内部監査においてデータ活用に対する関心はますます高まっていますが、データ分析スキルを持つ人材の不足などの制約もあり、内部監査部門内でのデータ活用の定着・浸透が企業の課題となっています。またデータやツールが揃っても、実際の監査業務への適用が浸透することは難しく、分析を牽引する人材確保や実行のためのプロセスについて、「自社が目指すデータ分析の成熟度」に合わせてバランスよく検討することが重要です。

KPMGには内部監査におけるデータ活用の豊富な経験があり、その成功事例と知見を基に、データ活用による内部監査の推進を後押しします。

成功要因1. 検討すべき4つの要素

実務に即したデータ活用を推進するためには、「データ」「人材」「プロセス」「ツール・環境」の4要素について考慮することが必要です。
たとえば、4要素のバランスを検討することで、次のような状況を回避できます。

  • 有効な「データ」はあるが、そのデータを分析できる「人材」がいない
  • 「プロセス」が定義されていないため、データの分析は散発的でノウハウが蓄積されていない
  • 高価な「ツール」を導入したが、活用における「環境」が整備されていない

また、各要素は方向性・目指すゴールにも密接に関係しており、ロードマップ作成時には織り込むべき内容です。「人材」に関して例を挙げると、初年度は外部の専門家を含めた混合チームを組成しデータ活用を進め、中長期的には社内のIT部門と連携し内製化の体制を構築するなどが考えられます。

データ活用推進における検討要素

データ活用による内部監査推進アドバイザリー_図表1

成功要因2. 方向性・目指すゴールの設定と共有

次に重要なことは、データ活用の方向性・目指すゴールの設定です。検討のポイントは次の4つが挙げられます。

  • スキル人材:内部監査部門内にデータ分析スキルを持つ人材が数名いれば十分か、全員がスキルを習得すべきか
  • 活用範囲:一部の監査業務でのみ活用するのか、監査計画から報告まで一連の業務全体で活用するのか
  • データの種類:経費、調達や労務、財務などの構造データのみを対象とするのか、動画、画像、音声、テキストなどの非構造データも対象とするのか
  • 実施方法:自社のリソースのみで試行するのか、IT部門などの他部門や外部リソース・専門家との協業も視野に入れるのか

設定した方向性・目指すゴールは、内部監査部門の現場レベルでのみ認識するのではなく、中長期の内部監査計画と連動させ、リスク担当取締役・監査役などの経営層や内部監査室長も含めた関係者全員で共有すべきです。経営層まで含めて認識が共有されると、必要な人員や予算の確保が進み、推進力を高められます。また、実現までの具体的なロードマップを作成し、段階を踏んで取り組んでいくことも重要です。

成功要因3. データ活用目的の具体化

多くの企業では、内部監査の計画段階、予備調査、またサンプリングや全件調査といった実証手続においてデータが幅広く活用されています。データ活用を検討する際、技術的な議論が先行しているケースが見受けられますが、最初に目的を明確にしたうえで、担当者が日々の監査業務での活用をイメージできるように、具体的な計画を作成することが重要です。

活用目的に応じて取得するデータの種類や粒度、分析手法、求める結果の精度などが異なります。これらデータの具体的な活用場面としては、たとえば、監査計画時の拠点ごとのリスク評価、重点領域の特定、往査先の選定・優先順位付け、サンプリングにおける特定リスクの考慮、準拠性の確認基準などが考えられるでしょう。

データ活用目的 使用データ 部門 (1)監査計画 (2)予備調査 (3)監査作業計画 (4)往査
  • リスクの高い子会社や拠点の把握
  • グループ全体でリスクの高い領域の特定
  • 特に注意すべき業務プロセスの特定
  • リスクアセスメント
  • 財務データ
  • 不祥事データ
  • 過去の監査結果 等
グループ全社    
  • 全拠点でのリスク傾向の分析
  • 往査先の優先順位付け
  • 労務リスクが高い管理項目・領域の特定
  • 往査対象店のリスク状況
  • リスクの高い取引の検出
  • 労務データ
  • 売上データ
  • オペレーションエラー率 等
各拠点  
  • 経費活用の全体傾向の分析
  • 経費ルールに違反している取引の検出
  • ルール違反ではないが、確認が必要な特例取引の検出、担当部門の調査
  • 経費データ
  • 予算データ 等
経理    

