サステナビリティ経営が国内外で加速するなか、欧州(以下、EU)では「エコデザイン規則(以下、ESPR)」が公布され、日本でも「資源有効利用促進法」の改正が議論されています。両制度とも、製品設計や資源利用のあり方を根本から変革し得る内容であり、事業会社にとってその対応は非常に重要です。

しかし、ともに今後の委任法や立法プロセスによって大きく変わる可能性があるため、受け身の法令対応ではない「先回りした戦略的な準備」が求められています。

本稿では、EUのESPRと日本の資源有効利用促進法改正の動向を整理し、それぞれの特徴を比較しながら、企業がとり得る実務上のヒントを探っていきます。

1.EUにおけるエコデザイン規則(ESPR)の動向

(1)政策動向

EUでは従来、「エコデザイン指令」を通じてエネルギー関連製品の省エネルギー性能を向上させる施策を進めてきました。しかし、「欧州グリーンディール」や「新循環型経済行動計画」で提示された循環経済ビジョンを実現するために、製品の設計段階から耐久性や修理容易性、再生材含有率等を規定し、ライフサイクルを通じた資源効率の向上が必要であるという認識が強まりました。そのために立法されたのが「エコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」です。

この新規則のポイントは、医薬品や食品など特定分野を除き、ほぼすべての物理的製品が対象に含まれることです。エネルギー効率だけでなく、修理容易性や廃棄抑制などの多面的な要件を課すことで、EU市場で流通する製品の環境フットプリントを削減し、資源自給率や再生材利用率を大幅に向上させる狙いがあります。

(2)ESPRのポイント

ESPRで規定されている新たな要件のうち、代表的なものは以下のとおりです。これらは、今後製品ごとに定められる「委任法」を通じ、段階的に義務化される見込みです。

  • デジタル製品パスポート(DPP)の導入
    製品や部品ごとの仕様や含有物質などをデジタルで一元管理し、サプライチェーン全体および消費者が容易にアクセスできるようにする仕組みの導入。
  • 修理可能性要件の強化
    スペアパーツの供給期間や耐久性評価、工具の汎用性など、修理を前提とした製品設計。
  • 再生材料(リサイクル材)の使用比率設定
    製品ライフサイクルにおける一次資源の消費量を抑制し、循環性を向上させるため、一定のリサイクル材含有率設定。
  • エネルギー・水資源の使用効率改善
    製品の設計・製造・使用・廃棄プロセス全体で、エネルギーや水などの資源消費の効率化。

  • 売れ残り製品の破棄抑制
    アパレルや家電などにおいて、消費者向け製品の売れ残りに係る情報開示や廃棄禁止措置。

最初の委任法は2025年に公布される可能性が高く、適用は最短で2027年頃となる見通しです。

こうした新要件が発効されると、EU市場に製品を投入する際には相当程度の設計・生産プロセスの見直しが必須となります。欧州向けビジネスを持つ日本企業にとっては、将来的な競争力や市場参入の可否に直結するため、早期の情報収集と準備が欠かせません。

2.日本における資源有効利用促進法の動向

(1)政策動向

日本では、2000年前後に施行された循環型社会形成推進基本法や各種リサイクル法などにより3R(リデュース、リユース、リサイクル)が一定の成果を上げてきました。しかし、脱炭素やレアメタル供給リスクの顕在化、さらにはプラスチック条約交渉などの国際的なプレッシャーが強まるにつれ、より強力かつ包括的な法制度の必要性が叫ばれ、2025年の通常国会において資源有効利用促進法の改正案について審議される見込みです。

(2)資源有効利用促進法改正案のポイント

現時点で検討されている改正法の概要は以下のとおりです。
※政府内で検討中のため、最終的な条文は変わる可能性があります

  • 再生材使用量に関する目標設定・実績報告の義務化
    プラスチック等を中心に、再生材の使用割合を数値目標化し、事業者が定期的に報告を行う。
  • 工程端材等の再生利用計義務
    LiB等の有用物が多く含まれる生産工程で生じる端材の再生利用の義務付けを検討する。
  • 公共調達での優遇制度
    再生材を積極的に使用している企業を公共調達で優先採用する(審査点を加算する)ことによって、再生材料市場を拡大。

  • ラベリング制度・トップランナー制度
    リサイクル可能性の高さ等の環境配慮設計の指標に基づいて評価を行い、特に優れた設計を認定するトップランナー方式で業界平均の底上げを図る可能性。

改正法が施行されると、特に包装・容器メーカー、電気電子機器メーカー、電池・自動車メーカー、建材メーカーなどにおいて、調達先の見直し、生産プロセスの最適化、リサイクラーとのアライアンス、再生材利用の安全性評価等の対応が必要になる可能性が高いです。

3.まとめ

ここまでEUのエコデザイン規則(ESPR)と日本の資源有効利用促進法改正の動向を整理しました。両者はどちらも資源循環を強化しようとする点で共通する一方、それぞれ次のような特徴を持っています。

  • EUのESPRでは、製品の設計段階(デザインフェーズ)に踏み込み、修理容易性やデジタル製品パスポート(DPP)といった機能要件を大幅に強化しようとしています。

  • 日本の資源有効利用促進法改正は、再生材(プラスチック、リチウム電池、レアメタルなど)の使用促進や製造工程で出る端材の再活用を義務化するなど、資源利用に重点を置いた内容が目立ちます。

双方の「設計上の視点」と「生産プロセス・廃棄物管理の視点」の両面を捉え、サプライチェーン全体を巻き込む形で循環ビジネスモデルへの変革を進めれば、各制度に適した対応策を検討しやすくなるでしょう。

いずれの法令も、まだ最終的な適用範囲や施行時期が確定していません。施行時期の遅延や新たな義務の追加など、いわば「動くゴールポスト」のような状況が想定されることを念頭に置く必要があります。そのためにこそ、両制度の動向を丁寧に追い、自社のサプライチェーンや製品設計を見直し、必要な対応策を積極的に検討することが重要です。さらに、場合によっては業界団体や関連当局と協議し、ルールメイキングへ関与していくことも有力な選択肢となるでしょう。

このように、EUと日本の制度を比較検討して得られる洞察は、法令が確定していない今だからこそ大きな意味を持ちます。早い段階で独自の企業戦略を打ち出し、政策形成にもかかわることで、単なるコンプライアンスを超えたサーキュラーエコノミー推進の道が開けるのではないでしょうか。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 荒尾 宗明
シニアコンサルタント 吉田 愛子

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