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      本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

      2025年7月4日に成立した「One Big Beautiful Bill Act(H.R.1)」を受け、米国のエネルギー・環境・自動車政策がどのように変化したかを解説し、日本の自動車産業の方向性を探ります。

      米国政策の転換がもたらすエネルギー・自動車政策の新局面

      2025年7月4日、大統領署名によって成立した「One Big Beautiful Bill Act(H.R.1)」は、米国のエネルギー・環境、そして自動車政策における方向性を大きく転換させる出来事となりました。特にBEVの販売や普及に対して、これまで制度的に与えられてきた後押しを事実上停止し、むしろ化石燃料を含む既存エネルギー体系への依存を再び高める方向性を鮮明にしています。

      この法案では、エネルギー政策全般において化石燃料関連の規制緩和が広く盛り込まれています。具体的には、メタン排出削減プログラムへの資金提供が停止され、排出量の監視や報告を通じた削減努力に対する財政的支援(インセンティブ)が廃止されました。また、連邦政府が所有する陸地および海域においては、石油・ガスの採掘に関する規制が緩和され、開発がより容易になっています。

      一方、再生可能エネルギー分野では、税制優遇措置の見直しや補助金の削減が行われました。さらに原子力分野では、外国資本が関与する一部の企業に対して、税額控除の適用が認められなくなりました。これらの変更は、長期的な低炭素化投資の収益性を低下させ、再生可能エネルギー分野への資本流入を抑制する可能性があります。

      【図表1】
      Japanese alt text: Case Study:米国電動化の岐路_図表1 出所:「One Big Beautiful Bill Act(H.R.1)」(米国議会)を基にKPMGにて作成

      とりわけ自動車分野では、BEVに直接影響を与える項目が複数含まれています。まず、消費者向けのBEV購入に対する税額控除が2025年9月30日で終了し、新車・中古車ともに対象外となります。これにより、BEVの価格競争力が大きく低下し、特に中価格帯モデルでは需要の減少が懸念されます。

      さらに、企業平均燃費基準(CAFE)に違反した場合の罰金が「0ドル」に設定され、事実上、規制の拘束力が失われました。この変更により、自動車メーカーが低燃費車や電動車の開発に取り組むためのインセンティブが大きく損なわれることになります。

      【図表2】
      Japanese alt text: Case Study:米国電動化の岐路_図表2 出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMGにて作成

      2025年6月12日、米国の電動化政策に大きな影響を与える動きとして、カリフォルニア州が導入していたZEV(ゼロ・エミッション車)販売比率の義務を無効化する法律が成立・施行されました。これは、連邦議会が「連邦大気浄化法」に基づくカリフォルニア州の特別な規制権限を覆す法案を可決し、大統領が署名したことによるものです。

      この結果、カリフォルニア州が独自に設定していたZEV販売目標(たとえば2035年までに新車販売の100%をZEVにする計画など)は法的拘束力を失い、州の規制当局と自動車メーカーとの間で結ばれていた合意も「実行不能」と判断されました。

      規制の撤廃により、自動車メーカーはZEVと内燃機関車の販売比率を自由に設定できるようになりました。これにより、電動化の進展は市場のニーズや収益性に応じて変化し、地域ごとの違いがより顕著になる可能性があります。

      こうした政策の変更は、自動車市場の構造そのものに影響を及ぼす可能性があります。短期的には、自動車メーカーにとって開発コストや罰金の負担が軽減されることで、利益率が改善し、内燃機関車の販売シェアが回復することが予想されます。

      一方で、中長期的には、BEVに関する研究開発や生産設備への投資の優先度が下がり、代わりにハイブリッド車や高効率な内燃機関車、さらには代替燃料車への投資が進む可能性があります。

      これまで米国のBEV市場は、連邦税控除、州による規制、そして罰金制度という3三つの柱によって支えられてきましたが、これらの仕組みが崩れたことで、今後は補助金に依存せず、消費者の選好に基づいた市場へと移行していく可能性が高まっています。

      このような政策変更の影響は、米国内にとどまらず、国際的にも広がる可能性があります。欧州や中国が依然として厳しい電動化目標を掲げている一方で、米国市場が内燃機関車の販売に対して寛容な姿勢を取ることで、グローバルな自動車メーカーは市場ごとに異なるパワートレイン戦略を採らざるを得なくなります。

      たとえば、同じ車種でも、欧州や中国向けにはZEVやNEV(新エネルギー車)の比率を高く維持し、米国向けには内燃機関車やハイブリッド車を含む多様な構成を提供する「地域別最適化戦略」が加速することが予想されます。


      ※図表2の参考資料は以下のとおりです。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      プリンシパル 轟木 光

      轟木 光

      プリンシパル

      KPMGコンサルティング

      ドライバー不足やITの老朽化等から日本の物流網が危ぶまれるなか、有力な解決策として注目される高速道路での自動運転トラックについて解説します。

      不確実性が高い環境下において、自動車産業が取り組むべき対応について、テーマ別にさまざまな視点から解説しています。

      自動車産業の現状の課題や将来予測に関する連載記事集です。

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