前回の解説では、2025年上半期の米国のAI政策変更の各国に対する影響を中心に、各国のAI規制動向を紹介しました。(2025年上半期世界各国のAI規制現状 - KPMGジャパン)下半期は、その影響が続くなかで、EUのAIの規制にも変化が出はじめたことに加え、日本のAI政策にも新しい動きがありました。本稿ではそうした動向を解説するとともに、経済発展が著しく日本企業の注目も大きいインドおよびASEAN諸国における規制環境の変化についても解説します。
1.2025年下半期日本のAI規制動向
2025年9月1日に、AIのイノベーションを促進しつつ、リスクに対応するために、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」が全面施行されました※1。
内閣府では、このAI法をもとに、内閣総理大臣を本部長とするAI戦略本部を設置し、また9月12日には、AI関連技術の研究開発および活用の推進に係る専門的な調査を行うために「人工知能戦略専門調査会」を設置しました。12月19日の第3回人工知能戦略専門調査会の開催後、23日に「AI法」の内容に基づいた「人工知能基本計画※2」が公表されました。
この基本計画では、「人間中心のAI社会原則」を踏まえ、AI関連技術の研究開発および活用の推進に関する施策についての4つの基本方針を挙げています。
- AI利活用の加速的推進
- AI開発力の戦略的強化
- AIガバナンスの主導
- AI社会に向けた継続的変革
また、この4つの基本方針のもとに、図1で示すとおり、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を記載しました。
図1 「人工知能基本計画」の基本方針と政府の施策
出所:内閣府「人工知能基本計画」をもとにKPMGが作成
2025年10月21日に高市政権が発足してから、日本政府は、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信等6つの分野を重点的に支援する措置※3や、防衛産業におけるAIの活用推進※4等、AIの開発・利活用促進に関連する支援策をいくつか公表しました。それとともに、AIの安全性については、総務省が2026年から、生成AIの信頼性や安全性を評価するAI基盤システムの開発を、所管の情報通信研究機構(NICT)において開始する※5と発表しています。
世界各国における激しいAI競争のなか、日本としては、今までの政策で形成してきた「人間中心」、「安心・安全」の理念を引き続き保持しながら、AIの研究開発・利活用における適正性の確保に力を注いでいくとみられます。
2.2025年下半期EUのAI規制動向
EUでは、2024年5月21日に、生成AIの規制を含む包括的なAI規制「EU AI Act」が成立し、同年8月1日に発効しましたが、この中で定義された4つのリスクレベルのうちの1つ、「禁止されるAI」に関する条項はすでに2025年2月2日から適用されています。
また、2025年8月2日には、EU AI Actにある汎用目的AIモデルに関する条項が適用されました※6。
汎用目的AIモデルに関する条項には、次の内容が含まれます。
- 2025年8月2日から欧州委員会は、EU AI Act第52条に基づき、次の決定を行うことができます:汎用目的AIモデルをシステミック・リスク(金融システム全体または市場全体の崩壊につながる可能性のあるリスク)を伴うものとして指定すること、および、汎用目的AIモデルの判断や適正性に関する主張の受理または却下。
- 2026年8月2日から、汎用目的AIの提供者には以下の義務が課されます。
- モデルのトレーニングやテストプロセス、評価結果を含めた技術文書を作成し、AIオフィスおよび各国の所管当局の要求に応じて提供できるようにする(EU AI Act第53条)
- 第56条に記載の「行動規範(codes of practice)」または欧州整合性規格(Harmonised Standards)に従わない場合、適切な代替手段を示さなければならない(EU AI Act第53条)
- 違反した場合、前会計年度における全世界年間総売上高の3%または1,500万ユーロのいずれか高い方の罰金が科される(EU AI Act第101条)
EU AI Actに記載のタイムラインによると、2025年8月2日に汎用目的AIの適用開始後、2026年8月2日に一部の高リスクAIシステムを除いたすべてのAIシステムの条項が適用開始、2027年8月2日にEU整合法令の影響を受ける高リスクAIシステムに対する規制が適用される予定でした。しかし、EU圏内の「過度な規制はAI技術の発展を妨げかねない」という懸念や米国等からの規制緩和の要求の影響を受け、2025年11月19日、欧州委員会は、2026年8月以降適用開始分の規制を緩和する提案を公表しました※7。
