KPMGコンサルティング 執行役員 パートナー 幸 昇
世界情勢の変化、人口減少・少子高齢化、気候変動による災害の激甚化、インバウンドの急激な増加、構造物の老朽化──私たちインフラセクターが担当するインフラ業界は、今まさに大きな転換期を迎えています。運輸や物流、建設、不動産、それぞれが個別に課題を抱えているだけでなく、業界全体としても変革が求められています。
KPMGコンサルティングはこうした状況のなかで、インフラ分野における知見とデジタル・イノベーションの経験を掛け合わせることで、業界の変革を支援しています。デジタル技術を活用して生産性を向上させると同時に、さまざまなリスクに備える守りを固め、さらに既存のアセットやリソースを活かして新たな価値を生み出していくことが、今後求められる方向性だと考えています。
インフラセクターでは、運輸、交通、物流、建設、不動産、そして社会インフラ──たとえば道路やスマートシティ、モビリティといった領域を一体で管掌しています。これらは非常に関連性が高い業界で、情報連携やコラボレーションがしやすいのが大きな特徴です。たとえば鉄道事業者はグループ内に不動産事業を持っていたり、不動産事業者は物流施設を手がけていたりします。建設業界はそれらすべてに関わっていて、スマートシティや自動運転といったモビリティ関連のプロジェクトも、私たちのセクターで扱っています。だからこそ、業界を横断して情報を共有し、活用できる体制があるのは大きな強みです。
ここ数年で生成AIがものすごく進化して、リサーチならほとんどAIで済んでしまう時代になってきました。つまり、デスクトップで調べられる情報の価値が、どんどん下がってきているのです。だからこそ、「現場の声」とか「生の情報」の価値が、これからますます高まっていくのではないかと思っています。それが顕著に表れてきているのが、インバウンド領域です。
現状、インバウンド客が日本で何をしているのか、具体的に捉えたデータはほとんどありません。どこに来た、何人来たというデータはあるけれど、個人の行動や趣味嗜好、困りごとまでは見えておらず、空港での入国数はわかっても、その後どこへ行き、何を体験したかまでは追えていません。空港、航空、鉄道、ホテル、観光施設のいずれも、自社のサービスや施設の利用状況については一定程度把握していますが、そこを利用した後の行動までは把握できていません。インバウンド客のかなりの割合が利用するアプリはありますが、把握可能なのは移動経路までです。つまり、現時点ではまだ「一過性の訪問者」としてしか捉えられておらず、「顧客」としての解像度が低いのです。
インバウンドは年間で日本の人口の3割に相当する方々が訪れる、大きなマーケットです。だからこそ、もっと解像度高く捉えられるようにしたい。訪日外国人旅行者の行動をもっと知りたいというニーズは高まっています。しかし、直接的にデータを取るのは難しい。そこで、クライアントが持つ知見と、我々が持つ知見やノウハウ、プロジェクトを推進していく力を合わせて、新しい価値を生み出していくことが私たちの役割です。「訪問者」ではなく「見込み顧客」として捉えた場合は、一見あまり関係ないと思えるような業界においても、さまざまなやるべきことが出てくるのではないかと考えています。
またインフラ業界は、どこも現場でのオペレーションが不可欠です。私たちは現地・現場でのデータ収集力と分析力、そしてテクノロジーを活用して、生産性や効率を高めるコンサルティングを展開していきたいと考えています。
たとえば建設現場での報告書などは、最近はアプリも出てきていますが、基本的にはまだ紙で書いているケースが多いです。その報告書の内容が本社で活かされているかというと、そこにはやはり断絶があるのが現状です。現場と本社の優先順位がうまく繋がっているとは、どの会社でもなかなか言えないと思います。現場で起きていることと、経営判断の間にあるギャップ、このどの組織、どの階層でも存在するいわば「永遠の課題」を、データ活用で解決していくことに取り組んでいます。
インフラ業界は共通して「労働人口の高齢化」「人手不足」「ノウハウ継承の難しさ」といった課題を抱えています。クライアントの隣に立ち、さらにクライアントのお客様の声まで拾って、それをもとに進むべき道を示す。そんなコンサルタント集団として、私たちインフラセクターは、社会インフラの未来を創っていきます。
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー
幸 昇