【Anaplan×KPMG対談】不確実な時代を勝ち抜くCFOの武器・企業価値を高めるデータドリブン経営

本稿では、Anaplan Japan株式会社の中田 淳 氏、有限責任 あずさ監査法人 パートナーの土屋 大輔、同法人 ディレクターの安東 容載が、日本企業が直面する企業価値向上の課題とそれを支えるデータドリブン経営のあり方について議論をします。

本稿では、Anaplan Japan株式会社とあずさ監査法人が、日本企業が直面する企業価値向上の課題とそれを支えるデータドリブン経営のあり方について議論をします。

不確実性が高まる経営環境において、CFOの役割は従来の財務管理者から、企業価値創出を担う「戦略の司令塔」へと大きく進化することを求められています。かつてCFOは、資金繰りや会計処理を担い、正確な数字を守ることに重きが置かれてきました。しかし現在は、企業の成長戦略や投資方針をリードし、株主や投資家との対話においても企業の未来を語れる存在でなければなりません。
一方、多くの企業では依然として組織内データの活用が十分ではなく、意思決定のスピードや質が競争力を阻害しています。PBR(株価純資産倍率)の改善が上場企業全体に求められて久しいものの、依然として「1倍割れ」の企業が多く、資本市場からの評価は限定的なままです。これは、企業価値向上の施策が本格的に実を結んでいないことを示しています。
こうした課題を打破するためには、財務・非財務データを統合的に活用し、将来を見通す力を組織に根づかせることが不可欠です。本対談では、EPMのグローバルリーダーであるAnaplanと、豊富な実務知見を持つKPMGが協働し、戦略と事業管理をつなぐ「コネクテッド・マネジメント」をテーマに議論を展開しました。AIやクラウドといった技術基盤を前提に、具体的な解決策と実践的なアプローチを提示し、CFOや経営企画・経理部門が企業価値を高めるための道筋を探ります。

なお、本稿の内容はInsight Plusにてオンデマンド動画も掲載しております。よろしければ併せてご視聴ください:【Anaplan対談】不確実な時代を勝ち抜くCFOの武器:企業価値を高めるデータドリブン経営 - KPMGジャパン

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(中央)Anaplan Japan株式会社 社長執行役員 中田 淳 氏
(右)有限責任 あずさ監査法人 サステナブルバリュー統轄事業部/アドバイザリー統轄事業部 パートナー 土屋 大輔
(左)同 アドバイザリー統轄事業部 ディレクター 安東 容載

※所属・役職は、2025年9月時点のものです。

今、企業に求められるデータドリブン経営とは何か?

 

安東
昨今、為替や金利の変動、地政学リスク、サプライチェーンの不確実性など、経営環境の変化が激しくなっています。こうしたなかで、企業はどのように意思決定の質を高め、スピードを上げていくべきでしょうか。今日は、その鍵となる「データドリブン経営」について議論したいと思います。
まず、日本企業の現状を踏まえて、このテーマの重要性を整理したいと思います。経営層と日々対話されている土屋さん、今どのような課題が見えているのでしょうか。

土屋
日本企業の取組状況を示すデータがあります(図1)。東京証券取引所の資料によると、92%の企業が資本コストや株価の改善に取り組んでいると報告されています。ただ、詳しく見ると、その多くは「自律的に改善を進めている企業」ではなく、「今後改善が期待される企業」に分類されていて、実効性はまだ十分とは言えません。
2023年3月、東証はPBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込む企業が多い状況を受けて、資本コストや株価を意識した経営への改善を要請しました。それから2年以上経過しましたが、PBRは単純平均で1.2倍から1.3倍、加重平均でも1.2倍から1.4倍と、わずかな改善にとどまっています。

(図1)

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出所:東京証券取引所「資料2「第22回市場区分の見直しに関するフォローアップ会議(2025年7月9日)資料)」を基にKPMGジャパン作成
PBRは日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR」よりKPMGジャパンが転記。

