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      2024年3月6日、米国証券取引委員会(SEC)から気候関連開示規則の最終版が公表されました。最終版では、2年前の2022年3月に公表された規則案に対して、負担軽減等を目的とした変更が加えられています。

      具体的な開示内容については後述しますが、主な変更点としては、スコープ3の開示要求が削除されたこと、財務諸表の表示科目に1%以上の影響を与える場合の気候関連リスクに係る注記が削除されたこと、制度導入に際してフェーズイン・アプローチの拡大が採られていることが挙げられます。本稿では、当該規則のうち開示項目およびその内容に関連する部分の概要をお伝えします。

      また、2024年はEUのサステナブルファイナンスに関連する一連の法令が本格稼働する最初の年です。その実務の将来像を展望します。

      なお、本稿の意見等は執筆者の個人的見解であり、その所属する組織の公式見解ではありません。文中の表現等については、すべて執筆者の責任に帰します。


      Point

      • SECが気候関連開示規則を最終化

        SECが気候関連開示規則の最終化を完了した。スコープ3の開示を削除するなど、開示企業の負担感に配慮した内容になっている。適用スケジュールに関しても最も早い大規模早期提出会社に関して2025年からとしているのに加えて、初年度においてはスコープ1,2の開示を要求せず、2026年から適用することになっている。

      • SECは最終規則の執行を一時停止

      SECの気候関連開示規則の最終化以降、企業・団体等による裁判所への申し立てが複数行われている。これに対して、SECは最終規則の執行を一時停止することを表明した。SECは、①最終規則が適用可能な法令と整合していること、②投資家にとって重要な開示を求めるというSECの長年にわたる権限の範囲内で定めたものであるというスタンスを維持する旨を表明している。

      • 2024年はEUサステナブルファイナンスが本格稼働する最初の年

      2024年はEUサステナブルファイナンスを構成する法令が本格稼働する最初の年になる予定である。多様な金融商品が開発され、流通市場が立ち上がるならば、EUが目指したサステナブルな経済成長が実現されるかもしれない。


      Ⅰ.SEC気候関連開示規則の 概要

      1. 非財務情報に関する規則の概要 (Regulation S-K)

      Regulation S-Kに含まれる項目は、図表1に示したとおりです。このうち開示項目
      の内容等に関連するのはItem1501~1507です(図表2参照)。

      図表1 Regulation S-Kに含まれる8項目

       

      Item NoContents
      1500Definitions
      1501Governance:ガバナンス
      1502Strategy:戦略
      1503Risk management:リスク管理
      1504Targets and goals:目標とゴール
      1505GHG emissions metrics:GHG排出量の指標
      1506Attestation of Scope 1 and Scope 2 emissions disclosure:スコープ1,2に対する保証業務
      1507Safe harbor for certain climate-related disclosures:セーフハーバールール
      1508Interactive data requirement

      出所:気候関連開示規則を参照してKPMG作成
      ※1501~1507の概要は図表2を参照

      気候関連開示の枠組みに関しては気候関連財務情報開示タスクフォース( Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD )の提言に近似していますが、温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)排出量についてはGHGプロトコルのコンセプトを利用したと表明しています。これは、気候関連開示の実務において、TCFD提言やGHGプロトコルがすでに広く利用されており、開示企業の負担感および開示に伴うコスト低減に配慮した結果であるとしています。

      実際、Item1501~1505はTCFDに近似したフレームワークになっており、その開示内容の概要は図表2に示すとおりです。

      なお、図表2に含まれる「移行計画」は、気候関連リスクを低減するための戦略および実行計画であり、企業自らのコミットメントまたは重要な事業を有する法域のコミットメントと整合したGHG排出量削減のための計画がそこに含まれ得ると定義されています。

      Item1506スコープ1、2の開示に対する証明業務に関する定めですが、この部分については適用スケジュール(図表4参照) で説明します。

      Item1507はセーフハーバー・ ルール(Safe Harbor Rule )です。その対象は、forward-looking statementと考えられている戦略5 に含まれる移行計画、同6に含まれるシナリオ分析、同7に含まれるICP、そして目標とゴールに関する開示になります( 図表2 参照)。

