KPMGジャパンは、2024年6月から9月にかけて国内の上場企業のCFOを対象にCFO機能についての調査を実施し、その結果を「KPMGジャパン CFOサーベイ2024」(以下、「本サーベイ」という)として発行しました。2019年の開始以来5回目となる本サーベイは、外部環境が大きく変化するなか、CFO機能に関する現状の課題について幅広く把握することを目的とし、CFOの役割の変化、経理人材、CFO機能の高度化やオペレーションの効率化、事業ポートフォリオマネジメントやリスクマネジメントなど多岐にわたるテーマについて404社のCFOから回答をいただきました。

本稿では、全回答とテクノロジーセクター企業の回答とを比較することで、多くのテクノロジーセクター企業が直面している状況とその背景について考察しています。また、本サーベイにおいて、テクノロジーセクターは「エレクトロニクス」「ソフトウエア」「システムサービス」の3つのサブセクターから構成されていましたが、回答分析では、サブセクターとしての類似性を考慮し、「エレクトロニクス」と、「ソフトウエア」「システムサービス」とを合算した「ITサービス」の2つのサブセクターを設定しました。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

1.主な調査結果

CFOへの役割期待は一層広範囲に

エレクトロニクス・ITサービスの両サブセクター企業における「CFOの管掌業務範囲」は、従来からCFOの役割として広く認識されている「財務戦略」「予算管理」「経理・財務・税務」「IR」の役割に加えて、2023年に引き続き2024年においても、全セクターより高い比率で「ITシステム」「セキュリティ」までをも担っていることが判明しました。

またITサービスサブセクターにおいてはそれだけにとどまらず、全セクター・エレクトロニクスサブセクターよりも高い比率で、「内部統制」「リスクマネジメント」に加え、「法務」「総務」「サステナビリティ推進」などの役割までをも担っていることが判明しました(図表1参照)。

【図表1】CFOまたは経理財務担当役員の管掌業務領域をお答えください(該当するものをすべて選択してください)。

CFO調査から見るテクノロジーセクターの課題と対応の方向性_図表1

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2024」(KPMGジャパン)

「リスクマネジメント」「内部統制」については、財務業務と関連のある周辺領域への担当領域拡大の流れによるものと思われますが、「リスクマネジメント」のさらなる高度化への取組みは続くでしょう。特に、ESGやSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)などの非財務領域への対応と高度化は避けては通れません。

「内部統制」についても、前述した「リスクマネジメント」とあわせて「内部統制」が相互に関連し、その実効性を「内部監査・モニタリング」が維持・検証することにより、「ガバナンス」を支えるという意味で、他セクターよりガバナンスの重要性を認識していることがうかがえます。

「ITシステム」「セキュリティ」については、特に日本企業はシステムやツール開発にあたっての要件をユーザー部門が出す(システム部門はその取りまとめ、および開発ベンダーとの窓口を担当)ことが多い業務慣行によるものと推察されます。アジャイル開発の浸透、検討の手戻り防止の観点から、ユーザー部門への要件の聞き取りは行うものの、不慣れなユーザー部門に業務要件定義の責任を担わせるのではなく、経営企画部門やシステム企画部門(またはその意向を受けたベンダー等)が要件化を行い、定義書を記述するような役割分担が進むと見ていますが、そのスピードは緩やかなようです。

さらには、クラウド利用の促進と、その結果としてクラウドに業務をあわせるFit to Standardが進めば、要件定義の在り方そのものが根本的に変わる可能性がありますが、その歩みが緩やかなのは、既存の業務を変えることへの特に現場の抵抗や拒否反応が大きい可能性があります。

CFOに求める機能は年々高度化

「経理財務部門の業務高度化」のなかで最も優先順位が高かったものは、いずれのセクターも「中期的な成長、中期経営計画の策定に対するさらなる貢献」でした(図表2参照)。
加えて、エレクトロニクスセクターでは「業績管理の精度・スピードの向上」が優先度の高い取組みテーマとして挙げられました。

【図表2】経理・財務部門業務の高度化の目的として、経営意思決定に資する業績・予測・リスク情報や分析・洞察を提供することで、企業価値向上に貢献することが考えられます。貴社の経理・財務部門の業務高度化に関して、優先度の高いテーマはどれですか(優先度の高いテーマを3つ選択してください)。

CFO調査から見るテクノロジーセクターの課題と対応の方向性_図表2

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2024」(KPMGジャパン)

ただし、ここでの「業績管理」はあくまでも「管理の精度・スピード」であり、業績予測ではありません。それを裏付けるように、「業績予測の精度向上」へのニーズは、「業績管理の精度・スピードの向上」よりも、全セクターで19ポイント、エレクトロニクスサブセクターで29ポイントも低くなりました。これは、多くの会社でCFOの守備範囲はあくまでも「業績管理」であり、「業績予測」は経営企画部門など他の部門のミッションとなっていることが推測されます(逆に前者の質問に対して後者の回答が11ポイント増えているITサービスセクターでは、CEOが業績管理に加えて業績予測までを担っている可能性が高いと推測されます)。