図2 EU AI Actの概要とタイムライン
緩和案では、高リスクAIシステムに関する規則を適用させるには、標準化された技術仕様・ガイダンスの整備が必要とし、高リスクAIシステムに関する規則は、適用開始まで最長16ヵ月の調整期間を有して、必要な基準を含む支援ツールを整備するとしました。延期の対象となる高リスクAIシステムには、バイオメトリクス(遠隔生体認証、感情認識など)、重要インフラ(交通、電気・ガス・水供給の安全管理など)、教育(入学選考、学習評価など)、雇用・労務管理、法執行・司法、移民管理、社会保障・公共サービス等があります。
緩和案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会によって審議される予定です。
3.EU諸国の国内AI規制法
EUでは欧州連合全体としてEU AI Actを公表していますが、EUに所属する個々の国もEU AI Actをもとに、自国の国内情勢に合わせたAI国内法やガイダンスを2025年から徐々に公表しています。
2025年9月23日に、イタリアは国内AI法「Law No.132/2025」を公表しました※8。当法はEU AI Actを補完することを目的とし、職場、ヘルスケア、刑法、金融と保険業界等におけるAIの使用、及び政府の権限について規制措置を規定しています。
当法は2025年10月10日に発効しており、EU圏内では初めて個別の国がEU AI Actに整合形で公表したAIに関する法律です。
図3 イタリア国内AI法の概要
イタリアの他に、デンマークは2025年2月からEU AI Actで規定された禁止AIの利用についてガイダンスを公表しています※9。また、チェコの産業貿易省は2025年9月に、EU AI Actに合わせるための国内AI法の草案を提示しました※10。今後閣内の意見募集を経て法案を政府に提出し、可決された場合は2026年から施行する見込みです。
4.2025年下半期米国のAI規制動向
2025年12月11日に、トランプ大統領は「AIの国家的政策枠組みの確保(Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence)※11」を公表し、連邦政府のAI方針と方向性が矛盾する州のAI規制について、異議を唱えることや州への開発資金を差し止めることができるとしました。この大統領令では、コロラド州の「アルゴリズム差別」を禁止する法律のように「モデルにイデオロギー的偏りを組み込むこと」を要求する理由となりえる法律は、差別的扱いを回避するためにAIモデルに虚偽の結果を出すことを強いる可能性があると述べています。また、州間の通商の阻害要因となる可能性があることも指摘され、今回の大統領令の公表に至りました。
具体的な施策として、連邦政府の政策と対立する各州の規制の特定を商務長官に指示するとともに、特定された各州の規制を提訴する「AI訴訟作業部会」の設立を司法長官に指示し、また、過剰な規制を制定する州に対して連邦政府の助成プログラムの提供を停止する措置を商務長官に指示しました。
一方、2025年下半期にはカリフォルニア州を代表に、複数の州においてさまざまなAI規制が成立・施行されました。
図4 2025年下半期米国各州で成立・発効したAI規制例
大統領令で言及されたように、現在米国では州ごとのAI規制が多く成立しています。それに対し、連邦政府はAIの規制緩和を望む姿勢であり、州と連邦政府の対立がみられています。
前回の記事で解説したように、トランプ大統領は2025年5月に米国におけるAI規制を10年間禁止する「One Big Beautiful Bill Act」を提出し、7月に当法は可決されたものの、この中のAI規制の禁止に関する部分は上院によって削除されました。その後7月23日にホワイトハウスにて、トランプ政権は、 AI 分野で推進していく包括的な戦略、および、それを踏まえた具体的政策をとりまとめた「競争に勝つ-米国のAI 行動計画 (Winning the Race, America’s AI Action Plan)」を発表しました。連邦政府としては、現在米国内でAI投資が加熱するなか、過剰な規制が成長を妨げかねないとの考えであり、連邦レベルでの規制枠組みを具体的に策定し、州レベルでの過度な規制を抑制することでAI競争における優位性を維持・強化する方針です。
5.2025年下半期中国のAI規制動向
米国、EUが互いに影響し合うなか、中国は独自の国内規制・管理体制を整備しながら、グローバルな規制フレームワークの構築に働きかけています。