安東
数字を見ると、改善はわずかで、課題は根深そうですね。

土屋
この現状を踏まえ、私たちはCFOの役割を3層構造で整理しています(図2)。最上層は企業価値向上のための戦略立案です。ここではポートフォリオ戦略や財務戦略をどう構築するかが問われます。中間層はCFO組織そのものの強化で、特に重要なのがFP&A(Financial Planning & Analysis:経営計画・分析)機能の確立です。そして最下層はデータ活用。この3層が縦につながることで、CFOは企業価値向上に責任を持てるようになります。
ただし、FP&Aを導入しようとする企業の多くで課題が見られます。代表的なのは、①導入目的が明確でないまま「担当を置いたこと自体」で満足してしまう、②本社だけで導入し事業部門と連携していない、③損益計算書(PL)の延長線上の分析で終わり、貸借対照表(B/S)を十分に見ない、④レポーティングラインが曖昧で誰に報告すべきか不明確、⑤役割や責任がはっきりしていない、などです。特に、本社FP&Aと事業部FP&Aの連携ができていないケースが多く、せっかくの取組みが部分最適にとどまっている現状があります。こうした点が、データドリブン経営を阻害する要因になっています。

(図2)

【KPMG – CFO組織・機能改革アドバイザリー】

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KPMG作成

安東
なるほど、現状の課題がよく分かりました。では、中田さん、こうした課題を解決するために、どのようなアプローチが必要でしょうか。

中田
私たちAnaplanでは、データドリブン経営、つまり意思決定においてどのようなデータを使うべきかという観点から、人・モノ・金、それぞれのプランニングをすべてコネクテッドにすることが経営に良い効果をもたらすと信じ、その考え方を「コネクテッド・プランニング」というコンセプトとして、サービスを展開してきました(図3)。

(図3)

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出典:Anaplan

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出典:Anaplan

そして、このコンセプトの効果を検証するため、英語圏の約500社を対象に「ディシジョンエクセレンス・サーベイ」を実施しました。その結果、意思決定の質・スピード・効率を指数化したスコアが高い企業ほど、株主総利回り(TSR)が明確に高い傾向があることが分かりました(図4)。意思決定の優劣が、株主への還元に大きな差を生んでいるのです。

(図4)

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出典:Anaplan

安東
非常に興味深い結果ですね。では、意思決定の質を高める要因はどこにあるのでしょうか。

中田
重要なのは「コネクテッド」であることです。本社と事業部の縦の連携、経営と営業・製造といった部門間の横の連携、さらにサプライヤーや顧客との社外連携。このつながりを数値化した「コネクテッド指数」を定義しました。この指数が高い企業ほど、ディシジョンエクセレンス指数も高く、質の高い意思決定を実現していることが明らかになりました。
わかりやすい例として、コネクテッド指数の高い企業は低い企業に比べて、会議や打ち合わせの時間が43%短縮されるという結果が出ています。情報が部門間で共有され、意思疎通がクリアになっているから、社内のコラボレーション力や生産性が高まり、その結果、打ち合わせ時間も短くなるのです。
さらに、今年上半期に発表された海外の経営分野の論文でも、短期的かつ戦術的な予算策定にはAIが有効である一方、中長期の戦略立案では人間の創造性が依然として優位にあると報告されています。つまり、データと人の知見を両輪として活用することが、正しい意思決定につながると考えています。

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なぜ日本企業はデータドリブン経営が進まないのか?

