2025年3月期決算の留意事項(会計)
2025年3月期決算においては、改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等、及び実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等が適用されます。
2025年3月期決算においては、改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等、及び実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等
2025年3月期決算においては、改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」( 以下、「改正法人税等会計基準」という)等、及び実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」( 以下、「本実務対応報告」という)等が適用されます。また、執筆時点( 2025年1月)で企業会計基準委員会(ASBJ )から公表されている2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正( 案)( 包括利益の表示に関する提案、特別法人事業税の取扱いに関する提案、種類株式の取扱いに関する提案)について、最終基準の公表タイミングによっては、2025年3月期決算において早期適用が可能となる可能性があります。執筆時点で最終化されていない会計基準等については公開草案の提案内容を紹介していますが、最終基準で内容が変更される可能性がありますのでご留意ください。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
Point
①「 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の改正
① 2024 年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)(包括利益の表示に関する提案、特別法人事業税の取扱いに関する提案、種類株式の取扱いに関する提案) |
Ⅰ.「法人税、住民税及び事業税 等に関する会計基準」等の概要
2022年10月28日に、ASBJより、改正法人税等会計基準等が公表されました。これにより、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正が行われています。
1. その他の包括利益に対して課税され る場合の法人税等の計上区分に関する改正の概要
(1) 法人税等の計上区分についての 原則
改正法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益( 又は評価・換算差額等)に区分して計上します。
(2) 複数の区分に関連することにより、株主資本又はその他の包括利益に計上する金額を算定することが困難な場合の取扱い
例外的な定めとして、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができます。
なお、当該定めに該当する取引として、改正法人税等会計基準の開発時点においては、退職給付に関する取引が想定されています。
(3) その他の会計処理
① 重要性が乏しい場合の取扱い
損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができます。
② 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い
株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定します。ただし、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができます。
③ その他の包括利益の組替調整( リサイクリング)に関する取扱い
その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等については、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額についてリサイクリングを行い、損益に計上します。
④ 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の取扱い
子会社に対する投資における親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩します。
⑤ その他の包括利益の開示に関する取扱い
その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」に改正しています。
2. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 に関する改正の概要
(1) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い、及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、グループ法人税制が適用され、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合( 法人税法第61 条の11)、連結財務諸表において以下の処理を行います。
- 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている時は、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。
- 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11 に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。
- 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却( 売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。
3. 適用時期及び適用初年度の経過措置
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。
また、法人税等の計上区分については、適用初年度の期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いが定められています。なお、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、特段の経過的な取扱いは定められていません。
Ⅱ.「グローバル・ミニマム課税制 度に係る法人税等の会計処 理及び開示に関する取扱い」 等の概要
2024年3月22日に、ASBJより、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税及び地方法人税( 以下、「法人税等」という)の会計処理及び開示の取扱いを明らかにすることを目的として、本実務対応報告が公表されました。また、本実務対応報告を適用する場合に実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」( 以下、「補足文書」という)があわせて公表されています。
1. 本実務対応報告の公表の経緯
2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20ヵ国・地域(G20)の「BEPS 包摂的枠組み( Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国によりグローバル・ミニマム課税について合意が行われました。これを受けて、わが国においても国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(Income Inclusion Rule(IIR))に係る取扱いを導入するための法人税法の改正が行われています。グローバル・ミニマム課税は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15% の法人税を負担させることを目的としており、当該課税の源泉となる純所得( 利益) が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制です。
このため、現行の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」( 以下、「法人税等会計基準」と いう)及び企業会計基準適用指針第28 号 「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等( 当期税金)及び当該法人税等に関する税効果会計についてどのように取り扱うかが明らかでないとの意見を受けて、ASBJにおいて2023年1月より審議が開始され、税効果会計の取扱いについては、2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が公表されました。