2025年7月26日に、世界AI大会(WAIC)およびAIグローバルガバナンス・ハイレベル会議が上海で開かれました。開会式で中国の李強首相は「グローバルAIガバナンス行動計画」を発表し※19、また、多国間主義に基づく国際協力の枠組みとして「世界人工知能協力機構」を上海に設立することを提案しました※20。中国政府はこれを機に、AIの技術と管理に関する理念を、国際的なコミュニケーションを通じて世界へ広げるとされています。
一方、中国国内のAI規制に関しては、2025年9月から11月にかけていくつかの規制、フレームワークおよびガイダンスが公表・施行されました。2025年9月1日に、中国政府は「人工知能生成合成コンテンツ識別弁法」を全面施行しましたが※21、当法はAI生成物への明示・暗黙ラベル付けを義務化しており、全プロセスでの責任分担と追跡可能性を求めています。また、9月15日に、中国サイバースペース管理局の指導の下、「人工知能安全ガバナンスフレームワーク」2.0版が公表されました※22。当フレームワークは、2024年9月に公表されたフレームワーク1.0版の上で、AI技術の発展に応じてリスクを継続的に追跡・分類し、階層化の研究と防止策の動的更新を行うものです。
10月10日に、中国政府は「行政分野におけるAI大規模モデルの展開・応用ガイドライン」を策定しました※23。行政の革新的発展を促進するとともに、ガバナンス効率の向上、サービス管理の最適化、科学的政策決定の支援を実現するため、行政サービス、社会ガバナンス、意思決定支援におけるAIの活用を推進する見込みです。その後、10月28日に、中国・全国人民代表大会常務委員会により、「中華人民共和国サイバーセキュリティ法」の改正が決定され、AIの推進、およびAI等新技術のサイバーセキュリティへの活用に関する新たな条項が追加されました※24。正式な施行は2026年1月からです。当法に対する改正は9年ぶりになりますが、改正の背景には、中国国内のSNSにおけるAIフェイク情報の氾濫とそれに対する取締り強化の意思があります。
法的拘束力があるものではないものの、2025年11月1日には、生成AIとAIに使用されるデータに関するガイダンスが複数公表されています。
- 「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能サービス安全基本要求」※25:中国国内にあるAI企業がモデルのトレーニングデータやモデル生成コンテンツなどに関して採用すべき具体的な監視プロセスに関するガイダンス
- 「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能の事前学習とファインチューニングデータの安全規範」※26:生成AIモデルの開発に使用されるトレーニングおよびファインチューニングデータに関するセキュリティルールの提案
- 「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能のデータアノテーションに関する安全規範」※27:生成AIのセキュリティの向上のために、生成AIに使用されるデータのアノテーションに関するルールの提案
その後、12月27日に、中国国家インターネット情報弁公室(CAC)は対話型AIの感情安全性を監督する規制案「擬人化AI対話サービス管理暫定弁法(パブリックコメント募集版)」を公表しました※28。当規制案は、中国国内で一般向けに提供される人間の人格を模倣し、ユーザーとの感情的なやり取りを行うAIサービスを規制対象としており、データプライバシーの保護や安全性の確保を求めるとともに、一般ユーザーや未成年者、高齢者の使用安全を保護するための措置を規定しています。また、対象となるAIサービスにはユーザーの感情と当該AIサービスに対する依存度を検知する機能の設置を求め、ユーザーが連続的に2時間以上当該AIサービスを使用する場合、一時中止を促すポップアップ機能の設置や、ユーザーから明らかな自殺・自傷行為が提示された場合、対話機能を人工サービスに切り替えることを求めています。
AIコンパニオンチャットボットに対する規制に関しては、米国カリフォルニア州が2025年10月13日に「SB-243(Companion Chatbots)」の成立を公表しており※29、当法では、ユーザーが未成年者であることが判明した場合、3時間ごとにポップアップリマインダーを表示し、AIとの対話であることを年齢に適した言葉で再度強調することが義務付けられていますが、前述の中国の規制案は、「SB-243」よりさらに包括的で具体措置を規定しているとみられ、2026年1月25日までパブリックコメントを募集していました。
図5 2025年下半期中国のAI規制概要一覧
中国においては、AIは国家技術支援の最重要項目の1つであり、迅速かつコントロールできる範囲内の発展が求められています。そのため、政府は今後も中国国内のAI市場の進展に伴う社会課題を発見次第、積極的に解決するための規制を策定していく見込みです。