      なお、forward-lookingな開示であることがセーフハーバー ・ルール適用の根拠になることから、上記の4 項目に含まれる過去の事実(historical facts )等は適用対象から除かれます。

      図表2 気候関連開示の概要

       

       開示内容の概要
      ガバナンス
      1501
      1. 取締役会(board of directors)による気候関連リスクの監視状況 該当する場合には、気候関連リスクの監視に責任を負う委員会等およびその委員会等が気候関連リスクに関する情報を入手するプロセス 目標またはゴール、または移行計画(transition plan)を開示している場合には、取締役会がそれらの進捗を把握しているか否か、把握している方法
      2. 重要な気候関連リスクの評価、管理における経営陣(management )の役割 記載に際しては、気候関連リスクの評価、管理に責任を負う経営陣のポジションまたは委員会の有無およびどのポジションまたは委員会が責任を負っているか、並びに関連する専門性 責任を負うポジションまたは委員会が気候関連リスクを評価、管理するプロセス 責任を負うポジションまたは委員会が気候関連リスクを取締役会等に報告しているか否か
      戦略
      1502
      1. 企業に重要な影響を与えたまたは合理的に重要な影響を与えると考えられる気候関連リスク
        気候関連リスクが合理的に考えて短期(12ヵ月以内)、長期(12ヵ月超)に顕在化するのか、物理的リスクなのか移行リスクなのか、それぞれのカテゴリーの中でどれに該当するのかを明示
      2. 上記1.の気候関連リスクが企業の戦略、ビジネスモデル、見通しに与える実際の重要な影響および潜在的に重要な影響
        影響を受ける事業、製品/サービス、サプライヤーなどの取引先、重要な契約、新技術/プロセスによる気候関連リスクの緩和/ 適応に係る活動、研究開発費などへの重要な影響
      3. 上記2.に関連して気候関連リスクの影響を戦略、財務計画、資本配賦の一部として考慮したか否か、どのように考慮したか 気候関連リスクがビジネスモデルまたは戦略に組み込まれているか否か、目標または移行計画とビジネスモデルまたは戦略と関連付けられているか
      4. (1)上記1.の気候関連リスクが、どのようにビジネス、業績、財務状況に重要な影響または合理的に重要な影響を与えることに なったか (2)重要な支出および上記2.の気候関連リスクの緩和/適応に係る活動に関連する財務的見積り/仮定への重要な影響に関する定量的/定性的開示
      5. (1)企業が重要な移行リスクを管理するために移行計画を採択している場合にはその計画を開示、毎期アップデートし計画に 従ったアクションを開示するとともにそのアクションがどのようにビジネス、業績、財務状況に影響したか (2)上記(1)の移行計画の結果としての重要な支出および財務的な見積り/仮定への重要な影響
      6. 気候関連リスクのビジネス、業績、財務状況に与える影響を評価するためにシナリオ分析を利用し、シナリオ分析の結果を基礎としてビジネス、業績、財務状況に合理的に重要な影響があると判断している場合には、各シナリオ下での予想される重要な財務的影響を含む影響、各シナリオで使用したパラメーター、 仮定等に関する簡潔な説明
         
