プライシング分析は、価格戦略による需給調整および需要平準化、適正な価格設定を通じた利益率向上や労働力の確保など、付加価値の高いサービスを持続的に提供するための基盤を形成する重要な手法です。ビジネス指標を最適化する筋の良い価格設定を、経営判断や外部要因など環境の変化に応じて継続的に行うには、需要と供給の構成要素とそれらの間の関係をつぶさに分析する必要があります。このような分析には多くの要素が複合的に絡まるため実行は必ずしも容易ではありませんが、実現できればダイナミックプライシングによる利益最適化に留まらず、サプライチェーン全般にわたるオペレーションの効率化が見込まれます。
KPMGコンサルティングは、KPMGアドバイザリーライトハウスと連携し、データサイエンスを活用した高度なプライシング分析手法を通じて、企業の利益最適化や、複雑で困難な意思決定を支援します。
プライシング分析の重要性
近年、円安やエネルギー価格の高騰、さらには供給不足による物価上昇が企業の収益性に大きな影響を及ぼしています。こうした厳しい経済環境のなかで、企業が持続的な成長を達成するためには、消費者や事業者に過度な負担を強いることなく、高品質な顧客体験を提供し、サービスや事業の発展を図る体制の構築が求められます。
しかし、理想的な状態を実現するためにはさまざまな障壁が存在します。たとえば、繁忙期と閑散期の需要変動による経営の不安定化や、労働生産性の低さ、価格転嫁の難しさといった課題が挙げられます。これらの課題に対しては、ダイナミックプライシングの導入が有効な解決策となり得ます。価格戦略を通じて需給調整や利益率の向上を図ることで、事業の安定化と発展を同時に実現することが可能となります。
【目標達成のための課題と打開策】
課題1:繁閑調整・平準化
- 課題の内容:繁忙期と閑散期の落差による経営安定性への不安要素
- 打開策:価格による需給調整
課題2:物価変動への対応
- 課題の内容:労働生産性の低さ、価格転嫁のしづらさ
- 打開策:適正価格でのサービス提供による利益率向上
課題3:人手不足への対応
- 課題の内容:労働力確保の困難化、供給不足、販売機会損失
- 打開策:適正価格でのサービス提供による待遇改善
課題4:顧客体験の高付加価値化
- 課題の内容:需要の質的変化に対応するサービスの要請
- 打開策:より付加価値の高いサービスを提供する余力創出
課題5:需要過多による公害
- 課題の内容:過剰な需要による居住者への悪影響、サービスの質・満足度の低下
- 打開策:価格による過剰需要の調整
ダイナミックプライシングは、機会損失を最小限に抑えつつ、最適化された価格設定による取引を可能とします。需要の変動に応じて価格調整を行うことで、繁忙期および閑散期の需給バランスを最適化し、高水準の顧客体験を需要者・供給者双方にとって満足度高く実現することができます。高度なプライシング分析は、需要と供給動向の精緻な把握および、市場状況に応じた戦略的な価格設定を実現するための基盤となります。
プライシングと需要・供給の関係性
プライシングは需要と供給の関係性(需給関係)に基づいて決まります。需給関係は、あらゆる価格、供給量決定メカニズムの基礎です。需要増大が予測される場合には供給量を増やし価格を引き上げ、逆に需要減少が予測される場合には供給量を減らし価格を押し下げます。需要の変動に応じて供給量と価格を機動的に調整することにより、機会損失を避け、固定価格と比べて増益を図ることが可能です。
このような需給関係の構造を明らかにしモデリングすることで、ダイナミックプライシングによる利益最適化が可能になります。需要予測に基づいて商品価格を調整し、経営判断に即して販売量を適切にコントロールできます。さらに、需給予測モデルの応用範囲は多岐にわたります。短期的には在庫最適化から、中長期的には生産最適化、仕入価格交渉、人員配置最適化、設備投資判断まで、多くのプロセスでデータに基づく施策立案が可能となることが期待されます。
販売商品のダイナミックプライシングのみならず、事業・業務・オペレーションの効率化にまで展開できると見込まれます。
【ダイナミックプライシングと需給予測モデルのユースケース】
出所:KPMG作成
プライシング分析のアプローチとそれを支える技術
需給関係の構造を明らかにする分析アプローチに、需要予測モデルと供給最適化モデルを組み合わせる手法があります。
- 需要予測モデル
需要に影響を及ぼす構成要素を分析し、統計的モデルや機械学習モデルにデータを学習させて価格弾力性や需要量の変化を明らかにする
- 供給最適化モデル
会計観点で収益・取引構造を分析し、価格、販売量、固定費、変動費など収益改善ドライバーの影響をシミュレーションにより把握する
これら2つのモデルを組み合わせることで、商品価格を変化させた際の販売量、固定費、変動費、したがって売上高、原価、利益をシミュレーションすることが可能になり、経営目標に応じた最適な価格設定を割り出すことができます。
【利益最大化のイメージ図】
出所:KPMG作成
この手法は以下の特性を有しています。
- 需要予測から価格最適化に至るモデリング・アルゴリズム
- 需要予測に関しては、状態空間モデルなどの高度な統計的アプローチを活用し、長期トレンド・季節変動・カレンダー要因に加えて、観測値のノイズや時間的変動による不確実性等も包括的に考慮した堅牢な回帰モデルの構築が可能
- 最適価格算出においては、数理最適化アルゴリズムを用いることで、効率的なシミュレーションを実行し、許容価格範囲や商品間の価格階層性など各種制約条件を満たす現実的な最適値の導出を支援
- 単なる価格提示に留まらず、価格および各種要因が販売数量に及ぼす影響について、構築済みモデルを通じて定量的説明が可能であり、価格弾力性や商品間のカニバリゼーション効果も明らかにできる
- 業種・業態特有のドメイン知識
- 財務会計領域における高度な専門知識を駆使し、グループ構成会社間の内部取引や、多国籍サプライチェーンに関連する取引実態を総合的に考慮したうえで、全社的な利益最適化を戦略的に実現するための支援が可能
- 単なる利益最大化のみならず、販売数量インセンティブ等のビジネス目標変更にも柔軟に対応し、最適解の論理的な導出を支援
データサイエンスを活用した他の価格設定手法の一例として、強化学習が挙げられます。この手法では、価格変更による利益の上下に応じて報酬や罰則を設定し、報酬が最大化されるように価格を更新します。販売量への価格および他要因の影響を明示的にモデル化する必要がなく、多様な状況下で最適価格を自律的に学習できるため、顧客行動の変容にも柔軟に対応可能です。加えて、長期的な収益最大化を目的とするため、一定期間内に完売すれば良い商材などには有効です。一方で、最適戦略の獲得には大量のシミュレーションが必要なため、学習に多大なリソースを要する傾向があります。
価格最適化手法の選定に際しては、各手法の特性を十分に把握し、対象となるビジネス課題や目的との整合性を考慮することが重要です。さらに、最適化を行う期間や製品ライフサイクル、顧客が受容可能な価格改定頻度ならびに変動幅といった要素を多角的に考慮したうえで、適切な手法を選択する必要があります。
高度なプライシング分析の導入は、短期的な収益増加のみならず、中長期的にはサプライチェーン全体の各段階におけるデータドリブンな戦略的意思決定を実現可能にします。企業がこれらのケイパビリティを構築することにより、オペレーションの継続的改善と、事業競争力強化に向けた組織基盤を確立できるよう支援します。