その後、ASBJにおいて、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等( 当期税金)及び同制度適用後の税効果会計の取扱いについて審議が行われ、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等( 当期税金)について必要と考えられる会計処理及び開示に関する取扱いとして本実務対応報告が公表されました。
2. 本実務対応報告の主な内容
(1) 範囲
本実務対応報告は、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する会計処理及び開示に適用します。
(2) 会計処理
① 連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上します。
なお、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関する次の考え方が示されています。
- 特にグローバル・ミニマム課税制度の適用初年度については、従来情報を入手していない各構成会社等からの情報や国別報告事項等の必要な情報を適時かつ適切に入手する体制の構築等が困難な場合があると想定されるが、その場合は財務諸表の作成時点で入手可能な対象会計年度に関する情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積ることとなる。
- 適用初年度の翌年度以降は、入手可能となる情報が増加し、より精緻な見積りが可能となると考えられる。
- 企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と翌事業年度の見積金額又は確定額との間に差額が生じる場合があるが、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の合理的な金額を見積っている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになると考えられる。また、会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、企業会計基準第24 号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第18 項の定めに従い注記を行うこととなると考えられる。
(3) 開示
① 貸借対照表における表示グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、法人税等会計基準第11項の定め( 流動負債の区分に表示)にかかわらず、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示します。
② 損益計算書における表示及び注記
(ⅰ) 連結損益計算書における表示及び注記
連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示します。また、連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記します。なお、重要であるか否かは企業のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解するために有用であるかどうかを踏まえて判断することになるとの考え方が示されています。
(ⅱ) 個別損益計算書における表示及び注記
個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税( 所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し当該金額を注記します。
ただし、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、法人税、地方法人税、住民税及び事業税( 所得割)に含めて表示することができます。この場合は当該金額の注記は不要です。
(4) 適用時期
本実務対応報告は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。
3. 補足文書の主な内容
(1) 公表理由
特に適用初年度については、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえて、当該制度に係る法人税等の見積りにあたって困難さがあるため、見積りに関する具体的な指針を求める意見が聞かれました。これを受けて検討された結果、情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例を示すことで、関係者の理解を深め、実務において当該見積りを行うための手掛かりを与えるため、補足文書※が示されています。
※ 補足文書は、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書です。
(2) 内容
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、情報の入手が困難な場合に考えられる次の見積りの一例が補足文書として示されています。
① 適用初年度
- 対象範囲の判定を行うに際して、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手していない国別報告事項に関する情報や恒久的施設等及び特殊な会社等に関する情報を適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う。
- 子会社等におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の算定に際して、個別計算所得等の金額及び調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報について、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手しておらず対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき当該金額を見 積る。
なお、上記の見積りの例は、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの一例であり、グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度における当該制度に係る法人税等の合理的な見積りの方法は、上記の方法に限られるものではない点に留意が必要です。
② 適用初年度の翌年度以降
適用初年度の翌年度以降は、適用初年度に比べればグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の申告に向けて情報を入手する体制がより強化され、実績値の把握等によって、入手可能となる情報が増加することがあると考えられますが、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえると、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難な場合があると考えられます。このような場合には、適用初年度の翌年度以降においても、上記「適用初年度」に示した例を参考とする考え方が示されています。
Ⅲ.2024年年次改善プロジェク トによる企業会計基準等の 改正( 案)
ASBJでは、原則として年1回、4月1日を基準日として、ASBJが公表した企業会計基準等の変更を行うべき事項がないかの確認作業( 年次改善)を行っていますが、2024年11月21日に、ASBJより、2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正( 案)が公表されました。
本公開草案には以下の会計基準等の改正案が含まれていますが( 図表1参照)、最終基準の公表タイミングによっては、2025年3月期決算において早期適用が可能となる可能性があります。
図表1 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)
会計基準等 | 適用時期の提案概要 |
---|---|
包括利益の表示に関する提案 ■ 企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」 ■ 企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」 |
公表日以後最初に開始する年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後最初に終了する年度の年度末から適用できる。 |
特別法人事業税の取扱いに関する提案 ■ 企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 ■ 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
|
種類株式の取扱いに関する提案 ■ 実務対応報告第10 号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」 |