成功要因4. 専門性の違いを理解し、チームの多様性を確保

データの活用を推進する人材については、「スキルの要件」と「育成の観点」の両面から検討することが重要です。

下の図表はデータ活用を内部監査業務に取り込んだ場合の監査プロセスを表しています。
ここで注目すべきは、1人の内部監査人による全プロセスの完結は難しいということです。プロセスの序盤におけるデータ活用目的の設定や後半の分析結果の報告段階においては、監査業務の知識が必要となります(図内:内部監査人(IA))。一方、プロセスの中央にある分析実行段階では、データの処理・分析手法の知識やツールの操作などのITに関する専門性(図内:データエンジニア(DE))が必要となります。

このように、監査業務でデータを活用するためには、そのプロセスに応じて必要となる専門性が複数あり、また必要なタイミングも業務の進行とともに変化することを念頭に置く必要があります。さらに実務上では、内部監査人とデータエンジニアのみで内部監査プロセスを遂行することは難しく、その間で業務要件を分析要件へ変換したり、技術課題や分析結果の解釈を内部監査人およびエンジニアが理解できる内容へ翻訳するような役割を持つ専門人材(図内:プランナー(PL))の存在が非常に重要となります。

3つの役割すべてを1人が担うことは通常ほとんどありません。これはデータ分析の知識が、従来の内部監査人の専門性やシステム監査の知識とも違うためです。これらのことから、データ活用を推進する際には、専門性の違いを認識し、チームとしての多様性を確保することが重要と言えます。

多様性の確保については、さまざまな手段がとられています。先行企業では、社内のIT部門やデジタルトランスフォーメーション(DX)部門、データ分析専門組織の協力を得たり、一時的にメンバーの異動などにより不足する専門性を確保しています。また外部の専門家とタッグを組み、データ分析プロセスの実践を通じて自社メンバーを育成するケースもあります。難易度が高いのは、自部門のみでの実践です。この場合、長時間を費やすことになり、さらに成果も得られていないようです。

内部監査プロセスごとに必要なデータ活用の専門性

データ活用による内部監査推進アドバイザリー_図表2

専門人材ごとに必要となるスキルセット例

下の図表では、データ活用を担う人材に必要なスキルセットを示しています。

内部監査人(IA)は、プロセスの前半では、データ活用目的の設定や監査業務のなかでの活用シーンの特定など、業務を遂行する立場に立ってデータ活用を検討しなければなりません。また後半では、分析結果を有効に業務へ活用する方法を検討する必要があるため、監査業務への理解と知識の習得は必須となります。

プランナー(PL)は、IAとデータエンジニア(DE)をつなぐ接点として、データ活用の目的や活用シーンを理解したうえで、業務要件を整理し、データ分析要件へ落とし込むことができるスキルが求められます。またデータ活用プロセス全体の管理ができ、多様なチームの橋渡し役としてデータ活用を推進する能力が不可欠です。

DEについては、データ分析の専門家として、どのようなデータが分析に必要かを提示したり、データの品質をチェックしたり、データの準備や分析などをリードする必要があります。必要に応じてIT部門担当者などとも協議し、データ抽出に関する助言などを行うことができるスキルが求められます。

データ活用による内部監査推進アドバイザリー_図表3

人材育成のアプローチ

前述した求められるスキルセットを効率的に習得するためにはデータ分析の実践が必要不可欠です。
書籍、E-Learningなどで一般的なデータ分析の手法やツールを学ぶことはできます。しかし、データの成立ち、データができる過程の内部統制の強度、データの品質などを理解したうえで、最適なデータ分析手法を適用するためのスキルは、実践を通じて学ぶことが重要です。