6.2025年下半期韓国のAI規制動向
2025年下半期、韓国では「AI基本法」の円滑な施行に向け、以下の準備が行われている状況です。
2025年9月8日、韓国は「国会AI戦略委員会」を発足し、2026年1月22日から施行開始の韓国「AI基本法」に関する従位立法(日本の政省令に相当)とガイダンスの策定についての声明を公開しました。従属立法では、AIの研究開発、トレーニングデータの構築、AIの採用と利用、専門人材、海外展開支援、中小企業への特別支援等を含め、法律で定義された支援の対象、基準、および具体的内容を明確にする予定です※30。
また、11月13日、韓国科学技術情報通信部(MSIT)は「AI基本法」を施行するための細則と手続きを定義した「施行令」の草案を公表しました※31。草案には「AI基本法」を施行するための3原則が記載されています。
3原則は次の通りです。
(1)AI産業育成のための支援プログラムの基準を明確化すること
(2)国家AI政策のための支援機関の指定および運営を定義すること
(3)AIの安全性と信頼を確保するための制度を特定し明確化すること
2025年12月22日までに集まったパブリックコメントを反映させた最終版が決定され、2026年1月22日に施行されました。
7.インドのAI規制動向
インドは、急速な経済成長を遂げる国として世界中から注目を集めています。日系企業の拠点数は、外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」※322024年の調査結果によると、アジア地域では中国、タイに続いて第3位にランクインしています。また、インドは近年IT産業において大きな進展をみせており、AI産業に関してもポテンシャルのある国として、日本とのビジネスチャンスや協力の増加が期待されています。
インドでは2024年からAIをめぐる議論が活発になってきており、2025年1月6日には、政府主導のAIガバナンス・ガイドライン策定委員会により、「AIガバナンス・ガイドライン策定に関する報告書」が策定され、政府への政策提言がなされています※33。
2025年8月13日、インドの中央銀行であるインド準備銀行は、「金融業界における人工知能の責任ある倫理的活用のためのフレームワーク(framework for Responsible and Ethical Enablement of Artificial Intelligence)※34」を公表しました。ここでは金融業界におけるAI採用のための指針となる7つの「スートラ(「経典」という意味。ここでは「指針」として理解される)」が示され、6つの戦略的な柱と、その下での26の具体的な推奨事項が記載されています。このフレームワークは、イノベーションとリスク管理のバランスを取り、AIの導入が消費者保護や金融の安定性を損なうことなく、効率性、信頼性、および回復力を向上させることを強調しています。
また、2025年9月1日には、インド国立サイバーおよびAIセンター(NCAIC)が、インド2025-2026年向けの「AIガバナンスフレームワーク※35」を公表しました。このフレームワークは、ISO 42001やNIST AI RMF等の国際基準との整合性を取りながら、「人間中心性」、「包摂性」、リスクの比例原則の下で、インド独自の社会技術環境に合わせたリスクベースのアプローチを提供し、インドの責任あるAIに対する積極的な姿勢を見せています。
その後、2025年10月22日には、インド電子情報技術省(MeitY)はAIとソーシャルメディア企業に対して、AIによる生成コンテンツに識別のためのラベル付けを義務付ける規制強化案を公表しました※36。また11月5日には、インド政府が「インドAIガバナンス・ガイドライン」を公表しています※37。
図6 インドの「AIガバナンス・ガイドライン」概要
全体的にいえば、2025年下半期からインドはAIのガバナンス・ガイドラインや規制の策定に積極的な姿勢を示しています。
8.ASEAN諸国のAI規制現状
ASEAN諸国は、近年日系企業の進出、そして日本のIT企業のオフショアサービスの拠点としても注目されている地域です。現在ASEAN諸国はAIに関する規制を整備している段階です。ただし、2026年にも規制法を公表すると発表した国もあるため今後注目すべき地域です。
以下、ASEAN諸国において日系企業の進出拠点数が比較的多い国、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシアとマレーシアのAI規制の現状を解説します。
8.1.タイのAI規制現状
