2021年の銀行法改正を受け、地域金融機関による新規事業開発の取組みが急速に広がりを見せています。
本稿では、地域金融機関が新規事業開発に向き合うにあたって陥りがちな罠を紹介するとともに、成功のためのポイントを解説します。

1.地域金融機関における新規事業開発の実態

近年、地域金融機関による新規事業開発の取組みが急速に広がりを見せています。これまで長い期間、地域金融機関の経営環境は地方経済の停滞による顧客基盤の縮小、テクノロジーの進展などの要因により、異業種企業の相次ぐ金融業参入による競争激化、低金利環境下での預貸ビジネスの収益低迷など厳しい状況にありました。そのなかで、2021年の銀行法改正により銀行の業務範囲規制が緩和されたことを受け、多くの地域金融機関が非金融事業(新規事業)に着手してきました。

しかし、これまでの新規事業の取組みで“目に見えて上手くいっている”事例は決して多くありません。地域金融機関は、地域社会や企業、個人が抱える課題に応える金融インフラとしての役割が求められ、さらに本業である預貸ビジネスとの相乗効果が期待される新たな事業創出が求められています。
このような状況にも関わらず、なぜ多くの事業が顧客の期待に応えられず、成功に至っていないのでしょうか。
本稿では、地域金融機関が新規事業開発を進めるうえでの組織面や開発手法面における「陥りがちな罠」に着目し、その解消に向けた要点について紹介します。

2.新規事業開発に取り組むうえでの業界特有の難しさ・陥りがちな罠

地域金融機関が新規事業開発に取り組みつつも目に見えた成果を上げにくい要因は、決して“業法”の面だけでなく、経営者、組織、人材、文化、制度といったさまざまな課題が複雑に絡み合っているからです。

【組織の視点】
(1)頭取・経営陣間で新規事業開発の目的に対する、合意形成の欠如

陥りがちな罠 地域金融インフラとしての役割への固執や、金融庁への忖度、他地域金融機関に対する横並び意識、預貸ビジネスの規模・収益性の高さなどから「なぜ新規事業開発を行わなければならないのか」という目的の合意形成が困難である。
結果 新規事業開発に取り組んでも、事業の成長も撤退もできず、中途半端な状態で継続してしまうケースが多い。

 

地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表1

(2)新規事業開発に対する銀行業特有の慣習の持ち込み

陥りがちな罠 行内での複雑な稟議プロセス・根回しの必要性、頭取の“鶴の一声”で決定される意思決定など、銀行業特有の「業務プロセス」を新規事業開発にも適用してしまうこと、さらに自行・自社のみで取組みを進めようとする姿勢が、事業開発の質とスピードに悪影響を及ぼす要因となっている。また、このような慣習に染まった人材が主導することで、事業開発の進展が妨げられる。
結果 有効性の低い事業や時期感を逸した事業を立ち上げてしまう。外部パートナーとの協業において、目線やスピード感が合わないために信頼を失うケースも散見される。さらに、新規事業を立ち上げた後、予想外の状況に直面しても、計画の見直しができず状況を悪化させる傾向がある。
地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表2

(3)挑戦を阻害する悪しき人事・評価制度の蔓延

陥りがちな罠 行内では「失敗=キャリアにおける致命傷」という考えが一般的であるなか、確実性を重視するあまり、“千三つ”とされる新規事業開発に挑む意思決定ができない。
結果 事業開発に携わる優秀人材を確保できず、新規事業開発自体が進まない。
地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表3

【開発手法の視点】
(4)さまざな業法上の制約により、本業で培った資産を活かすことの困難さ

陥りがちな罠 銀行法・金商法をはじめとした業法上の制約が数多くあることで、銀行が有する資産を最大限活用できず、“誰に対してどんな課題解決をすべきか”に目が向かず、 “業法と活用アセットに基づいて何ができるか”を考えてしまう。
結果 顧客ニーズの乏しい事業や、事業会社の模倣・二番煎じの事業といった、勝ち目のない事業に取り組んでしまう。
地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表4

(5)経験値不足・ノウハウ不足による新規事業に挑戦することへの恐れ

陥りがちな罠 他業態と異なり、長年にわたり厳格な規制のもとで既存事業のみを生業としてきたため、新規事業開発に挑戦する基盤が整っていない。その結果、成功確率が低いとされる新規事業開発に挑戦できない状況が続いている。
結果 行内にノウハウが蓄積されていない、または新規事業開発に関する専門的スキル・知見を有した人材不足により、新規事業開発が進まない。

 

地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表5

3.地域金融機関が新規事業開発を成功に導くためのカギと重要なポイント

今後、地域金融機関が新規事業開発において成功を収めるためには、「組織の構成・建付け」「事業開発の手法」の2側面からの工夫が必要になります。

地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表6
地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表7

4.KPMGによる支援

KPMGでは、グローバルにおける知見や最先端の事例を踏まえたインサイトを活用し、実効性のある新規事業創出を支援します。新規事業開発の目的に立ち戻り、必要となる事業開発機能の設計・運営を支援するとともに、最終的には具体的な事業案が事業化・スケールするまで伴走支援を行います。

a.  組織の目的定義と事業開発組織の設計

「新たな収益源確保・既存事業へのシナジー」など事業成果の創出、「イノベーション人材の発掘・育成」を通じた風土変革、「サステナビリティや社会課題への対応」など地域・社会への貢献に至るまで、新規事業開発の目的は多岐にわたります。目的に立ち戻り、必要な機能を再検討し、産官学の連携も前提に、組織の設計・立ち上げを支援します。

b.  事業開発モデルの設計と運営高度化

目的や既存施策の取組み状況を踏まえ、最適な事業開発モデルの設計を支援します。既存または新規の組織や事業開発モデルが有機的につながり、実効性を向上させるための運営高度化を支援します。たとえば、事業開発組織の立ち上げの際は「組織のパーパス制定」や、「組織や各種プログラムのKPI・運営フローの設計」、「金融機関ならではのリスクを踏まえた規定整備」なども支援します。

b'. 具体案件の事業化

各取組みを通じて構想される具体案件に関して、案件特性と検討のフェーズを踏まえた論点を整理しながら、事業化に向けて伴走支援を行います。

地域金融機関における新規事業開発の陥りがちな罠と取るべき対応方針_図表8

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 青木 聡明
シニアストラテジーマネジャー 小林 悠彌
ストラテジーマネジャー 鈴木 雅也
シニアストラテジーアソシエイト 根来 和弘
ジュニアストラテジーアソシエイト 原田 育尭

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