一方で、ITサービスセクターでは他のセクターより「M&A戦略立案、M&Aの成功への貢献」、および、「業績予測の精度向上」を優先度の高い取組みテーマとしていることが判明しました。
前者については、業績好調な業界動向を反映してM&Aを梃子にしたさらなる事業拡大への旺盛な意欲を垣間見ることが出来ます。後者については、サービスのXaaS化、リカーリングモデルにより将来収益見通しのブレ(変動幅)は少なくなりつつあるものの、SIなどの伝統的なITサービスにおいては、見込み案件の受注可否によるブレが大きいことを示しているものと推測できます。

なお前回の調査では、ITサービスサブセクターにおける「事業部門に対するインサイトの提供」が47%と、他のセクターよりも20ポイント以上も高く、高度化ニーズが高いことも判明しましたが、今回調査ではそのような差異は見られませんでした。

製品やサービスのクラウド化やサブスク化が進み、リカーリングモデルなど新たなサービスや課金形態の出現は、たとえば、収益認識などの会計処理にも大きな影響を与えます。会計まわりの方針決定にリードタイムを要し、スピーディーな新サービスのローンチにネガティブな影響を与えることは好ましくありませんが、時間の経過とともに、事業部門との連携強化が進んできたことを示しているものと思われます。

CFOが主体的な成長・変革の担い手となることへの期待の高まり

CFOに求められる役割は、高度化していることが判明しました(図表3参照)。
具体的には、財務・会計情報を取りまとめて財務諸表を作成することはもちろん、財務会計や管理会計の計数情報と将来見通しを踏まえた、「事業の集中と選択(果敢な経営判断の役割)」や、「既存事業の成長に向けた積極的な関与(事業部門の背中を押す役割)」「企業がインオーガニック成長を遂げるための施策の立案・実行(変革を推進する立場)」までをも期待されています。

ともすると、意思決定に必要な計数情報の提供や、リスク抑制の観点から保守的なブレーキ役への期待が多いシーンもあると思いきや、経営意思決定を主体的に担い、企業の成長や変革を推進する旗振り役となることを期待されていることが、調査結果からは見て取れました。

【図表3】CFO自身に求められる役割として昨今重要性が増していると思われる役割についてお答えください(該当するものを3つ選択してください)。

CFO調査から見るテクノロジーセクターの課題と対応の方向性_図表3

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2024」(KPMGジャパン)

2.新たなテクノロジーとトランスフォーメーション

グローバルでも日本でも、テクノロジーセクターの主な経営課題として、生成AIへの対応が挙げられています。

2024年夏に実施した「KPMGグローバルCEO調査2024」の全回答者のなかから、テクノロジーと通信セクターのCEO240名の見解を分析した「KPMGグローバルCEO調査2024テクノロジー・通信セクター」では、CEOの78%が生成AIが自社の投資の最優先事項になると予測しています。

CEOの23%が生成AIを理解して実装し、すべての機能領域のデジタル化と接続性を推進することで従業員のスキルアップや不正行為の検出、サイバー攻撃への対応、イノベーションの促進などの業務改善を実現することは、今後3年間の業務上の最優先事項であると考えている一方で、55%のCEOは、生成AIの導入が自社にとって最も重要なリスクになるとも見ています。リスクとは具体的には、倫理的な懸念であり、また運用コストやサイバーセキュリティは企業の成長に対する最大の脅威となる可能性もあると思われます。

このような生成AIに対して、日本のテクノロジーセクター企業は、いずれも「生成AI活用に必要な知見や人材が不足している」ことや、「先般的な生成AI活用の戦略が構築されていない」といった課題を有していることが判明しました(図表4参照)。

【図表4】貴社の経理財務領域における生成AI活用の課題についてお答えください。なお、想定される課題も含みます(該当するものをすべて選択してください)。

CFO調査から見るテクノロジーセクターの課題と対応の方向性_図表4

出所:「KPMGジャパン CFOサーベイ2024」(KPMGジャパン)

生成AIに長けた人材はまだ限られており、人材市場では争奪戦が過熱しています。
生成AIの活用の戦略については、まだユースケースが限定的であることと自社業務への適用の姿を具体的に想起しにくい状況を受けてのものと推察されます。これについては今後、より自社の実務に適合するユースケースの開発や採用が進むことで解消していくものと見ています。また生成AIの導入と利活用については、現場任せにして小さくまとめてしまうのではなく、全社でより大きな業務母数への適用余地を探索することも、ROIを高めるためには必要と考えます。

執筆者

KPMGジャパン テクノロジーセクター統轄リーダー
KPMGコンサルティング テクノロジ・メディア・通信セクター
アソシエイトパートナー 和田 智