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      本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

      EVの充電インフラ整備は、利便性の向上に加え、エネルギー政策や産業戦略とも密接に関係しています。欧州と米国の取組みアプローチを比較し、その背景と展望を探ります。

      欧州と米国で進む充電インフラ整備

      欧州と米国はともに「グリッド政策」を掲げ、公共の充電インフラの整備を進めています。
      欧州では、60kmごとに充電設備を設置することを目標としており、AFIR(Alternative Fuels Infrastructure Regulation)に基づき、2030年までに欧州横断交通網(TEN-T)に150kW級の乗用車・バン向け充電器を義務的に整備します。さらに、大型車向けには最大出力350kWの充電インフラも配置される予定です。
      一方米国では、NEVI(National Electric Vehicle Infrastructure)プログラムに基づき、州間高速道路に50万基規模の充電器を設置する計画を進めています。充電器の設置間隔は50マイル(約80km)とされ、さらに「州間道路の出口から1マイル以内でアクセス可能」という厳しいアクセス基準も設けられています。

      【図表1】
      Japanese alt text: 政策で進む欧州、市場に委ねる米国:BEV充電インフラの行方_図表1

      しかし米国では、政権交代の影響でNEVIプログラムが一時停止に追い込まれています。
      2025年1月に発足したトランプ政権は、エネルギー政策の見直しの一環としてNEVIを棚上げし、この方針に対して民主党議員や一部の州から強い反発が起きました。その結果、2025年5月には16州が連携して連邦政府を提訴する事態にまで発展しています。
      本来、巨額の予算が充てられる予定だったにもかかわらず、2025年第2四半期に予定されていた資金の執行も遅れており、各州が策定した「State Plan」に基づく充電インフラ整備は、現在宙に浮いた状態となっています。

      【図表2】
      Japanese alt text: 政策で進む欧州、市場に委ねる米国:BEV充電インフラの行方_図表2

      この背景には、2025年7月に成立した「One Big Beautiful Bill Act(H.R.1)」の影響があります。
      この法案は、化石燃料産業への規制を緩和する代わりに、再生可能エネルギーや電気自動車(以下、BEV)関連の税額控除を廃止・縮小するという、大きな政策転換を伴いました。
      具体的には、消費者向けのBEV購入に対する税控除が2025年9月末で終了し、商用車も税控除対象外となります。さらに、充電インフラ整備に対する優遇措置も撤廃されました。
      これにより、BEVの普及を後押ししていた政策的支援は大幅に弱まり、代わりに石油・ガス産業の活動が今後加速する見通しとなっています。

      【図表3】
      Japanese alt text: 政策で進む欧州、市場に委ねる米国:BEV充電インフラの行方_図表3

      こうした政策の混乱のなかで、注目されているのが技術標準化の動きです。
      米国では、SAE Internationalが「NACS(North American Charging Standard)」の標準化を発表し、これまで主流だった「CCS(Combined Charging System)」との競合関係が急速に解消されつつあります。
      NACSの標準化は、自動車メーカーや部品サプライヤーにとって、充電規格の信頼性と利便性を高める基盤となります。消費者にとっても、充電ポイントの拡大につながるメリットがあります。
      すでに多くの自動車メーカーがNACSの採用を表明しており、今後は事実上の“デファクトスタンダード”として普及が進むと見られています。

      【図表4】
      Japanese alt text: 政策で進む欧州、市場に委ねる米国:BEV充電インフラの行方_図表4

      もっとも、NEVIプログラムの停止や税制優遇の廃止が、米国市場におけるBEVの普及を必ずしも止めるとは限りません。
      自動車メーカーが独自に充電ネットワークを構築し始めており、NACSの標準化が進むことで、民間主導によるインフラ整備が加速する可能性があります。
      このような動きは、政府主導の支援が弱まるなかでも、業界全体が持続的にBEVの普及を推進していく力を持っていることを示しています。

      2030年を見据えると、欧州と米国のアプローチの違いがより鮮明になってくるでしょう。
      欧州は「政策主導型」で、政府が明確な規制や目標を設定してインフラ整備を推進しています。一方、米国は「市場主導型」で、企業や消費者の動きが中心となってBEV普及を支えています。
      BEVの充電インフラは、単なる利便性の問題にとどまらず、産業政策やエネルギー安全保障とも深く関わっています。どちらのアプローチが持続可能な普及につながるのか――今後数年間がその分岐点となるでしょう。
      特に、米国におけるNEVIプログラムの行方と、NACSの普及速度は、世界全体のBEV戦略に大きな影響を与える重要な要素となるはずです。


      ※本稿の図表の参考資料は以下のとおりです。
      ・EU TENtec (EU)
      ・Electric Vehicle Charging Station Locations(US Department of Energy)
      ・充電インフラ整備促進に向けた指針を策定しました(経済産業省)
      ・PART 680—NATIONAL ELECTRIC VEHICLE INFRASTRUCTURE STANDARDS AND REQUIREMENTS(米国議会)
      ・H.R.1(米国議会)
      J3400_202409 - North American Charging System (NACS) for Electric Vehicles(SAE International)

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      プリンシパル 轟木 光

      轟木 光

      プリンシパル

      KPMGコンサルティング

      欧州代替燃料インフラ規則(AFIR)を基盤として拡大する、欧州のBEV充電網の動向を考察します。

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