本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

“循環型社会”が謳われるなか、自動車業界では再生部品が注目を集めています。本稿では、コスト削減・環境負荷低減という2つの大きな柱を兼ね備えたソリューションとしてリビルトエンジンを取り上げ、持続可能なクルマ社会について考察します。

1.なぜ、リビルトエンジンが注目されているのか

最近の自動車産業を見渡すと、“循環型社会”をキーワードにした動きが加速しているように見えます。カーボンニュートラルやサステナビリティが求められる状況下、製造・廃棄のプロセスをいかに最適化し、環境負荷を減らすかが競争力と企業評価を左右しているようです。

そこに登場するのが、リビルトエンジンをはじめとする再生部品。リビルトエンジンは使用済みエンジンを単に使いまわすのではなく、必要な部品を交換・整備し、再利用できるレベルにまで再生するのが特徴です。新規部品の生産コストや廃棄に伴う環境負荷を大幅に削減できるため、今後ますます注目が集まると考えられます。

2.世界・日本における自動車中古車市場の動向

欧米市場では中古車の需要が旺盛です。中古車の流通割合は米国では7割以上を占めるとも言われ、新車を購入する感覚と同じくらい中古車が選択肢に入ります。一方で、日本では依然として新車購入の比率が高く、相対的に中古車・再生部品市場は成熟しきっていない側面があります。しかしながら、国内でも徐々に中古車や再生部品を積極的に活用する動きが広がっており、リビルトエンジン市場にとって新たな成長余地が期待できる状況と言えます。

3.リビルトエンジンとは

「リビルトエンジン」は、使用済みのエンジンを分解・洗浄し、損耗部品を新品または同等品に交換したうえで再組立てして性能を回復したものを指します。

  • リユース:分解や大規模な再整備を行わず、そのまま中古品として再利用するケース
  • リコンディション:比較的軽微な整備・調整のみで再利用するケース

リビルトエンジンはこれらよりも踏み込んで部品交換や再組立てを行い、性能をほぼ新品並みに回復させる点が特徴です。

【図表1:リビルトエンジンの一般的な再生プロセス】

循環型社会への切り札_図表1

出典:KPMG作成

コスト面のメリット

新品エンジンと比べると、リビルトエンジンはおおむね50%程度の価格で購入可能とされています。新車の購入時もそうですが、とりわけエンジン部品の交換は高額になりがちです。そのため、コストを抑えつつ、ある程度の品質を確保したいユーザーにとっては大きな魅力になります。

環境負荷低減

製造工程を一からやり直す新品エンジンと比較すると、CO2排出量を最大80%ほど削減できる可能性があると試算されています※1。部品単体のリビルト製品を使用する場合でも同等の効果があるとされ※2、これは自動車業界が目指す環境負荷低減の流れにも合致します。欧米では環境規制や排出量取引などが市場を形成しつつありますが、日本でも今後同様の動きが加速すれば、リビルトエンジンの価値はさらに高まる可能性があります。

品質のばらつき

リビルトエンジンの品質は、部品供給の安定度合いや整備会社の技術力に左右される側面があります。従来の中古部品市場では、“当たり外れ”というイメージが根強かったのも事実です。解決策としては、メーカーや専門リビルト業者が厳しい基準を設定し、再生部品の検査体制を整えることが挙げられます。また、業者間での品質情報やベストプラクティスを共有することで、ノウハウの集積と標準化が進むことが期待されます。

規制・認証

環境規制の強化やメーカー保証との兼ね合いでリビルトエンジンに対する法的要件が変化すると、供給サイドは柔軟に対応する必要が生じます。今後、国際的にも排出ガス規制や環境負荷低減に関する取組みが強化されれば、一定の認証制度をパスしたリビルトエンジンの需要は高まる可能性があります。

コア回収の難しさ

リビルトエンジンの製造には、廃車や修理後の使用済みエンジン(コア)の回収が不可欠です。廃車が増えれば回収がしやすくなる一方で、適正処理との整合が必要となります。ここでは行政や業界団体によるコア回収ルールの確立と、業者間ネットワークの構築が課題解決に寄与すると考えられます。

【図表2:新品エンジン・中古エンジン・リビルトエンジンの比較】

循環型社会への切り札_図表2

出典:KPMG作成

デジタル技術の活用

AIによる診断や再生工程の自動化が進めば、部品の劣化状況を精密に測定し、交換すべき部品のみを正確に特定できるようになります。これにより、コスト削減と品質向上の両立が可能となり、リビルトエンジンの信頼性がさらに向上します。またIoTやビッグデータを活用したトレーサビリティの確立により、エンジンの“素性”を把握できるようになれば、ユーザーも安心してリビルト品を選べるようになるでしょう。

4.まとめ

リビルトエンジンは、コスト削減・環境負荷低減という2つの大きな柱を兼ね備えたソリューションとして、今後存在感を増していくと考えられます。一方で、市場の成長のためには品質管理体制の整備や価格競争への対応、コア回収の仕組みづくりなど、課題は少なくありません。しかしながら、AIによる診断技術など新しいテクノロジーの導入により品質面は向上し、また環境規制等への対応もあり、今後の展開にビジネスチャンスが潜んでいます。

日本がこれまで培ってきた高品質・高い信頼のものづくり文化は、リビルトエンジンの進化にも活かせるはずです。私たちが再利用を“安価”というだけでなく、“責任ある選択”として認識できるかどうか-ここに、リビルトエンジンの未来がかかっています。今後はメーカー、リビルトエンジン業者、行政、そしてユーザーが一体となって、循環型社会と持続可能なクルマ社会への道筋を切り拓くことが求められているのではないでしょうか。

※1 小林 峻「リビルトエンジン使用による二酸化炭素排出量削減効果」(一般社団法人 日本機械学会 設計工学・システム部門講演会講演論文集/2018.28 巻)

※2 山田 周歩「自動車リビルト部品の利用による温室効果ガス削減効果の評価と製品設計への指針の検討(ACコンプレッサ,スタータ,オルタネータの事例)」(一般社団法人 日本機械学会 日本機械学会論文集/90 巻 (2024) 940 号)

執筆者

KPMGコンサルティング
プリンシパル 轟木 光

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