免責・規約・価値移転のルールを組み込む重要性が浮き彫りになった
- 透明化法に基づくデジタル広告分野のモニタリング等を通じ、広告の透明性・説明責任は「媒体や配信ロジック」だけでなく、広告主側の統治課題として捉える流れが強まった
- UI/UX上の誘導設計(ダークパターン等)が政策的に可視化され、設計・表示・検証のガバナンスが“マーケの作法”から“コンプライアンスの論点”へ移行しつつある
改正・改訂ポイント
(i)電子商取引及び情報財取引等に関する準則(契約・利用規約)
- デジタルプラットフォームの論点を更新:出店停止等の一方的措置の処分根拠となる規約条項の適切性(定型約款該当性・権利濫用)を整理。なお、当該準則の整理に加え、透明化法では提供拒絶(アカウント停止等)の内容・理由の開示等が求められるため、条項設計と運用を整合させる必要がある
- ブロックチェーンを用いた価値移転を整理:暗号資産の移転は契約上の給付であり、移転手続請求(移転を成立させる操作の請求)対象となり得ること等を整理
- NFTの法的整理を追加: NFT購入により著作権・所有権が当然に移転しないこと、権利内容は表示・利用規約等の当事者間の合意内容で定まること等を明記
- 利用規約(定型約款)の整理を更新:定型約款の要件を整理したうえで、単にウェブサイトに掲載してリンクを示すだけでは足りない場合があり、メール/PDF送付等で相手方が規約内容を保存・管理できる態様で提供することが必要となる点等を明確化
(ii)透明化法(デジタル広告分野のモニタリング/評価)
- デジタル広告分野の大臣評価(第3回)を公表:特定デジタルプラットフォーム提供者(デジタル広告分野)の取組みを評価し公表
- 課題の特定:取引条件等の開示、公正性確保に係る取組、苦情・紛争への対応、なりすまし広告への対応、「デジタル広告の質(広告の質に関する見える化)」等を重点テーマとして検証
(iii)スマホソフトウェア競争促進法(2025年12月18日全面施行)
- 規制対象ソフトウェアを明確化:モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを「特定ソフトウェア」として対象化
- 主要な規律類型を提示:「OS機能の利用制限」「決済方法の利用制限(リンクアウト規制)」「選択画面の表示」を代表的な規制事項として整理
企業に求められる対応(リスク/機会)
契約(利用規約・免責・価値移転)/広告運用/UI変更/アプリ流通・決済導線について、法令や準則で求められる要件が同時に具体化するため、部門横断で、仕様・表示・運用を整合させて運用することが重要になります。
一部の規律(透明化法・スマホ法)は、制度上指定事業者や特定デジタルプラットフォーム提供者といった特定の事業者を義務主体としていますが、実務上は、当該プラットフォームを利用してサービス提供・広告配信・アプリ流通・決済を行う利用事業者(広告主、アプリ事業者、EC・デジタルサービス事業者等)にも、契約・表示・運用の見直しが波及します。
【デジタル取引を行う多くの事業者に共通するもの(利用事業者・広告主・アプリ提供者等)】
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)規約・免責・価値移転条項の棚卸しと変更管理の整備(仕様書・画面表示・運用手順と整合するよう、改定理由、周知、同意取得、履歴管理を手順化する) | 規約と実装の不一致により、問い合わせ・返金・紛争対応と改修が発生する | プロダクト変更と規約改定を同一の変更管理で処理でき、再告知・再開発を抑制できる |
| (2)広告運用の委託管理と証跡の標準化(代理店・媒体等を含め、出稿条件、停止基準、苦情対応の責任分界、設定・レポート・是正の記録を定型化する) | 不正広告・苦情発生時に、停止判断・原因究明・是正の責任分界が不明確となり対応が遅れる | 苦情対応・是正要求を定型化でき、委託先を含む運用品質を平準化できる |
| (3)UI/UX変更の審査・モニタリング手順の整備(誤認を生じ得る導線(同意、解約、課金、外部遷移等)を対象に、変更前レビューとリリース後モニタリングを手順化する) | UI変更の判断根拠が残らず、誤認を招く表示・導線が混入した場合に是正・説明が遅延する | 判断記録を残し、外部照会・監査への説明資料を作成しやすい |
| (4)OS/ストア等への依存点の棚卸しと導線再設計(決済導線・リンクアウト・選択画面等の要件を前提に、販売・課金・集客の設計(手数料、表示、代替経路)を見直す) | 運用具体化後に改修が集中し、導線変更や契約変更が遅延する | 代替導線を織り込んだ収益設計が可能となり、収益影響(手数料・CVR等)の管理精度を上げられる |
【特定の事業者で必要となるもの(制度の直接対象:指定事業者/特定デジタルプラットフォーム提供者)】
| 企業に求められる対応 | リスク | 機会 |
|---|---|---|
| (1)OS機能制限/決済・リンクアウト/選択画面の設計をスマホ法対応の「運用」に反映する(対象ソフトウェアごとに、禁止・義務類型に対応した設計要件、審査基準、例外判断、変更管理、ログ保全を整備する) | 設計・審査・運用が整合しないまま運用が開始され、突発的な是正対応(設計変更、審査や手続の見直し)が必要となる | 仕様・審査・運用を一体管理でき、改修の手戻りと紛争対応コストを抑制できる |
| (2)透明化法の評価サイクルに対応する(定期報告・評価を前提に、取引条件等の開示、苦情・紛争処理、改善措置の実施・記録・説明を標準化する) | 評価で指摘された論点への対応が場当たりとなり、改善の説明資料や根拠が不足する | 指摘事項に対する改善計画と実施状況を継続管理でき、対外説明の一貫性を確保できる |
3.まとめ
2026年は、規程整備や体制構築にとどまらず、現場プロセス・データ・証跡・システムに落とし込み、継続的に運用できる状態をつくれるかが問われます。変化をコストとして受け止めるのではなく、取引の公正性、働きやすさ、透明性、レジリエンス、そして成長投資の土台づくりへとつなげていくことが重要です。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 荒尾 宗明
マネジャー 吉田 愛子
シニアコンサルタント 中畑 良丞