 

安東
ここまでで、データドリブン経営の重要性は明らかになってきましたが、日本企業ではなかなか進まない現状があります。土屋さん、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。

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土屋
企業の方々と話していると、必ず「費用対効果」の議論が出ます。CFO機能を担うコーポレート部門がコストに敏感になるのは当然ですが、問題は「効果」の定義が旧来的なものに偏っていることです。多くの企業では「どれだけ時間を短縮できるか」「何人分の人員を削減できるか」といった効率性の指標に矮小化され、将来的な経営力強化という本質的な観点が置き去りになっています。
しかし、不確実性の高い時代に最も重視すべきは「将来の予測力」です。例えば、トランプ政権時代の追加関税や地政学的リスクの高まりなど、世界規模で突発的な事象が起きた際に、どのように自社の経営を舵取りしていくのかが問われます。効率化という狭い指標ではなく、リスクシナリオを先取りし、複数の選択肢を持ちながら最適解を導ける体制こそが、今の時代に求められる「効果」なのです。

安東
つまり、将来に備えるためには、常にシミュレーションを行い、経営の“頭の体操”を繰り返しておくことが重要になるということですね。

土屋
そのとおりです。私はこれを「インテリジェンス機能」と呼んでいます。企業が保有するデータをいかに活用して未来を想定し、意思決定に反映していくか。このインテリジェンス機能を整備できるかどうかで、企業の競争力は大きく変わります。しかし日本企業では、この領域への投資意識がまだまだ低いのが現実です。システム投資や効率化には資金を投じても、未来予測を担う機能については解像度が低く、十分な予算配分に至らないケースが多く見受けられます。
結局のところ、費用対効果を考える際の「効果」の部分で、このインテリジェンス機能の価値を再定義できるかどうかが、データドリブン経営を前進させる大きな分岐点になります。データを活用する側の人材育成や、役割分担の明確化といった組織的課題も含め、複合的に取り組むことが不可欠だと考えています。

安東
中田さん、ソリューション提供側の視点ではどうでしょうか。

中田
私たちのようなソリューション提供側は、常に「効果」を問われます。米国の事例では非常にシンプルです。「Anaplanを導入すれば生産性が上がり、時間が短縮され、人員削減につながる」。これが第一段階の効果として明確に語られます。日本は米国と異なり人員削減に踏み込むことはありませんが、導入初期に現れる効果は同様で、業務効率が向上し、精度が上がることは確かです。ここで重要なのは、その後に生まれる“余力”をどう活かすかです。業務効率化により生み出した時間とマンパワーを分析に振り向け、売上向上やコスト削減につながる新たな施策に直結する知見を獲得することが、本来の目的だと考えています。
ところが、日本企業は将来の効果を狙うための「投資」を「コスト」として捉える傾向が強く、DXの流れのなかでもERPのバージョンアップや保守対応には巨額の投資を行う一方で、意思決定の高度化に向けた投資は後回しにされがちです。依然として「メールとスライド資料・表計算ファイル」という従来の道具に頼った意思決定が主流となっている現状には大きなギャップを感じています。
一方、海外では「Anaplanのような基盤がなければ業務が回らない」という認識が当たり前になっています。必要なデータが見えていないのであれば、投資をしてでも取得し、それを基に意思決定を行う。この文化の差こそが、日本と海外との大きな隔たりだと考えています。 

 

CFO・経営企画の役割はどのように変わるべきか?

 

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安東
ここまでの議論で、日本企業の現状とデータドリブン経営の重要性が見えてきました。では、CFOや経営企画の役割は今後どう変わるべきなのでしょうか。土屋さん、投資家の視点も含めていかがでしょうか。

土屋
投資家からよく聞くのが、日本と海外のCFOの違いです。海外のCFOは事業戦略に深く関与し、自分の言葉で将来像を語ることができます。一方、日本のCFOは財務経理を担当する「金庫番」としての役割が中心で、経営企画機能を兼務していないケースが多い。そのため、事業戦略に関する問いかけに十分に応えられない場面がしばしば見受けられます。
これは構造的な問題でもあります。日本企業では、事業戦略やコーポレート戦略は経営企画部門が担い、財務戦略はCFOが担うという“分業型”が長らく定着してきました。その結果、投資判断や資本配分において統合的な視点を欠き、スピード感のある意思決定が難しくなっているのです。

