本連載は、「自動車産業変革のアクセルを踏む~取り組むべきデジタルジャーニー~」と題したシリーズです。
自動車メーカーによるSDV(Software Defined Vehicle)投資が加速しています。日本政府においても日系メーカーのグローバル市場におけるSDVシェア3割を目標に掲げ、主要領域(SDV・モビリティサービス、データ利活用)と横断領域について具体的な取組みを進めています。第13回となる本稿では、SDVがもたらす自動車部品サプライヤーの再定義 Part3として、SDV時代の自動車部品サプライヤーに求められる備えとチャンスについて述べていきたいと思います。
1.マルチパーパス、マルチパスウェイ
近年の電気自動車(以下、BEV)の販売拡大は、欧州における2035年の内燃機関車両販売禁止に端を発すると言われています。しかし、その後のエネルギー環境の変化やハイブリッド車の躍進で、BEV販売は思うように伸びていません。一部の自動車メーカーでは、BEVからエンジン車(以下、ICE)やハイブリッド車等(以下、HEV)への見直しも進んでいます。
ただし、市場ごと、メーカーごとにその状況は異なります。下記の表は、2030年パワートレイン別新車販売予測の2023年時点との比較です。全体としてはBEVからHEVへのシフトが見られる一方、中国では逆にBEV比率が上昇しています。またインドおよびその他地域においては、2030年以降も依然ICEが半数以上を占めます。メーカー別でも同様です。日系メーカーと欧州メーカーにおいてはHEVへのシフトが確認できますが、米国メーカーはICEを、中国メーカーはHEVを、それぞれ大幅に増やしています。
【2030年新車販売におけるパワートレイン比率 ~市場別~】
出所:2025年2Q “Global Hybrid & Electric Vehicle Forecast”(GlobalData)を基にKPMG作成
【2030年新車販売におけるパワートレイン比率 ~メーカー別~】
出所:2025年2Q “Global Hybrid & Electric Vehicle Forecast”(GlobalData)を基にKPMG作成
わずか2年の間で、自動車メーカーのパワートレイン戦略は大きく変化しました。今後は、SDVや自動運転の実装という目的から、ソフトウェア制御、電子制御を前提としたBEVの採用が進み、さらに細分化されると考えられます。現在複数の自動車メーカーが採用する「マルチパスウェイ戦略(全方位戦略)」は、脱炭素社会の実現が背景にありましたが、SDV時代においては、自動運転社会の実現がその目的に加わり、「マルチパーパス、マルチパスウェイ戦略(複合目的型全方位戦略)」へとシフトするでしょう。
SDV時代の自動車部品サプライヤーは、まずこのようなメガトレンドをとらえたうえで、自動車メーカーごと市場ごとに、個別の事業戦略を考え、備えをしていくことが必要になります。
2.ソフトウェアファーストへの備え
SDVにおいて自動車は、ソフトウェアファーストで車両開発が進み、販売後も車載システムの更新や機能追加が、OTAを通じて行われます。自動車部品サプライヤーにおいても同様に、ソフトウェアファーストに向けたデジタル化の対応が求められます。製造業全体ではDXという言葉がすでに定着しているように、自動車部品業界においても、一定程度のデジタル化が進んでいます。一方で、依然古いシステム(レガシーシステム)が基幹システムの一部として残っていたり、部門間のサイロ化によってDXの効果が限定的になったりしているサプライヤーも見受けられます。
このような全社規模での課題を整理し、デジタルケイパビリティを整備するのに、KPMGではコネクテッドエンタープライズ(Connected Enterprise*1、以下CE)という考え方を提唱しています。CEとは、顧客接点を起点として、自社の企業活動全体を俯瞰、整理したうえでデジタルトランスフォーメーションを進めるアプローチです。ソフトウェアファーストになることで、自社業務プロセスがどう変わるのか、バックエンドを含めて何を変えなければならないのかを、検討することに非常に有効となります。
*1:KPMG Connected Enterprise
3.新たなビジネス創出機会
SDV化に向けて、自動車メーカーは新たなレベニューソースが求められることを、Part1で述べました。車両価格の維持、向上に加え、新たなサービス拡大は、SDV時代の自動車メーカーにとっては必須です。これは自動車部品サプライヤーにおいては、ビジネス拡大のチャンスにもなります。
KPMGでは毎年、世界各国の自動車業界のリーダーに対するサーベイを実施しています。第25回の本年においては、21カ国775人のエグゼクティブが回答、自動車業界のリーダーが進める戦略を変革の「5つのT」として定義し、今後の成功に向けた明確なブループリントとして提示しています。*2
このなかでは、新たなレベニューソースに関係して、経営者と消費者の見解におけるギャップが確認できます。下表は各種車載機能に対して、消費者がその費用を支払う意思があるかを尋ねた結果です。たとえば、安全・セキュリティといった機能に対して、消費者は経営者以上に支払うと回答しています。しかしながら、決済機能、高度なADAS(先端運転支援機能)や車内環境改善に関する機能等については、消費者の多くは払わない、もしくはわからないと回答しています。この結果は、これら車載機能が、現段階では消費者にとっては費用を支払うほどの価値はない、つまりレベニューソースにはなり得ない、もしくは正しく価値が伝わっていない可能性を表しています。
*2:グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2025
【各車載機能における支払い意思の有無】
出所:グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2025(KPMGインターナショナル)
こういった製品たる自動車と消費者ニーズのギャップは、自動車部品サプライヤーにとっても取り組むべきビジネスチャンスです。Part2で述べたように、SDV時代は、ジオメトリックなネットワーク型サプライチェーンが形成され、自動車メーカー、サプライヤーはもちろん、ディーラー、アフターサービス、モビリティ事業者、テクノロジー企業などがネットワーク上で相互につながります。自動車部品サプライヤーにとっても、新たな製品、新たなサービスを生みだす基盤となり、チャンスは増えるでしょう。
これまでの自動車部品サプライヤーは、自動車メーカーからの要求を確実に満たすことで成長してきました。SDV時代は、サプライヤー自らが市場を選択し、顧客ニーズをくみ上げ、製品を開発するなど、自動車メーカーと同等に価値創出することが求められます。自動車メーカーの下請けでなく、共創パートナーとして、その役割が再定義されるでしょう。
※各種グラフの表記数値は、小数点以下を四捨五入しているためパーセンテージ合計は100%とならない場合があります。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 石井 奨