タイ政府は、2022年4月より、リスクベースでAIを厳しく規制する「人工知能システムを利用するサービス事業の運営に関する王令」の草案を作成していました※39。その一方でタイ閣議は、2022年7月に、国の経済成長、AIインフラの構築とイノベーションを支援するための「国家AI行動計画(2022ー2030)」を承認※40するとともに、タイ電子取引開発局は2023年7月にその行動計画の実現支援のため、「国家人工知能イノベーション振興・支援に関する法案」を公表しています※41。
現在、タイ規制当局では、2022年の王令と2023年の支援法案を統合して、規制の枠組み(安全策)と成長促進という2つの要請を1つの法的枠の下で調整しようとしており、2025年5月に「AI法の原則(草案)」を公表しています。
8.2.マレーシアのAI規制現状
現在、AIを規制する法律はまだ存在しませんが、2025年11月24日に、マレーシアのデジタル担当大臣は、マレーシア初のAIガバナンス法案の起草はほぼ完了していると声明を発表しています※42。AIに関するリスクに包括的に対処しようとする包括的な法案であり、2026年6月に閣議に提出される予定です。
なお、マレーシアでは、2024年9月20日にマレーシア科学技術革新省(MOSTI)が法的拘束力のない「AIガバナンスと倫理に関する国家ガイドライン」を発行しています※43。
8.3.ベトナムのAI規制現状
2025年11月6日に、ベトナム政府が、2026年6月1日からの施行を目指して「人工知能法」の策定に向けた提案書を国会に提出しました※44。当法案はEU AI Actを参照したリスクベースアプローチを採用しており、2030年までにベトナムが「ASEAN地域と世界におけるAIソリューションの革新と開発の中心となる」という目標で策定したものです。法案が通過すれば、ベトナムにおけるAIシステムは、人間が「最終責任」を持つ監視の下でいくつかの基本的原則に従うことが必要になってきます。
8.4.フィリピンのAI規制現状
フィリピンでは現在、法的拘束力のあるAI規制は存在しません。2024年4月にフィリピンの情報通信技術省(DICT)と人事院(CSC)が提携し、政府における倫理的かつ信頼できるAIの原則とガイドラインの草案を作成しました。同年7月にフィリピン政府は「国家AI戦略ロードマップ2.0(NAISR2.0)」を発表し、AIガバナンス枠組みの必要性を明記しました※45。現在、AIの原則とガイドラインの草案はその他のAI 関連法案と同様にまだフィリピン国会で保留されています。
8.5.インドネシアのAI規制動向
インドネシアでは現在、AI規制は存在せず、電子情報・取引、個人データ保護、電子システム事業者の規制といった既存の規制を用いて、AI技術およびその応用を監督しています。インドネシア通信・デジタル省は2025年7月に同国初の包括的なAIロードマップ白書を公表し※46、2045年までのAI開発に関する国家ビジョンを示しました。ここでは、政府、産業、社会全体でのAI導入に関する戦略的優先事項を示しており、人材育成、デジタルインフラ、責任あるイノベーションを強調しています。同省は、ロードマップと合わせて国家AI倫理ガイドラインの概念案も公表しており、AIシステムがインドネシアの価値観、人権、公的信頼に沿って開発・展開されることを目指しています。
現在インドネシア政府は、AIロードマップ白書とAI倫理ガイドに基づいて2つの規制草案を作成しており、大統領の署名を待っている状態です。草案は最終的に大統領令として、2026年の早い時期に公表される予定です※47。
8.6.日ASEAN・AI共創イニシアチブ
2025年10月26日に、高市総理大臣は第28回日ASEAN首脳会議で、AI分野における日本およびASEAN諸国間の連携・協力の強化および双方への裨益を目指すことを目的として、「日ASEAN・AI共創イニシアチブ」の立ち上げを提案しました※38。
日ASEAN・AI共創イニシアチブは、4本の柱で構成され、ASEAN各国との政府間や産官学の連協を強化することによって4本の柱を推進してきます。
図7 日ASEAN・AI共創イニシアチブ概要
まとめ
2025年下半期世界各国のAI規制動向をまとめると、次のようになります。
- EU AI Actの施行緩和意向と、EU諸国における自国の規制・ガイダンス作成の加速
- 米国連邦政府の、AIに関する全米共通の枠組みの策定方針と、それに対する州レベルの姿勢の異なり
- 日本、および中国における、自国向け既存AIガバナンスの強化
- インドにおけるAIガバナンス整備の急速な展開
- ASEAN諸国と日本の共創によるAIガバナンス整備の促進
AI技術の迅速な発展が続くなか、世界各国はAIがもたらすメリットとリスクに対する考え方を常に更新しており、また、国によっては国家の成長戦略や他国の影響を受けて規制方針を変えることもあります。そのため、AIの規制には、2026年もさまざまな変化がみられると予想されます。