      リスク管理
      1503
      1. 重要な気候関連リスクを識別、評価、管理するためのプロセス重要な物理的リスクまたは移行リスクが発生したまたは合理的に発生が見込まれるか否かの識別特定のリスクを緩和、許容、適応するか否かの識別気候関連リスクに対処するか否かの優先順位付け
      2. 重要な気候関連リスクを管理する場合には、上記1のプロセスが総合的なリスク管理システム/プロセスに統合されているか否か、どのように統合されているか
      目標とゴール
      1504
      1. 気候関連の目標またはゴールがビジネス、事業、財務状況に重要な影響を与えているまたは合理的に重要な影響を与えると見込まれる場合には、その目標とゴール
      2. 上記1.に関する下記のような追加情報または必要な説明 目標に含まれる活動のスコープ、測定単位、対象期間(time horizon)、ベースラインを設定している場合にはベースラインとした期間および進捗の測定方法、目標またはゴールに至るまでの道筋に関する定性情報
      3. 目標またはゴールに向けた進捗状況、どのように進捗したのかを目標またはゴール達成のための活動によって毎期アップデート (1)目標またはゴールに向けて進捗した結果としてビジネス、業績、財務状況に与えた重要な影響 ( 2 )重要な支出および目標またはゴールに向けて進捗した結果として財務的見積り/仮定に与えた重要な影響に関する定量的および定性的な情報
      4. カーボンオフセットまたはREC(renewable energy credit or certificate:再生可能エネルギー証書)を目標またはゴールを達成するための計画の重要な要素として使用している場合には、その使用による炭素排出の回避、削減、除去量を別掲、カーボンオフセットまたはRECの性質/ソース、裏付けとなるプロジェクトのロケーション、レジストリまたは認証およびコスト
      GHG排出量の指標
      1505
      1. 重要である場合には、スコープ1、2の排出量 スコープ1、2は別々に二酸化炭素換算値の合計を開示、個別のGHGガスに重要性がある場合にはそれを分離して別掲、開示する数値はオフセットの影響を排除したグロス数値
      2. 算定に使用したメソドロジー、重要なインプット、重要な仮定
        組織境界が連結範囲と異なる場合には合理的な投資家が理解できるように十分な詳細を含む簡易な説明、合理的な投資家が理解できるように十分な詳細を含む使用した組織境界に関する簡易な検討内容、合理的な投資家が理解できるように十分な詳細を含むGHG排出量の報告にあたって使用したプロトコルまたは基準に関する記載、合理的な見積りを使用している場合には裏付けとなる仮定及びそれらを使用した理由
      スコープ1,2に対する保証業務
      1506
      1. 保証業務のスケジュールは、本資料「3 スコープと適用スケジュール」ご参照
      2. 保証報告書は保証基準(publicly available at no cost or widely used for GHG emissions assurance)に基づくこと
      3. 適用スケジュールより前にvoluntary assurance を受けることが可能( 保証業務提供者が独立性等の要件を満たすことが必要)
      4. 保証業務提供者は、重要な経験(significant experience=保証業務遂行に必要な sufficient competence and capabilities)を有し、独立性(independent with respect to the registrant, and any of its affiliates)を有すること
      セーフハーバー・ルール
      1507
      1. 戦略の5( 移行計画)、6( シナリオ分析)、7(ICP)、目標とゴールに含まれるフォワードルッキングな記載(forward-looking statements)には、セーフハーバー・ルールを適用( 除:過去の事実 historical facts)

      出所:KPMG作成
      ※ 発行体の開示書類等における将来予測に関する記述について、発行体が誤解を生じさせることを知って記載したことなどを原告が立証できない場合、発行体の民事責任が免除されるという証券法上のルール 

      出典:第1回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(2024年3月26日)資料3 事務局説明資料p10(注2 )


      2. 財務情報に関する規則の概要 (Regulation S-X)

      異常気象による事象( severe weather event )およびその他の情報に関連した開示を求めています。財務諸表注記となるその開示内容等の概要は、図表3に示すとおりです。

      図表3 財務諸表注記となるその開示内容等の概要

       

       開示項目等開示内容等の概要
      A文脈による情報
      (Contextual information)
      1. 本図表のB~Hに含まれる財務諸表への影響がどのように生じたかについて、重要なインプットおよび仮定、重要な判断等
      B

      開示の閾値
      (Disclosure thresholds)

