KPMGジャパン、「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」を発行

日経225構成企業を17業種別に分析・考察、数字で読み解く開示の現在地

日経225構成企業を17業種別に分析・考察、数字で読み解く開示の現在地

KPMGジャパン(東京都千代田区、共同チェアマン:山田 裕行、知野 雅彦)は、「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」を発行しました。これは2024年4月に公表した「日本の企業報告に関する調査2023」のうち、「気候変動」と「生物多様性」に焦点を当て、業種別に分析したものです。

分析結果の主なポイント

1)    TCFDが推奨するカテゴリ別定量指標に沿った開示は、「エネルギー資源業」と「銀行業」で進み、一部の指標カテゴリでは80%を超える高い開示率となっている
2)    GHG総排出量のScope1比率が高いとされる業種のひとつ「電気・ガス業」は、Scope1排出量の開示および第三者保証を受ける割合がともに100%であり、報告する情報の信頼性向上に向けた意識が高いことがうかがえる
3)    Scope3は全体では89%が排出量の実績を報告し、29%が第三者保証を受審しているものの、主たる排出源に該当するカテゴリの実績が開示・保証されてない業種があり、改善の余地が見られる
4)    自然資本・生物多様性に関する目標や実績の開示割合が高い業種は「電力・ガス業」、「素材・化学業」

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパンは、2012年にその前身組織である統合報告アドバイザリーグループを組成して以来、企業の自発的な取組みである統合報告書の発行を、企業と投資家との対話促進を通じて価値向上に貢献する取組みの一つと捉え、2014年から日本企業の統合報告書に関する動向を継続して調査してきました。「日本の企業報告に関する調査2023」および「日本の企業報告の取組みに関する意識調査2024」と本調査との併用により、企業報告の取組みに関する現状理解のさらなる一助となることを目指しています。

概要と考察

1)   TCFDが推奨するカテゴリ別定量指標に沿った開示は、「エネルギー資源業」と「銀行業」で進み、一部の指標カテゴリでは80%を超える高い開示率となっている

TCFDは産業横断的な7つの指標カテゴリに沿った定量的開示を推奨しています。そのうち、GHG排出量を除く6つのカテゴリについては、定量情報を開示する企業の割合は限定的です。しかし、業種別にみると、「エネルギー資源業」と「銀行業」では、一部の指標カテゴリで80%超と高い割合となっていました。「エネルギー資源業」のとある企業では気候変動を役員報酬の決定要素のひとつとして採用し、その業績連動報酬の割合や評価の重み付けを定量的に開示していました。経営陣が気候変動影響を重視して経営していることが読み取れます。また「銀行業」では、サステナブルファイナンスの目標額と実績や、気候変動影響の大きいセクターへの貸付金残高等の削減目標と実績を定量的に開示している企業があり、気候変動影響を考慮して投融資判断が行われていることが読み取れます。

図1:TCFD産業横断的気候関連指標カテゴリの開示状況(全媒体、東証17業種別)

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出典:「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」KPMGジャパン

2)     GHG総排出量のScope1比率が高いとされる業種のひとつ「電気・ガス業」は、Scope1排出量の開示および第三者保証を受ける割合がともに100%であり、報告する情報の信頼性向上に向けた意識が高いことがうかがえる

統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告のいずれかで温室効果ガス(以下、GHG)排出量のScope1とScope2の実績を示す割合、第三者保証を受けている割合はそれぞれ96%、70%です。セメント、鉄鋼、輸送サービス、電気事業は、GHG総排出量のうちScope1の占める割合が最も高いと言われる中、「電気・ガス業」は、Scope1の開示割合と第三者保証の受審割合がともに100%であり、報告する情報の信頼性向上に向けた意識が高いことがうかがえます。

 

図2:Scope1の開示および保証受審の割合(全媒体、東証17業種別)

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出典:「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」KPMGジャパン

3)   Scope3は全体では89%が排出量の実績を報告し、29%が第三者保証を受審しているものの、主たる排出源に該当するカテゴリの実績が開示・保証されてない業種もあり、改善の余地が見られる

GHG排出量のScope3(15カテゴリのうちいずれか)について、89%が、統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告のいずれかで実績を報告し、29%が第三者保証を受けていました。そのうち割合が最も高かったのは、カテゴリ1「購入した製品・サービス」で、80%の企業が報告し、40%が保証を受けていました。カテゴリ別にみると、その報告と保証受審の割合は、業種ごとにばらつきがあり、それぞれの業種における主たる排出源と考えられるカテゴリについて、報告や保証受審の割合が高く合理的だといえる業種もありますが、そうではない業種も見受けられました。

図3:Scope3の開示および保証受審の割合(全媒体、東証17業種別)

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出典:「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」KPMGジャパン

4)     自然資本・生物多様性に関する目標や実績の開示割合が高い業種は「電力・ガス業」、「素材・化学業」

生物多様性・自然資本をマテリアルだと判断している、または自然資本・生物多様性に特化したセクションを設けたうえで、自然資本・生物多様性に関する目標と実績をともに示しているのは28%でした。業種別にみると、開示率が半数を超えて高いのは、「電気・ガス業(60%)」、「素材・化学業(57%)」です。サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の業種別基準や、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が現在開発中のセクター別ガイダンスを参考に、自然資本・生物多様性に関する影響を検討したうえで、その対応として目標を設定し、その進捗を報告する一連の取組みが一層広まることが想定されます。

図4:自然資本・生物多様性に関する目標と実績の記載状況(サステナビリティ報告、東証17業種別)

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出典:「日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編」KPMGジャパン

調査概要

調査対象

2023年10月時点の日経平均株価(以下、日経225)の構成銘柄225社

調査方法

調査メンバー全員で判断基準を定めたのち、企業ごとに1人の担当者が統合報告書、有価証券報告書、サステナビリティ報告のすべてを通読し、確認する方法で実施

調査結果については、東証17業種区分に分類し、分析・考察を実施

選定基準日

統合報告書:2023年12月31日までに発行されたもの

有価証券報告書:2023年12月31日までに提出されたもの

サステナビリティ報告:2023年12月31日までに発行されたサステナビリティ報告書、2023年11月〜12月における企業ウェブサイト上のサステナビリティ関連ページ

※日経平均株価(日経225)は株式会社日本経済新聞社の登録商標または商標です。

 

本調査の全文は、こちらからダウンロードできます:日本の企業報告に関する調査2023-気候変動および生物多様性の業種別分析編-

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