KPMG、「Pulse of Fintech(2022年下半期)」を発表

2022年の世界のレグテックへの投資は186億米ドル、フィンテックへの投資は2021年の高水準から減少傾向

KPMGインターナショナルは、世界のフィンテック投資の動向に焦点を当てた報告書「Pulse of Fintech(2022年下半期)」を発表しました。

  • 世界のフィンテック市場は2022年に6,006件の取引で1,641億米ドルの投資を集め、2021年の2,389億米ドルから減少はしたものの、堅調に推移している
  • 決済分野は、依然としてフィンテックのサブセクターとして最も強力となり、総額531億米ドルの投資を集めている

(本プレスリリースは、2023年2月15日にKPMGインターナショナルが発表したプレスリリースの日本語の抄訳版です。内容および解釈は英語の原文を優先します)
 

KPMGインターナショナル(チェアマン:ビル・トーマス)は、世界のフィンテック投資の動向に焦点を当てた報告書「Pulse of Fintech(2022年下半期)」を発表しました。

M&A、プライベートエクイティ(以下、PE)、ベンチャーキャピタル(以下、VC)など世界のフィンテックの投資総額は、2021年に7,321件で過去最高の2,389億米ドルを記録した後、2022年には、6,006件で1,641億米ドルと減少しました。結果として2021年の最高値の投資額と比較して大幅に減少していますが、全体的に見ると2022年が決して不調だったわけではありません。「Pulse of Fintech (2022年下半期)」によると、2022年はフィンテックへの投資額が過去3位の金額であり、投資件数で見ると歴代2位にランキングされています。

2022年上半期から下半期にかけて、フィンテックへの投資が1,192億米ドルから449億米ドルへと激減したことは、急速に変化する市場環境をより明確に示しています。上半期では、8件のM&Aを含み、10億米ドル以上の投資が数多く発生しました。これには、Blockによる279億米ドルでのオーストラリア企業Afterpayの買収の他、ドイツのTrade Republicと英国のCheckout.com の2件のVC投資や、米国のGenesis Digital Assets のPE投資も含まれています。

下半期における10億米ドルを超えるM&A案件は、Avalaraの84億米ドルの買収、Billtrustの17億米ドルの買収、Computer Services Inc.の16億米ドルの買収の3件のみとなり、すべて米国で行われています。下半期最大のVC投資は、スウェーデンのKlarnaによる8億米ドルとなり、これは大幅なダウンラウンドでした。最大のPE取引は、米国のAvantによる2億5,000万米ドルのレイズとなりました。

地域別に見ると、フィンテックへの投資は、依然として南北アメリカが優位を占めており、2022年の投資額のうち686億米ドルが南北アメリカで、このうち米国は616億米ドルを占めました。アジア太平洋地域は、歴代最高額に迫る505億米ドルにも達し、EMEA地域も449億米ドルの投資を呼び込みました。2022年は、決済分野がフィンテック資金の最大シェアを占めていましたが(531億米ドル)、この年もっとも注目されるのはレグテックで、投資額は2021年の118億米ドルから2022年には186億米ドルにまで増大しています。

KPMG インターナショナル 金融サービスイノベーション&フィンテックのグローバル統轄であるAnton Ruddenklauは次のように述べています。
「2022年は2つのフィンテック市場が注目を集めました。この年の上半期と下半期の間の変動は、高いインフレ率や金利の上昇、IPOイグジットの欠如、バリュエーションの下落圧力、そして暗号資産分野の混乱などの難題を抱える状況で、投資家の急速な感情の変化を浮き彫りにしています。
しかし、レグテックは想像以上の投資を集め、レイターステージ取引が優先されていた時代が過ぎ、シードステージ取引が注目を集めるようになるなど、否定的なものばかりではありませんでした」

2022年の主な調査結果

  • 2022年の全世界のフィンテック投資額は6,006件の1,641億米ドルで、2021年の史上最高額、7,321件の2,389億米ドルからは減少した。
  • 2022年のフィンテック投資では、引き続き決済分野が最も多く、2021年の571億米ドルに対し2022年は531億米ドルの投資を集めた。レグテックは、減少傾向を免れた唯一の分野となり、この分野への投資は、2021年の118億米ドルから増加し、2022年には186億米ドルを記録した。
  • 暗号資産およびブロックチェーンへの投資は、2021年の300億米ドルから2022年には231億米ドルに減少した。この年の下半期の減少は特に顕著で、5月のTerra(Luna)のクラッシュと11月のFTXの破綻の結果、この分野への警戒感が強まったことが要因と言える。
  • 世界のM&A取引額は、2021年の1,051億米ドルから2022年には739億米ドルまで減少し、VC投資も2021年の1,229億米ドルから805億米ドルに減少した。PE成長投資は急激な減少はないものの、2021年の約110億米ドルから2022年には97億米ドルまで減少した。
  • 南北アメリカでは、2,786件686億米ドルの投資を呼び込んだ。このうち2,222件の取引が米国で行われ、これは616億米ドルに相当する。一方アジア太平洋地域は、1,227件で505億米ドル、EMEA地域は1,977件で449億米ドルの投資を呼び込んだ。
  • 世界のコーポレートVCによる投資は、2021年の628億米ドルから、2022年には396億米ドルに減少した。
  • 取引額の中央値は、エンジェル・シードステージ(2021年は180万米ドル、2022年は240万米ドル)およびアーリーステージ取引(2021年は575万米ドル、2022年は600万米ドル)の両方で増加した。一方で、レイターステージ取引では中央値が減少した(2021年は1,500万米ドル、2022年は1,390万米ドル)。