      1. Cに該当する費用として発生した支出および損失の合計額が、税引前当期純利益( 純損失)の絶対額の1%以上となる場合には開示を要するが、その合計額が10万ドルを下回る場合には開示不要
      2. Dに該当する資産計上されたコストおよびチャージが株主資本の絶対額の1%以上となる場合には開示を要するが、その合計額が50万ドルを下回る場合には開示不要
      C異常気象による事象およびその他の自然状態によって費用として発生した支出および損失
      (Expenditures expensed as incurred and losses resulting from severe weather events and other natural conditions)
      1. ハリケーン、竜巻、洪水、旱魃、山火事、異常な気温上昇、海水面の上昇などの異常気象による事象およびその他の自然状態によって費用として発生した支出および損失の合計額(除:回復額)を開示
      2. 費用として発生支出および損失が損益計算書のどこに表示されているかを区分して識別できるように開示
      D異常気象による事象およびその他の自然状態によって資産計上されたコストおよびチャージ
      (Capitalized costs and charges resulting from severe weather events and other natural conditions)
      1. ハリケーン、竜巻、洪水、旱魃、山火事、異常な気温上昇、海水面の上昇などの異常気象による事象およびその他の自然状態によって資産計上されたコストおよびチャージの合計額( 除:回復額)を開示
      2. 資産計上されたコストおよびチャージが損益計算書のどこに表示されているかを区分して識別できるように開示
      EカーボンオフセットとREC
      (Carbon offsets and RECs)
      1. カーボンオフセットまたはRECが気候関連の目標またはゴールを達成する計画の重要な要素となっている場合には、カーボンオフセットおよびRECに係る費用の総
      額、資産計上された総額、資産計上から費用化された総額を開示
      2. 期首および期末の資産計上された金額を開示
      3. 費用化された支出額、資産計上されたコスト、そして損失を損益計算書および貸借対照表の表示で区分して識別できるように開示
      F回復
      (Recoveries)
      1. CまたはDの開示が要求される場合には、Aの情報のなかにCまたはDの開示金額のうち回復( 保険金の受取等)したと認識された合計額を記載
      2. 回復した額が損益計算書および貸借対照表の表示で区分して識別できるように開示
      G計上額の要因
      (Attribution)
      1. 異常気象による事象またはその他の自然状態がコスト、支出、チャージ、損失または回復の重要な要因となっている場合には、その全ての金額をC、D、Fの開示額に算入
      H

      異常気象による事象およびその他の自然状態または目標または移行計画によって重要な影響を受けた財務上の見積りおよび仮定
      ( Financial estimates and assumptions materially impacted by severe weather events and other natural conditions or disclosed targets or transition plans)

      1. 連結財務諸表作成にあたって使用した見積りおよび仮定が、異常気象による事象およびその他の自然状態または目標または移行計画によって重要な影響を受けたか否かを開示
      2. 重要な影響を受けている場合には、見積りおよび仮定を行う際にどのように影響を受けたのかに関する定性情報を開示

      出所:KPMG作成


      3. 適用スケジュール

      気候関連開示規則およびスコープ1、2 に対する保証業務の適用スケジュールは、図表4に示すとおりです。

      LAF(Large Accelerated Filer:時価総額700百万以上等の要件を満たす企業)の場合には、2025年度から支出関係等を除いて規則が適用されることになりますが、実際の開示は2026 年となります。一方、スコープ1、2に関する開示は2026年から適用されます( 開示は2027年)が、それに対する限定的保証は2029年の開示から( 限定的保証の保証報告書が開示されるのは2030年)となります。

      また、スコープ1、2の開示は財務諸表との同時開示を原則としますが、米国企業の場合には第2 四半期の報告書または年次報告書の訂正という形での開示が、外 国企業の場合には期末日後225日以内に年次報告書の訂正が許容されています。

      図表4 適用スケジュール

       

      企業タイプ
       (図表2)および(図表3)の全ての開示(除:②・③)(図表2)戦略4(2)、5(2)、目標とゴール3(2)(図表2)GHG排出量の指標(スコープ1,2)③に対する限定的保証③に対する合理的保証
      LAF※12025年2026年2026年2029年2033年
      AF※2
      (除:SRC※3、EGC※4
      2026年2027年2028年2031年N/A
      SRC、EGC、NAF※52027年2028年N/AN/AN/A