多くの企業では、データ活用がしやすい監査テーマや領域を選定したうえで、監査活動のなかで下記のようなデータ分析のプロセスを実践し、トライ&エラーを繰り返すことで人材を育成しています。
また、たとえばIT部門出身者で内部監査のスキルについて習得途中である人材と、内部監査部門の経験が長く内部監査のスキルが高い人材が、そのプロセスを一緒に実践することは、両者のスキルセットを補完・向上させる良い機会となります。

データ活用による内部監査推進アドバイザリー_図表4

成功要因5. データ活用プロセスの整備と内部監査業務への適用

内部監査業務におけるデータ活用を検討する際、データ活用プロセスの整備とともに、監査業務のプロセス(下図左)とデータ活用のプロセス(下図右)の関係性を理解する必要があります。両者は別々のプロセスですが、監査業務を遂行する際には、統合的に管理しなければなりません。

実務上では、まず始めに、実施する監査業務のどのプロセスにおいて、データを活用するのかを検討します(下図左および(1))。

そのうえでデータ活用のプロセス(下図右)を実施し分析結果を実際の監査業務のプロセスで活用します(2)。

理想はより多くの監査業務でデータを活用することです。しかし実際には、適用可能な監査業務を検討する時点で、先行してデータの有無を調査したり、リスクシナリオや必要な分析結果が得られそうかを簡易的に確認したうえで、分析の難易度なども考慮し、実現可能性が高い監査業務を選定します。

データ活用による内部監査推進アドバイザリー_図表5

成功要因6. スモールスタートとクイックウィン

内部監査におけるデータ活用を確実に実現するには、長期的な方向性・目指すゴールを見据えつつも、まずは試験的なプロジェクトや監査業務の一部などから試行することが重要です。推進上の課題はどこにあるのかを見極め、計画を軌道修正しながら、データ活用の効果を最大化できるよう取組みを進めていきます。

このような個々の課題を乗り越え、小さな成功を積み上げていくことで、社内の期待値やモチベーションが醸成され、推進力も高められます。ここで想定される課題は次のとおりです。

  • データに起因する課題:求めるデータがない、データはあるが技術的に抽出が難しい、データの品質が良くない、データの意味や定義の確認に時間がかかる

  • 協業に関する課題:IT部門の協力を得られない、専門性の違いなどから効率的なコミュニケーションを確保できない
    分析結果に関する課題:結果から意義のある解釈を引き出せない

  • ツール・環境に関する課題:既存ツール機能では目的に合った処理・分析ができない、データ量が多いため処理に時間がかかる

成功要因7. リーダーシップ

内部監査部門内のメンバーが同じ目標に向かって取り組むためには、内部監査部門長やリーダーの積極的な関与が求められます。求められる役割としては次のようなものがあります。

  • 方向性や活用場面の迅速な意思決定
  • 他部門や外部専門家と円滑な連携を図るための調整
  • 内部監査部門内で必要なリソースの再定義・確保
  • 課題発生時の対応支援・解決に向けたリーダーシップ

内部監査業務におけるデータ活用に関するKPMGのアドバイザリーサービス

KPMGは、内部監査・内部統制に加え、データ分析・デジタルツール活用、リスクマネジメントなど、幅広い領域の支援経験を有しています。これらを基に、企業における内部監査業務のデータ活用推進のためのアドバイザリーサービスを提供します。

1. 内部監査におけるデータ活用ロードマップ策定支援

  • テーマ選定・システムの運用状況とデータ調査
  • 人材計画、ツールの選定、施策の検討 

2. データを活用した内部監査の実施支援

  • 監査テーマ/対象範囲/項目の選定、監査手続の策定
  • 往査実施、発見事項の検討、監査報告書の作成

3. 内部監査室の人材育成および態勢構築支援

  • 規程/マニュアル等整備
  • データ活用人材の要件定義、研修の企画と実施

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