公正取引委員会は、サプライチェーン全体における適切な取引関係の構築を促すため、過去3年、独占禁止法の緊急調査・特別調査を行っています。加えて、2025年の通常国会では、独占禁止法の特別法であり優越的地位の濫用行為を取り締まる下請法の改正も予定されています。
本稿では、今後、サプライヤーとの共創関係構築が一層求められるなか、事業者がとるべき取組みについて解説します。
適切な価格転嫁を図るには
公正取引委員会は、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に従い、令和4年度から3年連続で特別調査(独占禁止法「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査)を行っています。調査は、昨今の労務費・原材料価格・エネルギーコスト等の上昇などを踏まえ、コスト上昇分が正しく取引価格に転嫁されているか、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」が行われていないか、などを確認するものになります。
調査は発注者と受注者の双方の事業者に対して行われ、受発注者間の価格交渉に係る協議の有無や価格転嫁の有無の状況などが確認されます。調査の結果、公表資料でコストの著しい上昇が把握できるにもかかわらず価格の据え置き等が認められた場合には、独占禁止法・下請法違反として認定される可能性があります※1。
また、直ちに独占禁止法の違反となるわけではないものの、正当な価格転嫁を促す目的から、事業者名の公表が行われる場合もあります※2。
※1 下請法については近年執行が強化されており、令和4年度2件、令和5年度8件、令和6年度も12月19日時点で20件の違反勧告が行われています。 ※「下請法勧告一覧 」(公正取引委員会)参照
※2 これまで、2022年12月に13社、2024年3月に10社の事業者名が公表されています。
2025年の通常国会では、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるための法律である下請法(下請代金支払遅延等防止法)の改正が予定されており、今後、優越的地位の濫用に係る執行の厳格化や、事業者名の公表を行う運用の一層の拡大などが見込まれます。
事業者においては、独占禁止法、下請法およびそれらのガイドライン等を踏まえ、適切な価格転嫁を図るべく、
1.経営トップが関与し、労務費等上昇分に係る価格転嫁を受け入れる方針を内外に示すこと
2.(受注者からの要請の有無にかかわらず)定期的に発注者と受注者間の協議の場を設けること
3.価格交渉に関する記録を作成し、発注者と受注者の双方で保管すること
4.価格転嫁に関連した不利益な取扱いをしないこと
などの取組みを進めることが重要となります。
サプライヤーとの信頼関係は、価値共創のための重要な基盤です。サプライチェーン全体で高い付加価値を生み出すべく、適切な価格転嫁に向けた取組みを行うことが重要です。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 荒尾 宗明
シニアコンサルタント 吉田 愛子