      ※1 LAF:Large Accelerated Filer:大規模早期提出会社 時価総額700百万ドル以上等の要件を満たす会社
      ※2 AF:Accelerated Filer:早期提出会社 時価総額75百万ドル以上700百万ドル未満等の要件を満たす会社
      ※3 SRC:Smaller Reporting Company:小規模報告会社 時価総額250百万ドル未満等の会社
      ※4 EGC:Emerging Growth Company:新興成長企業 直近年度のグロス収益が1,235百万ドル未満等の新興企業
      ※5 NAF:Non-Accelerated Filer:非早期提出会社 大規模早期提出会社および早期提出会社の要件を満たさない会社

      出所:気候関連開示規則を参考にKPMG作成
      但し、※1、※2、※3、※5は、“説明資料(サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する検討)”(金融庁 金融審議会総会 令和6年2月19日)を参照。
      ※4は、 SEC - JOBS法に基づく新興成長企業の適格基準を改定(英語)(米国基準) を参照。


      4. 一時停止

      SECは規則の執行を一時停止することを公表しています( In the Matter of the Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures for Investors ORDER ISSUING STAY, April 4, 2024)。これは、3月6日に最終規則を公表した後に企業および団体等から複数の申し立てが裁判所に行われたことに対するSECの対応とされています。

      そのなかで、最終規則が適用可能な法令と整合していること、投資家にとって重要な情報を開示するように求めるSECの権限の範囲内であるという考えをSECが維持していることを表明しています。また、SECは引続き最終規則の有効性を法廷において擁護し、法廷での迅速な解決を図る方針であることを明らかにしています。

      しかし、SECとしては最終規則の一時停止が法定の基準に整合すると考えており、一時停止が秩序だった解決を法廷において円滑に進めることになると考えています。加えて、一時停止することで最終規則の対象となり得る企業にとっては潜在的な規則の不確実性を回避する方策なると考えているようです。

      今後の動向に注意を要するものと思われます。


      5. 結びにかえて

      当該規則の適用対象となり得る本邦企業だけでなく、国際サステナビリティ(ISSB)基準、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)/欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の対応を検討している本邦企業も含めて、開示内容の検討・吟味を行い、全体的な対応スケジュールおよび具体的なアクションを検討する必要があるのではないかと思われます。


      Ⅱ.EUタクソノミー実務の 将来像

      欧州委員会( EC )内の組織であるPlatform on Sustainable Finance(PSF)は、2024年1月に“A Compendium of Market Practices”というレポートを公表しました。副題“How the EU‘s Taxonomy and sustainable finance framework are helping financial and non-financial actors transition to net zero. ”に込められた意味合いは、EU サステナブルファイナンスの中心となるEU タクソノミーを利用して、金融機関および非金融企業がどのようにネットゼロ社会に移行できるかということであり、主にEU タクソノミーを中心とする実務の将来像を指し示す内容で構成されています。

      本レポートの内容を理解するには、EU サステナブルファイナンスとEUタクソノミーの関係を把握することが重要となります(図表5参照)。

      図表5 EUサステナブルファイナンスの法体系

      出所:KPMG作成

      まず、EUサステナブルファイナンスに関するアクションプラン“Action Plan: Financing Sustainable Growth 􏘪が、2018 年3月に公表されています。その題名から、Financing➡産業政策ではなく金融政策であること、そしてGrowth➡経済成長を目指すアクションプランであることが分かります。

      金融政策であることから、たとえば、① 炭素を排出しないEVしか生産してはいけないのではなく、EVを生産する経済活動を行う企業にファイナンスが向かうようにする、あるいは②石炭火力を禁止するのではなく、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー( 以下、「再エネ」という)企業にファイナンスが向かうようにすることが政策の中心であるということになります。こうした低排出(グリーンな)企業等にファイナンスが向かうようにすることで、EUとしてのサステナブルな経済成長を促進すること。それがアクションプランの目的です。その中心となるのがEUタクソノミーです。