KMPGジャパンは、「KPMG Trusted AI」フレームワークを導入し、日本国内をはじめとした各国政府や公的機関が発行する指針・ガイドライン、進展する法制化動向等をアドバイザリーに取り入れ、企業のAIガバナンス構築を支援します。AIの活用・導入を加速する際に、先進的な技術が複雑性とリスクをもたらす可能性がある状況において、「KPMG Trusted AI」は責任ある倫理的な方法でAI戦略とソリューションを設計、構築、展開、使用するための戦略的アプローチとフレームワークであり、企業価値の向上に貢献します。
※2:「人工知能基本計画」
※3:「国家戦略技術」創設、AI・核融合など6分野 税・予算を重点支援 - 日本経済新聞
※4:防衛産業のAI活用推進 産官学の知見共有・開発促進へ装備庁がシンポ - 日本経済新聞
※5:AIの信頼・安全性を評価するAI 総務省が26年度にも試作 - 日本経済新聞
※7:Digital Omnibus on AI Regulation Proposal | Shaping Europe’s digital future
※8:イタリアの国内AI法
※10:The Ministry of Industry and Trade has prepared a draft law on artificial intelligence
※11:Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence
※12:SB-2373 Financial Abuse Using Artificially Generated Media or Phishing
※13:ARTICLE 47-Artificial Intelligence Companion Models
※14:AB-979 California Cybersecurity Integration Center: artificial intelligence
※15:AB-489 Health care professions: deceptive terms or letters: artificial intelligence
※16:SB-524 Law enforcement agencies: artificial intelligence
※17:AB-316 Artificial intelligence: defenses
※18:AB-853 California AI Transparency Act
※19:Global AI Governance Action Plan
※20:人民網日本語版「中国政府が世界AI協力機構の設立を提唱」
※23:「行政分野におけるAI大規模モデルの展開・応用ガイドライン」
※25:「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能サービス安全基本要求」
※26:「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能の事前学習とファインチューニングデータの安全規範」
※27:「サイバーセキュリティテクノロジー 生成式人工知能のデータアノテーションに関する安全規範」
※28:「擬人化AI対話サービス管理暫定弁法(パブリックコメント)」
※29:「SB-243 Companion chatbots」
※30:National AI Strategy Committee Launched as Korea’s Top-Level AI Policy Body
※32:外務省-海外進出日系企業拠点数調査
※33:India「Report on AI Governance Guidelines Development」
※35:AI Governance Framework for India 2025–26
※37:India AI Governance Guidelines
※38:第28回日ASEAN首脳会議
※39:「(草案)人工知能システムを利用するサービス事業の運営に関する王令(パブリックコメント募集版)」
※41:「国家人工知能イノベーション振興・支援に関する法案」
※42:Malaysia to Introduce Comprehensive Legal Framework for Artificial Intelligence
※44:ベトナム政府「人工知能法」提案書
※45:National AI Strategy Roadmap 2.0 - July 2024
監修
あずさ監査法人Digital Innovation部 宇宿 哲平 近藤 純也
執筆
あずさ監査法人Digital Innovation部 王 雪竹 須崎 公介 伊藤 大貴