公表日以後最初に開始する年度の期首以後取得する種類株式について適用する。 ただし、公表日以後最初に終了する年度の期首以後取得する種類株式について適用することができる。 適用日より前に取得した種類株式については、以下のいずれかを選択する。いずれの方法を選択した場合も、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わない。 ■ 従前の取扱いを継続する。 ■ 改正後の実務対応報告第10号を適用する。 |
出所:KPMG作成
1. 包括利益の表示に関する提案の概要
(1) 背景
これまでに公表された会計基準等で使用されている、その他の包括利益に関する用語の一部において、連結財務諸表上の取扱いに関する記載に使用されるべき表現となっていないものが認められました。企業会計基準公開草案第81号( 企業会計基準第25号の改正案)「包括利益の表示に関する会計基準( 案)」(以下、「会計基準公開草案第81号」という)及び企業会計基準適用指針公開草案第83号( 企業会計基準適用指針第9 号の改正案)「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針( 案)」( 以下、「適用指針公開草案第83号」という)では、これらを連結財務諸表上使用すべき用語に改正する提案が行われています。
(2) 改正内容
会計基準公開草案第8 1号では、これまでに公表された会計基準等で使用する「純資産の部に直接計上」、「直接純資産の部に計上」及び「直接資本の部に計上」という用語を、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えることが提案されています。
適用指針公開草案第83号では、株主資本以外の各項目の主な変動事由の表示に関する例示について、次のように改正することが提案されています。
- 個別株主資本等変動計算書に関する定めと連結株主資本等変動計算書に関する定めを区分する。
- 連結株主資本等変動計算書における株主資本以外の各項目の主な変動事由の例示のうち、その他の包括利益累計額について、「組替調整額」及び「当期発生額」という用語を用いて企業会計基準第25号と用語の統一を図り、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書と連結株主資本等変動計算書の間の連携の理解を促進する。
(3) 適用時期及び経過措置
① 会計基準公開草案第81号
公表日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用することが提案されています。また、公表日以後最初に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から早期適用を認めることが提案されています。なお、公表日以後最初に終了する連結会計年度に係る中間連結財務諸表及び四半期連結財務諸表については適用しないことが提案されています。
② 適用指針公開草案第83号
会計基準公開草案第81号と同様とすることが提案されています。
なお、早期適用する場合には、公表日以後最初に終了する連結会計年度に係る中間連結財務諸表については適用しないことが提案されています。
2. 特別法人事業税の取扱いに関する提案の概要
(1) 背景
2019年度税制改正によって特別法人事業税が創設されました※。会計基準上は税金ごとに会計処理及び開示を定めていますが、特別法人事業税については明記されていなかったため、企業会計基準公開草案第82号( 企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準( 案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第84号( 企業会計基準適用指針第28号の改正案)「税効果会計に係る会計基準の適用指針( 案)」にて取扱いの明確化が提案されました。なお、公開草案によると、本明確化が影響する企業数は限定的と考えられています。
※2008年度の税制改正において税体系の抜本的改革が行われるまでの暫定措置として、法人事業税( 所得割・収入割)の一部を分離する形で地方法人特別税が国税として創設されました。当該地方法人特別税は2019年度税制改正で廃止され、代わって特別法人事業税が国税として創設されました。特別法人事業税によって負担する税額の総額には概ね変動はありません。
( 2) 改正内容
特別法人事業税について、事業税( 所得割)と同様の取扱いをすることが提案されています。提案に従うと、特別法人事業税は、資本及び評価差額等に対するものを除き、「法人税、住民税及び事業税」として損益計算書の税引前当期純利益の次に表示されることとなります。また、税効果会計上も特別法人事業税率を法定実効税率の計算に反映することが提案されています。
(3) 適用時期及び経過措置
公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用が提案されていますが、同期間の年度末からの適用も認める提案がされています。ただし、早期適用した場合であっても、当該連結会計年度及び事業年度の中間連結財務諸表及び中間財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表については、適用しないこととされています。なお、新たな法人税等会計基準と税効果会計に係る会計基準の適用指針は、同時に適用する必要があるとされています。
仮に、適用初年度においてこれまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととなります。ただし、経過措置として、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用できることが提案されています。
また、適用初年度において、これまでの表示方法と異なることとなる場合、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定めにかかわらず、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができる旨の経過措置が提案されています。
3. 種類株式の取扱いに関する提案の概要
(1) 背景
実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」では、適用対象となる「種類株式」とは「数種の株式( 商法第222条)、転換予約権付株式( 商法第222条ノ2から第222条ノ7) 及び強制転換条項付株式( 第222条ノ8から第222条ノ10)」であると述べています。このように、会社法の施行に伴い削除された商法( 以下、「旧商法」という)の条文を参照したままとなっているため、会社法を参照する定めに変更することが提案されています。
( 2) 改正内容
実務対応報告公開草案第6 9 号( 実務対応報告第10号の改正案)「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い( 案)」では、上記(1)で述べた「種類株式」を、「会社法第10 8条第1項に従い内容の異なる2 以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式」として定義することが提案されています。
会社法第10 8 条第1項では、旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られています。そのため、会社法第108条第1項を参照する定義とすることにより、実務対応報告第10 号の開発時において想定されていなかった種類株式も、新たに適用範囲に含まれることとなります。
(3) 適用時期及び経過措置
① 適用対象となる種類株式
公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後に取得する種類株式を適用対象とすることが提案されています。
② 早期適用の取扱い
公表日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の期首以後に取得する種類株式についても、適用することができることが提案されています。ただし、この場合であっても、当該連結会計年度及び事業年度の中間連結財務諸表及び中間財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表については、適用しないとされています。
③ 改正後の実務対応報告第10 号を適用する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式の取扱い
従前の取扱いを継続適用するニーズがあると想定されることから、次の方法のいずれかを選択できることが提案されています。また、いずれの方法を選択した場合も、改正後の実務対応報告第10号の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことが提案されてい ます。
- 従前の取扱いを継続する。
- 改正後の実務対応報告第10号を適用する。
執筆者
あずさ監査法人
会計・開示プラクティス部
木名瀬 光行/マネジャー