暗号資産とブロックチェーンの投資家は法人とGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)へ焦点をシフト

暗号資産とブロックチェーンへの投資は、2021年の300億米ドルから2022年には231億米ドルに減少しました。この落ち込みは特に下半期に顕著に見られ、2022年上半期後半のTerra(Luna)の暴落と暗号資産ヘッジファンドであるThree Arrows Capitalが7月に倒産した結果、消費者向けの暗号資産および暗号資産交換に関連する投資家の感情が急速に冷めたことが原因になっています。消費者向けの暗号資産が輝きを失いつつある中、投資家は法人およびGRC分野を含む、より広範なブロックチェーンソリューションとバリュープロポジションに注目し始めています。この結果として、2023年には、ブロックチェーン分野への投資がさらに多様化する可能性があります。

南北アメリカにおけるフィンテック投資は米国がリード、同地域のシードステージ投資も過去最高を記録

2022年の南北アメリカでのフィンテック投資は686億米ドルで、このうちの大部分(616億米ドル)が米国によるものでした。他の地域と比較すると、フィンテックへの投資はブラジルが18億米ドル、カナダが13億米ドルとなっています。南北アメリカにおける投資総額は前年から減少していますが、エンジェル・シードステージ取引が45億米ドルを記録しています(2021年の34億米ドルから増加)。エンジェル・シードステージ取引では、取引額の中央値が前年比240万米ドルから300万米ドルに増加しています。南北アメリカでは、2022年のCVCによる投資も182億米ドルと歴代2位の投資額を記録しました。なお、このうち149億米ドルが米国によるものです。

アジア太平洋地域のフィンテック投資額は505億米ドルを記録

アジア太平洋地域におけるフィンテックへの投資額は、2021年の502億米ドルから、2022年には505億米ドルに増加し、これまでの記録をわずかに更新しました。上半期にBlockがオーストラリアの後払い決済企業Afterpayを279億米ドルで買収したため、これが総額の半分以上を占めています。上半期と下半期の結果を別々に見ると、上半期のフィンテック投資額が446億米ドルであったのに対し、下半期の投資額がわずか58億米ドルだったことからも、この巨額投資の影響は特に顕著であることが分かります。

Afterpayの買収の結果として、オーストラリアがアジア太平洋地域のフィンテックへの投資をリードすることになり、これが302億米ドルの投資額に上りました。インドの投資額は、2021年の79億米ドルから減少しましたが、それでも60億米ドルと堅調さを維持しています。シンガポールのフィンテック投資額は2021年の34億米ドルから41億米ドルと増加するも中国は低調が続き、わずか7億7,000万米ドルにとどまりました。

EMEA地域のフィンテックへの資金調達が前年比で大幅に減少

EMEA地域におけるフィンテック投資額は、2021年の2,379件の790億米ドルから、1,977件の449億米ドルへと減少しました。上半期の投資額は下半期よりもはるかに堅調で328億米ドルに上り、下半期の121億米ドルと好対照になっています。下半期の10億米ドル超えのフィンテック取引の欠如が、大幅な減少要因でした。イタリアのSIAの39億米ドルの買収が上半期の最大の取引となり、下半期のNucleus Financial Groupの8億4,000万米ドルでの買収と比較するとその差は明らかです。

フィンテックへの投資は2023年上半期も低調になる見込み

公開市場を悩ませているマクロ経済の課題に終わりが見えない状況で、IPOウィンドウが閉まっている状態が2023年上半期も続くと予想されているため、世界的なフィンテックへの投資は、2022年下半期と比較してもきわめて低調な状態が続くと考えられます。M&Aの活動は活気を取り戻す一方で、投資家がレイターステージ企業のバリュエーションが落ち着くのを待っていることから、取引規模ははるかに小さくなると考えられます。すべてのバーティカルフィンテックにおけるB2Bに加えて、レグテックは、フィンテック投資の中ではもっとも力強い分野の1つであり続けます。2023年上半期には、投資家がデューディリジェンスプロセスを見直し、規制当局も暗号資産規制の強化を検討しているため、暗号資産への投資は特に低調になると考えられます。一方で、より広範なブロックチェーンソリューション(クロスボーダーペイメント、ゲーム、NFTなどを含む)については、投資家からさらなる注目を集めることになると言えます。

世界のフィンテック市場に短期的な軟調があったとしても、多くの地域で金融サービスの変容が進んでおり、他分野への金融サービスの組み込みに世界中で注目が集まっている状況を鑑みると、フィンテック投資の長期的な見通しは依然として明るいです。

Anton Ruddenklauは、「金利が上昇し続けているため、バリュエーションはしばらく非常に微妙な状態が続くでしょう。また、投資家は価格がさらに下落するかを見守るため、M&A取引の多くは棚上げされた状態になることも考えられます。しかし、適正な価格で買収しようとするため、小規模なM&A活動が増加する可能性が高いです」と語っています。

 

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