新型コロナウイルス感染症の影響による海外渡航の制限が緩和されるにつれて、実施の見送りや限定的な条件下での実施など、制限されてきた海外拠点の内部監査を再開する企業が増加傾向にあります。

海外拠点の内部監査は、言語や商習慣等の違いの考慮に加え、監査対象の事業規模等に見合った改善提案が求められるなど、アシュアランス業務およびコンサルティング業務における遂行上の難しさがあります。
KPMGは、双方の観点から海外拠点の内部監査の実施を支援します。

アシュアランス業務遂行上のポイント

【よくみられる課題の傾向】
海外拠点の内部監査においても、本社・国内拠点での内部監査と同様に、十分な監査証拠を得て事実に基づく客観的な評価を行うとともに、限られた時間のなかで結果を残すことが要求されます。ただし、海外拠点の監査では、これらの実施が国内拠点と比較して以下の観点により難しい傾向にあります。

  • 実務担当者として、英語を母国語としない現地採用スタッフへのヒアリングが必要な場合、コミュニケーション上の難しさが懸念される
  • 限られた日程で監査を実施する際に、実態把握に非効率な点があると、予定していた内容を完了できない、もしくは表層的な確認にとどまってしまうことが懸念される
  • 現地の言語で記載された日常的な帳票類に対して正確な理解ができず、不都合や不整合などを示す十分な監査証拠として確保することができない可能性がある

【海外拠点内部監査における一般的な課題】

海外で内部監査を実施することの難しさ リスクと求められる統制のレベルが日本と異なる
コミュニケーションが困難なため、時間的な余裕がない(効率性が必要)
複数の異なる国・地域を対象とする難しさ 各国の言語で記載された証憑への対応が難しい
各国の法規制・商習慣を踏まえた評価が要求される

【具体的な課題】

  • 取り巻く環境や事業規模が日本とは異なる海外拠点において、どのような範囲をどのくらいの深さで監査すべきかの判断が難しい
  • 英語でのコミュニケーションが求められる場面が多く時間を要するが、現地での監査日程が決まっているため、日本に比べてより効率的な実施が必要
  • 規程・マニュアル、帳票類は基本的に現地語で記載されているため何が書かれているかを理解することが難しい
  • 監査をするうえで、各国の法規制および商習慣の違いを考慮することが求められる。たとえば、法規制の執行の程度や接待・贈答の許容範囲などは国ごとに異なる

【課題へのアプローチ】

日本と異なるリスクおよび統制レベルの考慮や、限られた時間内でのコミュニケーションに課題が生じやすい、といった海外拠点内部監査の課題に対しては、現地で求められる一般的な内部統制を想定した英語の監査手続書の活用が有効です。

また監査上、各国の言語で記載された証憑の内容の理解および各国の法規制や商習慣の違いを踏まえる必要がある場合は、グローバルネットワークを持つ会計事務所やコンサルティングファームの支援を受けることも有効です。

海外拠点に対する内部監査実行支援・内部統制強化支援_図表1

【KPMGの支援内容】

(1)海外拠点向け内部監査手続書の整備・高度化

海外拠点における内部統制に精通する専門家が、海外向け内部監査手続書の英語での整備・見直しを支援します。

(2)各国・地域の専門家による監査実務の支援

国や地域特有の法規制・商習慣に精通する現地の専門家を含む監査チームを組成し、往査を中心とした内部監査実務を支援します。

【一般的な監査手続書の対象領域と主な内容】

  対象領域 主な内容(例)
1 経営管理・ガバナンス
  • 経営計画・経営方針
  • 意思決定(機関)
  • 決裁権限
  • 業務分掌 等
2 経理・財務
  • 経費精算
  • 現預金管理
  • 債権管理
  • 棚卸し資産管理
  • 固定資産管理 等
3 人事・労務
  • 労働法の遵守(労働契約等)
  • 人事評価・人材育成
  • 労働環境・労働問題
  • 給与計算 等
4 購買・仕入れ
  • サプライヤー選定
  • 契約
  • 発注
  • 検収
  • 支払い 等
5 販売・売上
  • 与信管理
  • 契約・受注
  • 出荷
  • 売上計上 等
6 コンプライアンス
  • 行動規範
  • 内部通報制度・懲罰
  • 個人情報保護
  • 人権
  • 競争法・贈収賄 等
7 情報・IT
  • 機密情報管理
  • 情報漏洩・改ざん
  • IT資産管理
8 その他リスク
  • 環境対応
  • 危機管理・BCP
  • 品質管理 等

コンサルティング業務遂行上のポイント

1.拠点の規模や体制の実態を踏まえた提案

【よく見られる課題の傾向】

小規模な海外拠点などでは、限られた人員で経営が行われているため職務分掌が難しく、不十分な職務分掌が内部監査の指摘となるケースが多く見られます。たとえば、売掛金に関しては次のような状況が考えられます。

  • 売掛金の入金を着服し、それを隠蔽するために売掛金を貸倒処理するなどの不正が実行できてしまうため、出納担当者と会計(売掛金)担当者の職務は分離すべきであるという監査指摘
  • 指摘に対する確実な改善方法は、担当者を増員して職務を分担させることであるが、最小限の人員で業務を行っている拠点では「内部統制を強化するための新規採用・人員配置」が難しい場合も多く、監査で指摘しても根本的な解決につながらない

