本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

自動車分野では、エネルギーの国産化とカーボンニュートラルの実現が重要な課題となっています。インド政府は、代替燃料の普及促進に向けた政策を強化しており、エタノールや圧縮バイオガス(以下、CBG)の導入を進めています。インドにおけるエネルギー自立化の最新動向を踏まえ、バイオ燃料市場の現状および今後の展望を詳述します。

1.世界で活発化する代替燃料の取組み

自動車分野では、エネルギー安全保障やカーボンニュートラルを目的に、代替燃料の普及拡大を目指す動きが加速しています。たとえば、欧州では合成燃料の開発が進められており、農業国を中心にバイオ燃料の利用拡大が見られます。ブラジルではバイオエタノールのフレックス燃料が普及し、タイではエタノールを20%混合したガソリン燃料(E20)が普及しています。このような流れのなか、インドにおいても、バイオエタノールやバイオガスの利用拡大に向けた動きが見られます。

2.インドのエネルギー自立化とバイオ燃料プログラム

インド政府は、エネルギーの自立化を2047年(インド独立100周年)までに達成する目標を掲げています。経済成長に伴うエネルギー需要の増大が見込まれるなか、エネルギーの輸入を減らし、国産エネルギーへのシフトを図る考えです。現在、インドでは原油を中心とする中東などからのエネルギー輸入に依存しており、貿易赤字の大きな要因となっています。また、火力発電などに使われている石炭については、国産と輸入の両方でまかなわれていますが、大気汚染や気候変動への対応を考慮すると使用量の増加は難しい状況です。

このような背景から、インド政府は国産のクリーンエネルギーの導入を最重要課題と位置づけており、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用拡大に加え、バイオ燃料の普及促進にも力を入れています。
バイオ燃料関連の主な取組みには、エタノール混合ガソリン(EBP)プログラム、CBG増産のためのSATATイニシアチブなどが挙げられます。

【インドにおけるバイオ燃料に関する主な政策】

国家バイオ燃料政策
  • 2018年5月、国家バイオ燃料政策を導入。
  • 2022年5月、改定版においてガソリンへのエタノール混合比率20%の達成時期を2025-2026エタノール供給年度(Ethanol Supply Year:ESY)へ前倒しすることなどが盛り込まれた。
エタノール混合ガソリン(EBP)プログラム
  • ガソリンへのエタノール混合を推進するための政策プログラム。
Pradhan Mantri JI-VAN Yojana
  • バイオエタノール生産支援のための政策イニシアチブ。
  • 2024年8月、2028~2029年度まで5年延長して実施する予定。
SATATイニシアチブ
  • CBGの生産促進のための政策イニシアチブ。
  • 2023~2024年度までにCBG工場5,000ヵ所を整備し、CBGの生産量を1,500万MTに引き上げることを目標設定。
CBG混合義務
  • NBCC(国家バイオ燃料調整委員会)が2023年11月にCBG混合義務を承認。2024年度から2025年度に任意で導入。
  • CNG/PNG消費量全体におけるCBGの量は以下を義務化
    2025~2026年度:1%
    2026~2027年度:3%
    2027~2028年度:4%
    2028~2029年度以降:5%


出所:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成

3.インド政府によるバイオ燃料の利用促進

インド政府は、2022年5月に「国家バイオ燃料政策」の改訂版を閣議承認しました。今回の改定では、バイオ燃料の生産拡大を目的としてより多くの原料を使用可能とすることに加え、エタノールを20%混合したガソリン燃料への移行目標を従来の2029-2030ESYから2025-2026ESYに前倒しする方針が示されました。
また、サトウキビ由来のモラセス(砂糖の副産物)やトウモロコシなどからエタノールを生産しており、「Pradhan Mantri JI-VAN Yojana」といった支援策を通じてバイオ燃料の生産量拡大に取り組んでいます。牛糞などのバイオマスを原料とするCBGについては、主成分はメタンで、カーボンニュートラル燃料です。

インド政府は、CBGの供給および利用促進の両面から積極的に取り組んでいます。供給面では、生産支援策の「SATATイニシアチブ」の下で、2023年11月までに50のプロジェクトが始動しました。政府はCBG混合義務(CBO)を導入しています。2024~2025年度は任意での実施とし、2025~2026年度にCNG(自動車用燃料)とPNG(家庭用燃料)の消費量全体の1%をCBGとすることを義務付けます。

さらに、2026~2027年度に3%、2027~2028年度に4%、2028~2029年度以降は5%と段階的の混合割合を引き上げていく計画です。これにより三輪車や商用車などで利用されているCNGへのCBG混合が加速し、インドのバイオ燃料の普及がさらに進むことが期待されます。

【インドにおけるエタノール供給量およびガソリンへのエタノール混合比率】

インドの自動車市場におけるバイオ燃料の動向_図表1

出所:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成

4.バイオ燃料の普及拡大~メリットとビジネス展望とは

バイオ燃料の普及拡大は、全国的な供給網の構築などのインフラ面の課題はあるものの、インド全体へ多くのメリットが期待されています。具体的には、カーボンニュートラルへの貢献、エネルギーの国産化、農村部の雇用増加・所得向上の可能性、新車および既販車の燃料として使える可能性が期待されます。 原油消費量の抑制の現実路線であり、BEV(バッテリー電気自動車)普及促進策と並行して進むマルチパスウェイのアプローチです。

このように、バイオ燃料領域の商機拡大が見込まれるなか、CNG分野での豊富な経験を持つインド地場系企業が既に製品開発に着手しています。こうした状況を受け、今後はブラジルやタイでの実績を土台にした日系を含む外資OEMやサプライヤーが、インドでエタノール分野の商機を狙う戦略も考えられます。

本記事の情報は、全てGovernment of India(インド政府)による公表資料を基に作成しています。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 中田 徹

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