安東
「金庫番」という言葉が象徴的ですね。経営企画部門の現状についてはどう見られていますか。

土屋
多くの企業で経営企画部門もまた「数字の集計」や「社内報告書作成」にとどまり、戦略的な意思決定をサポートする本来の役割を果たせていません。本来CFOは、戦略立案(経営企画機能)と財務戦略(金庫番機能)を統合し、成長のための資源配分を一手に担う存在であるべきです。財務データと経営戦略を結びつけ、未来の成長ストーリーを描ける人材こそ、これからのCFOに期待される姿だと考えています。そのバックアップとなるのが、データの活用と精緻なフォーキャスト機能です。

安東
中田さん、こうした課題を乗り越えて成果を上げている企業では、どのような取組みや工夫が行われているのでしょうか。具体的な事例を交えて教えていただけますか。

中田
北米のある金融企業の事例をご紹介します。この会社では基幹システム(ERP)を最新化したものの、FP&Aは依然として手作業に頼っていました。Anaplan導入の目的を尋ねたところ、「自分の作業を楽にするためではなく、事業の役に立ちたいから」という明快な答えが返ってきたのです。私はこのようなマインドセットこそが一番重要だと思っているのですが、Anaplan導入後、この企業では、来年度計画に対してファイナンスの視点から評価を加え、複数シナリオのシミュレーションを実施し、「このプランはリスクが高く、予算に組み込むべきではない」といった具体的な助言を行うまでに発展しました。

一方で対照的な事例もあります。ある日本の有名企業の経営企画部長は「各事業から表計算ファイルで上がってきた数字を合算して報告するだけなので、Anaplanのようなデジタル投資は不要」と言い切りました。大企業でありながら、データ活用や意思決定の高度化を推進する姿勢が見られず、非常に大きなギャップを感じました。まさに「金庫番」ですね。同じ規模の企業であっても、こういったマインドセット次第で大きな差が生じるのだと感じます。

安東
非常に参考になります。ちなみに、御社ではAnaplanをどのように活用されているのでしょうか。FP&Aの取組みについてもぜひ教えてください。

中田
弊社では、CEO直下に、経験豊富ないわゆる「プロCFO」を配置しています(図5)。中心となる機能はFP&Aです。CFOから社員に対するメッセージは基本的に「会社をどう成長させていくか」というものしか聞きません。つまり、成長のドライバーとしての役割を明確に担っています。Go-to-Market組織(営業部門)にFP&A担当を配置し、APAC地域のマネジャーがFP&AのVPに報告する体制で、FP&AのVPは必ずグローバルフォーキャストコールに参加し、どこに投資すべきか、どこを絞るべきかを常に判断しています。さらに、我々のCFO組織はテクノロジー主導(Technology-led)という特徴があります。組織内に10人程度のAnaplan技術者と、インドに30人のビジネスインテリジェンス担当アナリストを配置し、CFOにレポートしながら日々データ分析と改善点の提示を行っています。弊社は世界で2,500人規模で売上約1,500億円の企業ですが、例えば日本の営業担当が案件を落とすとCFOが即座に把握し、この失注が全社の受注や請求のフォーキャストにどのように影響を与えるのかを瞬時に理解できるほど、コネクテッドな仕組みを構築しています。おそらく弊社のCFOは世界で最もAnaplanを活用している、テクノロジー主導のCFOであると自負しています。

(図5)

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出典:Anaplan

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出典:Anaplan

安東
なるほど、御社の取組みは非常に示唆に富んでいますね。FP&Aを軸に、テクノロジーを活用してグローバルでコネクテッドな仕組みを構築されている点は、まさにCFO組織の進化した姿であり、データドリブン経営の一例だと感じます。
では、こうした事例も踏まえて、CFOの役割転換において、最も重要なポイントはどこにあるのでしょうか。