【課題へのアプローチ】

増員による職務分掌の強化が難しい場合、既存の人員でどのような補完的な内部統制でリスクが低減されているかを検証することが必要です。たとえば、以下のような検証方法が考えられます。

  • 出納担当者と会計担当者の職務分離が難しい場合でも、補完的に経理マネジャーが売掛金の回収状況や異常な貸倒処理をモニタリングしているかを検証
  • 経理マネジャーが1人で出納業務と会計業務を実施している場合には、海外拠点の経営層が検証
  • 経営層での検証が難しい場合は、本社による同様の検証機能を検討

担当者レベルの職務分掌が難しい状況のなかで、経営層が直接確認すべき重要な管理ポイントは無限にあるわけではありません。各社で職務分離の状況などから必要なものを決定し、継続的に実施することを推奨します。

【KPMGの支援内容】

拠点長向け管理チェックリストの整備
各海外拠点において、経営層が確認すべき管理項目を抽出することは難しいと考えられます。KPMGは、本社から海外拠点へ展開されることを想定した「拠点長向け管理チェックリスト」の作成を支援します。

【拠点長向け管理チェックリスト(抜粋)】

カテゴリー 管理項目
現預金
  • ファームバンキングシステムによる送金の最終承認
  • 銀行もしくはシステムから直接入手した残高明細と帳簿残高の照合
職務分掌
  • サイン権限の管理、社印へのアクセス、サインスタンプの管理状況
  • 業務システムへのアクセス権のモニタリング(業務上の責任・権限とアクセス権の整合性)
仕入れ
  • 新規仕入先の承認と既存仕入先の再評価結果の確認
  • 仕入先ごとの異常値の確認と原因分析
    • 特定の仕入先への急激な取引増加
在庫
  • 実地棚卸し結果と差異分析の確認
  • 倉庫(外部倉庫含む)への抜打ち訪問・チェック
売上
  • 新規顧客の承認と既存顧客の再評価結果の確認
  • 売先ごとの異常値の確認と原因分析(決算後の大量の売上取消し等)
債権管理
  • 滞留債権とその理由、滞留先へのフォロー状況の確認
経費
  • 交際費を含む経費の内容の確認と承認
固定資産
  • 固定資産の購入と除売却の承認
給与
  • 給与マスタの妥当性と計算結果との整合性の確認
財務諸表
  • 勘定残高の増減分析と異常値(仮勘定の急増など)の確認

2.グループ共通の課題に対する効率的な改善対応の検討

【よく見られる課題の傾向】

ローテーションで実施した海外拠点の監査の指摘として、類似した発見事項が検出されるケースが見られますが、「機密管理の方針・規程の未整備」といった、いずれの拠点でも対応すべき事項が繰り返し指摘され、各拠点で個別に対応することは非効率と言えます。

【課題へのアプローチ】

上記のような状況に対しては、本社が各拠点における一定の調整を許容したうえで、統一的に採用される規程を一式整備し、その適用を推進することが有効です。また、効率性の観点だけでなく、海外拠点に対するガバナンス強化、グループ全体の内部統制の底上げにもつながります。

【KPMGの支援内容】

海外拠点の規程整備・見直し支援
内部監査を通じて、各拠点において規程が十分に整備されていないことが確認された場合、単に指摘をするにとどまらず、グループ会社で統一的に適用することを想定した英語の規程一式の整備、および各社の状況に応じた各規程の調整までをサポートします。規程がある程度整備されていることが確認された場合は、統一的に適用されるべき内部統制の検討、当該内部統制の観点からの規程のレビュー、必要に応じた追加・修正による規程の充実化を支援します。

【海外においても整備されていることが多い規程類(抜粋)】

  規程名 概要・留意事項
1 経理規程
  • 経理業務をすべて包含できないため、別途マニュアルが作成される場合もある
2 経費精算規程
  • 交通費など、従業員が使う経費の精算に関するもの
3 棚卸資産管理規程
  • 経理規程等に含まれる場合もある
4 固定資産管理規程
  • 経理規程等に含まれる場合もある
5 グループ行動指針
  • グループ全体で統一的なものが適用されている場合が多い
6 取締役会規則
  • 海外では By-lawといった形で整備されている場合もある
7 職務分掌規程
  • 決裁権限一覧にて代替する場合もある
8 営業管理規程
  • 与信に関する内容を含むこともある
9 与信管理規程
  • 債権管理も含め、グループ全体で統一ルールが採用されることもある
  • 内容は、営業関連の規程等に含まれる場合もある
10 購買管理規程
  • グリーン調達や人権の配慮からグループとして共通のポリシーが採用されることもある
11 就業規則
  • 海外においても、Employee handbookなどの名称で整備されている場合が多い
  • 各国の労働法に基づく必要があり、各社対応となる部分が大きい
12 情報セキュリティポリシー
  • 本社がグループ共通の情報セキュリティポリシーの適用を海外にも求める場合がある
13 機密情報管理規程
  • 営業秘密にかかわる情報を保有する場合は特に重要となる
14 個人情報保護規程
  • 個人の顧客情報を扱う場合は特に重要となる

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