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      本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

      欧州におけるBEV(バッテリー式電気自動車)の市場動向について、政治と産業それぞれの面から考察します。

      1.1兆ユーロ産業が抱える二律背反

      欧州の自動車産業は域内GDPの約7%、民間R&D投資の約3分の1を占める“屋台骨”ですが、BEVに関して中国勢に欧州市場も雇用も奪われかねない状況です。欧州自動車産業行動計画(Industrial Action Plan for the European automotive sector、以下、IAP)はこの危機感を前面に出し、デジタル化・クリーンモビリティ・サプライチェーン強靭化・スキル再構築・公正競争の5本柱を掲げました。

      とりわけ注目を集めたのがCO2排出規制の「三年平均達成」導入案です。達成年度を平準化することで2025年の巨額罰金を回避させ、確保した資金をBEV競争力向上へ振り向ける――という戦略です。さらに企業フリート車(欧州新車販売台数の60%を占める)に的を絞り、BEVを含めたゼロエミッション車の販売を促進する方策も提案されています。これらは短期的にBEVの販売減速を緩和する可能性が高いと考えられますが、CO2排出量目標そのものは据え置きである点が重要です。また今後は乗用車および小型商用車についてはCO2排出規制の見直しを事実に基づいた分析によって行うことも提案しています。

      もう1つの戦略の目玉はバッテリーブースターパッケージと言われる資金調達支援です。欧州イノベーション基金からBEVのバッテリー製造のために最大30億ユーロが投入される予定です。またCRM(Critical Raw Materials)パートナーシップでは、欧州自動車産業の重要原材料の安定的な確保とサプライチェーンの強靭性向上を目指し、14の原材料に関する戦略的パートナーシップを資源国と進める予定です。

      欧州委員会は2030年までにバリューチェーンの50%以上を域内化するとしていて、(1)コスト競争力のある国内バッテリーセル生産とサプライチェーンの構築、(2)アノード活物質、カソード活物質とその前駆体、その他の関連するバッテリー材料部品の欧州域内生産能力の確保、(3)欧州または海外における欧州企業によるバッテリー材料の採掘および精製事業への投資の取組みを具体的に掲げています。

      2.EPPの“現実主義”

      欧州の最大政党であるEPPはIAPを「ファーストステップ」と評価しながらも、(1)2035年内燃機関販売禁止の再考、(2)大型商用車のCO2規制の見直し、(3)計画だけでなく実際の実行が大切であると主張しています。2050年までに気候中立の目標を達成するためには、利用可能なすべての技術が必要であるとし、欧州委員会における技術的中立性という約束が迅速に実施されることを期待しています。特に内燃機関販売禁止問題における欧州委員会の不明確さは、この技術的中立性の原則と矛盾すると捉えています。

      【欧州自動車産業行動計画とEPP主張の比較】
      Japanese alt text: 猶予か再生か:欧州自動車産業行動計画が試す“勝負の2年間”_図表1 出所:ページ末尾の資料を基にKPMG作成

      3.まとめ

      IAPは危機対応としての柔軟性と短期的な競争力回復策を併せ持つことが特徴ですが、EPPが主張するように実効性はスピードに依存しています。規制緩和で企業が確保したキャッシュが研究開発と生産投資に回らず、配当や株価維持に流れれば、欧州は「時間は買ったが未来は買えなかった」となるでしょう。逆にEPPが唱える技術的中立性が受け入れ、e-fuelやPHEVなど含めた内燃機関が再度認められることになれば、このパワートレインの多様性はリスク分散として機能する可能性があります。

      判定はこの2年間で下ります。いずれにしても政治が示した猶予を、産業界が猶予でなく前倒しに変えられるかどうかが、欧州自動車産業の真価を決めると言ってよいのではないでしょうか。


      ※本文および図表は下記資料を参考にしています。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      プリンシパル 轟木 光

      轟木 光

      プリンシパル

      KPMGコンサルティング

      自動車のディスプレイ大型化のトレンドは何を示唆しているでしょうか。単なる移動手段にとどまらない、自動車の可能性について考察します。

      「自動車産業が拓く次の一手~変化を駆動力に~」第1回。不確実性が高い環境下で必須となる経営インテリジェンス機能の整備・強化について考察します。

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