スマートシティという言葉は市民権を得ているのか。そんな疑問を住民に尋ねてみました。58%の方が(スマートシティという言葉を)聞いたことがあると回答しています。スマートシティという言葉が新聞や行政の政策にみられるようになっており、住民の間でも聞いたことがある言葉として認識されてきているようです。

では、住民はスマートシティに対して何を期待しているのでしょうか。スマートシティに関して期待する分野を聞いたところ、「医療・ヘルスケア」「防犯・安心」「防災・減災」が高く約50%に達しています。「医療・ヘルスケア」への期待度が高い理由は、スマートウォッチでの健康管理等、すでに生活の一部にデータ活用が入り込んでいることなどから、住民が自分の問題として捉えているためと考えられます。また、災害の多い日本らしく「防災・減災」に対する期待も高くなっています。

さらに、生活の豊かさにつながるサービスとして、スマートシティ関連で話題になっている取組みを聞いたところ、「AI防犯カメラ」が約50%に達しました。他方でさまざまな地域で取り組まれている「グリーンスローモビリティ」「電動キックボード」「MaaS」等のモビリティに対する項目は10%未満の結果となりました。

5都市圏に居住する回答者であることから、交通に不便を感じないことなどの理由により、交通に対する取組みへの回答が少ないものと推察されます。2023年7月1日より電動キックボードなどに関する改正道路交通法が施行され、一部の都市では利用者を見かけるようになりましたが、乗車経験のある住民がまだ限られることなども生活の豊かさにつながるとは捉えられていない理由と考えられます。

交通機関/モビリティ

今回の調査では、前回調査同様、街を暮らしやすい空間にするうえで、「交通機関とモビリティの改善」が「非常に重要である」「やや重要である」との回答が約80%であり、コロナ禍を経て意識や行動が変容するなかでも、移動に関する課題感は変わっていないことがわかります。モビリティの利便性については、5都市全体で60%以上が「非常に良い」「良い」という評価であり、経年による変化がない点も踏まえて、公共交通サービス等が充実する地域としての特徴が表れています。

モビリティの発展に対する課題感・改善ポイントとして、2020年の調査同様、5都市に共通して「歩行者の安全性と快適性の改善」に対する意識が最も高く、続いて「自転車レーン/自転車道の増加」という結果となりました。この背景としては、自転車や特定小型原動機付自転車の利用が高まることで起きる歩行者との事故への懸念が想定されます。今後、一層の利用者増加が予想されるなか、安全性確保のための対策もより求められていくようになると考えられます。

【モビリティの発展に対する改善項目】

スマートシティ_図表1

教育・将来の労働力の育成

今回の調査結果から、教育の重要性に対する認識にはいまだ課題があると考えられます。「教育の強化と将来の労働力の育成」を重視する割合は74%で、「病院等医療サービスの受けやすさ、提供内容の改善」(82%)、「交通機関とモビリティの改善」(77%)を下回っており、「エネルギー/資源の利用方法の改善と保護、二酸化炭素排出量の削減」(75%)や「慎重に検討された都市計画/都市設計による良好な住環境の構築」(75%)とほぼ同等です。これは、2020年の調査結果とおおむね変わりません。

また、起業家をサポートするうえで重要なことにおいては「学生起業家コンテスト」「起業家のためのメンタリングプログラム」「事業資金サポートの受けやすさ」の3項目が上昇しています。イノベーション文化奨励のために重要なことにおいては、「研究開発の投資を促すためのビジネスのインセンティブ」「事業者間の競争を促すための事業規制」「他の都市の好事例を共有するための他の都市との連携強化」において、2.5pt以上の上昇がみられます。

日本政府の取組みを受けて、現在も各地でスタートアップを生み育むエコシステムの構築が進められていますが、国の動向と住民の意見にはまだ隔たりがあるようです。このように、身近な生活圏で起きている変化や課題は認識されているものの、その範囲を超えた動向や課題に対する住民の意識レベルは高いとは言えません。

【教育プログラムに対する改善項目における重要度】

スマートシティ_図表2

【起業家をサポートするうえで重要なこと】

スマートシティ_図表3

【イノベーション文化奨励のために重要なこと】

スマートシティ_図表4

住環境

5都市全体での今回調査の結果、都市計画や都市住環境の品質に対する現状評価については、約50%が「非常に良い」「良い」と回答しています。住環境に対する改善項目としては、「都市部への自家用車の侵入制限」を除き、どの項目(たとえば、リサイクルや二酸化炭素排出量の削減、交通渋滞の軽減等)も「非常に重要である」「やや重要である」の回答割合の合計が50%を超えており、環境問題や渋滞によるコストを重視している方が多いことがわかりました。

