湘南ベルマーレのデジタルイノベーションパートナーであるKPMGコンサルティング。クラブの変革に伴走した6年間について、湘南ベルマーレの坂本 紘司社長と対談しました。
KPMGコンサルティングは2020年、プロサッカークラブ「湘南ベルマーレ」のデジタルイノベーションパートナーとなりました。以来、湘南ベルマーレとともに、クラブのデジタル変革やサステナビリティ経営を支援し、地域社会との共創を進めてきました。今回は、湘南ベルマーレの坂本 紘司代表取締役社長を迎え、これまでの取組みとその成果を振り返るとともに、今後の展望について語り合いました。
【インタビュイー】
湘南ベルマーレ
代表取締役社長 坂本 紘司 氏
KPMGコンサルティング
ビジネスイノベーションユニット スポーツイノベーションチーム
アソシエイトパートナー 笹木 亮佑
マネジャー 小山 翼
左から KPMG 小山、湘南ベルマーレ 坂本社長、KPMG 笹木
信頼し合えるパートナーとして、ともに歩んだ6年
-KPMGコンサルティングがパートナーとなり今年で6年目に突入しました。これまでを振り返っていかがでしょうか。
湘南ベルマーレ 坂本社長
坂本氏:KPMGとのパートナーシップも、気づけば6年目ですね。最初の頃から、クラブの未来をともに描き実行してくださる姿勢に、私たちは何度も励まされてきました。
笹木:ベルマーレとの取組みは、KPMGのスポーツビジネスの原点です。最初は2人だった専門人材も、今では25人規模にまで拡大しました。JリーグやWEリーグ、自治体との連携も広がり、スポーツを起点にした社会課題解決のモデルが少しずつ形になってきています。
小山:スポーツ業界を変えたいという思いのもと、ベルマーレとともに多くのチャレンジを仕掛けてきました。現在では、さまざまなフィールドでベルマーレと築いてきた実績が、少しずつ広がりを見せています。個人としても入社以来、継続して携わり、成長させていただきました。
ファンエンゲージメントのDX:仕組みづくりから成果まで伴走
-最初に取り組まれたのが、ファンとの関係強化だったそうですね。
坂本氏:はい。KPMGと最初にご一緒したのが、まさにファンエンゲージメントの領域でした。クラブとしても、ファンとの関係性をもっと深めたいという思いはありましたが、どう仕組みに落とし込むかは手探りでした。
笹木:当時、多くのスポーツクラブでは、顧客データが分散していて、マーケティングが勘や経験に頼りがちでした。そこで私たちはまず、ファンデータを統合する仕組みづくりから始めました。どのチャネルからファンが入ってきても、シングルIDで一元管理できるようにし、行動データを蓄積・分析できる基盤を整えました。
次に、ポイント管理システムやキャッシュレス決済の導入により、ファンの行動履歴を可視化できるようにし、さらにAIを活用して来場や購入の予測値を算出し、ファン一人ひとりにパーソナライズしたマーケティングアクションを展開しました。
KPMG 笹木
坂本氏:その仕組みが、スタジアムの来場者数にも大きく影響しましたよね。我々はアナログな会社だったので、デジタルの力でここまでできるとは思っていませんでした。実際、2023年の国立競技場でのホーム開催試合では、クラブ史上最多の54,243人が来場しました。KPMGの支援は、ノウハウを教えるだけにとどまらず、実行と成果まで伴走してくれる点がありがたいです。
笹木:ありがとうございます。私たちは、単にノウハウを提供するだけでなく、クラブが自走できるようになることをゴールにしています。実際、ファンエンゲージメントの領域では、今年からKPMGの関与度を徐々に下げるフェーズに入りました。ベルマーレが自らデータを活用し、施策を打てるようになったことは、私たちにとっても大きな成果です。
BELL-BEING構想:点から面へ ストーリーとロードマップを作り、インパクトを可視化
-もう1つの柱が、クラブのサステナビリティ経営です。
坂本氏:クラブとして、地域貢献や環境活動には以前から取り組んできましたが、それぞれの施策が点で終わってしまい、「何のために何をやっているのか」全体像が見えづらいという課題がありました。
笹木:ご一緒する前からクラブとして本気でここに取り組んでいることが、まず素晴らしいと思いました。まず取り組んだのが、クラブの理想像を描く「サステナビリティストーリー」の策定です。これまでの活動や湘南地域の社会課題を基に、クラブが社会にどう貢献していくのかを言語化しました。クラブの皆さんと何度も議論を重ね、理念と現場の実感をすり合わせながら、共通のビジョンを描いていきました。
次に、そのビジョンを実行に移すための道筋として「BELL-BEINGロードマップ」を作成しました。短期・中期・長期の時間軸で、クラブが目指す姿と、各テーマで提供する価値を整理し、誰が・いつ・何をするのかを明確にしました。
そして3つ目が「インパクトマップ」です。これは、クラブの活動が生み出す社会的価値を貨幣価値に換算し、定量的に評価する仕組みです。
坂本氏:サステナビリティストーリーは、クラブの理念を形にするだけでなく、実際の活動に落とし込むための指針で、社内ワークショップや営業資料、特設サイトなど、KPMGと一緒に実行フェーズまで設計しています。ロードマップと合わせても、活動を単発で終わらせず、継続的に進化していくための仕組みができました。