土屋
やはり、経営企画機能と財務戦略機能を統合することです。CFOが単なる数字の管理者にとどまらず、戦略的な経営資源配分をリードする存在へと進化することが、日本企業に求められる方向性だと考えます。その実現にはトップダウンが不可欠です。経営者自らが「このデータを見たい」「この観点から予測を検討したい」と意思を明確に示すことが、組織を動かす力になります。

中田
結局のところ、「CFOが金庫番からビジネスパートナーへと変われるかどうか」が成否を分けます。FP&Aの成功は単なる機能の整備ではなく、組織全体のマインドセット変革にかかっています。そして、この変革を支えるためにはツールの活用も不可欠です。私たちが提供しているAnaplanのような仕組みは、その一助となります。しかしツールの導入ありきではなく、CFOという役割そのものを再定義し、経営企画・経営戦略・財務戦略を一体化することが重要です。

 

戦略と事業管理の現場をつなぐ「コネクテッド・マネジメント」とは?

 

安東
CFOの役割転換に必要なポイントが見えてきました。では、それを実際の経営管理にどう落とし込み、戦略と事業管理をつなげていくのか。特に、データドリブン経営を支える「データ基盤」のあるべき姿と、意思決定の質を高める「コネクテッド・マネジメント」について、中田さんと深掘りしていきたいと思います。

安東
意思決定に必要な経営管理データには、4つの要素があります(図6)。①実績、②計画値、③将来見通し、④シミュレーションデータです。ところが、多くの企業では実績データの収集に追われ、計画や見通しの精度向上に十分なリソースを割けていません。ERPを刷新したことで安心してしまい、計画やシミュレーションは依然として手作業の表計算ファイルの“バケツリレー”にとどまるケースも散見されます。その結果、せっかくの分析やレポートもラストワンマイルで非効率が生じ、戦略的な意思決定を支えるには不十分な状態となっています。

(図6)

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KPMG作成

中田さん、こうした状況をどのようにご覧になりますか。

中田
おっしゃるとおり、過去実績のデータについては整備が進んでいますが、経営者が本当に求めているのは「過去の数字」ではなく、「次に何が起こるのか」という将来の見通しです。私がAnaplan Japanを立ち上げた2016年当初は、業務を効率化したい、作業を楽にしたいという理由で導入いただくケースが大半でした。ところが最近では「シナリオシミュレーションを行いたい」という要望が増えており、企業の視線が確実に高まっていると感じています。

安東
印象的なシナリオシミュレーションの事例があれば、ぜひ教えてください。

中田
2020年のパンデミック時の事例が象徴的です。ある海外の製造業企業は「前例がないので正確な予測は難しい」と理解したうえで、それでもトライ&エラーを続けました。L字型、V字型、U字型などさまざまな回復パターンを、製品別・地域別・産業別・顧客別に整理し、体系的にデータを蓄積していったのです。この取組みを5年間継続した結果、現在では突発事象への対応力で他社を大きくリードできる体制を築いています。「今できないからやらない」ではなく、「今から始める」ことこそ重要だと強調したいですね。

安東
確かに、トライ&エラーを続け、複数の分析シナリオを持っている企業は変化に強いですね。ただ、現実には組織のサイロ化によってデータ活用が阻まれるケースも多いと感じます。企業価値を高めるには、経営層と事業部門が同じ指標で議論できる環境が欠かせません。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュ・フロー計算書(CF)に加え、近年ではサステナビリティ情報やリスク管理データも求められるようになっています。こうした情報を一元的に扱える「戦略的計数コミュニケーション基盤」の整備が急務です(図7)。

(図7)

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KPMG作成

KPMGでは、この基盤づくりを4段階に整理しています(図8)。

Level 1:法定開示対応
Level 2:FP&A(経営計画・分析)強化
Level 3:データドリブン経営の実践(経営管理データの一元化・生成AIによる分析)
Level X:AIドリブン経営(エージェント型AI によるKPI自動設定、計画データ自動生成、メンテナンス自動化、経営アドバイザリーなど)

