本稿は、2025年10月23日(木)に開催されたイベントへの登壇レポートです。
開催概要
2025年10月23日、KPMGコンサルティングは日本金融通信社主催のイベント「金融×スタートアップMeetup」へ参加し、「地域中核企業へのスタートアップとの協業による成長支援の実例」をテーマとした講演とパネルディスカッションを行いました。当日は会場に企業の経営企画、新規事業開発部門、スタートアップ、自治体関係者など幅広い参加者が集まり、スタートアップを取り巻く最新動向や、実際の取組み事例が紹介されました。
KPMGコンサルティングのセッションでは、地域金融機関とKPMGがともに地域経済の中心である地域中核企業の成長を支援していく仕組みと、地域中核企業とスタートアップによる協業事例を紹介しました。
地域型オープンイノベーションプログラムサービスの背景
日本政府は、大企業と比べて成長余地がありながらも、中小企業に比べて支援策が手薄であった中堅企業を日本経済の牽引役としてクローズアップし、2024年を「中堅企業元年」と定義して各種政策を打ち出しています。KPMGコンサルティングは地方経済活性化の担い手である地域の中堅企業(以降、地域中核企業)が抱えていた最大の課題である人材確保や育成、新たな収益源の獲得にかかわる課題に早期から着目し、2019年から地域型オープンイノベーションプログラムを開始しました。
地域中核企業は経済環境の縮小や激しい変化に対応するために新たな事業の創出に向けてさまざまな取組みを展開しつつも、都市圏に比べて数と質の両面から人材の不足が深刻であり、単独で実効性のある解決を図ることは非常にハードルが高い状況にあります。同様に、地域経済活性化の担い手である地域金融機関は新たな収益モデルの構築に取り組んでいます。さらに、行政や教育機関も新たなビジネスモデル(地場産業)や雇用の創出に取り組んでいますが、なかなか芽が出ていない状況です。
そこで地域中核企業を主役としつつ、地域のプレーヤーが一体となって課題や目的、時間軸を共有しつつ伴走支援をすることによって新規事業創出の実効性を確保し、その結果として地域や企業に持続性が生まれる仕組みである「地域型オープンイノベーションプログラム」の導入が全国で拡大しています。
地域型オープンイノベーションプログラムの特徴
地域型オープンイノベーションは、(1)協業案の企画、(2)協業先探索、(3)実証実験のステップで進みます。とりわけ、重視しているのは(1)協業案の企画です。プログラムに参加する地域中核企業の業種や課題も多様でかつ複雑であるため、経営層や現場社員達と深い議論を毎週重ねたうえで、成長戦略を念頭に置きながら協業案を共に企画します。
KPMGコンサルティング株式会社 シニアマネジャー 戸田 静香
伴走型アプローチを採用することで、地域中核企業がノウハウを習得し、イノベーションの『持続性』を目指しています。また、全方位的な専門家を有するKPMGジャパンのアセットと、地域における圧倒的な知名度とコネクションを有する地域金融機関が全面バックアップすることで『実効性』も高めています。今後もスタートアップとの協業を1つの手段にしながら、地域経済の成長に寄与する取り組みを積極的に推進してまいります。
プログラム主催者、参加企業によるパネルディスカッション
2024年にはじめてプログラムを開催した北日本銀行、池田泉州銀行と、各プログラムに参加した川嶋印刷株式会社(岩手県一関市)、ポニー工業株式会社(大阪府大阪市)に登壇いただきました。プログラム実施(参加)の経緯、スタートアップや地域金融機関との連携による協業のメリット、組織における前向きな変化など、参加を通じて得られた成果や学びについての意見交換を行いました。
登壇者:左から、
KPMGコンサルティング株式会社 マネジャー 佐藤 正祥
川嶋印刷株式会社 東京営業所 次長 工藤 正隆 氏
ポニー工業株式会社 営業本部 営業企画室 課長 田邊 幸治 氏
株式会社北日本銀行 営業統括部 事業コンサルティング室
調査役 漆田 学 氏
株式会社池田泉州銀行 地域共創イノベーション部 次長 渡邉 宏朗 氏
KPMGコンサルティング株式会社 シニアコンサルタント 笹野 夏暉
推し活ビジネスの事業を立ち上げた川嶋印刷の工藤氏は、「金融機関や自治体、KPMGのサポートを得ながら、関係各所へのヒアリングを複数回実施した。結果として当初の想定とは異なるマーケットへ展開することになったが、顧客の声を直接うかがうことで、納得感を持って取り組むことができた。」と述べました。また、北日本銀行の漆田氏は、「地域企業の発展に資する新たな手段として、本プログラムの開催を後押しした。銀行員もリソースを活用し、地域企業と一緒に価値を創造していく時代であると考えている。」と説明しました。
スタートアップとの協業を進めるポイントについてポニー工業の田邊氏は、「本業の取組みと同時並行で新規事業を進めていく難しさを感じた。スタートアップとは協業先として密にミュニケーションをとることで乗り越えられた。」と述べました。また、池田泉州銀行の渡邉氏は、「新事業のテーマを決定する場面と実証実験に係る予算の承認を得る2つのタイミングで経営層の意思決定が必要であり、時間を要する。事務局はKPMGコンサルティングと連携し、実務メンバーの熱量を交えながら経営層へビジネスモデルの説明を行うなど、円滑な意思決定のためのサポートがなされた。」と事務局としての役割を述べました。
最後に、プログラムの支援を担当したKPMGコンサルティングの笹野より、新規事業への取組意義をまとめました。
「新規事業の立ち上げは『センミツ(千に三つ)』と呼ばれるほど難しく、1,000の事業を起こしても成功するのはわずか数件と言われています。1つの事業が短期間で自社の柱となるほどの成果を上げることは、確率的に非常に低いのが現実です。しかし、私たちはこの挑戦のプロセスにこそ価値があると考えています。新規事業の立ち上げで得られる知見や経験は、次の挑戦の成功確率を高める重要なアセットです。だからこそ、企業は常に探索を続け、イノベーションの芽を育てることが不可欠です。KPMGコンサルティングは、各事業の成功確度を高めるための支援を提供し、企業がそのプロセスを最大限に活かせるよう伴走します。こうした取組みを通じて、各社でイノベーションが生まれ、日本全体で新しい価値創造が勃興することを目指しています。」