住環境に対する改善項目で、5.0pt以上上昇した項目は各都市をみてもゼロであり、この3年間での住環境への一定の満足がうかがえます。成熟都市として、コロナ禍を経て、都市や住環境への満足度が担保されていることは、一定の評価をされるべき事項であり、今後、住環境整備や品質向上よりもサービスやソフト事業への投資の必要性の裏付けになるのではないでしょうか。

【住環境に対する改善項目】

スマートシティ_図表5

※「非常に重要である」「やや重要である」の割合の高い回答を一部抜粋

医療サービス

今回調査の結果では、街の医療サービス機関の品質に対する現状評価においては46%が「非常に良い」「良い」と回答しています。医療システムに対する改善項目としては、「感染症の管理/予防の強化」および「健康診断、予防接種、健康教育など予防医療の改善」を重視する回答が70%を超えています。

2020年の調査との経年比較では、改善項目として「感染症の管理/予防の強化」を重視する傾向が5都市全体で4.6pt減少しています。なかでも名古屋と大阪における下がり幅が大きく、それぞれ6.3pt、9.7pt減少しています。現在も「感染症の管理/予防の強化」のシステム改善を重視する方は多いものの、新型コロナウイルス感染症によるパラダイムシフトを経て街中の感染症対策が進んだことで優先度が低下し、重要度が減少したものと考えられます。

【医療システムに対する改善項目】

スマートシティ_図表6

エネルギー/資源

都市のエネルギー/資源の開発を改善するために重要なことについては、2020年の調査結果と比較すると、「家庭に太陽光発電装置設置を促すインセンティブ」「省エネルギービルディングの建設推進」がそれぞれ15.0pt程度減少しています。また、「供給電力量の全体に占める再生可能エネルギー利用割合の向上」についても大きく減少していますが、2020年時点と同様、2023年においても最も改善の要望が高い項目となっています。他方、「住民にエネルギー節約電化製品の使用を促すインセンティブ」「電気、水、ガスの無駄な利用を減らすための使用料金体系の変更」などではその重要性が上がっており、燃料高騰による電気料金の値上がりの影響を垣間見ることができます。

今回調査の結果は、わが国のエネルギー政策や供給事情が色濃く反映されたものとなっています。それらを取り巻く動向について、エネルギー政策の基本方針として位置付けられている脱炭素電源への転換、エネルギーの安定供給という切り口で解説します。

気候変動への対応として、従前より化石燃料への過度な依存からの脱却や脱炭素電源への転換が進められています。並行してそれらを促進するための環境も整備されつつあり、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針やそれに基づく法整備が進められています。他方で足元をみると、ウクライナ情勢によるエネルギー情勢の変化や、ガス田や油田など上流部門への投資の減少による燃料高騰が顕著に現れており、燃料を海外からの輸入に依存しているわが国ではエネルギーの安定供給が喫緊の課題となっています。これに加えて、導入が進められている再生可能エネルギーの出力が不安定であることも、エネルギーの安定供給に向けた対応の必要性を高めています。

このような背景が、安定的にエネルギーを供給できる原子力発電の利用推進の重要性やエネルギー節約、電気・ガス料金への関心の高さという今回の結果につながっているのではないかと推察されます。

【エネルギー/資源の開発に対する改善項目】

スマートシティ_図表7

テクノロジーの影響

過去1年間で生活の質の改善に寄与したテクノロジーとしては、「電子決済テクノロジー/アプリ」が最多の44%となっています。他方で「公共料金または公共サービス請求のペーパーレス化」(34%)「税務申告、納税のオンライン化」(30%)「公共Wi-Fiホットスポット」(35%)に関しては、利用可能であるものの生活の質の改善がみられないという回答が最も多く、ユーザーのニーズ(UX)を踏まえた機能の改善が期待される領域となっています。

現在は利用できないが今後生活の質を改善する可能性があると最も期待されているテクノロジーは「行政の無人オンライン相談窓口/モバイルアプリ」で、37%となっています。続いて、「医療サービスのインターネット/モバイルアプリでの活用」(34%)、「スマートパーキングシステム」(32%)となっており、行政や医療、モビリティに関するスマート化への関心が高いことがわかりました。

【過去1年間のスマートシティテクノロジーソリューションの影響】

スマートシティ_図表8

※レポートの全文はPDFからご覧になれます。本文にあげた6つの分野における5都市別の傾向や、東京大学大学院情報学環・学際情報学府 越塚登教授へのインタビューも掲載しています。ぜひご一読ください。

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