(図8)

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KPMG作成

 

このように段階的にレベルアップすることで、企業は着実なデータドリブン基盤を構築できると考えます。

中田
弊社も同様のステップを描いています(図9)。実際、今後3〜4年で弊社売上の約半分に相当する5億ドルをAI関連に投資する計画を公表しました。

フェーズ1:予測AI – コストや収益を時系列で予測する機能
フェーズ2:生成AI(CoPlanner) – 「来月のキャッシュポジションは?」といった質問に即答する対話型分析機能
フェーズ3:モデル自動生成(CoModeler) – 「財務三表モデルを作成してほしい」と依頼すればAIが数分でモデル構築する機能

(図9)

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出典:Anaplan

 

さらに現在はフェーズ4:エージェント型AIにも注力しています。これはファイナンスアナリストやサプライチェーンアナリストの“相棒”のように機能し、データ異常を自動検知してワークフローを実行、必要に応じて修正指示まで行う自律型の仕組みです。既にフェーズ2・3の一部は稼働しており、今年後半にはさらに拡張を予定しています。将来的には各社が独自のエージェントを開発できる環境を提供することを目指しています。

安東
中田さんのお話を伺って、AIによる業務変革が着実に現実化しつつあることに改めて感心しました。こうしたテクノロジーを本当に経営に活かすためには、単なるシステム投資で終わらせるのではなく、経営管理の質を根本から高める視点が必要です。その鍵となるのが「コネクテッド・マネジメント」です。管理部門間で計数コミュニケーションを活性化し、戦略と事業管理を同じ指標で結びつける。そのためには、計数データを一元化し、計画・実績・シミュレーションを連動させる強固なデータ基盤と、それを支える管理業務のつながりが不可欠です。これらが整えば、意思決定はスピードと精度を兼ね備え、企業価値を高める力になると考えます。

 

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次の一歩 :データドリブン経営実現に向けて

 

安東
本日の議論を踏まえて、ここまで非常に示唆に富む内容でした。最後に、データドリブン経営実現に向けて、企業のみなさまへのメッセージを一言ずつお願いします。

土屋
AI・データ活用を成功させる鍵は、経営者の胆力にあります。トップダウンで「人・モノ・金」にコミットし、データを経営判断に活かす強い意思が欠かせません。CFOの役割は、財務戦略だけでなく経営企画や事業戦略を統合する存在へと再定義されるべきです。そのためには、経営者自らが「どのデータを見たいのか」「どの予測を判断に使いたいのか」を明確に示し、それを支えるシミュレーション体制を整えることが重要です。

中田
現状、多くの企業では収益やコストがバラバラに管理され、一元化されていません。最初の一歩は、CFO組織内でデータを統合する「コネクテッド・ファイナンス」の実現です。そこから、サプライチェーン・セールス・マーケティング・ITなどオペレーショナルなデータを含む全社的な「コネクテッド・プランニング」へと発展させることで、CFO・CEOが適切な判断を行える環境が整います。実現には時間と試行錯誤が必要ですが、まずは足元のファイナンス組織からデータドリブンな経営に着手できるようソリューションのご提案ができればと思っています。

安東
本日の対談では、「不確実な時代を勝ち抜くCFOの武器・企業価値を高めるデータドリブン経営」について多くの示唆が得られました。KPMGでは「CFO組織の機能改革アドバイザリー」を通じ、企業価値向上や戦略立案から業務改革までワンストップで支援しています。データドリブン経営の実現に向け、戦略から実装までを総合的にサポートし、経営管理の高度化を後押ししてまいります。本日はありがとうございました。

中田・土屋
ありがとうございました。

(了)

 

執筆者

あずさ監査法人
サステナブルバリュー統轄事業部
パートナー 土屋 大輔

有限責任 あずさ監査法人
アドバイザリー統轄事業部
ディレクター 安東 容載