個人向けのコンシューマーメタバースでは、企業や自治体がメタバース上でのビジネス展開にチャレンジするケースが増えてきており、最近ではメタバースの特性を巧く捉えた婚活・不登校支援・役所窓口などの施策が多く見受けられます。
一方で、業種を問わず多くの企業ではなんのためにコンシューマーメタバースを活用するのか、取組み意義が明確にならず、悩んでいる企画部門の担当者も多いのではないでしょうか。企業におけるコンシューマーメタバースの活用は、新たなマネタイズ機会につながるべきであり、そのつながりがなければ一過性の取組みとなってしまう懸念があります。
本稿では、全3回にわたり、マネタイズにつなげるための1つの解として、メタバース活用で実現する顧客体験の向上について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることを予めお断りいたします。
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1.消費に対する価値観の多様化と競争サイクル
インターネットの普及によって消費者の実態はここ30年で大きく変化しており、企業のマーケティング活動は紙面やテレビからパソコンやスマートフォンへシフトしました。いわゆる三種の神器など、画一化されたメディアメッセージによってモノを所有することを競うような価値観である「モノ消費」も次第に満たされていき、多種多様なメディアから日々発信される体験から得られる心の豊かさを重視する「コト消費」に消費者の関心は移っていきました。
さらに、現在はスマートフォンの普及によって、SNSがコミュニケーションのメインチャネルになりつつあります。これにより、人は学校や企業という所属型コミュニティだけでなく、自分と趣味嗜好が合う人が集まるコミュニティに能動的に参加することで社会とのつながりを感じ、満たされる傾向が見られます。このような動向のなかで、「モノ消費・コト消費」から「エモ消費・イミ消費・トキ消費」へと顧客の関心が移ってきており、消費に対する価値観の多様化が進んでいます。
【消費に対する価値観の多様化】
このような消費に対する価値観の多様化が、企業にも影響を及ぼしています。上図のとおり、モノ消費・コト消費だけでなく、エモ消費・イミ消費・トキ消費といった新たな消費行動が生まれ、これらの消費においてもサービス利用による顧客体験が重要視されています。
そして、これらの顧客体験の評価はインターネットで簡単に確認することができ、気になる商品やサービスから得られる体験をほかのユーザーがどのように評価しているのかが一目でわかります。むしろ探すというよりも、その関連情報が顧客の目につくように表示されています。
【顧客体験提供の競争サイクル】
仮に、低評価のレビューを見た1人のユーザーがA社の提供する音楽ライブ視聴サービスの利用をやめ、その時間とお金で、友達に誘われたB社の運営するライブに行ったとしましょう。そのライブが満足できる体験だと仮定して、SNSで投稿するとします。その投稿者がインフルエンサーであった場合、その影響により多くの閲覧者が行動を変える可能性があります。
このような時間とお金の選択が事実、今この瞬間も実際に起きています。また留意すべきは、その選択において業界という垣根が存在しないということです。そのため、顧客の変わりゆく価値観に合わせて、優れた顧客体験を提供し続けることが企業にとってますます重要になってきます。
【タッチポイントの顧客体験の向上】
2.優れた顧客体験とは
では、改めて優れた顧客体験とはどういったものなのでしょうか。企業が顧客とやり取りを行う接点をタッチポイントと表現していますが、すべてのタッチポイントで得られる体験評価の総和・合計が、企業に対する顧客体験の評価になると考えています。つまり、比較的よい評価を得ているのに、1つでも大きなマイナスがあると優れた顧客体験として評価されません。
たとえば、総じて良いサービスだったのですが、契約内容を変更する際、電話で散々待たされたあげく、ウェブサイトから変更申請書をダウンロード・印刷して郵送で提出してほしい、と言われたら、ユーザーはどう思うでしょうか。そして、SNSを使うことに慣れたユーザーはその後にどういった行動を取るでしょうか。想像は難しくないでしょう。
こうしたことが起きないように、顧客体験の設計フレームワークが存在します。プロセスを時系列に並べ、それぞれのタッチポイントを可視化することで一貫して高品質な顧客体験を提供できるようになります。また、このような管理フレームワークを使う手法が多く見受けられます。このようにして、多くの企業は自らの顧客体験を魅力あるものにし、他社との差別化を図ることによって企業としての競争力を高めています。
3.コンシューマーメタバースを活用した新たな顧客体験の台頭
こうした競争サイクルにより、多くの企業が魅力ある顧客体験を追求した結果、市場に良質な顧客体験があふれ始めており、ユーザーは一定の品質に慣れてきています。このような均衡状態のなかでは、消費に対する価値観の多様化を巧みに突いたサービスによる差別化が求められ、多くのユーザーの魅了へとつながるでしょう。
たとえば、バーチャルYouTuber(以下、VTuber)の人気が急上昇している投げ銭市場では、仮想空間を活用した体験型サービスとの融合が急速に進んでいます。これは新たな消費行動である、エモ消費・イミ消費・トキ消費の代表格と言えるのでないでしょうか。このように、多様化する消費の最先端に合った顧客体験の提供は、多くのマネタイズ機会をもたらします。メタバースの活用は、ユーザーに新鮮な体験を提供する有力なトリガーとなる可能性があります。
投げ銭市場では、動画視聴サイトのコンテンツ形式が短時間(10~30分)のものから生配信(60分~)に広がるにつれ、需要が伸び続けています。短時間の動画では広告が表示され、その広告料が収益となる仕組みですが、生配信では広告を挿入するのが難しく、そのため、ユーザーに直接金銭を払って支援する文化が広がりを見せています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延時に、ユーザー数が増加したオンライン接続型のファーストパーソン・シューティングゲームにおけるゲーム実況などにより生配信が定着され始め、さらに日本の推し活文化と生配信を巧く掛け合わせたVtuberが収益モデルとして発展しました。Youtubeにおける「スーパーチャット」は、視聴者が配信者に対して投げ銭をする機能ですが、IT mediaの調査によれば、スーパーチャットの2022年度累計金額ランキングは、上位10名のうち7名が日本のVTuberであり、その総額は8億円超に達したと報じられました※1。
2021年にFintertech株式会社が行った「投げ銭市場調査」によると、国内の潜在市場規模は約3,106億円を超えると言われており、若年層(~20代)の熱心な消費が注目されています※2。
このように、我々の目に見えていない部分でメタバースを活用した体験型サービスなどのマネタイズの機会は着実に増えてきています。メタバースの普及という観点では、インダストリアルメタバース(製造、物流など業種におけるプロセスチェックなど)が先行しているように見受けられますが、いつコンシューマーメタバースが台頭してくるか予見はできません。メタバースと親和性の高いゲームや製造業など市場では、企業投資・行政の後押しが進み、メタバースがユーザーに浸透してきています。また、メタバースに一定規模のユーザーが集まることにより、コミュニティ内の経済活動が必要となり、急激にあらゆる機能実装が進むでしょう。
そのため、今からメタバース活用によるビジネス検討に少しずつ触れておくことが、企業にとって将来起こり得る市況変化に順応するための備えになるのではないでしょうか。
【メタバース普及のプロセス】
第2回では、「顧客体験の向上に資するメタバース活用モデルの検証」について詳しく解説します。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 杉本 隆史
アソシエイトパートナー 前川 知之
本稿については、下記のウェブサイトを参考にしています。
※1:アイティメディア株式会社「2022年、最もスパチャを集めたVTuberは? 」
※2:Fintertech株式会社「投げ銭に関する意識調査」
関連リンク
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