地域金融機関は、金利上昇による業績改善も見込まれあえて難しい新規事業に取り組むことの意味合いは薄れつつあるという声も聞かれます。
本稿では新規事業において、従来の取組みを超えてもう一段踏み込んだ取組みを行うべき理由とその方向性、これらを踏まえた具体的なビジネスモデルについて解説します。
1.地域金融機関には、なぜより踏み込んだビジネスが必要か?
地域経済は、大都市圏への人口流出や少子・高齢化などにより、地域企業の持続可能性の懸念や経済活動の停滞など、厳しい状況に置かれています。地域金融機関はこうした状況に、2016年の銀行法改正による業務領域の拡大から十数年来、地域商社や人材派遣といった主に販売面・人材面で地域企業を支援してきましたが、大きな効果を上げているとは言い難い状況です。
地域企業は、販売・人材面だけではなくサプライチェーンの非効率性や経営機能の脆弱性、事業成長のためのノウハウや知見の不足などの課題も抱えており、地域金融機関はもう一段踏み込んだ新規事業への取組みにより、上述した課題を持つ地域企業ひいては地域経済の成長に貢献することが求められています。次章以降で地域企業が抱える課題に応え得る3つの事業モデルを提示します。
【国内における域内総生産・人口・高齢者の変化(2000年から2030年)】
地域 | (1)域内総生産 | (2)人口 | (3)高齢者の割合 (2000年→2030年) |
---|---|---|---|
東京圏 | +10.7% | +0.8% | 14.12%→27.79% |
100万人超都市圏 (12都市圏) 東京都特別区、大阪市、名古屋市、札幌市、仙台市、福岡市など |
+6.4% | -7.0% | 16.13%→27.67% |
50万人超都市圏 (政令指定都市) |
-1.5% | -12.6% | 17.70%→28.08% |
20万人超都市圏 (地方中核都市圏) |
-7.6% | -16.9% | 18.84%→28.66% |
それ以外の都市圏 (地方中小都市圏) |
-12.2% |
-21.7% | 21.53%→29.43% |
都市圏を構成しない地域 (平地外緑部、山間地やその周辺地域) |
― | ー20.5% |
23.79%→34.81% |
出典:経済産業省 産業構造審議会 地域経済分科会 第3回資料を基にKPMG作成
2.より踏み込んだビジネスのモデル類型化
(1)サプライチェーン効率化・高度化モデル
地域のなかには、多数の小規模な企業や工場が関与するも、デジタル・システム化が不十分で情報が断絶し、非効率な取引構造となっている産業が数多く存在しています。一企業の内部においても、零細であるがゆえに資金面から十分なシステム化を行えず、手管理で業務が煩雑になるという傾向にあります。
このような課題に対し、地域金融機関自らが、デジタルを駆使した取引基盤を提供することで、地域企業は効率的なビジネス活動やトレーサビリティリスク(原産地情報が不透明であることへのリスク)への対応などが実現できます。また、取引データを通じてビジネス実態に即したタイムリーで妥当な金利での資金提供も可能になります。
【具体的なビジネスモデル事例(1)】
(2)経営機能一部集約・代替モデル
地域企業は、事業の高度化・効率化を企図するもリソースは限定的であり、規模の経済も働きづらく、大きな効果を得ることが難しい状況です。また、本部の経営機能の強化よりも現場の業務に集中する傾向にあり、そもそも改善のノウハウもそれほど多くは持ち合わせていません。
このような課題に対し、地域金融機関自らが地域企業の経営機能の一部を集約・代替することで、事業の高度化・効率化を実現します。すでに一部のメガバンクや外資系投資銀行などでは、こうした踏み込んだ新規事業を手掛けています。
【具体的なビジネスモデル事例(2)】
(3)事業成長のための必要なノウハウや知見の提供・実行支援モデル
多くの地域企業が成長機会を求めて、地域を越えた新しい市場・領域への進出を模索しています。しかし、ノウハウや専門性を持つ人材の不足、商習慣や制度・法律などの理解不足から、具現化が難しい状況です。
これらの課題に対し、地域金融機関は幅広いネットワークから得た知見を活かし、対応が難しい事象を代替・支援することで地域企業の成長を実現します。
【具体的なビジネスモデル事例(3)】
3.KPMGによる支援
【踏み込んだビジネスを実現するための対応手順】
4.さいごに
※図表【国内における域内総生産・人口・高齢者の変化(2000年から2030年)】参考資料:「第3回 産業構造審議会 地域経済産業分科会」(経済産業省)
執筆者
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 青木 聡明
シニアストラテジーマネジャー 川上 俊介