      EUタクソノミーは法令です。法令によってグリーンな経済活動( 例:EV生産、再エネ発電等)を定めて、そこにグリーンマネー、ESGマネーといわれるマネーをグローバルに集めていくことになります。EUタクソノミーが定めるグリーンな経済活動とは環境的にサステナブル( environmentally sustainable )な経済活動であり、その経済活動に投資することを環境的にサステナブルな投資(environmentally sustainable investment ) として定義しています。このグリーンな経済活動とグリーンでない経済活動を区分する仕組みのことをclassification system と呼びます。現時点では、気候関連の6つの目標( 気候変動の緩和、気候変動への適応、水・海洋資源の使用と保全、サーキュラーエコノミー、汚染の防止、生物多様性とエコシステムの回復と保全)に関連するものだけが法令として整備されています(図表6参照)。

      図表6 EUタクソノミーの法令

       

      No名称概要
      1Taxonomy Regulation(TR 2020年)6つの環境目標等、グリーン(environmentally sustainable)な経済活動(economic activity)のフレームワークを定めている。
       
      2Climate Delegated Act(CDA 2021年)気候変動の緩和、気候変動への適応に関するグリーンな経済活動の細則を定めている。
      3Disclosures Delegated Act(DDA 2021年)TR8条に定められているグリーン売上割合等の開示に関する細則を定めている。
      4Complementary Climate Delegated Act(CCD 2022年)原発、天然ガス発電をグリーンな経済活動と認めるための具体的な要件を定めている。
      5Amending CDA(EU 2023年)SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)等に関するCDAの改正。
      6Environmental Delegated Act(EDA 2023年)4つの環境目標(水資源等、循環経済、汚染防止、生物多様性)に関するグリーンな経済活動の細則を定めている。

      出所:KPMG作成

      EUタクソノミーを取り囲む枠は2つあります。1つは開示制度、もう1つは金融マーケットに関する法令です( 図表5参照)。

      開示制度には、CSRDとサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)があり、これらとEUタクソノミーのトライアングルのことを“ EU sustainability disclosure regime for financial and non-financial companies ” あるいは“ a mandator y disclosure regime for both non-financial and financial companies ” と呼びます。CSRDは企業によるサステナビリティの開示、SFDRはサステナビリティをテーマにした金融商品(例:ESG投信等)を組成・販売する金融機関を対象にした開示に関する法令です。つまり、SFDRの対象となる金融機関は、サステナビリティに関する金融商品を開発するに際して、CSRDに基づく企業の開示を参照することが想定されているということです。たとえば、投資信託を組成する際の組入銘柄をCSRD開示によってセレクトするようなケースです。

      それでは、CSRDとSFDRはどのようにEUタクソノミーとつながっているのでしょうか。EUタクソノミーは非金融企業に対して、グリーンな経済活動による売上が企業売上に占める割合=グリーン売上割合(turnover KPI)、同様にグリーンな経済活動が資本支出(capital expenditure )に占める割合=グリーンCapEx割合(CapEx KPI)、経費(operational expenditure)に占めるOpEx割合(OpEx KPI)という3 つのKPIの開示を求めています。開示場所はCSRDで定められており、各企業が開示するサステナビリティの情報と並べて開示することになっています。

      なお、従業員数500名以上かつEU規制市場に上場しているなどの一定の要件を満たす企業は、EUタクソノミーの定めに従い、2023年から3つのKPIの開示を開始しています。CSRDが適用開始となる2024年1月以降に開始する事業年度からは、上述の3つのKPIはCSRDに従って、マネジメントレポートにおいてサステナビリティ情報とともに開示されることになります。

      SFDRに関する金融機関の開示をEUタクソノミーとの関連で見ると、金融機関がグリーンな経済活動に投資している割合、組成・販売している金融商品の投資額に占めるグリーンな経済活動の割合等を開示することになっています。