KPMG 小山
小山:会社の方針・戦略を検討する際には、全社員の“納得感”が非常に重要となり、これが作成の過程で苦労する点です。
クラブの皆さんへの個別ヒアリング・ワークショップを実施し、多くの時間をかけて、「クラブに対する想い」「クラブはどんな方向に向かうべきなのか」「現在の課題とは」「ベルマーレらしさとは」といったフィロソフィーを言語化し、1枚のロードマップを作成しました。
教育・雇用・地域課題へのアプローチ:共創の広がり
-「地域との共創」の具体的な取組みとして、教育や雇用の分野にも力を入れています。
坂本氏:スポーツクラブが「スポーツの価値と可能性を考えるワークショップ」のような教育の場を提供するのは、Jリーグのなかでも珍しい取組みです。ベルマーレが地域の「学びのハブ」になることで、若者の未来にポジティブな影響を与えられると確信しています。
笹木:このワークショップは、学生と企業が双方向で対話する場です。アンケートでキャリア意識の変化を測定し、採用コストや人材定着率などの指標を活用して社会的インパクトを貨幣価値に換算しました。企業にとっても投資価値がある取組みとして認識されており、3年連続の開催を通じて継続的な協賛につながっています。
※社会インパクト算出事例:https://www.bellmare.co.jp/381244
小山:地元で働くことの魅力を伝える場として「お仕事紹介フェア」も企画しました。地元企業の認知度向上や採用支援につながり、参加企業も年々増加しています。地域の雇用課題・次世代のキャリア感醸成に真正面から向き合う取組みで、「企業のビジネス課題・地域の社会課題の両輪で向き合う場」となっているのは素晴らしいと思います。
坂本氏:クラブが「ハブ」になることで、企業と地域住民、求職者をつなぐことができる。これはスポーツクラブだからこそ提供できる価値だと思っています。地域の方々からも「地元企業のことをはじめて知った」「働いてみたいと思った」といった声をいただきました。
また、最近では 「サステナトレセンProject.」という活動にも力を入れています。地域の次世代を担う子どもたちに、サステナビリティについて学び、「この街に住み続けたくなる」アイデアを考え、企業と連携して実装していくところまでを体験してもらう教育プログラムです。たとえば、2025年6月のホームゲームで販売された「地産地消カレー」は、子どもたちが考えたメニューを地元企業と商品化したものです。
小山:スタジアムという大勢の人を巻き込む「場」を持つスポーツクラブならではの取組みですね。「地産地消カレー」は、地元で作られた食材を使ったり、太陽光発電による電力やリユース容器の使用をしたり、環境負荷にも配慮された設計でした。私たちは、これらの施策によるCO2削減量の算定をし、どれだけの環境貢献があったかを「見える化」しました。
左から KPMG 小山、湘南ベルマーレ 坂本社長、KPMG 笹木
KPMGのスタンス:言語化・可視化・自走支援
-KPMGとの取組みのなかで、特に印象に残っているスタンスや関わり方はありますか。
坂本氏:KPMGは、クラブの未来をともに描き、実行まで伴走してくれる存在です。「地産地消カレー」の例も、教育と実践、社会的インパクトの可視化まで一体となった非常に有意義な取組みだったと思います。KPMGが私たちの抱いているイメージを言語化・数値化してくれることで、一つひとつの施策がより確かな実効性のあるものになっていると心強く感じています。
笹木:そう思っていただけるのは、とても嬉しいです。私たちは、言語化されていない部分も含めてクライアントの意図を明確に理解したうえで、言語とツールを使って、関係者の皆さんの目線を合わせながら実現に向けて伴走することを大事にしています。皆さんと一緒に汗をかき、最終的にはコンサルタントがいなくても回るようになるのが理想で、それがスポーツ産業全体の持続的な発展にもつながると信じています。
-今後の展望について教えてください。
坂本氏:KPMGとの取組みはクラブの可能性を広げるものであり、とても価値がある活動です。これからも、地域、企業、ファン・サポーターの皆さんと一緒に、「BELL-BEING」の実現に向けて歩み続けたいと思います。
小山:これまで、ファン・サポーターが集う場、企業や行政が連携する場として、「Bell-Being」という戦略を構築し、実践してきました。この取組みをさらに加速させ、ベルマーレが持つ“一体感”を湘南地域全体へと広げることで、社会的価値と経済的価値の双方を生み出す循環モデルの実現を目指しています。
左から 湘南ベルマーレ 坂本社長、KPMG 笹木、小山
笹木:我々としては、ベルマーレだからこそできることを大事にしていきたいと考えています。湘南地域に根付いたクラブだからこそ生み出せる社会価値を、今後も言語化・定量化して世の中に伝えていきたいです。そして「共創の輪」を広げていくこと。
関係する人や企業、行政、ファン・サポーターの方々が、試合の勝敗に関係なく社会のために行動し続ける世界観を創っていきたい。こうしたモデルケースを積み重ね、国内のスポーツ産業の発展に貢献することが私たちの使命だと考えています。