      次に、金融マーケットについて俯瞰します。BMRはEUの投資に関するベンチマーク規制で、すでにEU PABs(EU Paris- Aligned Benchmarks:EUパリ協定適合ベンチマーク)とEU CTBs( EU Climate Transition Benchmarks:EU気候移行ベンチマーク)が稼働しています。2023年12月には、EUタクソノミーに準拠したベンチマークであるEU TABs(EU Taxonomy-Aligning Benchmarks:EUタクソノミー適合ベンチマーク)がPSFのレポートの対象になりました。

      EU GBSは、EUにおけるグリーンボンドに関する基準ですが、これも法令です。この基準に準拠して発行されたグリーンボンド資金の使途は、EUタクソノミーが定めるグリーンな経済活動であることとされています。

      また、SFDRは上述のような開示を金融機関自身と金融商品に対して求めています。

      このようにEUタクソノミーを取り巻く4 つの法令は、いずれもEUタクソノミーを結節点として相互につながっていることになります。


      2. EUタクソノミーを中心とする実務の 将来像

      本レポートで取り上げられているステークホルダーのうち、EUサステナブルファイナンスのメインプレイヤーと考えられる企業、投資家、銀行(与信機関)に関して、レポートが記載している主な概要をお伝えします。

      (1) 企業

      • 企業が脱炭素を可能とし、ネットゼロ目標を設定するために、自社の経済活動がEUタクソノミーのグリーンな経済活動になるためのロードマップと3つのKPIの目標の定義
      • 企業の移行計画(transition plans)の中心要素としてのEUサステナブルファイナンスに基づいて、EUタクソノミーに準拠したグリーンCapEx割合とCSRD開示に含まれる移行計画との統合
      • EUタクソノミーのKPIを活用したグリーンボンド/ローン、サステナビリティリンクボンド/ローン等のサステナブルファイナンス・トランザクションの発行等
      • 特定の経済活動へのファイナンスを目的としたEUタクソノミーに準拠しているかに関する分析情報を銀行に提供することの検討

       

      (2) 投資家

      • EUタクソノミー、CSRD開示を利用した企業レベルでのネットゼロ目標の定義と実行のサポート
      • 投資先企業が開示するEUタクソノミーの3つのKPIを活用したグリーンな金融商品、トランジショナルな金融商品の開発等
      • 投資先企業が開示するEUタクソノミーの3つのKPIを活用した投資先企業の株主とのエンゲージメント、移行計画および目標の分析に対するサポート

       

      (3) 銀行

      • 企業等顧客の移行計画・移行戦略をサポートするためのエンゲージメントを目的とした銀行の商品/サービスにおけるEUタクソノミー、EUサステナブルファイナンスのフレームワークの活用
      • 高品質で比較可能なサステナビリティ/グリーンなファイナンス商品の提供、EUタクソノミーと整合した商品のポジティブインパクトに関するモニタリング等
      • 顧客企業がEUの環境目標とどの程度整合しているかを測定するためのツールとしてのEUタクソノミーの活用

      Ⅲ.さいごに

      2024 年はEUサステナブルファイナンスを構成する法令が本格稼働する最初の年になると思われます。

      EUサステナブルファイナンスを構成するすべての法令が稼働することで、企業および金融機関の開示情報が蓄積し、多様な金融商品が開発され、流通市場が立ち上がっていくと仮定すると、2018年のアクションプランでEUが目論んだサステナブルな経済成長を実際に目にすることになる可能性があります。

      加藤 俊治

      KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン/有限責任 あずさ監査法人 金融統轄事業部/サステナブルバリュー統轄事業部 テクニカル・ディレクター

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      米国/EU最新動向 SEC気候関連開示規則の概要およびEUタクソノミー実務の将来像

      KPMG Insight Vol.66

      執筆者

      あずさ監査法人
      金融アドバイザリー事業部
      加藤 俊治/テクニカル・ディレクター

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